【特別編】新事業進出補助金交付規程の補適法との問題点をチェックしてみた
ー法と規程の照合から中小機構は事業再構築補助金の「反省」をしたのか?
◆ はじめに
今後多くの事業者の利用が期待される「中小企業新事業進出補助金」。その運用ルールを定めるのが「交付規程」ですが、この交付規程は上位法である「補助金等適正化法(補助金適正化法)」をどこまで忠実に反映しているのでしょうか?
これまで、事業再構築補助金が補助金適正化法に準じた運用をされていないために、行政庁の恣意的な運用をさせていた点で今日までのトラブルが発生しており、これらのトラブルを未然に防ぐためにも中小機構は新補助金で「反省」「改善」をしているのかを紐解きます。
◆ 補助金等適正化法とは何か?
あらためて説明すると、補助金等適正化法は、補助金の交付・管理・返還等における国のガバナンスと適正な運用を目的に制定された法律です。
この法律は、補助金の不正利用や不適正執行を防ぐため、
交付の基準
帳簿保存義務
返還・減額命令
不正時の罰則
などを体系的に定めています。
これを具体化したものが各補助金制度ごとの「交付規程」ですが、実際にはどこまで法をカバーできているのでしょうか。
◆法と規程の対照表
◆ 規程と法の条文を“対照”してみる
多くの条文は、法と規程で共通して定められています。たとえば、
交付決定・申請手続
事業完了・実績報告
返還命令や帳簿保存義務
不正時の制裁
などは、交付規程にもほぼ明記されています。
一方、実務現場で「これ、本当に法の趣旨が守られているの?」と感じる“空白地帯”も存在します。
◆ 問題点①:「理由の提示義務」の条文がない
補助金等適正化法第21条の2は、補助金の返還命令などの「交付の取消・是正命令などを下す場合、その理由を明示しなければならない」**としています。
ところが、交付規程には「理由を明示する」義務条文が明記されていません。
現場運用では事務局から理由説明がなされるケースもありますが、明文規定がない以上、「十分な説明がなかった」「一方的に処分された」との争いが発生する余地があります。
◆ 問題点②:「行政手続法の適用除外」の拡大解釈
補助金等適正化法第24条の2は、行政手続法の適用除外について説明しています。しかし、あくまでも第二章 申請に対する処分と第三章 不利益処分に関する項目を除外するとしたのみで、補適法の他の条文にある内容を踏まえて適切に対応すればいいとしているだけのことです。そのため、
あらかじめその理由を示し
弁明の機会を与える
ことは、行政手続きである補助金申請においては行政手続法の適用がされる可能性が高いです。しかし、交付規程には「弁明機会」や「不利益処分の手続」の条項がなく、実質的に法の要求が規程上担保されていません。
これは行政処分を争う際の「瑕疵(違法性)」主張の根拠となる恐れがあります。
◆ 「帳簿保存・証拠調査・罰則」など他の主要規定は反映されている
帳簿保存(法25条)、不正受給時の告発・罰則(法26条等)などについては、交付規程でもしっかり明記されています。
また、返還命令や検査義務についても、実務運用・制度設計として十分な反映がなされています。
◆ 法の要求>規程の現実:リスクはどこに?
このように、制度運用の現場では「規程に明文がない」ために、本来法で保障された手続が“おざなり”にされるリスクが潜んでいます。
もし、
補助金の返還命令がなされた
その理由が十分に説明されなかった
弁明の機会が与えられなかった
という場合、行政側の手続違反・瑕疵を理由とした不服申立てや取消訴訟の根拠となり得ます。
◆ 実務者・申請者が注意すべきポイント
交付規程の条文だけを頼りにせず、「上位法(補助金等適正化法)」の要件を常に意識する
返還命令等の処分を受けた場合、「理由説明」「弁明の機会」の有無を確認する
トラブル発生時は、法21条・24条の2の趣旨を主張材料とする
◆ おわりに ー本当の“適正”な補助金運営のために
交付規程は各補助金制度の“マニュアル”ですが、その根幹には補助金等適正化法という「大憲章」が存在します。
特に理由提示や弁明機会は、制度を健全に運営し、不当な行政処分から事業者を守るための最低限のルールです。
しかしながら、残念なことに今回の規程も中小機構は再構築補助金の物をそのままコピペ。
今回も民間企業が審査にあたることから、採択後から大きなトラブルが起こりうるかもしれません。
制度設計者・運用者・申請者すべてが、法と規程の“すき間”を意識し、正しく主張できる力を持つことが、より健全な補助金行政の第一歩になるはずです。
本記事は現場実務・法制度比較に基づき執筆しています。引用・転載歓迎/ご意見・体験談もぜひコメントでお寄せください!


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