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guraの卒業 EN圏の信仰心とトゥルーマン・ショー

  世界一位のVtuberであった、がうる・ぐらが卒業した。先月、独りでチェコを彷徨い歩いていた夜、ふと覗いたタイムラインでは突如彼女のツイートが不穏さを帯び、その数時間後には引退が発表されました。

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 guraの存在は非常に複雑で、彼女が英語圏のオタクたちにとって、どれくらい巨大なヒーローでありヒロインで、または海から来た母のような少女であったかをすべて伝えるのは難しい。けれども、彼女の詩的なトークに惹かれ、配信を通して英語を学び、こうしてヨーロッパを単身で回れるようになった身として、僕が知る彼女の魅力を書き残しておこうと思う。

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 実のところ、僕みたいに英語圏コミュニティを主に追う物好きや、海の向こうのオタクたちは、この日が近いことを知っていた。guraは世界一位になってからしばらく経ち、明らかに「燃え尽きて」いた。配信頻度は落ち、たまの配信では「わたしみたいな半分引退した子をよく追ってるね」と自虐をしたり、雑談では不和とストレスをぽろっと漏らす回も少なくない。
 皆、guraが好きだからこそ、彼女が世界一位を背負う重々しさ、さらには世界規模でのアンチや荒らしからのプレッシャーも知っていた。ファンたちですら常時板挟みであり、guraの小粋なジョークがまた聞きたいけれども、彼女には健やかに休んでいても欲しい二つの感情でサンドイッチ。
 だから、もはや希少となった活動頻度、さらには初期から支え合った大親友のアメリア・ワトソンの卒業も相まり、guraが辞めてもおかしくないと悟っていたのです。しかし、世界一位である彼女を運営は引き止めるだろうし、実際「ホロライブの顔役」として在籍し続けるだけでもファンは有難がっていた。が、そうして居残り続ける現状すらguraの負担であることも、また知っていた。

 彼女は、日本のオタク界隈では一般的に「外国の女の子がみごとにシティ・ポップを歌う目新しさ」から一気に有名になったと語られる。それも間違いではなく、guraの選曲センスと歌唱力はデビュー当初から群を抜き、日本もまた余波のようにシティ・ポップの再ブームに火が付く。日本のレトロ曲ブームは、時を同じくしてインドネシアの歌姫とも連綿と繋がっていくのだけれど、それはまた別のお話。

 しかし、英語圏でのguraは、もっと巨大な存在感を見せる。
 彼女の魅力は、その歌唱力もさることながら、シティ・ポップを愛するような「詩的かつユーモア溢れるトーク力」にあった!
 これは、日本人のセンスではなかなか真似ができない。例えば、僕が大好きなGTA配信での一幕。

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 車両に乗って陽気にカーラジオから聴こえる音楽とのドライブを楽しむguraに、無粋なコメント「カントリー(曲のジャンル)好きじゃないから変えてよ!」が届く。瞬間、彼女は「運転手は誰だ? 君たちは後ろのチャイルドシートだ。いい子にしてたらマックでハッピーセット買ってあげるから黙ってろ」と返す。まるで洋画かと錯覚するような軽快なアメリカン・ジョークの炸裂に、一瞬で心を奪われた。
 英語圏のオタクたちは、彼女のそういった言語センスを愛した。オタク的な文化への理解も強く、見た目と裏腹に強烈な下ネタもさらっと放り投げる天真爛漫なguraの様子を「ミームの母」とまで呼んだ。guraの突飛な行動や言動の数々はミーム化し、今まで日本のアニメや配信から美少女キャラクターのミーム成分を補給していたナードたちにとって、guraは遂に自分たちの国から生まれた最強ヒーローだ。向こうのイベントではguraが印刷された国旗を前に「USA!」コールまで響く。
 そんなguraが日本のVtuberたちを、aっという間に追い越し、世界一位に躍り出る。今まで日本カルチャーを真似ていた彼らからすれば待ちに待った奇跡だ。gura含むホロEN一期生Mythは揃いも揃って豪傑ばかりで、先述したアメリアの巧みな配信技術も加わって、彼女たちは時代を作り出す。

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 VRchat上で可愛らしいデフォルメ姿で好きに動き回る彼女たちは、まるでカートゥーン。日本との大きな違いとして、彼女たちは非常に多くの姿を使いこなし、イラスト然とした美少女でない姿で配信することを恐れない。「キャラクターであること」を第一にロールする様は、さすがTRPG文化とカートゥーンの骨子が違うなと感じます。

 日本語話者と比べ物にならない数の英語話者から選ばれ、そのうえで「偶像を演じる」危険な行為にも進んで踏み入れ、そして選ばれた十数人の彼女たちは誰しもがなんらかの天才。特に、guraの少し前に卒業をしたセレス・ファウナはとても聡明で、可憐なキリンであった。

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 化学的な解説や複雑な理系知識を披露し、なおかつ話の長さを指摘されて顔を真っ赤にすることで場を笑わせるという「理系美少女に求められる要素」を一身に引き受けた彼女のトーク力、そして「役割」を理解するロールプレイ能力には感服。人を選ぶとわかってヴィーガンであることを話す彼女の姿に、宮沢賢治と同じ詩情を見た。あまり言わないが、guraもヴィーガンだったりする。こうした文化の違いを僕ら一部の日本側のオタクは愛していた。
 僕は、あなたたちが何を話しているのか己の耳で知りたくて、英語を学ぶことにしたんだ。

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 英語圏のオタクたちは、彼女たちの気高さ・基礎能力の高さ、そしてカルチャーやアニメ・漫画を愛する同士としての共感に浸った。そのうえ進んでカートゥーンになりきる柔軟性もある。

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 たとえば卒業直前のguraは、画像左の姿で凸待ちに現れた。ムメイ氏から「いつの間にかハゲたね」と笑われ、卒業間際の二人ながらユーモアを忘れず、視聴者たちを安心させる。ちなみに、このムメイの凸待ちでは、ジジ・ムリンも見事であった。

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 最も新人であるものの、ジジは卒業間際のムメイに重すぎず軽すぎず、そして先輩に美味しいところを譲るような巧みな立ち回りを見せる。彼女はこうした「場の空気を呼んだロールプレイ」が天才的で、GTAではボケ老人として笑いをかっさり、マイクラでは誠実なナイト役を演じきって涙すら誘った。EN圏の魅力を説明するに、「ロールプレイ力の高さ」は真っ先に挙がることでしょう。


 ファウナ卒業直前でのguraとのコラボは二人の知的な直感力が光る。最後の最後に、息ぴったりなところ見せないでくれ……。
 配信終了が迫り、シリアスな空気が流れるところでguraが呟く。
 「わたしたちが”ホロライブとして最後に話す言葉”を決めよう」と。繰り返すが彼女の言語センスは天才だ。guraはきちんと「ホロライブという箱の外でも彼女との交流は続く」と視聴者に伝えている。
 察したファウナと、「臭い!」「緑野郎!」と罵り合って配信が終わる。彼女たちが「ホロライブとして」最後の会話は何より仲良しな証である喧嘩だった。
 そんなguraは卒業前トークの際、一番の思い出として「いっしょに日本に来て朝5時からアメリアと二人で散歩をして行き着いた神社の景色」を語る。右も左もわからず、けれどたしかな「カルチャーへの憧れ」があっただけの少女たちにとって、自分らが英語圏を代表して日本でライブするなんて夢のまた夢。それが現実となった中、二人しかいない早朝の神社で観た景色。そりゃ、アメリアが旅立ったホロではguraにとって狭い。
 エピソードの途中、「キスしたの!?」とからかわれる。コメント欄の百合厨たちがにわかに沸くなか、guraは「キスより深いもので結ばれた」と返す。あっぱれ。流れに乗るのでもなく慌てるのでもなく、あっさりと、淡々と、当然のようにアメリアとの絆を表した。

 冒頭に戻り、僕らは複雑だ。
 ファウナ、ムメイ、そしてアメリアが居ないうえで、一位の重圧の背負うguraに自由を手にして欲しい気持ち。案件で稀にサメを目にすると浮かぶ「もういい……休め……」な感情。
 先日、一枚のファンアートが飛び込む。トゥルーマン・ショーのラスト、海を渡って偽物の空を歩き、現実世界に進むシーンのパロディ。

 その一枚にどれくらいの意味が込められていたかは定かではないが、瞬間、僕の中で何かが繋がった。英語圏の人間たちは、「世界中からの監視」を受けたguraの卒業をトゥルーマン・ショーと重ね、監視された世界から抜け出す彼女の「魂」を祝福しているんじゃないか。
 英語圏のオタクたちは、企業をとてつもなく嫌う。会社よりもクリエイター個人を応援する。荒れごとがあった場合、彼らは「個人」の味方につく。日本の場合、程度の差はあれ基本的に「企業」へつくでしょう。そして、とても熱心で、その代わり解釈違いが出れば一気に反転アンチにもなる。つまるところ、彼らは「信仰心」で動く。
 たとえば、僕にも「作品でなくnyalra自体」を見ている英語圏のオタクたちが結構居るなと感じた。この記事も翻訳しつつ読んだりするのでしょう。彼らは「自分たちを導くなにか」を信じている。そんな中、颯爽と英語圏から生まれた小さなサメのお姫様を何より大事に想っているはず。
 おい、英語圏のオタクたち! 大丈夫。僕はおまえらをちゃんと見ている。すごく、ゆっくり、ゆっくりとだが、言語の壁を越えて信ずるサブカルチャーはさらなる進化を遂げるさ。その時の一等席は作品やクリエイターのためなら海だって越える僕らが座ろう。
 急にすべてが反転アンチと化したり、一気に大スターとして持ち上げられることもある、英語圏ならではの規模感を肌で知っているから、guraがその足で一位の座を降りることへ、哀しみと同時に「解放」と「尊敬」を覚えている。

 信仰心は、魂へ連なる。
 きっとguraの魂が電車に乗って新たな地平に到着したなら、みんな再びミームの母を祝福することでしょう。その電車は、きっと企業なんかでも達成できない、大きな大きな何かを準備しているのかもしれない。キスより深いつながりとともに。

 何億レベルの応援と刃を切り抜けてきた彼女たちの冒険は、きっと続く。
 「個人の魂」を応援する土壌があるからこその奇跡は遠くない。たくさんの線路がある。魂と、ロールプレイと、信仰と。もう他国の真似をせずとも独自のオタクカルチャーを手にした海の向こうの神話を、僕はずっと追っていく。

 インターネットは、とてもとても巨大なパノプティコン(相互監視塔)で、フォロワーが増えれば増えるほど、24時間誰かに観られている感覚に襲われる。トゥルーマン・ショー症候群。僕ですら、ゲームリリース後に世界各国に過去を掘られていろいろ言われてきたんだ。けれど、やっぱりみんな、乗り越えられるんだな。トゥルーマンは自らの意思で階段を登ったのだから。「頭の中にカメラはない」。

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 おはよう!
 会えないときのために、こんにちは!こんばんは!おやすみなさい!

 多くの情報に塗れたインターネットでは、僕が魂を込めた当記事もすぐに関心の外でしょう。あなたたちは、飽きたテレビのチャンネルを切り替えるようにこの記事も閉じちゃってください。

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nyalra
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コメント

1
田中
田中

知らない世界の話でとても興味深かったし、読めば読むほどそりゃしんどいと思った。
皆で積み重ねて共有するべき思想、表現、あり方を一人の生きた人間に託す体験はそれはもう熱狂できるんだろうなぁ。
でもそれはがうるぐらさんを好きになればなるほど苦しみを伴うことになるし、トゥルーマンを見る視聴者のようにモニターの向こうのキャラクターとして楽しむのが一番健全に見える。だって現実がそうなんだし。

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