“フェイクニュースに勝った国”世界に広がる偽情報への対策は

その国は「世界一だまされない国」と言えるかもしれません。

「フェイクニュースとの戦いに勝利した」
とも。

北欧のフィンランド。

ロシアと長い国境線を接し、歴史的に脅威にさらされ、対抗してきました。
ロシアのメディアなどによるとみられる偽情報は、日本でもSNSで広がっています。
偽情報に惑わされないようにするためには…現地で取材しました。

会談後に急増した偽情報 背景に…

「Temu(中国発のネット通販)の服を着てくるなんて失礼だ」

3月初め、アメリカのトランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領について語る偽の動画が英語や日本語で拡散しました。

あわせて340万回以上閲覧されている投稿もありましたが、AIを使ったパロディ動画のYouTubeチャンネルから転載されたものでした。

また、ゼレンスキー大統領やその親族が海外からの支援を流用し、ぜいたくしているとする情報も拡散。

「フロリダ州に3500万ドルの家を所有している」
「年収は1100万ドルで、海外の銀行口座に12億ドル持っている」
「妻がパリの高級店で1時間で4万ユーロ(約625万円)を浪費した」

Xの投稿

これらは、ロシア政府に近いメディアなどが以前から拡散させてきた内容で、ウクライナ政府や複数のファクトチェック団体が偽情報や根拠不明の情報だと指摘しています。

ほかにも、購入したものが「高級ヨット」「ドバイのマンション」「フランスの高級車」「イギリスの豪邸」から「ヒトラーのパレードカー」まで、パターンは多岐にわたります。

激しい口論となったトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談の翌日以降、SNSではゼレンスキー大統領に関する偽の動画や偽情報などの投稿が急増。

NHKの分析では、日本語での投稿は3日間で少なくとも1万8000件にのぼり、過去1年間の同様の投稿の数を上回っていました。

ウクライナ政府の「偽情報対策センター」は3月3日、「ウクライナ側の信用を失墜させることを目的に、西側諸国をターゲットにしたロシアによる偽情報キャンペーンが激化する」と注意を呼びかけました。

フィンランドに注目

長年、こうしたキャンペーンの対象となり、対策に成功してきたとされるのがフィンランドです。

ロシアと1300キロの国境で接し、軍事的な圧力、それに偽情報やプロパガンダにもさらされてきました。

それがいまでは…

「フィンランドはフェイクニュースとの戦いに勝利している」(CNN)
「誤情報を見抜く力をどう教えているのか フィンランドの成功から学べることは」(ニューヨーク・タイムズ)
「小学校から始めるフィンランドのフェイクニュースとの戦い」(ガーディアン)

各国メディアが特集を組むほど注目されています。

対策の中心は、子どものころからあらゆる年代を対象に、情報を読み解く力を養う「メディアリテラシー教育」だといいます。

どのようなことが行われているのか、首都ヘルシンキで取材しました。

子どもたちも実践的に学ぶ

「トランプ大統領が捕まっているよ」

訪れたのは10歳から11歳の子どもたちの授業。講師をつとめるのは現役のジャーナリストです。

この日は実際にネットで拡散されたアメリカのトランプ大統領が逮捕されたという偽の画像が題材でした。

「投稿者は誰だろう?」
「なんでトランプ大統領の後ろに棒があるんだろう?」
「AIで作ったんじゃないかな」

本当かどうか、子どもたちはチェックシートを使って確認していきます。

ポイントは
▽画像に怪しいところはないか
▽情報源はどこなのか
▽発信者は本当に存在するのか、など

(※使われていたチェックシートは文末に)

子どもたちはこの画像をフェイク=偽だと判断しました。

14歳を対象にした授業では、フェイクがあふれる背景について議論しました。

教員「なぜ発信者はこんな情報を流すと思いますか」
生徒「注目されたいんでしょう」「クリックしてもらえる」「お金ももらえる」

教員 ヘイッキ・ソルサさん
「彼らはもう14歳です。日常生活の中から彼ら自身でどのニュースが信頼でき、偽物なのか見分けられるようになることが非常に大切です。彼らが大人になったときフェイクニュースを広めない能力も身に付けていることを願っています」

ジャーナリスト アンナ・ヤルビルオマさん
「いまネット上にはかつてないほど多くの情報があふれており、その中には偽情報もあります。例えば、ロシアは現在、多くの偽情報を流しています。子どもたちに必要なのは違いを見分けるためのスキルです」

メディアリテラシー世界1位

フィンランドは、欧米などを対象にしたメディアリテラシーの指数の調査で世界1位。
アメリカは17位、そして、日本は47か国中22位と決して高いとはいえない順位です。

フィンランド国家教育庁によりますと、フィンランドでは1970年代から国の教育課程にメディアリテラシー教育が位置づけられ、現在も教科横断的に教育が行われています。

年齢に応じたガイドラインでは…

▽幼児教育:大人と一緒にパソコンなどを使うことを学ぶ
▽9歳から12歳:コンテンツの解釈を単独や他者と協力して行い、情報源としての有用性を調べる
▽13歳から15歳:コンテンツの情報源としての信頼性を評価して、メディアが及ぼす影響について分析する

NATO加盟めぐって偽情報急増

そのフィンランドでは2023年、NATO=北大西洋条約機構に加盟する前後にロシアによるものとみられるプロパガンダや偽情報が広がりました。

フィンランド外務省によりますと、ロシアは2022年のウクライナ侵攻後、実在する報道機関や政府の偽サイトを作って利用者を誘導し誤った情報を流す「ドッペルゲンガー・キャンペーン」と呼ばれる活動を行ってきたとされています。

「ドッペルゲンガー」は、自分そっくりの分身を意味することばです。

これまでに偽サイトの数は700を超え、そうしたサイトを介して流された虚偽の記事の数は数万に上るとしています。

2024年に行われたヨーロッパ議会選挙も標的になり、外務省はSNSに投稿されたアドレスから偽サイトに誘導するケースや、本物のニュースサイトの一部のように偽サイトに誘導するケースなどがあるとして警戒を呼びかけています。

政府はロシアがネットでの偽情報などを通じて、国内での不信感や分裂をあおり、民主的な意思決定に影響を与えようとしているとして警戒を強めています。

ことし1月にはEU=ヨーロッパ連合の加盟国とともに「民主主義社会の情報空間を操作し、干渉しようとするロシアの継続的かつ組織的な試みを非難する」とする声明を出しました。

偽情報対策の新システムも

教育だけでなく、政府はインターネット上で偽情報が拡散するのを食い止めるためのシステムを開発しました。

開発した国家緊急供給庁は、有事の際に、物資の供給やインフラの維持などを担当する政府機関です。

注目したのは、拡散される情報の真偽ではなく、ネット上で情報を意図的に拡散しようとする行動そのもの。

偽情報の大量拡散には▽同一人物による自作自演のアカウントや、▽自動的に情報を拡散するよう設定された「ボット」と呼ばれるアカウントが利用されます。

新システムでは、独自のアルゴリズムで情報を意図的に拡散している偽のアカウントを検知、AIで作られた精巧なものでも特定できるということです。

こうしたアカウントの情報を受け政府や警察などはアカウントからネットで広がっている話題を公表したり、SNSなどの運営会社にアカウントの削除を依頼したりします。

国家緊急供給庁はこの春からはウェブサイトで市民にも直接、情報を公開することにしています。

開発担当者 アンッティ・シッランパーさん
「システムの導入はロシアをはじめ、情報操作を試みる国からフィンランドの情報環境を守るために非常に有益な方法だと考えている」

日本での偽情報広がり 誰が

日本でも他人事ではない偽情報などの拡散。

ロシアに関係するとみられるアカウントから発信された偽情報などは、いま、日本でどれくらい広がっているのか。

その1つ、「ゼレンスキー大統領が支援を流用してぜいたくしている」とするXの投稿について、NHKがSNS分析ツール「Brandwatch」で調べると、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降、投稿の数はおよそ9万2000件にのぼっていました。

このうち、8200回と最も多い回数、シェアされていたのが「ゼレンスキー大統領の両親がイスラエルに豪邸を購入して、イギリス諜報機関の護衛で国外脱出した」などといった根拠不明の情報です。

この情報を掲載したのはニュースサイトに似せた「まとめサイト」で、ウクライナ政府やゼレンスキー大統領、さらに欧米や日本によるウクライナ支援を批判する内容が過去3年間で380本掲載されていました。

「インフルエンサー」の関与も?

さらに、ロシアを支持する投稿を繰り返す「インフルエンサー」の関わりもみられます。

たとえばアカウントの1つは、フォロワーが20万人以上いて、ふだんからロシア政府の主張や、プーチン大統領の演説内容を日本語で要約して発信。

また、フォロワーが10万人以上の別のアカウントは、ロシアを支持する立場から発信されている動画の英語音声に、日本語の字幕をつけた投稿を繰り返していました。

さらに調べると、これらのアカウントの投稿が「まとめサイト」の情報源になっているケースや、逆に「まとめサイト」の記事をこれらのアカウントが拡散させているケースもありました。

2月末のトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談後には、こうしたまとめサイトやインフルエンサーによる発信が活発になっていました。

このような動きについて、国際政治が専門で、情報工作に詳しい一橋大学の市原麻衣子教授は。

市原教授
「ウクライナを支持し続けることがいいと思っている人たちと、停戦を最優先すべきだと思っている人たちの間の分断をはかろうというものです。偽情報を多くのプラットフォームから流すことで、ここでも見た情報をあっちでも見るというふうになり、人々が圧倒、混乱させられ信じ込まされるというようなことが起きます」

生成AIの回答が…?

いま、新たに見過ごせなくなっている影響も出てきています。

生成AIの回答が、ロシアによるプロパガンダや偽情報に影響を受けているというのです。

アメリカの誤情報監視サイト「NewsGuard」は3月6日、「モスクワを拠点とする偽情報ネットワークが、虚偽の主張やプロパガンダを公開して、AIに影響を与えようとしている」とする報告を発表しました。

プロパガンダや偽情報は150のドメインのウェブサイトが関わって、日本を含む49か国をターゲットにしているとしています。

そして、実際に生成AIがロシアのプロパガンダに沿った回答をするケースも起きています。

その1つの例が「ウクライナ政府が、トランプ大統領が立ち上げたSNS『トゥルース・ソーシャル』へのアクセスをブロックした」という偽情報です。

実際にChatGPTが表示した誤った回答 

実際には「トゥルース・ソーシャル」はもともとウクライナでサービスとして提供されておらず、ウクライナ政府はブロックしたことはなく「誤り」だと否定しています。

NHKが3月12日に複数の対話型AIに聞いてみたところ、5つのうち2つのAI(ChatGPTとPerplexity)が、偽ニュースを掲載したロシアのサイトを引用し、「ウクライナ政府がブロックした」と誤った回答をしました。

「NewsGuard」は「2024年には360万にも及ぶ大量のロシアのプロパガンダがAIシステムに組み込まれ、AIの回答が誤った主張やプロパガンダに感染している」としています。

情報の背景を読み解く

一橋大学の市原教授はいま、情報を正確に把握することの難しさに直面していると話します。

市原教授
「SNSでは、人の目を引くような、感情を惹起(じゃっき)させるような情報が目の前に出てきます。その情報に飛びついた時に『これは本当なんだろうか』といったん立ち止まることができるようになる必要があります。そうでないと偽情報が悪意のない人たちによって大量に拡散されてしまい、それが社会に影響を与えるということになります」

そのうえで、「聞き手にある特定の印象を与える意図で語られるストーリー」=「ナラティブ」に注意が必要だと指摘。
1つ1つの情報の真偽だけではなく、情報がどういう意図で流されているのか、その背景を読み解く力を育成することが求められていると強調しました。

「例えば『NATOの東方拡大がロシアのウクライナ侵攻を招いた』という言説ですが、ロシアのウクライナ侵攻を正当化するためのストーリーです。『ナラティブ工作の一環として行われていることなんだ』ということが理解できるようになる必要があります」

「情報の裏取りをすることを超えて、情報の発信者がどのような意図でそれを行っているのかということを意識させるような教育も含まなければいけないと思います。偽情報の束でどんなメッセージを全体として伝えようとしているのかというところが重要です。日本はこうした分野にはまだ弱いので、力を入れていかなくてはならないと思います」

チェックシート

(※フィンランドの授業で利用されていたMerkkiのシートの日本語訳です)

□ 全文を読もう。どのような内容ですか。
□ 情報源を確認しよう。情報はどこからのものですか。
□ 著者は実在する人/ものですか。
□ 投稿の日時を確認しよう。その情報はタイムリーですか。
□ 同じ情報を他でも見つけられるか確認しよう。
□ 発行元を確認しよう。それはどのような機関ですか。
□ 発行元のURLを確認しよう。信頼できるものですか。
□ 情報を投稿したサイトやアカウントを確かめよう。
□ 発行元のフォロワー数を調べよう。
□ 投稿の画像を確かめよう。怪しいところはないですか。
□ 投稿の目的を考えよう。投稿で得をする人はいませんか。
□ 画像検索をして、同じ画像が他でも見つかるか確かめよう。
□ 細かいところを調べよう。例えばロゴが疑わしいことはないですか。
□ 投稿の文章をチェックしよう。誤字脱字などはありませんか。
□ 親や先生、図書館の人など、信頼できる大人に相談しよう。
□ “真実だとしたら信じられない“ そんな内容でないか確認しよう。
□ 専門家の意見を聞いてみよう。専門家はその情報を真実と認めるだろうか。
□ 自分の思考や意見を意識しよう。判断に影響していないか考えよう。

(国際部・佐々木風人、機動展開プロジェクト・籏智広太、金澤志江)

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