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2日目 マルエル婆6 ~夜は酔いどれ~



 今度こそ、本当に。

 ようやっとマルエル婆は落ち着いた様子。

 落ち着いたんなら、とっととお仕事してくれませんか?

 賄賂に渡した、果実酒の瓶は5本。

 それに見合うだけの働きを見せてくれなくちゃ。

「じゃないと、もうお酒お裾分けしないよ!」

「それは待った! 真面目にやる。だからお嬢、それだけは堪忍しとくんな!」

 そう言って縋り付いてくるマルエル婆は、必死でした。

 マルエル婆、お酒大好きだからなー………良かった、脅しのネタがあって。


 

 私達が静かに見守る中、マルエル婆が能力制御の腕輪を外しました。

 観察する目で、勇者様を真上からじろじろと眺め下ろします。


 魔族は皆、生まれつき何かしらの力を目に持っているけど。

 力は強いけど、能力そのものはありきたりなまぁちゃんと違って、彼女の能力はレアです。

 しかもそれぞれ左右の目で違う力を、逆の能力を持っているんですよ。

 そんな人、魔族多しといえど滅多にいないんだって。

 彼女の持つ力、それは未来視と過去視。

 目に映ったモノの過去も運命も見通すよって、ニヤリ笑って言ってました。

 しかも左右の目の力を同時に使うことで、現在さえ見通すそうです。

 凄いよ、マルエル婆。見通せる範囲が広すぎて、隙が見当たらない。

 若い頃は乱用して戦闘中に相手の過去の弱味と未来の不安、それから現在の悩みを看破、そこから動揺を誘うという凄まじく卑怯な戦法で生き残ったそうです。それが若い頃に轟かせた『一騎打ちの鬼』という異名の由来なんだって。

 マルエル婆は占いしないけど、その能力で偶に迷える子羊のアドバイスをしていたら、いつしか占い師として名を馳せちゃったそーな。本職の占い師に謝ったが良いと思う。


 本人、占い師じゃないけど、使える能力は躊躇わず有効活用してくれる人なので。

 迷える子羊、もとい修行に行き詰まった迷える武芸者が良く相談に来ます。

 何だかんだ姐御肌な所はあるし、本人も引退したとはいえ武人ですから。

 能力で本人の長所短所に資質等々を精査した後、的確な助言をくれると評判です。

 彼女を一度でも頼った武芸者は皆々様、彼女を慕う様になるくらいに。


「と、いうわけで。そんな実績確かなマルエル婆に見て頂いた訳ですが」


 現在、何故か正座の勇者様に、マルエル婆がくどくどと絡んでくだ巻いてます。

 え。なんで? これはなにごと?

「「「………」」」

 私とまぁちゃんと、副団長さん。

 私達、三対の目が向く先には、空っぽになって打ち捨てられた酒瓶が…

 これはアレですかね?

 喉が渇いたとマルエル婆が、酒瓶1本飲みほしたせいですか?

 それもうんとアルコールの強いヤツ。

 …実はまぁちゃんと副団長さんの飲み比べ用の酒、間違えて渡しちゃってたんだけど…

 うん、別に言わなくても良い情報だよね。秘密にしとこっと。

 どうせ中身は、とうの昔にマルエル婆のお腹の中だしね。


 だけど絡み酒の酒乱なんて、相変わらずマルエル婆の酒癖酷いね。

 巻き込まれない様に遠巻きに見る私達。

 そんなこっちでも、何時の間にやら酒盛りが始まってました。

 私は悪くないよ。勝手にお酒を開け始めたまぁちゃん達が悪いんだよ。

 後で自分を正当化させる言い訳はこれしかないな。


「まぁちゃん、おつまみは何が良い? 揚げじゃがと唐揚げで良いかな」

「おいー? 今から揚げんのか?」

「そこに油があるのなら…!」

「揚げ物は後始末が面倒だろーに…それよりお前も飲むか?」

「ううん。飲まない。私のことは蚊帳の外でも良ーよ?」

「俺にそんな可哀想なことができるか! 仲間はずれなんて!」

「わぁ、まぁちゃん優しい! でもね? 私のことは気にしないで欲しいよ」

「なんでだよ」

「仲間には加わってなかったって事実残して、家を荒らした責任逃れするつもりだから」

「きたなっ!?」

「まぁちゃんと副団長さんは既にお酒に手を付けてるから手遅れだね」

「自分は全く気にしない。マルエル婆が怒るのなら、その時は潔く説教を聞き流そう」

「副団長さん…堂々と馬耳東風宣言なんて器が大きいね!」

 偶に、副団長さんが大物過ぎて心配になるのはなんでだろう…。


 自分より大柄で酒癖の悪い女性に絡まれるという、勇者様の災難。

 私達はソレを肴にしながら、杯を進めます。

 私だけは、杯の中身はお酒じゃなくて苺果汁の水割りだけどね。

「マルエル婆って、ああなってからが長いよね」

「まあ、正気に戻るのに3時間はかかるな」

「いや、あの様子では5時間コースではないか」

 今までに数々見てきた、マルエル婆の醜態を思い出す。

 本格的に酔っ払いだすと、マルエル婆って手加減忘れるんだよねー…。

 それで一度、森を焼き払いそうになったとか言ってたよーな。

 …うん。災難だね、勇者様。頑張れ!


 マルエル婆は暫く現実に帰ってこないでしょう。

 こんな時、とっても素敵な言葉を一つ。

 勝手知ったる他人(ひと)の家…!!


「どうせ今夜は泊まって晩餐たかるつもりだったし」

「マルエル婆も、後で介抱が必要だろーしな」

「寝床の用意はいつもの客室で大丈夫だろう」


 私達3人は、さっと行動に取りかかり、宿泊の準備を整えました。

 面倒の固まりと化した家主は、余裕のない勇者様が一手に引き受けてくれてるし。


「それー! 布団の用意だぁ!」

「馬鹿っ 俺を巻き込みながら布団敷く奴があるか!」

「魔王の布団巻き。いや、布団の下敷きか」


 マルエル婆宅の客間は2つ。ベッドは各部屋に1つずつ。

 そして私達は4人。

 普通にベッドが足りません。

 更に言えば、副団長さんの身長じゃベッドが狭すぎです。

 だから私達は客間の床に直接布団と持ち寄った毛布を敷きつめていきます。

 ええ。簡易寝床…うん、本当に寝床。むしろ、巣?

 ごめんね、まぁちゃん。

 多分まぁちゃんは隣の客間に私を寝かせるつもりでしょーけど。

 ナチュラルに私、皆で一緒に雑魚寝するつもり満々だし。

 みんなでお泊まり会とか、そんな楽しそーなこと、仲間外れにされるなんて嫌ですよ。

 まぁちゃんは私には甘いし、自分が付いていると思えば寛容になるので。

 ええ、だからここは。

 押しの一手で押し切っちゃえ。


 え? 覗き犯はどうするって?

 そんなもん、床に転がしときゃ良いでしょ。

 一緒に寝るとか嫌だし、誰も望まないでしょ。

 どうしても布団でってなったら…マルエル婆と一緒に寝かせりゃ良いんじゃないかな?


 結局、勇者様がマルエル婆から解放されたのは、夜もとっぷり更けた4時間後でした。

 お疲れ、勇者様。

 そのぐったり具合が痛ましいよ。

 途中からマルエル婆にぐいぐい飲まされたせいで、勇者様もへべれけ…

 …ううん。とうにへべれけのレベルは超越しちゃったね。

 程なく完璧に酔いつぶれ、赤いお顔で安らかな寝息を立ててしまいました。

 よーし、面倒なのがさっさと意識を手放してくれたし。

 今夜も雑魚寝といきましょー!

 

 雑魚寝って、なんでかワクワク楽しいよね。ウキウキ弾むよね。

 この楽しさが旅行の醍醐味だと思うから。

 今夜もみんなでおやすみなさーい!


 小うるさく説教述べる、不機嫌なまぁちゃん。

 そんなまぁちゃんも問答無用で引きずり込んで。

 私達は全員で仲良く布団に沈んで意識を閉ざしていくのでした。

 良い夢見るよ!




 そんなわけで2日目の夜はうやむやの内に過ぎていき。

 勇者様が強くなる為の有難~い助言をマルエル婆から授かることができたのは…少なくとも、酔っ払いの絡み混じりじゃなく、まともに授かることができたのは。

 翌日の朝、皆が目を覚まし、朝ご飯を食べる中。

 二日酔いの頭痛で苦しむ勇者様は、それどころでなく大変そうでした。

 

 



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