世界最速に“元”がつくまで


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作:ラッパとピエロ
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『仮面』と書いて、『ペルソナ』と読む


 一応言っておくと、ペルソナシリーズとは関係はありません。


 

 

 迷宮(ダンジョン)に、何者かが走る音が響く。

 

「はあっ……はあっ……」

 

 彼女は、追われていた。後ろから迫り来るモンスターの群れによって。

 

 上層、そこは迷宮(ダンジョン)に潜った冒険者が初めに訪れる場所であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 というのも、新米冒険者たちが夢を見て迷宮(ダンジョン)に挑んだはいいものの、油断や慢心から事故に陥ってしまうケースが多いというのが主な原因だからだ。

 

「どんだけ……いるのよ!?」

 

 ここにいる彼女もまた、英雄に憧れて迷宮(ダンジョン)へと進んだ冒険者の一人である。

 

 だが、潜っている最中、一度モンスターに隙を突かれると、パーティーは崩壊。仲間たちは彼女を置いて一目散に逃げ出していってしまった。

 

 置いて行かれた彼女はモンスターのヘイトを受け付けると、生存本能に従ってなんとか逃走しようとする。モンスターを引き連れて迷宮(ダンジョン)内を逃げる冒険者の姿はここでは珍しくない。運が良ければ他の冒険者に助けられることもあるが、不幸にもこの階層には他の冒険者は見えない。

 

 助けなど、どこにも無さそうだ。

 

「………っ! ヤバっ……!!」

 

 そんな彼女の目の前に、追い討ちのように新たなモンスターという試練が立ち塞がる。

 

 回避しようと思っても、後ろにもモンスターが待ち構えているとなれば引き返すわけにもいかない。こうなると、もはやどうしようもない。

 

「い………いや………」

 

 ゴブリンにコボルト、果てはオークまで、たった一人の冒険者を追うためとは思えない程の数のモンスターが並んでいた。一対一ではどうにかなる相手でも、これほどの量では蹂躙されるのがオチだ。

 

 彼女は膝から崩れ落ちると、自らの終わりを悟る。そして、現実もまた知ることとなった。

 

「あ………」

 

 オークの巨腕から振り下ろされる棍棒。それは、自分が英雄ではないことをどうしようもないほどに示してしまっていた。かつて描いた情景は、夢物語でしかなかったのだと。

 

 そして、今頭に浮かんだ景色は、故郷の景色や両親の顔だった。

 

 死とは程遠いあの景色が、飽き飽きとしていたはずの光景が、今では恋しく思えてくる。

 

「……私、死にたくな―――」

 

 自覚した瞬間、既に眼前には死が近づいていた。

 

 ただの木の棒、されど命を刈り取る凶器。神々ももはや見飽きたであろう悲劇。名も知らぬ冒険者の一生は、誰にも知られず、ひっそりと終わる―――――

 

 

「黒き大穴よ、運命(さだめ)さえも捻じ曲げろ」

 

 

 ……かに、思われた。

 

「【シュワルツ・シルト】」

 

 棍棒が顔面に直撃する寸前、空中でオークの腕は静止していた。否、むしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、振り上がった腕の勢いは止まることなく、腕の作りや関節さえも無視して半回転する。普通はありえない位置に、形に、オークの腕は曲がってしまっていた。

 

 オークの力さえも軽々しく超えるほどの引力、それを発生させたのは、とある『黒』だった。

 

「……………え?」

 

 片腕が完全に使い物にならなくなり、痛みから叫ぶ出すオークを見て、彼女は困惑する。

 

「立て。さっさと逃げるぞ」

 

「えっ、あっ、ちょっ……!!」

 

 次の瞬間、声がしたかと思えば、強い力で肩を引っ張られていた。立ちすくんでいた足は、モンスターたちの大群へと向かって流れのままに動き出していく。

 

 助かったと思ったのも束の間、自ら死地へと赴くその行為に理解が追いつかない。そんな自殺行為の意味を知るのは、一度瞬きをしてからだった。

 

「退け」

 

 刹那―――先に広がるゴブリンやらの頭に、鋭利なナイフが一本ずつ突き刺さる。

 

 飛ぶ瞬間さえ見せず、音速を超えて放たれたナイフは、その一撃で遍くモンスターたちを殲滅していく。無駄など一つもないその絶技に、彼女は思わず息を呑む。

 

 こんな芸当が出来る人物とは―――そう不思議に思った彼女は、自分の肩を掴んでいる手の先に映る人物の正体を垣間見ようとする。

 

 

「…………仮面?」

 

 

 そこで彼女が目にしたのは、仮面の少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……本当に、ありがとうございました! 命を助けられたお礼に何かさせてください!!」

 

 ダンジョンから無事に脱出したのち、一息ついた彼女が吐いた一言目がそれだった。相手が正体不明の仮面の少年だとしても、命を救われたことに変わりはない。恩義を感じるのは当然のことだろう。

 

「……………」

 

「………え、あ、あの、聞こえてますか?」

 

 しかし、少年は沈黙をもって応える。仮面をつけて表情が見えないので、言葉が届いているのかすらも分からない。一瞬の沈黙が、場を支配する。

 

「……………」

 

「本当になんでも……………って、え!? き、消えた!? ちょ、どこに行ったんですかー!?」

 

 次の瞬間、彼女の視界から少年の姿が消える。周りを見渡しても、あたりには普通の冒険者たちの姿しかない。一瞬にしていなくなった少年に対して、まるで幻でも見ていたかのような感覚を覚える。

 

 あまりにすぐのことで、彼女は思わず動揺する。

 

 その様子が目立ったのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()、周りの冒険者たちは彼女を見つめて、呆れたような顔を浮かべる。

 

「………おい、嬢ちゃん。もしかして【仮面(ペルソナ)】の野郎に助けられた口かい?」

 

「えっ……? な、なんです……? ぺ、【仮面(ペルソナ)】?」

 

 大きな体つきの歴戦の冒険者といった様子の男が、困惑する彼女へと語りかける。聞き慣れない言葉を聞いた彼女は、それが何を指すのか分からずに聞き返してしまう。

 

「あいつの二つ名だよ。ったく……第一級冒険者のくせに、どうして上層に入り浸って人助けなんかするんだか……」

 

「え、ええと……あの……彼、【仮面(ペルソナ)】……というのはオラリオで有名なんですか? 私、ここに来てからすぐで……よく知らないんですけど」

 

「ああ? そりゃお前、オラリオでは【猛者(オッタル)】や【勇者(フィン)】くらいには名が通ってんだよ。……けど、知られてるのは、【世界最速(レコードホルダー)】の称号と【仮面(ペルソナ)】っつー二つ名だけだけどな。その素顔も本名はギルドですら知らねーって話だ」

 

「【世界最速(レコードホルダー)】…………」

 

 彼女はますます疑問を深める。そこまで名の知れた、さらには【世界最速(レコードホルダー)]という肩書きさえ持った人物が、どうして自分なんかを助けたのか。

 

 顔や名前すら分からぬ謎の人物は、その行動原理までもが不明だときた。それを受けて、彼女はその冒険者のことを訊かずにはいられなかった。

 

「でも……彼は、私と同い年くらいにも見えました。それなのに、そこまでの実績を?」

 

「俺も最初は小人族(パルゥム)なんじゃねえか、って疑った。だが、違った。オッタル以上のペースで、あいつは駆け抜けてったんだ。冒険者になってから三年とちょっとで、今やLv.6だ。まったく、“才能”ってのは恐ろしいな」

 

 冒険者の大半はLv.1、そして第一級冒険者となるとその数は極端に減る。Lv.2になるまでに一年であれば天才だと言われる冒険者の世界では、()()()()()で第一級冒険者に肩を並べることの難しさなんて、語らずとも分かるだろう。

 

 しかも、仮に見た目通りの年齢だとしたら、それを成し遂げたのはただの少年だということになる。現都市最強の称号を持つオッタルも17歳にはLv.5に至っていたと考えると、その少年の行く末とは―――

 

「ただ……」

 

「………?」

 

「そんな天才様もLv.6になってからか、最近はめっきり落ち着いちまった。……いや、そうなったのは、例の『大抗争』が起こってからだったか。とにかく、今じゃ上層で死にかける初心者を助ける役目なんてやってやがる。それで現に助けられたやつの前で言うのもなんだが……それじゃ、宝の持ち腐れってもんだ」

 

 男が言うには、少年は何かをきっかけにその歩みを止めてしまったらしい。その原因の可能性がある、『大抗争』という単語には彼女も耳覚えがあったようだ。なんとか、記憶の中の情報を引き摺り出そうとする。

 

「大抗争って……闇派閥(イヴィルス)が起こした、あの?」

 

「…………それが起こってから、無意識に忘れられるほど日は経ってねえ。ここじゃ、俺もそれについて語りはしねえよ」

 

 人が忘れるには時は経っていなく、あまりに衝撃が強すぎた事件。解決したはいいものの、日常に大きく禍根を残したそれは、男も例外ではなく、彼の口からは語ることさえ憚られた。

 

 その反応を受けて、彼女も唇を少し噛む。耳にした程度ではあるが、その被害は凄まじいものだったと記憶していたからだ。

 

「………そう、ですよね。いえ、勉強になりました。ありがとうございました」

 

「……ああ。んじゃあな、ダンジョンには気をつけろよ。また仮面(ペルソナ)の野郎に助けられないようにな」

 

 彼女は、見た目とは裏腹に、思ったよりも親切であった男に頭を下げる。

 

 背を向けて去っていく冒険者の姿を見て、彼女が想うのは――――

 

 

 

 

 

 

 

「まーた上層に潜って人助けかい。結構なことだが、いい加減私の手伝いをする気はないのかい? 我が眷属、()()()()()よ」

 

「手伝い……? 楽器でも吹いて、手品をする道化師(マジシャン)の手伝いをですか?」

 

 最低限の住むための環境を残した、いわゆるボロアパートの一室で、女神は待ち構えていた。

今日こそは生意気な眷属に言うことを聞かせようと、いつもの態度を隠して、今日ばかりは鬼になろうと試みる。

 

 帰ってくるなり、一言目に苦言を浴びたことで、少年は仮面の下で面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「ああそうさ。大体、私は喜劇の女神だってのに、眷属ときたらいつもダンジョンばっかりじゃあないか。少しくらいは主神を慮ったらどうなんだ!? いっつも一人寂しく路上で道化を演じる神の気にもなりたまえよ!」

 

「でも金稼いできてるのは僕じゃないですか。一銭にもならない芸なんてやって、何が楽しいんですか?」

 

「ぐ……ぐぬぬ……このガキャア……スマイルはプライスレスなんだぞ……お金よりももっと大切なんだぞ……!!」

 

 そんな神の要望を跳ね除けながら、オプファーと呼ばれる少年は仮面を外す。

 

 オプファーが着けていた仮面を横目に、その女神は声高らかに、まるで演劇でもしているような迫力でこう続ける。

 

「私は悲しいよ! 眷属が冒険者になりたいなんて言うから、せっかく認識阻害の仮面まで手に入れてあげたのに! その結果がこれだなんて! 嗚呼、なんて悲しい物語!」

 

「はあ」

 

「だが、それでも愛してやろう! なぜならば眷属は、我が最初にして最後の眷属、女神タレイアにとって唯一無二の存在なのだから!!!」

 

 結局はこうなるのか、と眷属は呆れる。彼の主神は、どんなに彼に厳しくしようとしても、最終的には自分で勝手に赦してしまうのがお決まりなのだ。

 

 どこまでが本心で、どこからが演技なのかが分からないのが、喜劇の女神タレイアの性質でもある。ただ、唯一はっきりしているのは、彼女はたった一人の眷属を愛している、ということだった。

 

 毎回聞いてしまって、もはや聞き飽きた様子の眷属は、愛の告白にまったく動じずにテーブルにつく。

 

「それじゃ、ご飯にしましょうか。今日はいいのが手に入ったんですよ」

 

「やったー! ……って、ジャガ丸くんじゃないか!? これで三日連続だぞ!?」

 

「仕方ないじゃないですか、タレイア様が手品道具にお金使っちゃうんだから」

 

「笑顔のためだからしょうがないねっ!!」

 

 ………こうして、きょうも【仮面(ペルソナ)】と呼ばれる冒険者の一日は過ぎてゆく。

 

 

 

 

 ――――これは、回想と再帰の物語。

 

 彼は何を得て、何を失って、生きているのか。

 

 そして、これから先の未来をほんの少し綴っていく。

 

 喜劇の女神がいつか思い出すであろう、一人の眷属の物語だ。

 

 

 





 オプファー <Lv.6>

 タレイア・ファミリア唯一の団員にして団長、冒険者になってから僅か三年強でLv.6まで辿り着く。実際は、Lv.2になるまでに一年半かかっているので、その成長度合いは指数関数的に向上している。

 二つ名でもある【仮面(ペルソナ)】は、彼がいつも着けている仮面から名付けられた。本人も初見の相手には基本無口かつ、ギルドも彼について特に言及することはないため、冒険者の間ではその正体について度々議論が起こる。

 実際はただのコミュ症では、という声もごく僅かに上がるが真偽は定かではない。

 詳しいステイタスはまた今度。

 



 

 
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