私は何をしたいのか。
「真琴ちゃんは、どんなことをやりたいの?」
就活相談をしたら言われた言葉。意思ははっきり持っているはずなのに、この質問をされるとどうにも答えられなくなってしまった。
どんなことをやりたいか。第一に楽しく働きたいんだと思う。当たり前っちゃ当たり前なんだけど、多分、なんかもっと、すごく根源的で、絶対に揺るがない、なにか、なにかがあるんだと思う。
「楽しく働きたい」の一言では片付かない、人生を通してずっと抱えてきたもやもやと、なにがしかが、ここにはあるんだと思う。
それを突き止めようといろんな思考法を試したけど、だめだった。途中で頭が止まってしまう。答えに辿り着けなかった。私にとって一番いいのは、こうして文章をひたすら書くという方法なんだと思う。
長々と、ダラダラと、居酒屋で安いウーロンハイ片手に喋っているつもりで、ここに一度考えを散らかしてみようと思う。
「ひとは一人で勝手に助かるだけ」
「働く」について考える前に、私の中の大事な要素を話したい。
私は人から、愛に溢れた人間だと言われる。自分でもそうだなと思う。でも厳密に言えばそれは愛ではなくて、多分、「助かれない人」と「助けられない自分」の存在を許せないだけなんだと思う。
「人は一人で勝手に助かる」
これは化物語というアニメで聞いた言葉なのだけど、要は周りがどんなに手を差し伸べても、本人が努力しなきゃ助からないということ。「馬を湖に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」と同じようなことだ。
でも、私は意地でも水を飲ませることも必要だと思う。
だって助かりたい人間の多くは、自分が助かるべきとは知らない。助かりたいと思っていることにも気づかない。それが助かる方法だとも気づかないから、すがりつくこともできない。なんならすがりつく力すら残っていないということが、往々にしてあるから。
助かりたくない私の話
私自身がそうだった。私は、虐待されていた。物心ついた時には手をあげられていた。
泣き声は、近所に聞こえていたと思う。母は手をあげる前に必ず窓を閉めていたけど、それでも聞こえていたと思う。というか、学校から帰ると妹の「ギャーーーーー」という泣き声が外まで聞こえていて「あー、私も今日はやられるのか。晩ごはんもなしだなあ」と思いながら帰ることもよくあったな。
書きながら思ったけど、そんな中にわざわざ帰らなきゃいいのに。でも、そのときの私はそうする以外知らなかった。そうしなきゃもっとひどい目にあうと思っていた。
小学4年生くらいのとき、親戚が通報してくれた。児童相談所によく連れられて行った。私が知能検査などを受ける間、親戚は別室で今後の私の生活についてよくよく相談してくれていた。
でも結局、私は家へ帰った。
よく覚えている。「真琴ちゃんは、ここで暮らしたい?お母さんのところに帰る?」と聞かれたので、私は「家に帰りたい」と答えたのだ。
「手をあげられても、やっぱりお母さんのことが好きなのね」なんて相談員は思っていたのだろうけど、全然違う。
そうしないと、もっとひどい目にあうと思っていた。逃げれば母はどこまでも追ってくると思った。
母は怒るとよく「施設(=児童養護施設)に行けよ、いらないからお前」と言っていたので、「施設は地獄みたいな、家よりひどい場所なんだ」とも思っていた。
だから、家に帰る選択をした。
もちろん、それからもいろんな虐待を受け続けた。極寒の中裸足で一晩外に置いておかれたこと、食事を何日も抜かれたこと、窓から落とされかけたこと、髪を持って家中ひきずられたこと、窒息や首絞め、包丁を振り回される…いろいろあった。
殴る蹴るももちろんあったけど、途中から「殴ると手が痛いから」と、物を投げつけられるようになった。家中の物が壊れ、床や壁が傷ついていた。
これが、帰っていいわけがない。
「本人が水を飲みたくないなら、仕方ないね」じゃない。
私が助かった話
結局私が助かったのは18歳の時。母がこれまでに見たことないほど阿鼻叫喚していて「これはさすがに私死ぬかも」と思い、家から脱出した。部屋着のまま携帯だけ持って家から逃げた。靴を履いていたら捕まると思ったから、裸足で3月の北海道の雪の上を走った。そのまま私は、いろいろあって実家を出ることに成功した。
実家を出て初めて、自分の認知や性格がびっくりするくらい歪んでいることに気がついた。生まれてからずっと「私は悩みなんてない」って思ってたけど、あの家にいて悩みがないなんておかしいと気づいた。自分は十分すぎるくらい傷ついていたことも知った。
考えてみれば、私は友達という友達もいなかった。部活でもクラスでもいじめられていた。こんな性格の悪い奴がいたら、いじめたくなるのも当然だ。大学でも、もちろんハブられた。でも、こんなに性格が悪くなってしまうのも、また当然であった。
就活もうまくいかなかった。性格が悪く頭も悪い上に、ぺらぺらの薄っぺらい志望動機と、嘘みたいな長所にガクチカを調子良く話す私。一緒に働きたいと思う人間なんかいるわけない。
自分の性格を矯正しようと色々な資料を読み漁りながら思った。
「あの家で育ってなきゃ、こんなに苦労しなかったのに。もっと普通に、人に囲まれて楽しく育ったはずなのに」って。
もっと助かった、今の私の話
それからさらに5年。北海道を離れ、実家とはさらに距離を置き、東京でいろいろな価値観やカルチャーに触れたことで、私のスキルは格段にアップした。
努力したというよりは、寝かせていた脳みそが開放されていく感覚に近い。
「私って、こんなに話せて、こんなに人に好かれて、仕事が勝手に舞い込んでくるような人だったんだ。行く先々で一緒に働きたいって思われるような人間だったんだ」と、よく思う。
虐待をされている時に、この能力を開放していたらどうだろう。人ともっと関わりたいし自由に時間を使いたいのに、あの実家に軟禁されて行動を制限されていたら。心に負った傷を正しく認知していたら。私は間違いなく壊れていた。多分自殺していた。
そんな自衛のために自分を抑圧して、何も感じなく考えなく見えなくしていたおかげで、私は多くの時間と機会を失った。誰がどんな手を差し伸べても、どんなに助かるべきでも、私は助かることができなかった。あの家にいることを選び続けた。
「もっと早く、誰かが助けてくれていたら」
どうしてもそう思ってしまう。
そういうわけで、「助かりたい人は勝手に助かる」という言葉を、私は信じていない。水を無理にでも飲ませなきゃいけないことって、絶対にあると思う。
「働く」の話
人間は当然だけど、みんな何かしらの問題をかかえている。家族のこと、お金のこと、自分の容姿やスキルのこと…でももっとも多くの人間が抱えているのは、仕事の問題だと思う。
給料が見合わない。やりがいがない。尊敬できる上司がいない。仕事で嘘をつくのがつらい。同期ばかり昇進していく。自分の何が悪いのかわからない。努力してもうまくいかない。
人生の大半を、多くの人間は「働く」に使う。それなのに「働く」が幸せなでないことだなんて、おかしい。それなのに働かなければならないのもおかしいし、みんな同じく「働く」の悩みを解決したいと思っているのに、口を揃えて「仕方ない」「こんなもん」「自分なんて」「仕事なんて」と言って、「仕方ない地獄」にい続ける。
絶対に、仕方なくなんかないと思う。だって実際に私は「仕方ない地獄」から抜け出して、「働く」が楽しいと知った。
もちろん、万人がそうできるわけではないかもしれない。そうなるには、勇気や向上心が必要なのかもしれない。でも少なくとも、もう少し多くの人間が…私がずっと大切にしている友人や、尊敬していたあの子なんかは、幸せに働いてほしいし、そうできて当然だと思う。
つまり、私からみれば彼らは助かるべき存在で、助かって当然の存在なのだ。彼らは、多分そうとは気づいていない。
こっち側に来るよう誘っても「私にはできない。真琴ちゃんがすごいからできるんだよ」と口々に言う。自分で会社と戦ったり、魅力的な職場を探して転職したりはしない。「仕方ないよ」と言う。
彼らは助かる選択肢なんてないと決め込んで、もがきもせず、これからも辛い目にあい続けるのがわかっていながら、望んでその場所を選んでいる。それはまさに、かつて実家という「仕方ない地獄」に帰りたいと言った、あの時の私と同じである。(アドラー心理学に確かそんな考え方があった気がする)
いつか彼らが「もっと早く、助かっていれば」と思う未来を思うと、本当に、自分のことのように悲しい。
……ある日テーマパークに行った帰り道、スーパーの重そうな袋を持って足を引きずって歩く、疲れた顔の作業服の男性とすれ違った。私はあの光景が、どうにも忘れられない。
テーマパーク帰りの幸せな私と、足を引きずりながらも現場仕事をしている男性が対象的に思えたのだ。もちろん彼はその仕事が好きかもしれないし、その日たまたま疲れていただけかもしれないが、その光景を見た私はそのように思えてしまって、二ヶ月も忘れられないでいる。
「仕方ない地獄」のない世界を、仕組みを、作りたい。
「仕方ない地獄」のない世界を作る方法や新しい世界の形は、まだわからない。でも市場や人の気持ち、方法を知れば、きっと私なら、なにかいい方法が思いつくと思う。
非常識で、突拍子もなくて、わくわくしちゃうことを、私はきっと閃くんだと思う。
じゃあ、それを知るためには、閃くための環境としてはどこが一番良いか。
「働く」を知っている会社の中で、もっとも非常識的で、突拍子もなくて、わくわくしちゃうことを考えている会社はどこか。
それが、サイボウズなんじゃないかと。
もっといろいろ具体化しないといけないし、こんな、わかりやすいスキルや実績の私をサイボウズ側が採用するメリットが思いつかないのが困ったところだけど。
でも、そんな理由で、私はサイボウズに入りたいと思っている。
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