始めに、この節は[田村 微分位相幾何学]の該当箇所を参考にしています。話の流れだけならばそちらとほぼ同じです。管状近傍やカラー近傍に関する基本的な事実をまとめ、その応用として多様体をその境界どうしで貼り合わせる操作、さらにその重要な例として連結和を記述することが目標になります。証明はそこそこ技巧的なので読むのは大変だろうということと、このあたりのことは事実として知っておくことがまず重要(もちろん個人的な見解ですが…)だということは始めに言っておきます。
以下、部分多様体などは基本的に境界に適合したものであることを仮定して整備していきます(が、一応条件としては明示します)。
部分多様体 が与えられたとき、その部分多様体の各点の近傍において局所平坦性を与えるようなよい座標近傍 可微分多様体の対 と対 の間の局所的な 級同相写像 が取れましたが、ここで説明する管状近傍とはその大域版にあたる概念になります。もう少し具体的には、この後で定める部分多様体 から構成される法束と呼ばれるベクトル束 における零切断としての の近傍と の部分多様体としての の近傍の間の 級同相写像が大体それにあたります。
では、まずは部分多様体の近傍のモデルとなる法束を定義します。
を可微分多様体、 をはめ込みとする。 の接束 を の接束 の による引き戻し の部分束とみなすことによる商ベクトル束 を の法束といい と書く。 が の部分多様体の場合は包含写像に対する法束を部分多様体 の法束といい と書く。全空間 を明示する場合は などと書くことにする。
部分多様体 の法束は の各点 における接空間 の補空間を束ねたものであり、実際に の部分束としても実現できます。
を可微分多様体、 を境界に適合した部分多様体とする。このとき、ある束写像 が存在して
を満たす。
管状近傍を定義します。記号の準備として、一般に階数 の 級ベクトル束 に対し、 上の ファイバー束 を、あらかじめ にRiemann計量 を与えたうえでと定めておきます。零切断により と同一視をしたうえで、空間対 がRiemann計量の取り方によらずに 級同相の違いを除いて一意であることは容易です つのRiemann計量 が与えられたとき、束同型 であって を満たすものを構成すればよいですが、これは局所的にSchmidtの正規直交化法を適用していけばできます。もう少しだけ詳しく書くと、Riemann計量 に関する の局所的な正規直交枠 のRiemann計量 に関する正規直交化を行い正規直交枠 を構成し、各 を に移すような変換を考えることによります。また、束同型 は恒等写像にisotopicにできることには注意。。
以下、境界に適合した部分多様体に対する境界に適合した管状近傍の存在を示しますが、そのためにスプレイと呼ばれる接束 上のベクトル場 を構成します。これは、Ehresmannの定理 命題3.2.12 の証明の(step 4)において定めた 級写像 の構成のために作った 上のベクトル場 に相当するもので、 と同様にそのフローの制限と射影の合成として の近傍 において定義された 級写像 が構成されます。そして、この写像 の適切な制限が埋め込みとなることを示すことで管状近傍の存在が分かります。
可微分多様体 の接束 上のベクトル場 であって次の条件を満たすものを のスプレイという。
(i)
射影 の定める接写像 は各点 においてを満たす。
(ii)
に対して、 倍写像 の接写像 は各点 においてを満たす。
また、スプレイ の境界の接空間 への制限がまた のスプレイとなっているとき、このスプレイ を境界に適合したスプレイという。
接束 の各ファイバーを のように底空間接成分とファイバー接成分に分解して考えるとき、この定義における つ目の条件は底空間接成分が であることを意味し、つまり、これは底空間接成分を統制するための条件と解釈できます。もう少し具体的なことを言うと、 を始点とする積分曲線 が定義されているならば、射影 との合成により得られる の曲線 の各時刻 における接ベクトルが に等しいということを意味しています言い換えると、曲線 に対してその各時刻における接ベクトルを対応させることで定まる標準的なリフト が であるという意味です。。
また、 つ目の条件の直接の目的は の各点を始点とする積分曲線たちを統制するためであり、例えば、 を始点とする積分曲線 が定義されているならば を始点とする積分曲線 が存在し、任意の に対してが成立していることが分かります右辺を に関して微分し、積分曲線となっていることを確かめるだけです。。よって、射影 が を満たすことからが成立します。
では、境界に適合したスプレイを構成します。
可微分多様体 に対し、その境界に適合したスプレイ が存在する。
以下、境界に適合した管状近傍の存在を示します。まずは管状近傍の原型となる 級写像 の構成から。
を可微分多様体、 を境界に適合した部分多様体、 を の境界に適合したスプレイとする。 に関する積分曲線が区間 において存在するような始点全体からなる の部分集合を とするとき、命題3.4.2のように取った法束 に対して は の における近傍になっている。
の生成するフロー と射影 の合成の への制限を と表すとき、 は包含写像に一致し、 を満たす。さらに、 を の適当な開近傍で取り換えれば は境界に適合した 級写像である。
証明
まず、各 に対して なので と が包含写像に一致することは明らかです。各 に対して のある近傍が に含まれていることと であることを示します。
(i) の場合
が の近傍を含むことを示せば が の近傍であることは明らかなのでそうします。 の相対コンパクト開近傍 を取るとき、ある正実数 が存在して の各点でその点を始点とする区間 において定義された積分曲線が存在します。上で行った考察により、 の各点に対して区間 において定義された積分曲線が取れるので の開近傍である は に含まれます。
であることはから従います。
(ii) の場合
の適当な開近傍を の開集合 と同一視し、 を の境界に適合したスプレイ、 を の境界に適合した部分多様体と考えることにします。 を の開集合 におけるスプレイに拡張し、部分多様体 も の境界を持たない部分多様体 に拡張、合わせて法束 も に拡張しておきます。 なので(i)の場合の結果から、 の十分小さい近傍 において 級写像 が定まり、 です。そこで、必要であれば を小さく取り直すことで は埋め込みとしてよいです。いま、 が の境界に適合したスプレイであることと各 に対して であることから、制限として埋め込み が得られます。よって、必要ならば再び を小さく取り直すことで制限として境界に適合した埋め込み が得られ、これは を意味します。 であることは制限しても変わりません。
ここで構成した 級写像 の制限として管状近傍を構成します。
を可微分多様体、 を境界に適合した部分多様体とする。このとき、 には境界に適合した管状近傍が存在する。
可微分多様体の境界に対してはカラー近傍と呼ばれる管状近傍の類似が存在します。
を可微分多様体とする。埋め込み であって制限 が包含写像に一致するもの、およびその像を境界 の開カラー近傍という。開カラー近傍の への制限として得られる埋め込み、およびその像をカラー近傍という。
を可微分多様体とする。 の境界 にはカラー近傍が存在する。
もちろん管状近傍 およびカラー近傍 は一意とは限りませんが、境界に適合したコンパクト部分多様体に対する境界に適合した管状近傍はambient isotopyによるの違いを除いて一意になり、以下ではそのことを示します。簡単のため、境界に適合した部分多様体 に対し、isotopy であって各 が の境界に適合した開管状近傍であるものを の境界に適合した開管状近傍のisotopyと呼ぶことにします。
を可微分多様体、 を境界に適合したコンパクト部分多様体、 を境界に適合した開管状近傍とする。このとき、ある束同型 と を保つ境界に適合した開管状近傍のisotopy が存在して が成立する。
証明
各 に対して線形同型は を保つのでファイバー成分の同型を誘導します。標準的に なので、この たちにより束同型 が誘導されます。
この に対して境界に適合した開管状近傍のisotopyを構成します。開管状近傍 , に対して同様の手続きで定まる束同型 は恒等写像です。そこで、 を で取り換えておくことで最初から が恒等写像 を誘導するとして議論します。
境界に適合した開管状近傍のisotopyの存在を次の流れで示します。
(step 1)
ある境界に適合した開管状近傍のisotopy が存在して かつ かつ が成立する。
(step 2)
最初から であったとして、写像 をとして定めるとき、 は を に結ぶisotopy に拡張する。
(step 3)
を に結ぶ境界に適合した開管状近傍のisotopy が存在する。
(step 1) の相対コンパクト開近傍による開被覆 を取ります。 にRiemann計量を与え、各 に対して正実数 をとなるように取ります。 に従属する の分割 を取り、 上の正値 級関数 を として定めます。このとき、です。原点の近傍で恒等的な 級同相写像 を用いてisotopy をファイバーごとにと定めれば かつなので をisotopyとして取ることで です。isotopy が の近傍を動かさないことから 、よって、 です。
(step 2) 各点 に対し、その近傍においてであることを示します。 の開近傍 上の局所座標系と 上の の局所自明化を固定し と同一視しておきます。 の における相対コンパクト開近傍 を取るとき、 を十分小さく取れば です。よって、同一視 の下で における の底空間成分とファイバー成分への分解 を考えることができ、また、同じく の における同様の分解 を取ることができます。このとき、です。成分ごとに極限を取ればです。この極限により を の写像に拡張します。このとき、 が において 級であることは明らかであり、 が において 級であることは十分小さな正実数 について における 級写像が 級写像 を用いての形で表されること 予備知識 補題4.2.72 から分かります。よって、 は を につなぐisotopyです。
(step 3) であったとして、(step 2)におけるisotopy を取ります。 とすれば が欲しかったisotopyです。境界に関する条件も今までの構成を追えば満たされていることが分かります。
命題3.4.10において束同型 による補正は必要です。例えば、束同型 をにより定めるとき、これらは互いに 零切断を保って isotopicではありません。
を可微分多様体、 を境界に適合したコンパクト部分多様体、 を境界に適合した開管状近傍のisotopyとする。このとき、 を保つambient isotopy であって を満たすものが存在する。
ついでに、このことの類似としてisotopy拡張定理を紹介しておきます。
を可微分多様体、 をコンパクト可微分多様体、 を境界に適合した埋め込みとする。 を へ結ぶisotopy であって各 において が境界に適合しているものが与えられたとき、ambient isotopy であって を満たすものが存在する。
では、いくらかの仮定の下での管状近傍の一意性を示しますが、必要なことは全て準備できています。
を可微分多様体、 を境界に適合したコンパクト部分多様体、 を境界に適合した管状近傍とする。このとき、ある束同型 と の を保つambient isotopy が存在して が成立する。
コンパクトな境界に対するカラー近傍に対しても同様にambient isotopyによる違いを除いた一意性が成立します。証明は同じなので省略します。
をコンパクトな境界を持つ可微分多様体、 を のカラー近傍とする。このとき、ある を保つambient isotopy が存在して が成立する。
可微分多様体どうしの境界における貼り合わせについて説明します。 を可微分多様体とし、 のコンパクトな連結成分 と のコンパクトな連結成分 の間の 同相 が与えられているとします。この 級同相写像により と を等化して得られる空間 を と書くことにし、この に以下の手続きで 級座標近傍系を与えます。
まず、 のカラー近傍 , を固定し、これらを と において により等化して得られる空間を と書くことにします。明らかな方法でと見なすことで は つの可微分多様体 , , により被覆されているので、これらの座標近傍系の和として全空間の座標近傍系を定めます。それぞれの共通部分では 級同相により貼り合っているため、実際に 級座標近傍系を与えていることが分かります。
まず確認したいことは、この構成がカラー近傍の取り方によらずに互いに 級同相な可微分構造を与えることですが、これはカラー近傍がambient isotopyによる違いを除いて一意であったことから分かります。というのは、各 に対し、 を別のカラー近傍としたとき、 を保ちながら を に 積構造を保って 移す の自己 級同相写像 が取れますが、これらが との同一視の下で と の間の恒等写像を誘導するためです。
もう一つ、境界の連結成分の間の 級同相写像 が互いにisotopicであるときにであることには注意しておきます。まず、 と考え、これらを結ぶisotopyに対してisotopy拡張定理 命題3.4.13 を適用することで の自己 級同相写像 であって を満たすものを取ります。カラー近傍の一意性からこの はカラー近傍 を像として保ちと表されるとしてよいので、この状況で との同一視の下での と の間の恒等写像が誘導されます。
さて、 が向き付けられている場合を考えます。このとき、境界 には向きが誘導されますが、もし貼り合わせに使用した 級同相写像 が向きを逆にするものであった場合には にも自然に向きが定まることを確認しておきます。まず、境界における向きが、それを定める接空間の基底の最初に外向きベクトルを加えることで全空間での向きを定める基底を与えるという条件により定義されていたことに注意。これより と の間の貼り合わせ、および と の間の貼り合わせが向きを保つかどうかは符号 により決定され、 の場合は に逆の向きを与えておくことでいずれの貼り合わせも向きを保つようにできます。よって、それらを貼り合わせて得られる可微分多様体 には向きが定まります。
ここまで つの可微分多様体 , の境界連結成分どうしの貼り合わせを考えてきましたが、 つの可微分多様体 の境界の相異なる つの連結成分にたいしてもその間の 級同相写像を与えれば同様に貼り合わせが行われます。
境界における貼り合わせの重要な例として、同じ次元の つの可微分多様体から つの可微分多様体を構成する操作である連結和を導入します。まずはそのための もはや明らかな 補題だけ書いておきます。
を向き付けられた 次元連結可微分多様体、 を埋め込みとし、 は向きを保ち、 は向きを逆にするとします。このとき、, の境界のコンパクトな連結成分 の間の向きを逆にする 級同相 が定まります。この 級同相 により貼り合わせて得られる向き付けられた可微分多様体を と書いて の連結和といいます。球体定理からこの構成は埋め込み の取り方にはよらないことが分かります。
証明
(1) 明らか。
(2) と の間の連結和を取る際に取る埋め込み の像を の に由来する部分に取ったとすれば明らかに連結和を取る順番を入れ換えられます。
(3) 連結和を取る際の埋め込み を の半球体 への標準的な埋め込みに取ることで直接確かめられます。
(そのうち書きます。)
以上です。
境界連結和についても一応書くつもりですが、後回しで。
更新履歴
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2024/03/02
解析的な補題の参照先を変更。