【第45回】事業再構築補助金交付規程と補助金適正化法のすれ違い
―補助金交付候補者制度が抱える法的問題と制度改革の必要性
事業再構築補助金をはじめとする各種補助金制度は、補助金等適正化法(昭和30年法律第179号)に準拠して運用されているはずです。
しかし、現行の「交付規程」や実際の審査運用の中には、この法律の趣旨に反する、あるいは逸脱していると見られる点が複数存在します。
今回は、交付規程と補助金等適正化法との条文対応関係を整理しつつ、法的保護の欠如や行政裁量の逸脱につながっている運用上の問題点を明らかにし、制度改革の必要性を訴えます。
■交付規程と補助金等適正化法の条文対応(抜粋)
■制度上の構造とその問題点
交付規程は、補助金等適正化法に基づき中小機構が定めた内部規範であり、法の趣旨を具体化するはずのものです。しかし、実際には補助金等適正化法で義務付けられている重要な手続きが規程内に明文化されていない、あるいは独自の地位やプロセスが創設されている点において、多くの法的矛盾が生じています。
👉指摘事項
(1)補適法第21条の2【理由の提示義務】との不整合
補適法第21条の2は、「交付の決定をしない場合や、交付の決定を取り消す場合には、その理由を記載した文書を交付しなければならない」と定めています。
しかし、交付規程ではこの趣旨に沿った明確な規定が存在せず、不採択や交付申請の却下、交付決定の取消しの場面においても事業者に理由を提示する義務が明記されていないという実務運用が常態化しています。結果、事業者は不服申立てや異議申請の根拠すら把握できず、法的保護を著しく欠いた状態に置かれています。
(2)補適法第25条【不服申立ての提示義務】の未整備
補助金等適正化法第25条では、補助金に関して処分または不作為があった場合には行政不服審査や行政訴訟による不服申立てが可能であることを明記しています。
ところが、事業再構築補助金交付規程にこの条文の趣旨が反映されている部分は見当たりません。特に問題なのは、「補助金交付候補者」とされた事業者が交付申請を却下された際に、どのような異議申立てが可能なのか、まったく示されていない点です。これにより、制度上保護されるべき権利行使のルートが事実上遮断されています。
(3)補助金交付候補者の法的根拠の欠如と裁量の逸脱
交付規程29頁では「補助金交付候補者」という用語が用いられていますが、これは補助金等適正化法にも行政手続法にも登場しない法的根拠なき制度上の創設です。
この「候補者」という地位にある事業者に対して、
補助対象外経費の指摘
事業期間の遅延見込み
既存事業との重複懸念
といった抽象的かつ予断的な理由で交付申請を却下または誘導的に辞退させる実務が行われており、補正の機会すら与えられないまま手続きから排除されているケースが多く見られます。
これは補適法第6条が求める調査義務・決定義務、行政手続法第8条の補正機会の付与、第13条の理由提示義務等に明確に違反する可能性があり、中小機構や委託事務局(例:パソナ)による裁量の逸脱・濫用にあたるおそれがあります。
■さらに問題を深める交付規程の「独自ルール」
交付規程には、補助金等適正化法に存在しないルールが多数追加されています。例えば以下のような項目です
このような条文の多くが、委託事務局による恣意的判断の余地を広げ、結果的に透明性と予測可能性を著しく低下させているのです。
■要望と提言
以下の点について、速やかな是正と制度改善を要望します:
補助金等適正化法第21条の2および第25条との整合性を確保した交付規程の改正
「補助金交付候補者」の法的定義、位置づけ、権利の明確化または制度の廃止
交付却下や申請辞退誘導時における補正の機会、理由提示、異議申立て制度の明記
補助金行政において最も大切なのは「予算の適正な執行」であると同時に、制度を利用する事業者の法的安定性と信頼性の確保です。そのためにも、交付規程と法制度の整合性が問われる今こそ、制度運用の抜本的見直しが求められています。


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