日本女性学会への声明の背景に対する説明とガバナンスの機能不全について
私たち、日本女性学会 第23期元代表幹事佐藤文香と、幹事有志一同は以下のような説明の文章を会員向けに出させていただきました。「『日本女性学会2024年大会分科会調査報告書』を受けての反省の表明 および 女性学・ジェンダー研究の発展と多様性の尊重をもとめる声明への賛同の呼びかけ」が出された背景と、現在の幹事会のガバナンスの不全状況について、説明するためのものです。上記の呼びかけは学会を超えて多くのひとに拡散され、署名を集め、多くの方から問い合わせもいただいているため、その方たちに向かっても、説明をする責任があると考えるに至りました。
以下、会員にむかって出した文章を公開させていただきます。
第23期元代表幹事佐藤文香より
日本女性学会会員のみなさまへ
このたび、日本女性学会第23期幹事・佐藤文香は、代表幹事を辞任いたしました。
任期半ばでの異例の辞任となったことについて、以下、経緯をご報告し、学会の現状について問題提起をさせていただきます。
2024年6月の大会総会後、ある分科会における発言内容に関して批判が寄せられ、22期・23期合同幹事会の決定により、外部委員を加えた調査ワーキンググループ(WG)が設置されました。
半年以上にわたる検討と議論の末、2025年2月11日、23期幹事会は「日本女性学会2024年大会分科会調査報告書」を承認し、同月21日付でこれをホームページおよびメーリングリストにて公開いたしました。
調査報告書をもとに、ふたたび同様の事態を生じさせぬための手立てを考えながら、大会に向けた準備をすすめようとしていた矢先のことでした。
公表から2ヶ月もたたない4月8日、木村凉子第22期幹事と井谷聡子第23期幹事の両名により、22期・23期幹事に対し、新たな「声明」への呼びかけがなされました。
幹事会での議論を経ずにすすめられたこの呼びかけに対し、幹事の中からは疑問と懸念の声が複数あがりました。
しかしながら、それらの声は聞き遂げられることなく、4月21日、「日本女性学会幹事経験者・有志」名義で「『日本女性学会2024年大会分科会調査報告書』を受けての反省の表明 および 女性学・ジェンダー研究の発展と多様性の尊重をもとめる声明への賛同の呼びかけ」が発出され、署名運動が開始されました。
この「声明」は、日本女性学会の正規の手続きに基づきまとめられた調査報告書を、内外からの圧力をもって上書 きしようとする行為であり、学会のガバナンスと討議の自由を著しく損なうものです。
23期幹事からの異議申し立てもあり、声明冒頭には「この文章は有志によるもので、日本女性学会を代表するものではありません」という一文は加えられました。
しかしながら、学会幹事の経験者としての肩書きのもと、公式メーリングリストをも利用して発出されたため、声明を日本女性学会の総意と誤解して署名された方も少なくなかったと考えられます。
こうしたやり方が許されるなら、日本女性学会は今後、なにか不本意なことが起こるたびに、内外からの数の圧力によって運営方針が左右される組織へと変質してしまうことでしょう。
このような異常事態を前に、代表幹事としての職責を全うすることはもはや不可能と判断し、辞任を決意しました。
23期幹事有志もまた、日本女性学会が重大なガバナンスの危機にあり、学会の存続自体が危ぶまれる局面にあるという憂慮を共有しています(詳しくは下記の状況説明をお読み下さい)。
もしこの状況に危機感を覚える会員の方がいらっしゃるなら、どうか6月8日、立教大学で開かれる大会総会にご出席ください。
総会は、学会の未来を左右する唯一の公式の意思表示の場です。
女性学に携わる者として、互いを尊重し、多様な声に開かれた日本女性学会を守るために、みなさまお一人お一人のお力をお貸し下さい。
以上、僭越ながら23期幹事有志と共に最後の呼びかけをさせていただき、退任のお詫びに代えさせていただきます。
日本女性学会 第23期元代表幹事 佐藤文香
第23期幹事有志より
日本女性学会の22期・23期幹事を呼びかけ人とした「『日本女性学会2024年大会分科会調査報告書』を受けての反省の表明および女性学・ジェンダー研究の発展と多様性の尊重をもとめる声明への賛同の呼びかけ」(以後「声明」)が発表されてから、問い合わせを多数いただいています。23期幹事会、そして日本女性学会は、現在、重大な危機に瀕しており、代表幹事が辞任するという事態にまで発展しています。私たち23期幹事有志は、このようなガバナンスの混乱を回避することができなかった力不足を深くお詫び申し上げるとともに、問い合わせへの応答を通して、日本女性学会の会員のみなさまに、危機的な現状についての認識を共有していただきたいと思います。
まず「声明」の前提となる「日本女性学会2024年大会分科会調査報告書」(以後「調査報告書」)について説明させていただきます。「調査報告書」は、22期幹事会のもとで開催された2024年の大会における分科会について調査をおこなったものです。学問の自由等を主題として3本の報告が行われたこの分科会は、100名近い参加者を得たもっとも盛況な会でした。その分科会に対し「差別」という申し立てがあり、22期・23期の合同幹事会で、現職幹事4名に外部委員2名を加えた調査ワーキンググループを立ち上げることになりました。学会には匿名の抗議文のほか、メールでの意見が13通寄せられましたが、うち9通は、分科会は意義あるものであり、一方的な差別という断定によってせっかくできた議論の場を奪わないでほしい、という参加者からの声でした。また、報告者自身が、会場からの不適切な質問によって人権侵害を受けたという申し立てもなされました。つまり、さまざまな立場のひとがさまざまな意見をもち、さまざまな傷つきを抱え、課題もさまざまあったという状況でした。
ワーキンググループは録音や聞き取りというエビデンスに基づいて調査を実施し、報告については「『学会活動の自由と公正のための宣言』で謳われる『あらゆる形態の差別をしない』に反するものとは見られない」(17頁)と結論付けたものの、幹事会の対応については、「事前および当日の配慮が不十分であったことを反省的に認め」(21頁)、今後同様のことが起こらないよう対策を検討することとしました。この調査報告書を受けて、学会入会の際にも、大会報告の申し込みの際にも、「学会活動の自由と公正のための宣言」を遵守する旨署名を求めることとしました。この件で、学会運営は滞り、大会の準備もままならない状況がつづきましたが、出来事を受け止めつつ、今後の学会運営に向けて対策を講じ始めていたのです。私たちは、公開から2カ月しか経過していないというのに、この調査報告書について新たな声明を出したいという幹事が現れたことに驚きました。
以下質問に答えます。
【質問】:学会公式のメールニュースを利用して配信された呼びかけだったので、日本女性学会の正式な声明だと思って署名をしたのですが、違うのでしょうか?
【答え】:違います。4月21日付で流れた「日本女性学会 メールニュース
[No.978]」は学会の正式な声明ではありません。幹事会で手続きを踏んで公表に至った調査報告書を批判する声明をどうしても出すのなら、日本女性学会幹事の肩書きを使用せず「個人」として出してほしい、学会のメールニュースは使わないでほしい等のお願いがありましたが、聞き届けられることなく出された声明です。冒頭に「この文章は有志によるもので、日本女性学会を代表するものではありません」との文言が付け加えられているのはそのためだと思われます。
【質問】:現在の幹事会のありかたについて、幹事を経験した有志が批判するのは健全なことではありませんか?
【答え】:学会のメールニュースでの声明呼びかけ人の半数は現職幹事です。23期幹事として、ワーキンググループにおいて録音などのエビデンスに基づいて調査を行ったまさにそのメンバーが、自ら作成した調査報告書を批判しているわけです。また代表幹事が辞任したあとに、新たに代表幹事候補となった幹事は、選出された際、「(当該の幹事が代表幹事をしていた)22期のガバナンス不全の結果、23期代表幹事の辞任を引き起こしたことを重く受け止めてほしい」との意見が複数あったにもかかわらず、その2日後にこの声明に名を連ねて呼びかけを行いました。つまり、声明は、現行の幹事会が設置したワーキンググループにおいて調査報告書を執筆した当事者と、代表幹事が辞任した後の代表幹事候補が呼びかけて行われたものなのです。
【質問】:代表幹事が辞任したとは知りませんでしたが、どのような事情だったのでしょうか?
【答え】:困難な手続きを踏んで、半年以上にわたる議論と合意を重ねて公表された調査報告書を覆すような声明が、ワーキンググループに携わったメンバーから出されるのであれば、これまでの努力は意味をなさないことになります。ワーキンググループ立ち上げの前、合同幹事会において代表幹事からは「有志で自由に検証をしてはどうか」との提案もなされました。しかしこれは認められず、学会公式の調査報告書を出すに至ったのですから、思い通りの結論でないからと署名を集めて圧力をかけるのであれば、議論や合意を重ねてきた意味がありません。代表幹事の意見がすべてではありませんが、合意形成のための話し合いではなく、幹事会外部からの批判を集めて(結果として)自分たちの意見を通したいと言われたら、そのような組織のかじ取りは難しいと考えても当然だと思います。代表幹事は最大限努力してくださり、私たちは感謝しています。
【質問】:声明には、「私たち有志は、女性の多様性やセクシュアリティの多様性を認識し、すべての人の権利と尊厳を守ることこそが、真に平等な社会の構築につながると信じています」とあります。名前を連ねていない幹事は、これに賛同していないということでしょうか?
【答え】:そんなことはありません。多様性の尊重もすべての人の権利と尊厳を守ることも当然の前提であり、すべての幹事が共有しているといえるでしょう。このような質問が生じること自体が、声明に名を連ねない者があたかも多様性やすべての人の権利と尊厳を守ろうとしない人物であると読まれてしまう踏み絵のようになっていることを示しています。23期幹事会では、進行中の議論について、SNSで漏らしたり(そのことで圧力をかけたり)されると、幹事同士の信頼関係を構築できないのでやめてほしいという要望もなされました。しかし、「批判は自由である」と聞き入れられませんでした。幹事会の外部にまで事情が漏れることで、幹事会内部のみならず外部からも「差別者」と糾弾されることを恐れ、自由に意見を言うこともできず、怯えていたひとが一定数いたというのが実情です。
【質問】:幹事会の結論とは違う意見をもったり、声明を出したりするのは自由ではないでしょうか?何の問題がありますか?
【答え】:どのような意見をもつのも自由ですし、それを表明する権利もあります。しかし幹事であるならば、幹事会で議論を尽くして合意をつくるという回路はあるわけです。自分たちの思うようにならない場合には、自ら作成した調査報告書を外部の署名によって批判させるというやり方は、幹事会における話し合いを放棄し、踏みにじる行為です。幹事の意見はそれぞれ違います。それは当然のことです。それを踏まえたうえで、日本女性学会の設立趣意書が謳う「女性の社会的状況を変革する」という目標に向かって、これに合意できるひとが選挙で選出され、学会運営をおこなっているのです。外部の署名に頼るのではなく、きちんと話し合うべきだったと思います。繰り返しますが、自らがメンバーとしてかかわった調査報告書を、幹事会の外部による署名によって批判させる行為は誠実とは言えないと思います。わたしたちは、意見の一致をみない幹事や学会運営について、外部から数の力によって批判をさせるこの署名運動を支持することはできません。また、自らと異なる意見をもつ会員を排除したり、意にそわない報告をことさらに批判して排除しようとすることにも、賛同することはできません。誰も差別されたり傷つけられたりすることなく、女性学にとって必要な議論の場をどのように提供することができるのか、その方法について考えるべきだったと思います。
【質問】:声明は、調査報告書を批判しているのですか?
【答え】:丁寧に双方を読んで比較すれば、声明が調査報告書の否定となっていることがわかります。
調査報告書では「学術的な会議の場としての当該分科会について」の評価として、「報告に限って言えば、トランス女性を女性として扱わない立場からのものであるものの、表現は抑制されたものであり、反論や議論に開かれており、その形式は『学会活動の自由と公正のための宣言』で謳われる『あらゆる形態の差別をしない』に反するものとは見られない。『性自認』については現在議論が続いているところであり、学会は『差別』とならぬよう手立てを講じつつ、議論の場を確保し続ける必要がある。また、報告後のフロアからの質問や意見に関しては、主催者が発言者を選別して自由な議論を封じるような事態は見られなかった」(17頁)とされ、差別とはいえないと結論付けられています。一方、声明は、「当該分科会の報告と質疑応答は、トランスジェンダー女性の性自認のみならず、性自認概念そのものを否定し、また、トランスジェンダーの人権擁護運動を女性に対する暴力や搾取と結びつけ、長年に渡る当事者運動を「カルト」とみなすなど、トランスジェンダーに対する差別や攻撃に満ちたものでした」とすることで、結果として調査報告書を批判しています。
また、調査報告書では「分科会の内容に対する指摘について」の評価として、「性自認の否定と受け止められる発言がなされた」との指摘に対し、「B氏の報告の中で、性自認は存在しない、あるいは生物学的性別のみが存在する、といった発言を確認することはできなかった。質問に対する回答で『自認によって性別を変えられる』ことを上述のような強い言葉で批判したのは、自認のみを根拠として性別を変えることを是とする立場に立つ論者が『キャンセル』という運動をすることに対する批判がこめられたものと解釈しうる。議論を許さず『差別』と断定する運動のあり方に対する問題提起は、日本女性学会において丁寧な学術的な議論として深められるべき重要な論点を含んだものであった」(6頁)としています。一方、声明では、「ジェンダー概念および性自認概念をあらためて擁護するとともに、人々の多様性を身体の二分法に還元するような性別に関する生物学的本質主義に反対します」と「性自認」概念を自明のものとして擁護するとともに、身体の二分法は許されないのだと宣言されています。場合によっては、議論自体が不要であり、議論すること自体を差別であるといっている(ノーディベート)ようにすら見えます。この宣言のなかには改めて検討されるべき課題も含まれていますが、そうであればなおのこと、署名運動ではなく、議論をすべきであったと思います。
以上の経緯説明を踏まえ、私たち23期幹事有志は、現在の幹事会が著しいガバナンスの不全状態にあることを会員のみなさんに訴えます。日本女性学会が、これからも自由な学問的議論の場として機能するために、それを損なう行為には、明確に異議を唱えたいと思います。
日本女性学会 第23期幹事有志一同
2025年4月30日



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1トランスヘイトに明確に反対します!