「マジョリティー女性の課題だけ」にしないために 複合差別を考える
3月8日の国際女性デーにあわせて、障害のある女性の困難について特集した。きっかけは国連の女性差別撤廃委員会だった。
アイヌ、被差別部落、在日コリアン、障害者、性的少数者、移民……。委員会は昨秋、日本政府に対し、マイノリティーの女性への複合差別を撤廃する努力を強化するよう勧告した。
複合差別とは、複数の属性が絡み合って生じる社会的抑圧のことで、足し算ではない複雑さがある。「これは民族差別、これは部落差別などと切り分けていくと、残るのはマジョリティーの女性の課題だけになってしまう」。委員会に声を届けたNGO関係者にそう言われ、はっとした。
そんな話をすると、ジェンダーの課題に取り組んできた同僚は、ある悔いを教えてくれた。自身の講演会で、聴衆から「私は障害者です。障害のある女性については、どんな記事を書いてきましたか」と問われ、言葉に詰まったと。
東京社会部のジェンダー担当として、昨年の女性デーでは、高齢の単身女性の貧困率の高さと、その背景にある社会構造を掘り下げた。不可視化されている問題に向き合いたい。一貫した思いで、今年は障害女性の困難をテーマに選んだ。
問題の可視化には、データが欠かせない。記事では、障害者雇用における男女格差が放置されている実態を取り上げた。だが、障害者に関する性別の統計は乏しい。政府は15年前の第3次男女共同参画基本計画から、「男女共同参画の視点をあらゆる施策に反映させる」として、ジェンダー統計の充実を掲げる。その視点は障害者の分野に及んでいない。
不可視化の責任、メディアにも
国は障害者という集団をひとくくりにして、性別による格差に注目せず、障害女性を「性のある存在」として尊重する対応をおこたってきた――。障害女性への複合差別を訴え続ける「DPI女性障害者ネットワーク」は、12年の報告書でそう指摘している。
国だけではない。女性運動や障害者運動も障害女性の困難を見落としてきた、とも報告書は言及する。マイノリティーの女性の課題に共通する問題が、そこにある。
女性デーの2週間後、「部落フェミニズム」(エトセトラブックス)が刊行された。編著者の熊本理抄さんは前書きで、「『あなたの言う女性差別は私の体験を言いあらわせない』『あなたの言う部落差別に私の体験は含まれていない』と異議申し立てをする必要があった」と記す。
当事者たちは、ずっと以前から声を上げてきた。その声がかき消されないよう、伝えていかなければならない。不可視化されているのは、私たちメディアの責任でもある。
取材考記(東京社会部・二階堂友紀)
にかいどう・ゆき 2000年に西日本新聞に入社し、04年から朝日新聞。記者になって以来、性的マイノリティーに関する報道に取り組む。政治取材が長いが、23年秋から東京社会部で人権・ジェンダーを、25年春から法務省を担当。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験