大村市の同性カップル住民票、地方から全国に波及「風穴開けた」
今年5月、長崎県大村市内の同性カップルに対して、続き柄欄に「夫(未届)」と記載した住民票が交付された。これまで男女間の事実婚として利用されていた表記を、同性カップルにも適用したもので、市の判断や国の対応などが注目された。
当時、パートナーの藤山裕太郎さん(39)と一緒に実名で記者会見を開いた松浦慶太さん(39)は、「地方自治体の判断が同性婚の議論に風穴をあけた」と振り返る。
「地方は保守的とされ、性的少数者として住むことに抵抗感もあったが、パートナーの親戚や地域の人とも仲良くさせてもらい、移住してきて良かった」という。
園田裕史市長は、住民票を交付した窓口の職員の判断を「市民に寄り添った対応」と評価する。総務省から再考を求められても、自治体の裁量の範囲内だとして、「修正する考えはない」という方針だ。
大村市の事例が注目され、同様の対応をとる自治体は、神奈川県横須賀市や栃木県鹿沼市、愛知県犬山市など全国に広がる。11月から東京都世田谷区と中野区も始めた。総務省によると、導入自治体は大村市も含めて計11自治体になる。
記者は2020年、札幌で働いていたとき、同性婚を認めない規定は憲法違反だとして国を訴えた訴訟で、原告の同性カップルを取材した。
資金を出し合ってマンションを購入し、親戚付き合いをするなど異性カップルと同じ生活をする一方、社会保険で扶養に入れない、病院でパートナーの手術の同意書にサインできないなどの悩みを聞いた。
あれから4年。同様の訴訟は全国に広がり、今年12月には九州の同性カップル3組6人が国を訴えた訴訟の控訴審で、福岡高裁は「幸福追求権」を保障する憲法13条など3条項に照らし「違憲」とする判断を出した。
性的少数者への理解は、少しずつ社会に広がっている。大村市の取り組みも、そのひとつだ。
長崎県内で性的少数者を支援する活動に取り組む団体「Take it!虹」の代表、儀間由里香さん(35)は「東京でなく、地方で先進的な取り組みが始まったことに意味がある」と語る。
地方にも性的少数者が暮らし、地方ならではの課題を抱えている。「地方からの問題提起の積み重ねが、国を動かすことにつながる」と期待する。