生成AI時代に残り続ける営業という仕事について(私見)
自己紹介
株式会社LayerXでプロダクトマネージャーをしているnumashiです。 LayerXでは、法人営業からキャリアをスタートし、プロダクトマネージャーへ異動、現在は生成AIを活用した営業生産性向上ツール「Sales Portal」というSalesエージェントプロダクトの開発に携わっています。 エンジニアとしても軽い機能開発を行うなど、薄く広くキャリアを歩んでいます。 営業の人に比べると営業としてはレベルが低いかわりに技術に詳しく、エンジニアに比べたら技術に詳しくないですが、営業のことをよく知っている、少し変わった人間です。
私自身のユニークな立場から、生成AI時代における営業という職種についてnoteを書こうと思います。 あくまで私見ですが、営業という仕事は生成AI時代にむしろ価値を増していくだろう、と確信しています。
営業は、人の心を動かす仕事である
一般的には、営業という仕事は「モノを売る人」「売上を上げる人」というイメージを持たれがちです。 でも、本当に優秀な営業担当者はすごいです。優秀な営業の共通点は、顧客の課題に真摯に向き合い、その解決に全力を注ぐ姿勢です。 時には自社製品が最適解でないと判断し、他社を紹介することだってあります。一見すると売上の機会損失に見えるかもしれませんが、この誠実な対応こそが、長期的な信頼関係を築く基礎になります。
私が過去のキャリアで触れてきた、優秀な営業パーソンは、単純なモノ売りをするのではなく商材の提案をする前段階から顧客すら気づいていない課題をあらわにし、一緒に解決しようという考えで顧客に接します。 そして、顧客から絶大な信頼を勝ち取り、「あなたが言うのだから、買おうと思う」と顧客に言わしめます。 そんな営業パーソンのことをとても尊敬しますし、素晴らしい仕事だなと思います。
このような営業パーソンのことを考えると、営業という仕事は単なるモノを売る/売上を上げる人ではなく、人の心を動かすという、最高難易度の仕事を完遂しているように思います。
また、プロダクトを作る組織の人間になってから改めて気付かされましたが、「良いプロダクトを作ること」と「それを必要とする人に届けること」は全く別の課題だということです。 どんなに優れた製品でも、適切なタイミングで、適切な文脈で、適切な相手に届かなければ価値は生まれないです。ここで重要な役割を果たすのが、営業という役割です。
日本の営業生産性の現状
日本の営業生産性の低さは、しばしば問題とされています。
例えば、マッキンゼーの調査を見ると、日本の典型的なB2B企業の営業担当者は、顧客への直接的な営業活動にわずか10-25%の時間しか使えていません(グローバルのベストプラクティスでは50-55%と生産性が2~5倍)。一方で、提案書作成などの顧客関連活動に55%(ベストプラクティスは35%)、社内業務に20-35%(ベストプラクティスは10-15%)もの時間を費やしています。
これは、例えば以下のような状況が営業の人を取り巻いているのではないかなと想定しています。
商談の事前準備や事後の報告書作成に時間を取られすぎている
顧客との雑談や関係構築に時間を使いすぎる一方で、本質的な価値提案の時間が少ない
属人的な営業スタイルで、ナレッジの共有や活用が進まない
「足で稼ぐ」という考え方が根強く、デジタルツールの活用が遅れている
業務の75~90%は「人の心を動かす」営業活動とは直接関係がないという衝撃
先ほど、私は営業という仕事はとても素晴らしい仕事だ、と書きました。 ただし、これには、最初から心を動かせる営業になるというのは難しく、その状態に至るまでに研鑽を積む必要があるという前提条件が存在します。
極端な具体例を言うとおわかりいただけると思いますが、人生で初めて営業をしてみた1日目で、即座に素晴らしい営業になれるか?というと全員がNoと言うでしょう。
では、素晴らしい営業になるには?という観点で考えを深めていきますと、色々な要素は存在すると思いますが、私は「顧客提案の活動と振り返り」に「十分な時間を投下」することで、提案の質が向上するという、量質転換の法則が成立すると考えています。 なお、量質転換とは、最初にある程度の量を先にこなした後、質が後から上がる考え方のことです。
素晴らしい営業になるための量質転換を起こすには
残念ながら、今は令和の時代ですので、量質転換を起こすために長時間労働をしよう、という考え方は世の中の多くの企業で適用できません。 限られた時間の中で、量質転換を起こす必要がある、というのがこの時代の原理原則になりつつあります。 そんな状況下では、営業活動に集中できる環境に飛び込むことが最も重要です。
言い換えると、営業活動に集中できない環境に飛び込んでしまうと、営業として獲得可能な、将来の能力の伸び幅が減少してしまう、とも捉えることができてしまいます。
残酷ですが、選ぶ環境起因で自らの能力値がある程度規定されてしまう可能性がある、ということにほかなりません。
私たちLayerXの場合、そのような環境を用意する1つの手段として、テクノロジーの活用が挙げられると思い、取り組んでいます。
生成AI時代に求められる新しい営業像
前提として、生成AIは「営業の代替」ではなく「営業の価値を増幅させる装置」だと考えています。営業の代替ではありません。 なぜなら、人の心を動かすことはまだAIにはできないからです。
一方で、生成AIを活用すれば、活動の時間配分を劇的に変えることができます。 例えば、提案書作成や社内報告書の自動生成により、営業担当者は本来最も価値を生む「顧客との直接対話」に集中できるようになります。 他にも、属人的な営業スタイルだったとしても、他の人のナレッジを容易に探し出すことができるようになります。
営業は、自由であることが良いのかも知れない
こんなことを書くともしかしたら社内の誰かに怒られてしまうのかもしれませんが、私は営業という仕事ほど、自由であって良いと思っています。 というのも、商材の仕様がどうであれ、対峙しているお客様は同じ会社が1つとして存在しません。ということは、相対しているお客様に合わせた提案が必要になるため、本来型化されることなんてありえないんです。 もちろん、商材に誤った説明をしてはなりませんし、共通している課題を提案するためのコンテンツやスクリプトはあってよいと思いますが、本質的に、営業は自由であるべきだと思います。
(※かわりに、会社によっては数値目標を苛烈に課すというケースも多分に見受けられるため、数値のプレッシャーに晒される性質という見方では不自由な部分も当然あります)
実は、この「自由さ」というのが生成AIの登場により、加速されるものだなと最近は強く感じるようになりました。
なぜ生成AIは営業の価値を増幅させるのか
従来のCRMなどの営業支援システムは、ルールベースで頻出する定型業務だけを100%の精度でシステム化していました。そのため、カバーできる業務が限定的で、例外対応も基本的にはできませんでした。
一方、生成AI(LLM)は、これらの制限を打ち破ります:
100%の精度にはこだわらず、幅広い業務に柔軟に対応
提案書、報告書、メールなど、様々な文書作成を支援
文脈を理解し、例外的なケースにも対応
新しいユースケースにもすぐに対応可能
この違いが、営業の働き方を根本から変えると信じています。従来の「システム化できる業務」と「できない業務」の二分化から、人間とAIが全ての業務で協調できる時代へと進化します。
これからの営業に求められる要素は、以下の3つです:
価値を伝え、心を動かす営業
単なる商品説明ではなく、顧客の事業戦略に踏み込んだ提案ができる
業界動向やテクノロジートレンドを理解し、顧客の未来に対する示唆を提供できる
顧客との対話から得た知見を、自社のプロダクト開発にフィードバックできる
デジタルとリアルを融合した営業活動
AIツールを活用して情報収集や分析を効率化
オンラインと意図的なオフラインを適切に使い分けた顧客とのコミュニケーション
データドリブンな意思決定と、人間的な直感の両立
ナレッジの共有と活用の促進者
自身の経験や知見をデジタル化し、組織の資産として共有
他メンバーの成功事例やベストプラクティスを積極的に学び、活用
AIを使って組織全体の営業力を底上げし、個人の能力を増幅させる
AI時代だからこそ、人の心を動かせる営業が必要
AI時代の到来は、営業という職種の価値をさらに高めていくと思います。
信頼できる「人」を通じた情報提供の重要性の高まり
定型業務の自動化による、本質的な対話時間の創出
複雑化する製品・サービスの「翻訳者」としての役割
また、AIに代替されるのか?という議論は常に存在していますが、私見として、生成AIは「営業の代替」にはなりません。が、「営業の価値を増幅させる装置」として大きな役割を果たすと考えています。
定型業務を自動化し、顧客との対話時間を創出
データ分析で、より精度の高い提案を実現
ナレッジを共有・活用し、組織全体の営業力を向上
人間にしかできない「価値創造」と「心を動かす対話」に集中
LayerXにおける、営業に対する考え方について
LayerXという会社は、手前味噌ですが、(経験の浅い私は真っ先に除外して)エンジニアが優秀で、素晴らしい人格者が揃っていると思います。こういった技術者が働きやすい会社にしていく方針であることは未来にわたり、変わらないと思います。
でも、それと同様かそれ以上に、営業という仕事の重要性が身にしみていて、素晴らしい営業の方に集まってもらい、活躍してもらうための投資を惜しまないようにすると、ここ1年で変わってきた会社でもあると思っています。
実際、そういった営業を大事にしたいという考えをしない限り、開発部門の管掌役員である私が営業の方向けにnoteを書く行動はしないと思います。職種に優劣をつけることはありませんし、どの役割も大前提大切ではあるのですが、技術者に特に優良な会社だよ、と見られるのは本意ではありません。
一方で、口だけ「営業は重要だ」と言っても意味がないので、実際にリソースを投資して作っているSales PortalというSalesエージェントの内製プロダクトがあります。どんなものなのかは以下のnoteをご覧ください。
良い営業パーソンが発生し、成長するためには、顧客に対峙するする時間の最大化と、学びを振り返る機会の提供、それを可能にする時間の捻出が必要不可欠だと思っており、今後もそういったことが実現できるように、投資していきたいです。 そしてそれがおそらく、営業で入社した後、プロダクトマネージャーに異動して複数のプロダクトを作り、営業の商材を作ってきた自分が唯一できることだと確信しています。
※LayerX社内のみんなも、見てくれるだろうと願って、社内ではなくnoteにも書いてしまいますが、モチベーション高く営業生産性上げる機能を作るので皆さん要望ください。
本当にそんな投資してんの?生成AI使っている営業って嘘でしょ?と思ったそこのあなたへ
今回、LayerX初めての試みとしてビジネス職種向けのCasual Nightというオフラインイベントを開催する運びとなりました。 オンラインのカジュアル面談も随時募集していますし、オフラインのイベントでぶっちゃけ話を聞いていただくのも良いかと思いますので、ぜひご参加ください!
2025年5月20日(火)19:00、2025年6月11日(水)19:00の2つの日程でご参加いただけます。
カジュアル面談をいきなり申し込むのは少しハードルが高いと思いますので、同僚をお誘いあわせの上、ぜひお越しください。 なお、営業にフォーカスして本noteは書いていますが、営業以外の職種の方もご参加いただけます。
ちなみに、私のカジュアル面談の応募口もありますので、よかったらぜひお話しましょう。
コメント