<社説>泊再稼働審査「合格」 原発の安全性懸念尽きぬ

 原子力規制委員会はきのう、後志管内泊村にある北海道電力泊原発3号機について、再稼働の前提となる安全対策が新規制基準に適合しているとの審査書案を了承した。
 11年9カ月に及ぶ過去最長の審査で、事実上の合格となる。北電は2027年の早い時期の再稼働を目指すとしている。
 泊3号機の再稼働を巡る局面は大きく変わった。今後は鈴木直道知事や地元自治体の判断が最大の焦点になる。
 東京電力福島第1原発の事故で、原発の安全神話は崩壊した。過酷事故が起これば道民の生命を危険にさらし、1次産業と観光に立脚する北海道は致命的な打撃を受けかねない。
 新規制基準は原発を運転するのに最低限必要な条件や設備について定めているに過ぎない。規制委の山中伸介委員長はきのうの審査会合後の記者会見で、新規制基準に適合していることが「100%の安全を保証するものではない」と強調した。
 果たして北海道に原発は必要か。全道民的な議論が何より求められる。

■規制委の対応適切か

 泊3号機と同時期の13年夏に再稼働に向けて審査を申請した関西電力などの9基は、5年以内に全て再稼働した。
 泊の審査が長期化したのは、北電の説明や提出資料の度重なる不手際がある。特に原発敷地内の活断層の有無を巡り、規制委は北電に安全認識の甘さを何度も指摘し、地震や津波の専門的人材が不足しているとした。
 審査では他の大手電力が北電の応援に入った。
 泊原発の住民訴訟では札幌地裁が22年に、津波への安全性の基準を満たしていないとし、運転差し止めを命じている。
 緊急時に北電は独力で対処できるのか、道民が不安を覚えたとしても当然だろう。
 福島での反省を踏まえて発足した規制委の対応も問われる。
 当初は地震の審査をやり直すなど厳しい姿勢を続けていた。しかし22年からは規制委が自ら論点整理するなど、他の原発では見られない異例の審査効率化策を導入した。
 「世界で最も厳しい安全基準」と主張しているが、審査終盤での北電への特別扱いは審査の信頼性を揺るがしかねない。
 経済効率性を重視して原発を「最大限活用」する方針に転換した政府と軌を一にした動きに映る。十分な国民的議論なしに原発回帰した政府の姿勢が審査に影響したなら見過ごせない。

■北電は新港計画示せ

 規制委の審査対象にならなかった課題も山積している。一番は核燃料輸送の問題だ。
 北電は原発敷地内の専用港では津波によって輸送船が防潮堤を破壊する事態を規制委から指摘され、敷地外に新港を新設する方針を打ち出した。だが、場所や時期は示していない。
 核燃料を新港から泊へ陸上輸送する際に公道を使えば、地元住民はリスクにさらされる。ところが規制委は港が敷地外に移ることを理由として、審査から新港関連の安全確認を外した。
 北電は新港の建設を再稼働後にするとしている。本来なら再稼働の前に安全性の審査を受けてしかるべきではないか。
 北海道と泊原発の周辺13町村による避難計画は住民の避難先や経路などを盛り込んだ。昨年の能登半島地震で浮き彫りになった避難の難しさを、改めて認識する必要がある。
 北電は13年秋以降、電気料金を3回にわたって値上げした。道民生活の負担は増しており、泊3号機の再稼働後には料金を引き下げるとしてきた。
 だが既に安全対策費などは5千億円を超えている。維持管理費などを合わせると再稼働までには約1兆3千億円が必要とみられる。再稼働が電気料金値下げにつながるのか。低コストと主張してきた原発の経済的優位性は説得力が薄れている。

■知事は慎重に判断を

 鈴木知事は先月24日の会見で、再稼働について「道議会での議論などを踏まえながら適切に対応していきたい」と述べるにとどめた。再稼働判断には核燃料輸送船の新港などの安全確認が不可欠と繰り返している。
 道内ではラピダスやデータセンターなどの進出で電力需要が増えている。一方で、発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合が4割を超え、大規模な電源開発計画も相次いでいる。
 2000年に泊3号機の増設を容認した堀達也知事は、原子力を「過渡的なエネルギー」と位置付ける条例を制定した。条例を踏まえれば脱原発を基本とすべきであり、再稼働を認めるなら整合性が問われよう。
 北電は北海道と泊、共和、岩内、神恵内の地元4町村と安全協定を結んでいる。しかし、原発問題は地元だけでなく道内全体のコンセンサスが必要だ。
 北海道議会は再稼働をめぐるあらゆる課題や疑問について、客観的な視点から議論を尽くさなければならない。
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