野党まとめきれぬ立憲「これは厳しい」 選択的夫婦別姓、険しい道

南有紀 宮脇稜平 笹山大志 川辺真改

 与党が少数に陥った衆院で、立憲民主党が選択的夫婦別姓の導入を目指し、法案提出に踏み切った。だが、与党のみならず、野党内にも共同歩調に消極的な声があり、早くも実現が困難視されている。各党の背景に何があるのか。

 「うーん。これは厳しい……」。立憲の野田佳彦代表は4月上旬、周辺に苦悶(くもん)の表情を浮かべた。

 野田氏は2月の党大会で「29年間、たなざらしにされてきた選択的夫婦別姓を議論の俎上(そじょう)にのせる。それだけではなく、実現できるように頑張る」と述べていた。1996年に法相の諮問機関・法制審議会が制度の法制化を答申したものの、自民の反対で宙に浮いたままの制度導入について、少数与党の今国会で実現を図る宣言だった。自民のなかで積極派と消極派の分断を誘発する狙いもあった。だが、その後の各党との調整は、厳しい情報ばかりが野田氏に入る。

維新・前原氏「私の意見はマイノリティー」

 日本維新の会では昨年12月、積極派の前原誠司氏が共同代表に就いた。野田氏は「維新に協調してもらえれば、かなり動きがダイナミックになる」と期待をかけた。だが、維新は昨秋の衆院選で旧姓使用の法定化を公約し、多くの議員は制度導入に否定的だった。前原氏は昨秋の衆院選の直前で維新に入党したばかり。主張を引っ込め、「私の意見は党内でマイノリティーだ」とこぼした。

 立憲は法案を審議する衆院法務委員会で委員長ポストを握るが、維新の賛同を得られない時点で積極派は委員の過半数を割り込み、審議日程すら主導しにくくなる。

 2022年に制度導入の法案を立憲など野党4党と共同提出した国民民主すら、執行部は立憲と距離を置く戦略をとる。党中堅は「立憲と一緒にやれば、国民民主の新たな支持者となった保守層が離れてしまう」と解説した。

 野田氏が「厳しい」とうめいた政治状況は4月下旬、顕在化した。維新は22日、パスポートなどで旧姓のみの使用を認める法改正の素案をまとめた。青柳仁士政調会長は「我々は戸籍制度は変えずに困りごとを解決する」と主張。国民民主の榛葉賀津也幹事長も25日の記者会見で「じっくり議論を重ねたい。広範な国民の合意をつくるのが大事。他党との共同提出は考えていない」と立憲との連携を否定した。国民民主は「子どもの姓」を決める手続きが立憲案と一部異なる法案を検討中という。

 「対決より解決」を党のスローガンに掲げる国民民主に対し、立憲からは「国民民主は『対決より未解決』ではないか」(若手)との恨み節が漏れる。立憲幹部は打開策を描けておらず、党内では「野党をまとめ切れない。自民の積極派が与党を切り崩してくれないか」「国民民主の法案提出で公明が焦るのでは」との声が出る。

自民、推進派と慎重派の隔たり埋まらず

 政権をあずかる与党の動きはどうか。

 石破茂首相は昨年の自民党総裁選の際「『選択的』なのだから夫婦別姓を否定する理由はない」と前向きに語り、国会でも「いつまでも結論を先延ばししていい問題だとは考えていない」と繰り返してきた。だが、その発言とは裏腹に、党内で意見集約を図る動きはまったく見えない。

 2月中旬に「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム(WT)」が再始動して8回の会合を重ねてきたが、ヒアリングが中心の現状確認にとどまる。推進派と慎重派の意見の隔たりは埋まっていない。

 推進派議連の井出庸生事務局長は「強烈に推進している人と、絶対にダメな人が一定数いて、大多数は議論の推移を見守っている」と党内の状況を説明する。

 意見がまとまらない背景には、関係団体の影響もあるようだ。選択的夫婦別姓の導入に反対する「日本会議地方議員連盟」の幹部らは、21日に森山裕幹事長と面会。参院選の公約に「旧姓の通称使用の法制化を明記してもらいたい」と訴えた。出席者によると、「夫婦別姓を進めるなら我々地方議員は参院選で動かない」と迫る場面もあったという。

 自民に近く、資金的にも支えている経団連は昨年6月、選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める提言を発表した。それでも自民執行部は、党内を二分しかねない判断を参院選前に下すことに後ろ向きだ。ある幹部は「焦って出すような性質の法案ではない」と話す。

 賛否にあたり、党議拘束を外すよう求める声も一部にあるが、森山幹事長は「できるだけ避けるべきだ」と慎重姿勢を崩していない。

導入に前向きな公明、勢い欠く

 自民と連立を組む公明党は、もともと選択的夫婦別姓制度の導入に前向きだった。

 斉藤鉄夫代表は昨年末に首相と会談した際、与党間で協議を始めるよう提案。今年1月の衆院代表質問でも「結婚して姓を変えることで、多くの方が不便や不利益を感じている。国際的にも夫婦同姓を義務化しているのは日本だけだ」と訴えていた。

 だが、ここへ来て主張は勢いを欠いている。与党の一角として政策の実現力を示すことが公明の強みだったが、少数与党ではそれもままならない。むしろ自民を過度に突き上げて亀裂を深めることはリスクだ、との意見が強まりつつある。

 ある党幹部は「選択的夫婦別姓の問題で自民とたもとを分かつことはない」と断言する。与党協議は開催のメドすら立っていない。

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この記事を書いた人
川辺真改
政治部|自民党担当
専門・関心分野
国内政治、社会福祉、スポーツ
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    上西充子
    (法政大学教授)
    2025年5月1日8時50分 投稿
    【提案】

     各党の見解を報じる時にぜひお願いしたいのは、別姓が可能となったときに戸籍の記載がどう変わるのかをイメージできる図をこの段階で掲載いただきたいことです。  連合が「選択的夫婦別姓制度Q&A」の中で「選択的夫婦別姓制度が実現すると戸籍制度はどうなるの?」として具体的な戸籍の記載例を示していますが(※1)、戸籍制度がなくなるわけではなく、現在は「名」となっている欄が「氏名」となって各自のフルネームが記載されるようになるだけです。この連合のQ&Aにもあるように、法務省は国会で「戸籍の機能が変わるものではない」と答弁しています(2025年3月14日、参議院法務委員会における竹内民事局長の答弁)。  しかしながら、選択的夫婦別姓の実現に慎重や反対の立場の党からは、「戸籍制度を維持する」という表現が取られることがあり、選択的夫婦別姓が実現すれば戸籍制度そのものが崩れるという誤解が生じる恐れがあります。そうならないように、議論の土俵を報道には整えていただきたいのです。  4月22日の記事(※2)で維新は「戸籍制度や同一戸籍・同一氏の原則を維持する立場」「維新の素案は、戸籍制度は維持しつつ、旧姓の通称使用の届け出があった場合に記載し、法的な効力を持たせることを柱とする」方針であることが示されていますが、立憲の法案でもひとつの家族が同一の戸籍に記載されるという意味での戸籍制度は維持されるのです。違う点は、1つの戸籍に記される家族の構成員が「同一氏」であるか、それとも、異なる場合もあるか、だけです。  また、維新の素案では「戸籍制度は維持しつつ、旧姓の通称使用の届け出があった場合に記載し、法的な効力を持たせる」ということですので、戸籍に旧姓を併記するという形になるのでしょう。であれば、戸籍上は(連合の記載例で言えば)「甲野義太郎」さんと結婚した「乙野梅子」さんが、維新案では「【名】 梅子(旧姓 乙野)」と記載されるのに対し、立憲案では別姓の場合に「【氏名】 乙野梅子」と記載されるという違いでしかないように思われます。   なお、国民民主党はこれから法案を考える予定のようですが、立憲の法案のどこに問題意識をもっているのか、判然としません。きょうだいの姓が異なることになるのはいかがなものか、という問題意識に対しては、立憲案はそうならないように、婚姻時に子どもの姓を決め、子どもの姓は統一する案となっています。この記事では「国民民主は「子どもの姓」を決める手続きが立憲案と一部異なる法案を検討中」とありますが、早く協議の場に乗ってきてほしいものです。 (※1)連合「選択的夫婦別姓Q&A」https://www.jtuc-rengo.or.jp/bessei/ (※2)朝日新聞デジタル2025年4月22日「維新が「旧姓の通称使用」案 選択的夫婦別姓は「大げさな方法」」https://www.asahi.com/articles/AST4Q33J3T4QUTFK00PM.html

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