2025年は、海洋博公園にとって大きな喜びの節目だ。同公園で活躍するミナミバンドウイルカのメス「オキちゃん」と同種オス「ムク」が5月で飼育50年。また、同公園の沖縄美ら海水族館のシンボル、ジンベエザメの「ジンタ」も3月に飼育30年を迎えた。それぞれのこれまでの歩みを紹介する。
【企画制作 琉球新報社統合広告事業局】
【INDEX】
▶沖縄美ら海水族館 佐藤圭一館長より
・知見の蓄積 社会に生かす
▶オキちゃん・ムク飼育50年
・寄り添う飼育 レジェンドの秘訣
・ショー構成 動物福祉を第一に
・来場客右肩上がり
・オキちゃん命名者「 元気な姿いつまでも」
▶ジンタ飼育30年
・世界初 成熟過程解明に光
・4.6m→8.8m 30年で約2倍に成長
・「目からウロコ」の研究成果
「知見の蓄積 社会に生かす」
沖縄美ら海水族館館長 佐藤圭一
水族館の役割は、時代とともに変化し、近年では希少種の保全センターとしての役割が高まっている。前身の国営沖縄記念公園水族館の時代から、飼育で得た知見を公表し後世の研究に役立てることをポリシーとしてきた。開館当初から大型動物の保全研究の役割を担ってきたパイオニアと言える。
ミナミバンドウイルカのオキちゃんやジンベエザメのジンタは、それぞれの種の飼育における世界最長記録を塗り替えている。誰も経験したことのない未知の領域で、マニュアルがなく、エコーでの健康診断や血液検査、イルカの人工尾びれやサメの人工子宮開発にも手探りで挑戦してきた。マンタの繁殖に成功した水族館も世界でここだけだ。
研究者や飼育員の好奇心の源となっているのが、生物多様性に恵まれた沖縄の海だ。3千種いると推定される沖縄の魚類のうち、当水族館では約780種を展示する。東京や大阪でこの規模の水槽を全て地域の生物だけで埋めることは難しい。
常に知見をアップデートし、何度来ても面白い水族館にするのが私たちのミッション。いまだ満足する域には達していないが、飼育種を増やすことはもちろん、繁殖の技術を確立し、生き物の世代を水族館で繰り返せたら生物の保全にも役立つ。そのほか観光や経済だけでなく、社会貢献や人材育成で重要な役割を果たす施設であり続けたい。(談)
寄り添う飼育 レジェンドの秘訣
海洋博公園で活躍するミナミバンドウイルカの「オキちゃん」と同種「ムク」。2頭は世界最長飼育記録を更新しながら、今も訪れた来場客を楽しませている。長年現役の「秘訣」には飼育員の工夫やイルカに寄り添った飼育方法がある。
1975年、「海―その望ましい未来」をテーマに沖縄の日本復帰を記念して開かれた沖縄国際海洋博覧会(海洋博)で展示するため、鹿児島県の奄美大島から15頭のイルカがヘリコプターに乗って沖縄に到着した。背びれには個体識別用のタグが付けられ、「クロ」や「ムク」と名付けられた。その中でも物覚えや技のキレが良かったのが「白緑(シロミドリ)」。イルカショーでエースに抜擢され、後に海洋博のマスコット「オキ」の名を引き継いだ。
実は「初代です」
「何代目ですか」。同公園のスタッフらはオキちゃんに関して同じ質問を何度も受ける。正解は初代。50年間大病をせず、劇場名を背負うスターとして出演し続ける現役のレジェンドだ。水族館管理センター海獣課の古網雅也課長補佐は「体調を崩したところを見た記憶がない。これまでもこれからも彼女がこの水族館の主人公だ」と語る。
同課マナティー係の真壁正江係長はこれまでイルカ飼育係を約20年務めた。「技を覚えるのも早く、真面目で安定感がある」とオキちゃんを頼りにする。
ダイバーと水中で演技を披露するショーで活躍してきたムクについて「オキちゃんと同じく水族館を代表する存在。感動を与え続けている」と功績をたたえる。現在は人なつっこいコミュニケーション能力を生かし、体験プログラムなどで活躍している。
ショー構成 動物福祉を第一に
出演判断委ねる
オキちゃん劇場では、ショーをする水槽と生活空間の水槽の間に柵を設けず、ショーに参加するかどうかはイルカに任せている。ショーの合間でも行き来できるようになっており、途中で帰ることもある。アニマルウェルフェア(動物福祉)に十分配慮したショーへの取り組みだ。また、イルカのコンディションに合わせ構成も変えている。
ショーの開催はイルカの健康状態の維持やトレーナーとのコミュニケーションにもつながる。コロナ禍による休演が余儀なくされた2020年は、食欲がなくなり体調を崩すイルカもいた。海獣課イルカ係の比嘉克係長は「世界的にイルカショーに対する賛否はある。イルカの健康を第一に考え、適切な運動を行うよう努めている」とし、今後の活躍を祈っている。
沖縄美ら海水族館の日々のイルカの世話は体温測定など健康状態の把握から始まる。平均体温は人間と近い35~36度台で、異常が見られるとより詳細な検査を実施する。このほか、食べる餌の量や目つき、体表の傷などが健康状態のバロメーターとなる。
繁殖で国内記録
定期健診として月に1度、血液検査をしており、その都度保存した血清(血漿)は約20年分になる。長期的なイルカの生態観察につながっている。附属動物病院の植田啓一院長は「イルカを未来へつなぐための貴重なデータとなっている」と振り返る。
こうした調査や研究、長年のデータはミナミバンドウイルカの血中性ステロイドホルモンの長期モニタリングやミナミバンドウイルカの性ホルモン濃度など飼育だけではなく野生個体の保全活動にもつながっている。 このほか、繁殖生態の解明にも寄与している。ミナミバンドウイルカは飼育例が少なく繁殖について知見は乏しかった。オキちゃんはこれまで計13回の妊娠で、1999年に出産した「サミ」の繁殖に成功した。国内で初めての記録となっている。
沖縄県民の宝物
飼育員を含め海洋博公園で「最長老」のオキちゃんとムク。飼育を担当するトレーナーは何度も変わってきたが、どの担当者も「優しい優等生」「コミュニケーション能力が高い」などと口をそろえるという。植田院長は元気な状態で50年を迎えられることに驚きつつ「オキやムクが飼育されているミナミバンドウイルカの寿命を更新し続けている」と強調。「おじいちゃんからひ孫までの4世代が知っている存在。今でも現役で県民に愛されている。県民の宝だ」と、末永い健康を願う。
来場客右肩上がり
沖縄観光・北部振興に寄与
海洋博公園や沖縄美ら海水族館への来場客は県内の入域観光客数の増加とともに右肩上がりだ。
沖縄の日本復帰記念事業の国際海洋博覧会が開催された1975年の入域客数は156万人で、開催期間中は349万人が来場した。そのうち270万人がオキちゃんのいる水族館を訪れた。県内外から多くの来場者を呼んでいる。
2018年には累計入園者数は1億人を突破。24年度には水族館の累計入館者数が6000万人を達成した。県外の水族館など類似施設に比べても入館者数は多く、県内の観光振興や北部振興を担っている。これまで、オキちゃん劇場には累計でおよそ5千万人が訪れている。
オキちゃん命名者「元気な姿いつまでも」
「オキちゃん」命名 比嘉さん(61)那覇市
名前は年の近い親戚たちと集まって考え、それぞれの案をはがきに書いて応募しました。沖縄の「オキ」をとって「オキちゃん」と名付けました。まさか当選するとは思っていませんでしたが、学校から帰ると、当選を知って驚いた両親から報告されたことを今でも覚えています。
あれから50年が経ち、オキちゃんが今でも現役で活躍していることをとてもうれしく思います。トレーナーさんたちや沖縄美ら海水族館の関係者のみなさんのおかげです。
今では私の孫を連れてショーを見に行くこともあり、オキちゃんにはいつまでも健康で、お客さんたちに元気な姿を見せてほしい。
世界初 成熟過程解明に光
長期飼育 発見の連続
沖縄美ら海水族館(本部町)で絶大な人気を誇るオスのジンベエザメ、「ジンタ」。飼育歴30年と、ジンベエザメで世界最長記録を持つレジェンドだ。ダイナミックな動きで来館者を魅了するだけでなく、ジンベエザメの生態を解明する上でも貴重な存在。同水族館はこれまでに蓄積した技術やデータを生かし、サメの繁殖という前人未到の領域に挑もうとしている。
ゆったり泳ぐジンタに飼育員が寄り添い、エコーや採血を行う。開館前の沖縄美ら海水族館ではおなじみの光景だ。健康状態や血中ホルモンの変化を記録するのが目的で、当初は網の中で行っていたが、経験を重ね、泳ぎながら検査する方法に行き着いた。総合研究所動物研究室の松本瑠偉室長は「30年間、試行錯誤を重ねたからこそ、他にはない健康管理の技術を確立できた」と振り返る。
二次性徴27歳頃
詳細な記録からはジンベエザメの成熟過程も明らかになってきた。2011年から12年にかけて、ジンタの男性ホルモン濃度が上昇。生殖器も急激に大きくなった。
「ジンベエザメの成熟過程はこれまで分かっていなかったが、ジンタの観察により、ジンベエザメが27歳前後で二次性徴することが世界で初めて実証された」
メス1個体も同じ水槽で飼育していたが、ジンタが胸びれにかみついたり、激しく追い回したりする行動をとったため、やむなく水槽を移した。「野生のジンベエザメはオスとメスが一緒に回遊しないため、離して飼育した方が行動が安定する」ことも分かった。ジンベエザメの繁殖行動は知られておらず、長年飼育しているからこその成果だった。
ガラパゴス調査
ジンベエザメのオス以上に謎が多いのがメスの生態だ。陸地に近づかずに回遊するため、人目につくところにはいない。
そのため松本室長は、メスが多く集まると言われるエクアドル領のガラパゴス諸島まで足を運び、野外調査を実施。水族館で培った技術を生かして、エコーでの妊娠検査や採血に取り組んだ。データ解析は道半ばだが、生態の解明へ確かな手応えを得た。
前人未到の挑戦
今後見据えるのが繁殖だ。メスはオスより成長が遅く、全長も1.5倍程度と大きくなるため、現在は水族館近くの海上にある専用のいけすでメス1個体を飼育している。今後メスの成熟を待って、ジンタとの人工授精に挑む考えだ。
「繁殖は次の世代の仕事になるかもしれないが、データや技術をつないでいきたい。ジンタが元気に生き続けてくれることが、われわれにとっての大きな楽しみだ」
4.6m→8.8m 約30年で約2倍に成長
現場の創意工夫が結実
ジンタが沖縄美ら海水族館にやってきたのは1995年。沖縄美ら島財団動物研究室の松本瑠偉室長は「まだ全長4.6メートルの赤ちゃん。お客さまにジンタのことを知ってもらうために等身大のパネルを作った」と当時を振り返る。10歳程度だが、ジンベエザメとしては幼魚の年齢だった。多くの人に歓迎され、瞬く間に水族館のスターとなった。
「定置網にジンベエが入った」。ジンタの飼育当初を知る戸田実さんがジンベエザメが混獲された報告を初めて受けたのは1979年。前身の水族館で、ジンタの先輩となるジンベエザメが初めて来た頃のことだ。当初はジンベエザメは一般に知られておらず、飼育方法はおろか、海からの輸送も知見がなかった。このサメは残念ながら長くは生きられなかったが、解剖した結果、胃の中はプランクトンで満たされていた。
その後も水族館ではジンベエザメの飼育が試験的に行われた。飼育マニュアルがない中、エサの調達やストレスの少ない環境作りなどの工夫を重ね、大型のプランクトン食魚類も水族館で飼育できることが徐々に分かってきた。「世界的にもジンベエザメの飼育成功が知られ、多くの関係者が視察に訪れた。」ノウハウは海遊館(大阪)やジョージア水族館(米国)など他の水族館にも引き継がれた。
沖縄美ら海水族館の飼育技術が結実したのが、ジンタの成長だ。「エサをよく食べ、ほかのサメとは違う健康優良児」と戸田さんは温かなまなざしを送る。性格は穏やかで、大きな病気もしない。現在は全長が8.8メートルと、飼育30年で当初の2倍近い大きさに成長した。水族館としてここまで大きな魚の長期飼育記録は世界的にも珍しく、ジンベエザメの成長を知る上で貴重な手がかりを与えてくれる。
水族館最大の魅力の一つが「黒潮の海」で見られるジンタの立ち泳ぎだ。エサを食べる際に空気を吸い込むことで頭が持ち上がり、立っているように見える。こうした「垂直給餌」が見られるのも深さ10メートルの水槽を持つ沖縄美ら海水族館ならでは。天を仰いで垂直に泳ぐジンタの姿は神秘的で、いつの時代も多くの人を引きつけてやまない。
「目からウロコ」の研究成果
Q.まぶたがないのにどう目を守る?
A.白目にウロコ 眼球が奥に引っ込む
ジンベエザメにまぶたがないことをご存じだろうか。「まぶたのないジンベエザメはどうやって目を守っているのか」というユニークな研究に取り組んだのが、サメ博士こと総合研究所動物研究室の冨田武照主査研究員だ。
ジンベエザメは体の大きさに比べて目が小さいため、視力が弱いという説もある。しかし冨田研究員は、飼育員と話すうち水族館のガラスにぶつからずに泳ぐジンベエザメにとって「視力はとても重要だ」と確信するようになった。まぶたがなくても、サメにとって重要な目を保護する特別な仕組みがあるのではないか―。
研究目的で保管されていた標本をじっくり眺めていると、興味深いことが分かった。なんと白目に、3千個もの「ウロコ」があったのだ。同様の特徴はほかの脊椎動物にはなく、まさに〝目からウロコ〟の発見。飼育員の観察では、刺激を受けるとテニスボール大の目を奥に引っ込めることも分かった。
冨田研究員はこうした研究成果を論文にして発表。世界から注目を浴びた。「生き物のことを世界一知っているのが飼育員。日頃の情報を拾い上げて学術的に世に出すのが私たち研究者の使命だ」と心得る。
沖縄美ら海水族館
開館時間 8:30~18:30(入館締切 17:30)
延長期間 2025年4月26日~5月6日 8:30~20:00(入館締切 19:00)
※他の延長期間や、休館日については公式HPをご確認ください。
沖縄県国頭郡本部町石川424番地 国営沖縄記念公園(海洋博公園)内
TEL:0980-48-3748