その13(№5587.)から続く

日本のAGTを総ざらいしてきた本連載もいよいよ最終回。
そこで今回は、最終回スペシャルとして、今後のAGTはどのようにあるべきか、あらたな整備路線はあり得るのか、また普通鉄道・路面電車・BRT(バス高速輸送システム)などの他の公共交通機関との関係はいかにあるべきか、そのあたりを論じてみたいと思います。

まずこれらを論じるためには、AGTの長所・短所をもう一度おさらいしておく必要があろうかと思いますので、第1回で言及したところと重複しますが、あえて再掲いたします。

【AGTの長所】
① 地下鉄などに比べ建設費が抑えられる
② ゴムタイヤ式のため騒音が少なく急勾配・急カーブに強い(これは路線選定の自由度が高いことも意味する)
③ 無人運転が可能であるため路線運営のランニングコストが抑えられる
【AGTの短所】
① 道路との平面交差が困難なため建設費が路面電車に比べると嵩む
② ゴムタイヤの維持・交換のコストがかかる
③ 車両の収容力が普通鉄道よりも小さく、路線開業後の需要の激増に対応できない
④ 樹脂又はコンクリートでコーティングされた道床をゴムタイヤで進むため、寒冷地や降雪地には不向き

これまでのAGTの多くが、港湾部に建設されているのはどういうことか。これは、港湾部が埋め立て地である場合が多く、地盤が軟弱なため、地下鉄のトンネルを建設するよりはAGTの高架橋を建設した方が、コストがかからないという要因もあるでしょう(長所①)。また、港湾部には幅員の広い道路が張り巡らされているため、高架橋を建設するスペースが確保しやすいという理由もあるように思われます。港湾部ではないところを走る路線、具体的には広島のアストラムラインや東京の日暮里・舎人ライナーなどでも、やはり幹線道路の上部に高架橋を建設しています。勿論、ゴムタイヤで走行することで粘着性に優れ、急勾配や急カーブに対応できて路線建設の自由度が高いことも(長所②)、AGTの導入を後押しする要因となり得ます。
このような事実からすると、幅員の広い道路があって、その道路の交通量が多い場合には、路面電車よりもAGTが選択されることになろうかと思われます。併用軌道を走る路面電車の場合、どうしても並走する自動車との接触・衝突などの事故が不可避であり、専用軌道であっても踏切がある限り事故の危険をゼロにはできませんから、このような事故の危険をゼロにできるAGTは、極めて優れたシステムといえます。
しかし、AGTが選択される路線はいずれも、普通鉄道ではそこまでの需要が見込めない区間が多くなっています。これはAGTの「バス・路面電車と普通鉄道の中間の輸送力を持つ公共交通機関」という特徴に忠実に選択した結果です。例外が日暮里・舎人ライナーですが、あれはやはり地下鉄の方がよかったような。こと日暮里・舎人ライナーに関する限り、短所③が顕在化し、同時にAGTの限界も顕在化したといえます。

それでは、今後AGTが選択される路線はあるのか。
今後新路線として開業が見込まれるのが、横浜市瀬谷区の旧米軍通信施設跡地へのアプローチ線。これは同所にテーマパークなどのアミューズメント施設を造る計画があり、そのアクセス路線となり得るもので、普通鉄道ではなくAGTが選択されています。もっとも、このアミューズメント施設の建設計画自体が現時点では流動的になっており、ここにAGTが建設される計画が実現するかどうかは不明です。
その他の都市においても、AGTが計画されているところはありません。

実はAGTは、樹脂又はコンクリートでコーティングされた道床の上をゴムタイヤで走るため、寒冷地や降雪地には全く向きません(短所④)。AGTと似た走行システムを持つ札幌市営地下鉄で、南北線の地上区間(南平岸-真駒内)が全区間シェルターで覆われているのはそのためで、雪とAGTとは決定的に相性が悪いのです。
だからなのか、日本におけるAGTは、廃止された愛知県小牧市の「ピーチライナー」を含めて、その全てが目立った降雪のない、寒冷地でもない場所ばかりに作られています。札幌市営地下鉄を別にすれば、北海道、東北、その他本州の日本海側、北部九州に存在しないのは、まさにAGTのこのような短所故ではないかと(それにしては冬に結構降雪のある北九州市で跨座式モノレールがあるのは、何故なのだろうと思います。雪には懸垂式の方が強いはずですが)。
したがって、このような寒冷地では、AGTではなく路面電車又はBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)が選択されることになります。

平成20年の日暮里・舎人ライナーの開業以来、わが国にはAGTの新規路線が誕生していませんが、これは、AGTよりも手軽で定時性を確保できるシステムが他にも出現してきたからではないかと思われます。
そのひとつが、「次世代路面電車」ともいえるLRT(Light Rail Transit)。欧州の基準でいうと、東急池上線や東武亀戸線などもこれの範疇に入るようですが、これは、路面電車でありながら最高速度を向上させ、単位輸送力も従来型の路面電車よりも向上させたもの。日本における本当の意味のLRTの第一号として、「宇都宮ライトレール」の開業が来年に予定されていますが、これは併用軌道にするとか専用軌道でも地平に敷設するなどすれば、高架橋か地下トンネルが必要なAGTに比べて、大幅に建設費を節約できます。他方でLRTは、AGTが可能な無人運転ができませんが(今のところ。技術革新が進めば将来的には実現する可能性もある)、そのあたりは建設費のイニシャルコストとトレードオフの関係になるのでしょう。
鉄道でなくてもよければ、バス専用道を駆使したBRTも検討に値します。日本におけるこれの第一号は、福島県の白河と磐城棚倉を結ぶ白棚線ですが、東日本大震災でダメージを受けた鉄道路線の復旧としてBRTのシステムが採用され、このシステムが俄かに注目されるようになりました。
こうなってくると、今後新たな路線の建設において、AGTが選択されることは少なくなってくるように思われます。AGTよりも建設費が安価なLRTがありますし、鉄道にこだわらなければBRTという選択肢もあるからです。また地下鉄ほどではないにしても、建設費がそれなりにかかり、しかも路線開業後の爆発的な需要増大に対処するのが難しいですから。
最後はいささか寂しい結論になってしまいましたが、公共交通機関におけるシステムの採用は、他のモードとの得失を比較検討した上でなされるとすれば、AGTが選択されにくくなっていくのは、やむを得ないことなのかもしれません。

AGTの40年、いかがでしたでしょうか。現状と問題点をどれだけ掘ることができたのかは、読者の皆様の評価に委ねるしかありません。
お付き合いいただきありがとうございました。

-完-

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