Adobeソフトでちょ古っ都製本工房に入稿するPDF入稿データの作り方
小説同人誌デビューをしてみたい作家様のために、実際に作った小説同人誌を事例として、製作過程を解説する【同人小説の装丁術】シリーズ。
今回は番外編として、Adobe IllustratorやInDesignで作成したデータを、文芸同人誌印刷で人気の印刷・製本所『ちょ古っ都製本工房』様でWEB(PDF)入稿する方法を、具体的に解説したいと思います。
というのも、ちょ古っ都製本工房様のWEBサイトに「原稿作成について」というページはあるのですが、WEB入稿で推奨されているPDFの書き出しについて、具体的な記載がほとんどありません。
過去に『ネコ化男子の非日常 零』という短編小説作品を初めて入稿した時、本当にこのデータで問題なく印刷・製本いただけるのか、とても不安でした……。
幸いとてもきれいに仕上げていただくことができたので、胸をなでおろしました。
そして今回、文学フリマ京都9で出す新刊、『魔法が使えない魔女アンソロジー たとえあなたに魔法がなくても(以下ない魔女アンソロ)』を印刷するにあたり、再びちょ古っ都製本工房様へ依頼することに。
ちなみに『ない魔女アンソロ』の表紙や本文部の作り方は、こちらの記事で解説しています。
そして入稿して仕上がったものがこちら。
見ていただくと、問題なく印刷されていることがわかると思います(実際に想定通りの仕上がりでした)。
それでは『ない魔女アンソロ』を具体例に、上記のように仕上げるための、PDFの作成方法を見ていきましょう。
【想定する読者様】
Adobe Illustrator、InDesignで、ちょ古っ都製本工房様にWEB(PDF)入稿をしたい方
PDFの書き出し方法について、具体的な設定を知りたい方
※この記事はPDFの書き出し方法について特化しているため、ソフトの詳細な使い方については解説していないことをご了承ください。
※本記事の各ソフトのバージョンは、Adobe Illustrator 2025 / Adobe InDesign 2025 になります(OSはWindows10)。
Adobe Illustrator(表紙データ)のPDF書き出し設定
アートボードの大きさ
PDFの書き出し設定を解説する前に、まずアートボードサイズに付いてお話しします。
ちょ古っ都製本工房様の「原稿作成について」のページに、「表紙の原稿」という項目があります。が、アートボードの大きさについての具体的な指示がありません。
というのも『ない魔女アンソロ』のような全面にイラスト配置+背表紙に文字を入れる場合、3mmの塗り足し分を加えたデータをアートボードの中央に配置すれば、アートボード自体はどんな大きさでも構わないからです。
とはいえサイズ自由だと言われても、かえってどうすればいいか迷いますよね。そんな場合は塗り足し分を含めたご自分の表紙サイズが収まる判型にしましょう。
『ない魔女アンソロ』の場合、本のサイズがA5判なので、表紙、背表紙の横幅は148mm、縦幅は210mm。これを左右に並べるので、横幅を2倍して296mm。背表紙の幅が6.4mmなので、合計302.4mm。塗り足し分(上下左右3mmずつ)プラスすると、表紙サイズは次の通り。
横幅308.4mm × 縦幅216mm
このサイズが収まる判型は、B4判(364mm×257mm)。アートボードサイズに迷うなら、この方法で決めちゃいましょう。
PDFの書き出し方(と一般の設定)
Adobe Illustratorの場合、PDFに保存するには、メニューから「別名で保存」を選択して、ファイルの種類を「Adobe PDF」にします。するとPDFの保存設定が表示されます。
まず、Adobe PDFプリセットは一旦忘れ(笑)、準拠する企画を「PDF/X-la:2001」、互換性を「Acrobat 4(PDF 1.3)」を選択します。オプションはすべてチェックを外しましょう。
準拠する規格や互換性は新しいものもあるのですが、ちょ古っ都製本工房様で対応されているかがわからないため、念のため互換性の高いものを選んでいます。
またオプションについては印刷上特に必要がないため、データを軽くする観点からチェックを外します。
圧縮の設定
圧縮とは、画像のデータサイズが大きすぎる場合、どのサイズまでデータを抑えるか、という設定です。
ただしここでの圧縮は「もしも用」のため、基本的にはPhotoshopデータなどの配置画像を適切なサイズ(カラーなら350dpi、モノクロ(白黒)なら1200dpi)に設定するほうがよいです。
なのでここではカラー画像、グレースケール画像、白黒画像ともに「ダウンサンプルしない」「自動(JPEG)」「最高」を選択しておきましょう。
※白黒の圧縮は(CCITT Group 4)
テキストとラインアートの圧縮にはチェックを入れておきます。
トンボと裁ち落としの設定
トンボとは仕上がりサイズに裁断するマークのこと。トンボの項目にチェックを入れると、アートボードの枠を仕上がり線として、トンボ(トリムマーク)を入れることができます。
ただしちょ古っ都製本工房の入稿データには、アートボードのトンボは必要ない(アートボード内で仕上がりサイズから3mmの塗り足し分を含めたデータを作成する)ので、トンボの項目はすべてチェックを外し、裁ち落としの項目では次のどちらかで対応します。
「ドキュメントの裁ち落とし設定を使用」のチェックを外し、天地左右すべてを0mmにする
あらかじめ上部メニューの「ファイル」→「ドキュメント設定」より、裁ち落としの項目で天地左右すべてを0mmにしてから、「ドキュメントの裁ち落とし設定を使用」のチェックを入れる
これでトンボが出力されなくなります。
出力の設定
出力は、ディスプレイの色と実際の印刷でなるべく変わらない(見た目通りに印刷する)ようにするための設定です。いわゆる「カラーマネジメント(色管理)」と呼ばれます。
実はこの項目の説明をしっかりと書くと、noteの記事1つ分以上の文字量が必要なため、ここではごく簡易的に設定のみ説明しておきます。
まずちょ古っ都製本工房ではRGBで作成したデータには対応していないため、必ずCMYKに変更しておきましょう。
※RGBデータでも入稿できますが、色味は大きく変わる可能性があります
Illustratorでは上部メニュー「ファイル」→「ドキュメントのカラーモード」で「CMYKカラー」に変更できます。Illustrator上に配置する画像も、作成したソフトでCMYKカラーに変換しておきます。
そのうえで上部メニュー「編集」から「プロファイルの指定」を選び、プロファイル「作業用CMYK - Japan Color 2001 Coated」を選択。
上記設定後にPDF書き出しの出力設定で、次のように指定します。
カラー
カラー変換:出力先の設定に変換(カラー値を保持)
出力先:ドキュメント CMYK - Japan Color 2001 Coated
PDF/X
出力インデントのプロファイル:ドキュメント CMYK - Japan Color 2001 Coated
出力条件名:空欄
トラッピング済みとしてマーク:チェック外す
これで大きくは色味が変わることはないはずです。少なくとも私が入稿した過去2回は問題なく出力されてきました。
詳細の設定
詳細は、ドキュメントに使われているフォントと透明効果などの扱いをどうするか、という設定です。
まず大前提として、データを作成しているPCにインストールされているフォントは、印刷先(ちょ古っ都製本工房)には存在しないと考えましょう。
もしフォントが印刷先にない場合、せっかく可愛いフォントを選んでデータを作っても、印刷先で違うフォントに変換されてしまいます(そして大抵はダサダサで残念な状態になってしまう)。
そうならない一番確実な方法は、すべてのフォントをアウトライン化することです。これで基本的に見た目通りの印刷になります。『ない魔女アンソロ』の場合、表紙の本タイトルを画像化、シリーズやアンソロタイトル、サークル名はアウトライン化しました。
アウトライン化するときの注意点として、必ずアウトライン前のデータも残しておくこと。誤字を見つけてもテキストを編集できなければ、悲惨なことになりますから。
どうしてもフォントデータを残したい(アウトライン化したくない)場合は、フォントの項目にある「使用している文字の割合が次より少ない場合、サブセットフォントにする」を100%にしておきます。
次に透明効果(画像を透明にしたり、レイヤーの描画モードを変更するなど)について。
Illustratorで画像をぼかしたり、光彩をつける「効果(アピアランス)」や、透明項目にある描画モードの変更を行った時、印刷時に画像化する「ラスタライズ」という作業を行います(PDF1.3バージョンの場合)。
この画像化にあたって処理をどのようにするのかを決めるのが「オーバープリントおよび透明の分割・統合オプション(PDF 1.3 のみ)」という項目です。
この項目を設定する前に、イラストレーターの上部メニュー「効果」→「ドキュメントのラスタライズ効果設定」を設定しておきます(でないと、PDF書き出し時にこの項目の意味がなくなるため)。
カラーモード:CMYK
解像度:高解像度(300ppi)
あとの項目は最初から選択されているもので大丈夫です。
上記設定完了後、PDF書き出し設定で「オーバープリントおよび透明の分割・統合オプション(PDF 1.3 のみ)」のプリセットに [ 高解像度 ] を選択します。
こちらが正常に設定されていないと、ぼかした場所や光彩を設定したところに粗いドット柄が印刷されてしまう……場合もあるので注意です。
セキュリティの設定
PDFにセキュリティが設定されていると、そもそも印刷先でデータが開けないため、こちらの項目はすべてチェックを外します。
設定内容の確認とPDFの保存
最後に設定内容を確認すると、警告に「互換性を「Acrobat 4 (PDF1.3)」に設定して・・・」と表示されますが、そのままPDFとして保存しても大丈夫なので、右下の「PDFを保存」ボタンを押しましょう。
おまけ
もしこれからもちょ古っ都製本工房を利用されるなら、ここで今まで設定してきたPDF書き出し内容を保存し、次から再利用できます(これが「PDFの書き出し方」の始めの方で書いていた「Adobe PDFプリセット」のことです)。
「Adobe PDFプリセット」の右側にある下矢印とディスクのアイコンをクリックすると、「Adobe PDF 設定に名前を付けて保存」ダイアログが表示されます。
プリセット名にわかりやすい名前を付けて「OK」ボタンを押します(私は「ちょ古っ都製本工房用」にしています)。
これで「Adobe PDFプリセット」に今までの設定が追加できました。ちょ古っ都製本工房用のPDFをデータを作成する場合、このプリセットを選択すると、自動的に今までの項目が選択、適用されます。とっても楽ちんになりますね!
Adobe InDesignt(本文部データ)のPDF書き出し設定
私は小説同人誌の本文部データをAdobe InDesignで作成しています。InDesignのPDF書き出し設定も、考え方は基本的にIllustratorと変わりませんので、InDesign独自の部分についてのみ、解説していきます。
PDFの書き出し方(と一般の設定)
InDesignからPDFへの出力は、上部メニュー「ファイル」→ 書き出しより行います。
Illustratorと同じくPDF書き出しプリセットは一旦忘れ(笑)、標準を「PDF/X-1a-2001」、互換性を「Acrobat4(PDF1.3)」とします。
ちょ古っ都製本工房では、見開き(左右ページで1つのデータ)ではなく単ページ(右、左それぞれのページ)のデータが必要なので、「ページ」の項目上段では「すべて」を選び、その右側であなたが作成したデータの判型を選択します(『ない魔女アンソロ』はA5判の縦ページ)。書き出し形式は「ページ」を選択すると、単ページとして出力できます。
その他は基本必要ないので、すべての項目にチェックを入れず、選択も初期状態で問題ないです。
圧縮の設定
表紙データの書き出し(Illustrator)でも説明したとおり、基本的に配置する画像側で解像度を合わせるので、この項目はカラー画像、グレースケール画像、白黒画像ともに「ダウンサンプルしない」「自動(JPEG)」「最高」の選択でOK。
※白黒の圧縮は(CCITT Group 4)
またテキストとラインアートの圧縮にはチェックを入れておきます。
Illustratorと違う点は、「画像データをフレームにクロップ」という項目があること。
InDesignでは、他のソフトで作成した画像データをInDesign側で作成したフレームに配置できるのですが、チェックを入れるとこのフレームの枠内に表示された画像だけを印刷できます。
基本的に枠外の画像を印刷することはないので、ここはチェックをしておきます。
トンボと裁ち落としの設定
ちょ古っ都製本工房では本文部もトンボが特に必要ないため、「トンボとページ情報」のチェックはすべて外します。
「裁ち落としと印刷可能領域」については、Illustratorと違い、InDesignは判型ぴったりでレイアウトするため、塗り足し分の3mmを追加して出力します。
「ドキュメントの断ち落とし設定を使用」のチェックを外す
「裁ち落とし」の天 / 地 / ノド / 小口すべてを3mmにし、「印刷可能領域を含む」のチェックを外す
色分解の設定
Illustratorと同じく、下記のように設定。
カラー
カラー変換:出力先の設定に変換(カラー値を保持)
出力先:ドキュメント CMYK - Japan Color 2001 Coated
PDF/X
出力インデントのプロファイル:ドキュメント CMYK - Japan Color 2001 Coated
出力条件名:空欄
表紙とはちがい、本文は基本的に白黒(モノクロ)ベースのため、色味についてはそこまで神経質にならなくても大丈夫だと思います。
詳細の設定
表紙と違い、小説の本文部すべての文字をアウトライン化するのは、現実的ではありません(すべてをパスデータとして保持するため、データ量が膨大になります)。
そのため、フォントの項目にある「使用している文字の割合が次より少ない場合、サブセットフォントにする」を100%にしておきましょう。こうすることで、必要なフォントデータがPDFファイルに埋め込まれ、印刷先の環境でも問題なく印刷できるようになります。
その他の項目については、初期の設定で大丈夫です。
セキュリティの設定
表紙と同じく、セキュリティの各項目はすべてチェックを外します。
設定内容の確認とPDFの保存
最後に設定内容を確認します。ここでフォントのサブセットフォントが100%になっていないと、フォントの埋め込みが不完全なことが警告で表示されます。その場合は、「詳細」に戻ってサブセットフォントを100%に変更しましょう。
警告表示がなければ、右下の「書き出し」ボタンを押してPDFを出力します。
またIllustratorと同じく、InDesignもPDFの出力設定を保存できます。
左下の「プリセットを保存」をクリックしダイアログが表示されるので、プリセット名を入力してOKを押します。私はIllustratorと同じく「ちょ古っ都製本工房用」として保存しています。
書き出したPDFが問題ないかを確認する方法
IllustratorやInDesignで保存したPDFが、本当に問題のないデータなのか不安ですよね。実はAcrobat Readerがあれば、簡単に確かめる方法があるのです。
特に問題の大きそうな3点について、その方法を紹介します。
カラーモードの確認
カラーモードがCMYKかどうかは、書き出したPDFをIllustratorでもう一度開き、上部メニュー「ファイル」→「カラーモード」で「CMYK カラー」になっていれば大丈夫です。
フォントの確認
フォントが埋め込まれているかを確認するには、Adobe Acrobatか、Acrobat Readerで文章を開きます。左上部「メニュー」→「文書のプロパティ」を選択し、「フォント」タブをクリックしてください。
使用しているフォントが列記されている画面が表示されます。このフォント名の横に「埋め込みサブセット」と表示されている(あるいは全てアウトライン化してフォント名が記載されていない)状態であれば、問題のないデータです。
フォントが埋め込まれていないと、意図しないフォントへ変換されてしまい、印刷物のクオリティにも直結してしまうので、忘れずに確かめましょう。
セキュリティの確認
文書のセキュリティ状態を確認するには、フォントの確認と同じく左上部「メニュー」→文書のプロパティを選択し、「セキュリティ」タブをクリックします。
「文書のセキュリティ」項目の「セキュリティ方法」が「セキュリティなし」、「文書に関する制限の概要」がすべて「許可」と表示されていれば、OKです。
以上、文芸同人誌の印刷所として人気の「ちょ古っ都製本工房」様用、AdobeソフトからPDFを書き出すときの設定方法とその確認を記載いたしました。
文芸同人誌製作の一助になれれば幸いです。
文学フリマ京都9に出店します!
2025年1月19日に開催される文学フリマ京都9。このイベントに、サークル名「HS書架」として出店します。そしてこの記事に掲載した『ない魔女アンソロ』を、新作として出品します!
【文学フリマ京都9 出店!】
ブース:お-76
日時:1/19(日) 11:00〜開催
入場料:入場無料
場所:京都市勧業館「みやこめっせ」1F 第二展示場(Google Map)
当ブースや作品が少しでも気になった方は、WEBカタログの「気になる」ボタンをポチッと押してくださると励みになります!
また『ない魔女アンソロ』のお取り置きも受け付けていますので、HS書架のWEBサイトか、もしくはXでのDMでご連絡くださいませ。
WEBサイト
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