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甘い言葉で誘い搾取? 海外出稼ぎのリアル【育ちの良い人だけが知らないこと 第4回】

「ほら、お前はそういう女じゃないか!出稼ぎに来たんだろう!」

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アメリカやオーストラリアは空港で何人もの女性が出稼ぎ目的だということを疑われ強制送還されている。「それでも行くのであれば、入国対策を堅実に行う必要がある」とエージェントは丁寧に教えてくれた。

「LINEやWeChatの仕事に関するやりとりの履歴は全て削除することは基本中の基本。現地のガイドブックにしおりを挟んでどこを観光したいか聞かれた時に明確にしておくこと。あとはダミーのホテルを予約しておき入国してからキャンセルする」という手段も使うらしい。

それでもあまりにも多い海外出稼ぎ女性のせいで、現在は単身の若い日本人女性というだけで出稼ぎでも何でもないのに疑いをかけられるようになっているという。そのような状況ゆえ飛行機の中で男性をナンパしてカップルだと見せかけて入国した強者もいるらしい。鋼鉄の心臓……。

出稼ぎではなくアメリカにいる彼氏に会うために単身渡米したネイルサロンを経営する千紗さんが、以下のような逸話を話してくれたことがある。

やはり若い女性で単身だったため、空港で別室に送られてスマホを取られて尋問された。
LINEの中身を見られながら質問を受けるが「港区グループ」というギャラ飲み情報が流れてくるLINEグループに言及されたという。

「ほら、お前はそういう女じゃないか!出稼ぎに来たんだろう!」

というように向こうの態度が変わったため

「違う!私はお金をたくさん持ってきてる!稼ぎに来た女ならお金がないはずでしょ!」

と持ってきていた70万円近いキャッシュを掲げ、彼氏とのメッセージのやりとりを見せると納得してもらえたようで、3時間に及ぶ軟禁の末に入国できたという。

2か月で1500万円も可能な王族案件

今回SNS経由で、王族案件に参加したことがある愛美さん(仮名)に取材をした。
愛美さんは現在27歳で、普段はグラビアなどの芸能活動をしている。これまでの海外出稼ぎの経験としては、中国やドバイの富裕層の個人のもとに派遣されたことがある。身バレ防止のため前述したインコール等のシステムのある風俗店に所属したことはないという。

某国(国名は伏せるよう頼まれた)の王族案件は日本のみならず世界中で募集が執り行われた。

以下、実際に拡散されたLINEの文章の一部を紹介する。

1. 15人募集 日本のパスポートが必要です
※18-25 歳 (確認されます)

2. 開始日は ◯月 ◯日

3. 職務内容
パーティーに参加(無い日は自由行動)
笑顔で楽しんでください
※セックス無し
※ドラッグ禁止

4.滞在は 5 つ星ホテルまたはプライベートヴィラ(1 室に 2 人の女の子)

・氏名 
・年齢 
・身長 
・体重 
・スリーサイズ 
・靴のサイズ 
・髪色 長さ 
・瞳の色 
・豊胸の有無 
・国籍 

↑記入と写真を何枚かお願い致します。水着での動画面接あり

イメージ画像:写真AC
イメージ画像:写真AC

このような募集が一時期港区のギャラ飲み女子のLINEグループで共有されると、たちまち黒い噂が広がった。ただ実際に行ったことのある女性は一握りだ。

「25歳以下」「身長165センチ以上」といった年齢や身長の制限があり、選考用に水着を着てウォーキングする動画を撮影し合格する必要があり、なかなかにハードルが高いためである。

愛美さんは王族案件のために某国に半年近く滞在した。
詳しく話を聞いてみたが、どうやら本当に性接待のようなことは一切ないようだ。

「仕事内容は呼ばれた時にパーティーに出て踊ったりお酒飲んだりするだけ。世界中の美女が集まってくるから日本人の枠があるだけでもありがたいです」

――ギャラはどのくらいもらえるのでしょう?

「性的な仕事は一切なしで1日1600ドルが固定給。本当は3000ドル出てるけど、仲介のエージェントが3人入ってお金を抜かれてるのでその金額です。そこにランダムでチップ2000〜20000ドルみたいな感じ。私はまだ見てないけど30000ドルの日もあったらしいです。だから運が良ければ2ヶ月で1500万円くらい稼げる可能性があると思って参加していました」

――パーティーが開催されない日、あるいはパーティーに呼ばれない日は何をするんですか?

「星を眺めたり持ってきた本を読んだりヨガしたりお喋りしたり各々自由でした。ホテルに滞在してるときはスパを受けたりルームサービスでお酒飲んだりということをしてもお金はかかりません。休みでも固定給は出ます」

――どのくらい滞在するんですか?

「最低2ヶ月から好きなだけって感じですかね。もう1年帰っていないと言う女性もいました。エージェントに『お前はもう帰れ』って言われたら帰らなきゃだめですし、到着して数日滞在しただけでパーティーに参加しないまま帰される女性もいましたが滞在日数分のお金はもらえます。帰される子は明らかに身長が小さい子とかですね」

――2ヶ月は絶対滞在しなきゃいけないんでしょうか?もしどうしても1ヶ月で帰りたいとなった場合はどうするんですか?

「最初はそんなこと言っててもこの案件は来たい子が世界中にいて、すごい数の女の子が待機してるくらいなんです。報酬が良すぎて結局みんな帰りたがらないくらいだから、1ヶ月で帰りたいなんて聞いたことない。仮にそんな子がいたら……まぁ帰してはもらえると思うけどもう呼ばれないでしょうね」

――稼いだお金は多額だと思うんですが、どうやって日本に持ち込むんですか?税関に申請するんですか?

「申請するわけない!(笑)現地でそのまま日本に送る送金システムもあって、それには7%の手数料を払う必要があります。私は数千万稼いだ中から7%も払いたくなかったから自力で突破しました。ドルの現金をスーツケースに詰めて、入らない分はその辺で買ったギターの中に詰めて、一緒に帰国する女性と協力しながら裁縫セットを使って着てる服にも縫い付けて。入国だったら厳しかっただろうけど帰国はそんなに厳しくないので突破できました。経由する空港は王族の息がかかってる空港で、ちょっと怪しまれても何とかなるって聞きました」

最後に愛美さんに「紹介するので、かとうさんも王族案件のオーディション受けませんか?」と誘われた。彼女は目を大きくして「パスポートの画像を偽造すれば年齢も何とかなると思います!」と言ったが、私はどう頑張っても25歳以下には見えないし165センチ以上のスタイルを持ち合わせていなかったため、丁重にお断りした。

「動画と写真の面接さえ受かっちゃえば、例え向こうで『ちんちくりんは帰れ』って言われても滞在した日数分のギャラは出るんですよ。タダでプライベートジェット乗れるし、ホテルのスパとかルームサービスも頼み放題なのに勿体ない」としつこく愛美さんが私を引き留めるのは、やはり愛美さんに多額の紹介料が出るからだ。
その額は「1日500ドル×紹介した女性の滞在日数」だというから頭を鈍器で殴られたような思いだった。
そのぶっ飛んだ金銭感覚が庶民と同じところに戻ることはあるのだろうか。

昔から「王様と結婚した〜い」みたいなジョークは耳にするが、王族に本当に会える人生もあるんだなぁということをぼんやり思った。

あまりにも自分の世界や平均的な日本人の生活と乖離していて「虚言だろう」と思う人もいるかもしれないが、自分の知らない世界というのは実は多く存在していて、住む世界が違えば想像の及ばない出来事が広がっているのだ。

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今回取材した愛美さんは、本人が語る通り気楽に大金を稼げたのかもしれない。
しかし詳細を聞くと、スマホを没収され自分が今どこにいるか分からない不安が付きまとっていたらしく、身一つで行う命懸けのギャンブルと変わらないのではないかと思う。

ネットでは行方不明になった女性がいるという注意喚起も広まっており、セックスなしという触れ込みの募集のはずが結局セックスをすることになったという話もある。様々なリスクが存在し、危険な目に遭う可能性は高い。
もしも甘い誘いがあったとしても、真に受けて海外出稼ぎに行くことを私は全く推奨しない。

「そうだったのかもしれない自分」を思う

一口に海外出稼ぎといっても女性の置かれる環境や客となる男性には雲泥の差がある。
同じ海外出稼ぎなのにギャラ、対応、女性の扱われ方、仕事内容など何もかもが違う。
その答えは至極簡単なもので、商品となる女性の容姿や若さの圧倒的な差にある。
世の中ではルッキズムだ何だと唱えられていても、ビジュアルが如実に数字になる世界だ。

そこまで考えて脳が痺れたような感覚に陥り、気がついた。
私たちが生きる現実社会もそんなものではないだろうか。
容姿や肩書きや年収や育ちによって、人の態度は簡単に変わるのだから。

私は、若くて容姿が美しい女性に接する男性と、ファンデーションを厚塗りにした若くない女性に接する男性の態度の差を間近で見てきた。
そしてそれを自分の怒りにも悲しみにも結びつけずに、当たり前のこととして流してきた。

周囲にチヤホヤされた経験があるのは若くて美しい時期があったからで、そこからどんどん老いて美しさを失っていけば、周りの男性もこの世界も今より私に優しくないだろう。
その気持ちを適切に消化することができないまま、諦めに近い気持ちを持ち続けている。

今回エージェントとのDMや王族案件の取材、それらを整理して実際に書いていく過程で、何度も呼吸が浅くなり、息が苦しくなることがあった。
その度、どうしてこれらの事実を見つめるのは苦しいのだろうと自問自答した。
そして今一つの答えが浮かび上がってきた。

「そうだったのかもしれない自分」を思うのだ。

もしかしたら私も、一つボタンを掛け違えれば海外出稼ぎに行っていた可能性が十分あり得た。
家出して上京したばかりの私は東京のアパートの敷金礼金を払ったらほとんど手元にお金は残らなかったし、電車代を浮かせるためにドンキで買った約1万円の自転車でどこまでも移動していた。
初めて住んだ東京の街、方南町から中野、新宿、渋谷へ。どこまでも一生懸命ペダルを漕いだ。

だから出稼ぎをする彼女たちの境遇や存在を深掘りすればするほど、あったかもしれない自分の姿を重ねてずっしりと身体を重くする。

いくつかの選択しなかった方の人生がある。
それは無数の「もしものあの時」を呼び起こさせる。

もし東京で友達ができずに孤独だったら。
もしホストにハマって多額の借金を作っていたら。
もしお金のない夢追い人に恋をして生活を支えなくてはならなかったら。
もしインスタに傾倒して見栄のためにブランド品が大量に欲しかったら。
もし身体を売るということが一番手っ取り早く社会と繋がれる方法だったら。
もし好意のないセックスや身体を売ることに抵抗がなかったら。

頭の中に思い浮かんでは消える「もし」の数は計り知れない。

あったかもしれない海外出稼ぎをしている自分の姿をイメージしては、すぐにそれを葬り去った。

やはり深淵を覗きすぎると良いことはない。

 次回連載第5回は6/4(火)公開予定です。

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新刊紹介

かとうゆうか

1993年生まれ。マーダーミステリー作家。シナリオを担当したマーダーミステリーに「償いのベストセラー」「無秩序あるいは冒涜的な嵐」「ザ キャリーオン ショウ」などがある。共著に「本当に欲しかったものは、もう Twitter文学アンソロジー」。

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