攻殻機動隊 2 全解説(仮) 4章
前回の続きです。
前回の1章~3章では、素子同位体の1人・荒巻素子が、物語のキーとなるケイ素生物の設計図を入手しました。そして、ブタ臓器工場に対するテロを調査するうちに、ミレニアムとスピカという二つの敵に接触します。ただし、3章までの時点では、その二人の正体は不明のままでした。
4章からは、荒巻素子がミレニアムとスピカの正体を追いかける話が中心となっていきます。前回と同様に、単行本2巻を手元に置いてお読みください。
※以下、単に「素子」と記載する際には、主人公の荒巻素子を指します。
04 FLYBY ORBIT
素子本体の出動
素子は、ポセイドン社内にある格納庫に到着します。技術と力を持つ者たちは、こうして企業・国家のインフラを密かに流用しているわけですね。テック・エリート的な世界観です。
潜水艇から地上に出た後、AI操作のボディーガードを引き連れて、飛行機で目的地へと向かう素子。その際に「久々に地上に出る」と発言しています。前回までも長髪の素子が地上に出ていましたが、そちらはデコット(遠隔操作義体)だったようです。同じ見た目のデコットをいくつも持っているのでしょう。今回は現場で動くので、本体での行動に切り替えたようです。
リー保安部長の登場
素子の移動先に、ポセイドンの社長と、その警護を指揮するリー保安部長が現れます。前回、ブタ臓器工場で(ミレニアム・HLFによる)テロが発生していましたね。その事後処理について、社長とモナビア代表者の調印式がおこなわれるため、リー保安部長が警護をおこなっているようです。リーは、予定に無かった素子の来訪に少し驚き、その目的について不審がります。
素子の目的
前回のヒトブタ電脳とのサイバー戦を通じて、敵が今後モナビア関連の出来事に介入してくる事が予想されていました。案の定、調印式の場で不審な電波が観測されたため、素子はその様子を直接観察しにきたようです。
最初こそ迷惑そうなリー保安部長でしたが、素子の話を聞いてすぐに警備体制を変更します。頭の切り替えの早い優秀な男のようです。
さて、ここで少し話を先取りすると、この時の敵の正体は、前回述べた素子同位体の1人・ミレニアムです。
素子のAIボディーガードが、ウイルスに感染した出席者を特定します。感染者は全部で3名。しかし、素子はその内容を警備員に伝えず秘匿してしまいます。敵の出方を調べる必要があるため、ポセイドンの警備員とは別行動をとるつもりのようです。
敵の襲撃
調印式の出席者のうち、モナビアの武官長と、警備員のハブに仕込まれたウイルスが起動。その2人がポセイドン社長を襲撃し始めます。しかし、リー保安部長や素子のAIボディーガードが社長を防御。ウイルス感染者は残り1名ですが、素子以外にとっては、あと何人が襲ってくるか分からない状況です。
ここで、素子が人差し指を立てて、無言でサインを出します。AIボディーガードは逆探の用意を開始。その様子を見て、驚愕の表情を浮かべるリー保安部長。「素子が襲撃の真相を知った上で放置している」ということに気付いたわけです。
その時、最後の1名の感染者・花束贈呈の少女のウイルスが起動。素子が意図した通り、社長襲撃に成功します。頭をペンのようなもので突き刺されて倒れる社長。
敵を追跡
素子は感染した少女を即座に解析し、ウイルスの出どころを逆探知し始めます。逆探は成功。しかし、ウイルス送信元の近くに自分のデコット(遠隔操作義体)がありません。仕方なく、付近をパトロール中だった警官の電脳を乗っ取り、その警官の体で現場へと向かいます。
敵の居場所
警官の体でウイルス発信源を調査する素子。社長襲撃ウイルスの出どころは、スラム街の路上に放置されていた工事用ロボットでした。そのロボットが公衆電話を介してネットに繋がり、調印式にウイルスを送り込んでいたようです。(現実世界では、ISDN公衆電話のデータ通信サービスも終了してしまいましたね。もはや若者には通じないコマに…この章が書かれた90年代とのギャップを感じさせられます。)場所柄、こうした工作も通報されずに放置されていたのでしょう。
素子は公衆電話とロボット間の接続を切り、ロボットを破壊します。これは敵の本体へのエラー報告を追跡するための措置だったのですが、その目論見は外れます。敵本体への通信はおこなわれず、代わりに警報に反応した周囲のロボットが襲いかかってきます。敵は、自分自身に繋がる証拠を注意深く消し去っているようです。
工事ロボットの基盤抜き取り
襲いかかってきたロボットを解体して、敵の情報を探ろうとする素子。しかし、重装備の警察部隊が駆けつけ、ロボットを破壊します。これではロボットを調査することができません。
素子は密かに敵ロボットの基盤を抜き取り、宅配で素子の本体に送付します。基盤改造の痕跡から情報を得られるという目論見なのでしょう。この基盤抜き取りの場面をさり気なく示すあたりが、士郎正宗の演出のオシャレなところです。しかし、読者にとってはハードルが高くなっているとも言えます。
リーの質問:素子の意図
素子の意識が警官から本体に戻ると、いつの間にかヘリコプターの中にいました。素子が警官の体で戦っている間、AIボディーガードが本体を預かり、ヘリに移動させたようです。
ヘリの中には、リー保安部長も同行していました。リーは、社長襲撃をわざと容認した素子の真意を問いただします。実は殺された社長もデコット、つまり偽物でした。素子が安心して襲撃を放置していたのは、それが理由だったようです。しかし、リーの視点からみると、わざわざ社長の偽物を用意してハッカーに襲われるがままにする意味が分からないわけです。
素子は答えをはぐらかし、「敵の目的は社長自身ではない」と言います。ここで答えが曖昧にならざるをえないのは、「ブタ臓器工場で電脳LANが密造されていた」という真相を明かすわけにもいかないからでしょう。それを知らないリーにとっては、「目的の分からない敵の攻撃を、よくわからない理由で素子が泳がせている」状況になっています。この観点からすると、むしろ素子も怪しく思えてきます。実際、このあたりでリーは素子を疑い始めます。
敵のウイルスの解析失敗
社長襲撃ウイルスを分析する素子。ノート型の端末を操作しているように見えます。この端末内に人間を模したサンドボックスを作り、社長襲撃ウイルス感染させて挙動を確認しているようです。そのサンドボックス端末を素子は「ラット」と呼んでいます。しかし、敵のウイルスの方が上手で、サンドボックス内でのウイルス解析を拒む仕掛けが起動してしまいます。
素子に対する身辺調査
素子が隠し事をしているのは明らかであり、リー保安部長から見ると不審人物です。そこで、保安部が素子の身辺調査に乗り出します。サイボーグは義体仕様とOS情報を会社に提出する義務があるらしく、その情報からチェックを開始。
すると、素子の申請している義体OSが妙に古いバージョンだと発覚。偽装工作の気配が感じられます。その偽装工作をリーが「迷彩」と表現すると、部下が「擬態では?」と聞き返します。それに対し、アップルシードの登場人物によく似た男が「ちがうぞ」とツッコミを入れています。
どういう意味の会話なのでしょうか?これはおそらく「カモフラージュ」と「ミミクリー」は違うという意味ではないかと思います。素子の偽装工作は、一般人に紛れるためのモフラージュです。つまり周囲の環境に溶け込むためのものです。一方で、擬態の中には「ベイツ型擬態」のように目立つ警戒色を装うものもあります。その意味で、リー部長の言う「迷彩」という表現のほうが素子の行動には当てはまっているのでしょう。あまりストーリーには関係ありませんが、士郎正宗の衒学あふれるコマです。(私の理解が間違っている可能性もありますが。)
さて、やはり素子の個人情報には不可解な点が多く、保安部は素子の調査を継続することにします。
ハブ復活
リー保安部長のもとに、部下のハブが業務報告に現れます。ハブというのは、先ほどのモナビアとの調印式でウイルス感染し、危うく社長を襲いかけた警備員のことです。すぐに電脳の再調整を終えて職場に復帰したので、リーが驚きの表情を見せています。
アンタレスとの会話
先ほど警官の元から発送したロボット基盤を調査するために、飛行機でホテルへと向かう素子。その飛行機内で、ポセイドン社員の霊能力者・アンタレスに出会います。この世界の超巨大企業では、霊能力者を雇用することもあるようです。アンタレスは素子を観察し「意識が1つにまとまってきた」と発言します。
前回の最初に説明した通り、素子の同位体たちは、草薙素子の放ったミームが人間と融合することで生じます。第1章での環の発言によれば、荒巻素子は「4柱の魂と融合」、つまり4人分のミーム・記憶を脳内に抱え込んでいます。そのため、融合直後にはアイデンティティが不安定になる時期があったようです。
素子は、融合に関する事情をアンタレスに打ち明けてはいません。しかし、アンタレスは霊能力を通じて直感的に意識の乱れを感じ取っていたのでしょう。霊能力を使ったコンサルタント兼スパイのような役割ですね。
また、この場面では「素子もポセイドン社長の本体に会ったことがない」ということが示唆されます。先ほど襲撃された社長はデコットだと判明していましたが、そもそも社長本体は公の場に出席しないことになっているようです。これも後の場面への布石になっています。
ロボット基盤の受領
素子は「クロマ」という名のデコットを使い、社長襲撃ロボットの基盤を受け取ります。先ほど乗っ取っていた警官に発送させたものです。この基盤を届けてくれた配送業者(密輸業者?)は、いかつい義体をまとい、金(きん)のみで支払いを受け付けるという愉快な連中です。
アルグリンへの依頼
クロマ(素子)は、「電脳探偵」のアルグリンという人物に基盤を渡し、社長襲撃犯の身元特定を依頼します。敵は入念に証拠隠滅をおこなっていましたが、アルグリンの目から見ると、ハードウェアにわずかな痕跡が残っているようです。すぐさま調査が開始されます。
アルグリンの部下とのゲーム
アルグリンはガラの悪い部下を雇っており、その部下たちが調査の合間にちょっかいをかけてきます。クロマが乗ってきたバイクに、遠隔義体の中継機が搭載されているようで、部下たちはそれをハッキングして勝負を挑んできます。
アルグリンの部下たちは、素子の意識をゲームの仮想空間へと飛ばします。しかし、素子はハッキングによって早々にゲームから離脱。逆にアルグリンの部下たちをゲーム内に閉じ込めてしまいます。
この仮想空間の場面も面白くはあるのですが、本編のストーリーにあまり関係がないので、注意深く読む必要はないと思われます。
アルグリンと素子への襲撃
基盤の調査中に、何者かがアルグリンの探偵事務所を爆破してきます。どうやら敵が早々に基盤のありかを見つけ、攻撃をしかけてきたようです。アルグリンはロボット基盤を返却し、調査から身を引きます。
その時、敵のウイルスに感染した付近の用心棒たちが、クロマ(素子)に襲いかかってきます。
それに加えて、警察の戦闘隊にも出動命令がかかっていることが判明しました。おそらく敵が警察への通報を事前に仕込んでおいたのでしょう。話を先取りすると、この警察への通報記録が手がかりとなり、敵の位置を特定することになります。地味なセリフなのでスルーしている読者も多いかと思います。
素子の撤退
追っ手の用心棒たちを難なく撃退するクロマ。しかし、その途中で敵の目的が攻撃ではなく尾行にあることに気付きます。つまり、騒ぎを起こすことでクロマを拠点に撤退させ、その後をつけたいわけです。それが分かった以上、もうクロマの姿で行動するわけにはいきません。
素子は、アルグリンから回収した基盤をハチ型のセボット(小型ロボット)に運ばせ、クロマの方はAI操縦に預けます。敵が追いかけてきても問題ないよう、クロマを泳がせて囮にするわけです。
ホテルに潜伏中の素子(本体)は、クロマから送られた基盤を受け取ります。ところが、その基盤に敵の発信機が付いていることに気付きます。これでは発信機をたどって本体の居場所もばれてしまいます。アルグリンが素子を裏切り、密かに発信機を取り付けたのでしょうか?真相は分かりませんが、これで潜伏先も安全ではなくなりました。素子はそのホテルを引き払うことにします。
環の霊体による質問と、その意図
素子が移動の準備をしていると、突如、魂合環(たまいたまき)が奇妙な姿で出現します。全裸で、皮膚と体の周りに龍をまとっている霊体の姿です。霊体の環は、「スターバトマーテルの件に素子はどう関わっているのか」という質問を投げかけます。どういう意味でしょうか?
環によると、先ほどクロマを付け狙っていた用心棒たちは、「スターバトマーテル」という施設の人間によって操られていたとのこと。つまり、環は元々スターバトマーテルを調査しており、その調査対象が素子と戦っていたので、両者の関係について確認したいらしいのです。図にすると以下のような形です。
敵の組織(スターバトマーテル)について教える見返りとして、素子がそれを相手に何をしているのか聞き出そうと、しつこく食い下がる環。素子はそれを無視してホテルを離脱、次の目的地へと向かいます。
前回から、敵の正体が「ミレニアム」という人物であることを事前に説明してきましたが、ここでミレニアムの組織の名前「スターバトマーテル」が明らかになります。
草薙素子の専用回線
環から素子に対して「民間人が公安9課に専用回線など持っているはずがない」とツッコミが入った際に、素子が「それは私じゃない」と回答しています。この「専用回線」というのは、おそらく第1巻で少佐・草薙素子が保全を願い出た無線チャンネルのことかと思われます。スキャンダルで公安9課を去ることになった草薙素子は、自分への無線を維持し続けるよう部長にお願いしていましたね。
環と会話している素子は、同位体・荒巻素子であり、無線の確保を依頼した草薙素子とは別人です。そのため、環に対して「それは私じゃない」という回答になるわけですね。しかし、それを聞いた環は「???」となっています。「あなたが草薙素子なんじゃないの?」ということでしょう。どうやら霊能局・環の側ではオリジナルの行方を把握しておらず、同位体・荒巻素子をオリジナルと混同しているようです。
スターバトマーテルの追跡者
素子が潜伏先のホテルを去ると、スターバトマーテルの尾行者たち(ミレニアムの配下たち)の姿が描かれます。名前はフラクトとキリー。彼らは飛行船で移動しながら、路上の一般人を電脳ハックすることで、様々な工作をおこなっているようです。素子に対して実際に尾行をおこなったのも、フラクトとキリーに脳を乗っ取られた一般人です。図にすると以下のようになります。
結局、素子が飛行機で移動してしまったため、フラクトとキリーによる尾行は失敗に終わります。彼らには人海戦術で尾行を完遂するほどのマンパワーは無いようで、そのことをフラクトが嘆いています。
また、社長襲撃で使用した工事ロボットの問題点についても言及されます。先ほど述べた通り、社長襲撃ロボットから敵(飛行船)に対する通信はおこなわれていませんでした。しかし、その安全措置のせいで、数多いロボットのどれから基盤が抜き取られたのか分からない、という問題が生じているようです。「情報セキュリティを堅固にすると身動きが取りにくくなる」というジレンマが垣間見えます。
ミレニアムの出現
この章の最後に、スターバトマーテルのボス・ミレニアムの姿が明かされます。草薙素子に似た外見をしていますね。ここで話を先取りすると、このミレニアムも、荒巻素子と同じく素子同位体の1人です。というより、荒巻素子もミレニアムも、そして今後出てくるスピカも全て素子同位体なのです。つまり、この巻は素子同士の壮絶な内輪もめの物語でもあるわけです。そのことを理解したうえで読み返すと、かなり印象が変わってくるかと思います。
ミレニアムは、先ほど言及のあった「キリー」の元に素子を誘い込み、「毒りんごを与える」ように指示を出します。どうやら素子を相手取った電脳戦の準備をおこなっているようです。素子がスターバトマーテルに到達することは不可避と判断したのでしょう。この2人の戦いが次章で描かれることになります。
この章のまとめ
① ミレニアムがポセイドン社長を襲撃。素子はそれを放置。
② 素子はウイルスを逆探知して、改造ロボットの基盤を入手。
③ 素子は、基盤の調査を電脳探偵アルグリンに依頼。
④ 基盤の調査失敗。ミレニアムの配下が素子を襲撃、尾行。
⑤ 魂合環の霊体が出現。素子に協力を申し出る。
⑥ 社長襲撃の犯人、ミレニアムが姿を現す。
5章に続く・・・
(間違いの指摘募集中)


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