地下鉄サリン事件「まるで地獄絵図だった」警視庁捜査幹部が初証言 20代の巡査時代に目にしたものと、今も抱く後悔とは─
■「テロの現場」シャッターを押す指が震えた
“巡査”は撮影の任務を遂行するべく、停車していていた日比谷線の車内を見回った。そこで銀色に光る、液体が染み出たビニール袋を見つけた。
「これはとんでもない事件になりそうだ・・・」
当時はフィルムの一眼レフ。今のように撮影した写真をすぐに確認することはできない。
「ミスは許されない」
大きなプレッシャーがのしかかり、シャッターを押す指がガタガタと震えた。停車している電車はドアが閉まっていたため、電車の窓ガラスの上部、少し開いたところからカメラを差し込み、夢中でシャッターを数回切った。
■「助けなきゃ」と瞬時に体が反応
2~30分ほど現場で活動し、警視庁本部に報告するために戻ろうとした。出口が限られていたため、駅員の誘導に従い、ホームを横断し警視庁からは反対側の出口へと向かう。
そこで見た光景はまさに「地獄絵図のよう」(捜査幹部)だった。
出口へと走る足元は、座り込み目や口をハンカチで押さえている人、口から泡を吹いている人、うめき声を出している人で埋め尽くされていた。
その中で、ランドセルを背負った小学1~2年生くらいの2人の少女の姿が目に飛び込んできた。1人はハンカチで口を押さえ座りこみ、もう1人はその脇で心配そうに座って様子を見ていた。
「助けなきゃ」
そう思うと同時に、体が勝手に反応し、幼い2人を両脇に抱え込み、出口へと走った。
「つらくないかい?すぐに外に出られるからね」
女の子はぐったりしていたが、うなずくなどの反応を示した。2人を抱え、霞ヶ関駅の階段をとにかく全力で駆け上がった。
■「外が暗いな・・・」
地上に出てすぐに救急隊をみつけ「あとはよろしくお願いします」と女の子を引き渡した。無事に救急隊に引き渡し、ほっとしたが、気づくと“巡査”は、外が夕暮れのように暗く感じた。晴天の午前中にもかかわらず、だ。
「なんだか、おかしいな…」
こう思ったが、いち早く現場の状況を本部に知らせなければいけない、一刻も早く写真を現像しなければと思い、警視庁本部に戻った。
警視庁に戻り、ネガを取り出して現像をしたが、まだ視界は治らないまま。幹部に写真をもって報告に向かうと、1人の幹部が「ちょっと目を見せてごらん」と声をかけ、ペンライトを“巡査”の目に向けるとこういった。
「縮瞳だね。暗いでしょ?これはサリンの影響だね」
すぐさま別の捜査員が黒い大きなビニールをもってきて、服を入れて持ち去る。病院の診察結果は「サリン中毒症」だった。