【第42回】なぜ中小機構は代理申請を認めないのか――行政書士の介入を認めると「行政手続」であると暗に認めるから
事業再構築補助金をめぐる申請業務の現場では、「補助金申請は本人による申請でなければならない」「代理申請は不可」といった通達が当たり前のように出されています。
しかし、この「代理申請NGルール」は、果たして本当に法的根拠があるのでしょうか?
そしてその背後にある制度上の構造的な問題とは何か――今回は、補助金制度の核心をなすこの問いに迫ります。
補助金申請は「行政手続」か?
まず前提として、補助金申請が「行政手続」に該当するのかどうかを考える必要があります。
行政手続法第2条第1項はこう定義しています。
「行政手続」とは、行政機関が行う許認可、届出その他の行為に係る手続をいう。
補助金の「交付決定」は、行政機関が裁量を持って行う給付行為であり、法的な地位や権利義務の有無を判断する点で、明らかに行政処分の一形態に該当します。
したがって、「それに向けた申請行為」もまた行政手続の一環とみなされて当然です。
行政書士法が適用されるなら、代理申請は行政書士の独占業務
ここで問題になるのが、行政書士法との関係です。
行政書士法第1条の2では、こう定められています。
報酬を得て、官公署に提出する書類の作成または提出手続を代理する行為は、行政書士の独占業務である。
つまり、補助金申請が行政手続であるならば、報酬を受けて申請代理を行う行為は行政書士しかできないということになります。
これは、中小企業診断士や経営コンサルタントが行う「代行申請」行為の一部が、法的にグレーゾーンまたは違法とされる可能性があるということを意味します。
中小機構の“代理申請NG”の本当の理由とは?
中小機構や事務局が、「本人申請のみ可」「代理申請不可」と主張する背景には、申請行為を行政手続と明確に認めたくないという意図が見え隠れしています。
もし行政手続であると認めてしまえば、次のような義務が行政側に発生します。
行政書士法の適用(=申請を行える者の資格制限)
行政手続法の適用(=理由提示義務、弁明機会の付与)
行政処分性の認定(=不服審査・取消訴訟の対象)
つまり、「代理NG」は、制度上の処分性や手続保障から逃れるための予防線として使われてきたとも言えるのです。
【重大情報】実は中小企業庁も“行政手続”であることを認めていた
ところが、ここに来てこの前提が崩れました。
日本行政書士会連合会が2024年に中小企業庁に対して正式な照会を行い、補助金申請が行政書士の業務対象であるかを確認した結果――
中小企業庁は「行政書士による補助金代理申請を認める」と正式に回答していたのです。
この事実は、茨城県行政書士会が公表した声明【PDF】でも明記されています。
👉 参考資料(外部リンク・PDF)
つまり、中小企業庁自身が**「補助金申請は行政書士の業務対象=行政手続である」ことを認めた**という決定的な証拠です。
これは、制度設計の建前「本人申請原則である私法上の裁量権」と、法的な実体「行政処分を伴う行政手続」の矛盾を完全に露呈するものです。
制度の二重基準こそが、申請者の権利を侵害している
補助金申請を「行政手続ではない」「契約の一部」「事務局運用」と言い張ってきた中小機構。
一方で、行政書士の照会には「行政手続ですから行政書士業務として代理申請OKです」と答える。
これはまさにダブルスタンダードであり、都合の良いように行政法と私法の境界を使い分けているにすぎません。
しかも、実際には補助金の「交付取消」「申請打ち切り」といった明らかな処分を下しているにもかかわらず、それを「行政処分ではない」と主張し、理由説明や救済手続を避けている。
こんな不透明な制度運用で、誰が安心して申請できるというのでしょうか?
終わりに:この制度、そろそろ本気で見直す時では?
補助金は国民の税金を使った支援制度であり、法の支配の下に置かれるべきものです。
それを、行政でも民間でもない“どっちつかず”の位置に置きながら、「代理不可」「裁量だから説明義務なし」としてきた運用こそが、制度への信頼を損なっているのです。
中小機構と事務局が、正式に「補助金申請は行政手続である」と認めた今こそ、申請者・支援者に対しても行政法上の正当な手続保障を与えるべきです。


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