「子育てケアマネなんて要らない!」の声に説明したい。私が子育てケアマネを推す理由
「子育てケアマネなんていらない。それよりも年少扶養控除の復活」
「財源は限られている。優先すべきは直接的なお金の支援だ」
「子育て当事者の私には要らない」
先日、院内集会で「子育てケアマネ」について提言してから、このような声が主催団体のわたしたちに届いています。
わたしたちのメンバーの多くも子育て中の当事者で、年少扶養控除についてはまさにおっしゃる通りで、すぐにやってほしいと思っているところ。実際、事あるごとに永田町に赴き、年少扶養控除の意義を説明し続けたりもしています。
なので、この話を持ち出して「子育てケアマネが不要!」と言われるとそうではなく、両立しうる話だとも思うので、少し聞いていただきたいのです。
(お時間がある方は、集会の動画がYoutubeに公開してますので、ぜひご覧ください。)
なぜ"ケアマネ"が必要なのか
「人は本当に困っている時、助けを求めることができない」
東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センター 西田淳志先生が先日の院内集会で発した言葉です。
妊娠期から産後、育児へと続く時間。あまりにも急峻なその坂道を、多くの親がたったひとりで登っている実情。その結果、虐待の死亡事例、予期せぬ妊娠による出産時死亡事例など、悲しい事例が後を絶ちません。
この事例は極端だ!とおっしゃる方もいるかもしれませんが、皆さん思い返してください。初めての出産の後、あなたはどうでしたか?
・授乳しても何をしても泣き止まない
・うんちの色が緑色! 大丈夫なのかな・・・。
・全然体重が増えない。
・保育園に入れなかったら・・・?仕事に復帰できるだろうか?
・夫が全然家事を手伝ってくれない。寝不足すぎて辛い
・子どもにいくらお金がかかるんだろう?
こどもの事はもちろん、キャリアの不安や経済的不安も抱えていませんでしたか?そして、その相談を誰にもせずに長い間不安と戦い、乗り越えてきたのではありませんか?
あなたと私は助かったかもしれない。でも、それは偶然や奇跡が重なって今を生きている。もしかしたら数々の悲劇の当事者になっていたかもしれないと思うのです。だからこそ私たちは、これ以上悲劇を繰り返したくないのです。
子育てケアマネとは何か?
そもそも「ケアマネ」って、どんな存在でしょうか。これは介護保険制度ではもう20年以上前から当たり前に存在している職種です。正式名称は介護支援専門員。利用者の状態や生活環境をふまえて、「どのサービスを、どれくらい、どうやって受けたらいいか?」を一緒に考え、制度を使いこなすお手伝いをするプロです。
つまり、いきなり役所や福祉施設に行かなくても「とりあえずケアマネに相談すれば大丈夫」という存在。お医者さん、ヘルパーさん、訪問看護師、家族など、バラバラな支援の点を線にしていくコーディネーターの役割を担っています。
私は数年前、子育て+介護のダブルケアだった時代があり、介護保険のケアマネさんに救われたことがありました。
「これ以上、ひとりで頑張らなくていいんだよ」という言葉は忘れられません。あの時、ケアマネさんが居なかったら、私は今を生き延びていなかったと思うのです。
一方、子育ての現場では、これらは基本的に当事者任せであることから、制度を知っているかどうかで支援の差がつきます。加えて、相談窓口は縦割りでバラバラで断片的、そして多くの人が自分の状況を何度も説明し直し…という経験は、子育てに関わった方であれば多かれ少なかれあるのではないでしょうか。
こういった状況を踏まえ「子育てケアマネ」は、妊娠期から出産、育児へと長く険しい坂道で寄り添い、必要な助言と情報を提供し、家庭ごとに合った支援へつなぎ、既存の制度を“使いこなせる”よう支援する専門職とするのです。
これは贅沢でも理想論でもなく、必要不可欠な「インフラ」なのだと考えます。
東京都ではすでに始まっている
実は、東京都の一部自治体(調布市・渋谷区・大田区・墨田区)では、すでに「子育てケアマネ」に相当する仕組みが始まっています。
その名も「アーリーパートナーシップ制度」。これは、特に支援が届きにくいとされる初産の25歳以下の若年妊婦を対象に、妊娠期から伴走し、必要に応じて助産師・保健師・福祉職などとチームを組んで支えるという取り組みです。
この制度では、困ったときに「相談する」のではなく、「困らないように」先回りして信頼関係を築き予防支援することが柱になっています。実際、産後12か月までの「ゆとり度」が改善され、産後うつが半減し虐待のリスクを下げる効果も明らかになっているのです。
つまり、これを全国で、全妊婦へ実装していくというアイディアが「子育てケアマネ」なのです。
ネウボラのある国で、何が変わったか
フィンランドの「ネウボラ」は、まさにこの“子育てケアマネ”の先行事例といえる制度です。妊娠がわかったその日から、小学校入学まで、同じ相談員が継続的に関わり、医療・心理・福祉をつなぐ存在として親子を見守ります。
ネウボラ制度の成果は明白です。フィンランドでは、1944年の自治体への設置義務化以降、虐待死が減少(10万人当たり5.3人 →0.36人)し、現在では、ほぼいなくなったとされています(もちろん、様々な要因があることからこの施策のみで減ったとまで言うつもりはありません)。
実は、日本でも過去「日本版ネウボラ」と言うネーミングの支援があったのですが、名前ばかりでフィンランドの本質的なネウボラの支援が伝わり切らなかった為、多くの人が「ネウボラ」に落胆してしまいました。
そこで、今回私たちは「日本版ネウボラ」では意味が伝わらないと考え、新しいネーミングとして「子育てケアマネ」と名付けたのです。
「子育てケアマネ」は将来的な社会コストを小さくする川上政策
年少扶養控除の復活を支持する方の中には、「子育てケアマネの制度化は財源を食いつぶすのでは?」と危惧する声もあります。
しかし、これまでは川下での事後的対応であったため、下流活動に必死で手が回らずにいました。
さらに言えば、ケアマネ制度には長期的なコスト削減効果も期待できます。虐待やうつ、育児放棄が未然に防ぐことができれば、それに対応する事後処理(医療・司法・児童保護・福祉)の社会コストを減少させる可能性もあります。
“いま”こそ投資すべきは、「つながり」のインフラ
「支援は、困った人が“自分から”声をあげるべき」——私たちは、ついそう考えてしまいます。そして、その声がなかったら必要がなかったのだとも考えがちです。でも、本当に困っているときほど、人は声をあげられない。だからこそ、制度側から手を差し伸べる仕組みが必要なのです。
子育てケアマネは、子育てを家族の自己責任ではなく、“社会全体で支える”という転換点を象徴する仕組みとなるものです。
もちろん、いきなり全国に展開!などということは現実的ではありません。仕組みとしてはすでに類似の事業を導入している自治体での効果検証などを踏まえ、海外事例を単純に横展開というわけではなく趣旨に沿いつつ日本に合った形での導入が行われるべきでしょう。
たとえば、既存の行政サービスの枠組みでの相談支援では一方的に理想像を押し付けられてモヤったという声も多くありました。このようなものがあっても仕方ないというのはまったく同意です。また、制度設計についても介護保険と同じというわけではないので諸々の検討が必要です。
まだこの「子育てケアマネ」と言うコンセプトは産まれたばかりです。
政治家、子育て支援者、子育て当事者、研究者など、みんなでどのような仕組みにしていくのか?現金給付と現物給付の両輪のバランスを見つつ、議論し、よりよい「こどもまん中」の実現を目指していきたいと考えています。


コメント
4丁寧にご説明ありがとうございます。インフラ的に支援ができることで助かる妊婦さんが多くいることは理解できます。年少扶養控除の復活や社会保険料の負担減と必ずしもトレードオフだとは思いませんが、やはり実現可能性や優先順位の話なのでは、と思います。
これまでも子育て当事者の声を国に発信いただいたり選挙でも子育て政策の重要性を可視化していただいているなかで十分ご認識されていることと思いますが、ケアマネのあるなし以前に、手取りの余裕がないからそもそも結婚・妊娠/2人目以降の出産を諦めている方々も多いのが現状ではないですか?既にケアマネのことが具体的に話が進んでいるように「見えている」から優先順位は?となるんだと思います。
上記の議論はその場ではされていたのか、などは発端の勉強会のポストからは全く見えなかったしその後も触れられもしないので世間の声として不満が爆発してるんじゃないかと思いました。
必要なんだ!の内容よりもそのあたり丁寧に説明いただいた方が感情的には反発されないのでは?と思いました。
引き続き子育て世代のリアルな声を拾い届けていただけると幸いです。応援しております。
読みました。政策の必要性の順位としては下の方です。他の重要課題を実現してからにしてください。つまり現状では予算つけるようなものではありません。不要です。
まず最初に、「実際、事あるごとに永田町に赴き、年少扶養控除の意義を説明し続けたり」とありますが、こども家庭庁の議事録等ではそのような記録はなさそうです。
どの会議で発言し記録が残っているかを示してください。
皆さんも確認してみてください↓
https://www.cfa.go.jp/search#/?ajaxUrl=%2F%2Fmf2apg02.marsflag.com%2Fcfa__all__customelement%2Fx_search.x&ct=&d=&doctype=all&htmlLang=ja&imgsize=0&page=1&pagemax=10&q=%E5%A4%A9%E9%87%8E%E5%A6%99&sort=0
また、記事を読みましたが、適宜相談できる「保健士」がいれば不要です。助けの声が無くても助けるというのは、無駄が多いことになります。
そして、文中にある「既存の行政サービスの枠組みでの相談支援では一方的に理想像を押し付けられてモヤった」というのはまさに勝手なケアマネの押し付けで起きることです。
虐待死を減らしたいなら、児童相談所を強化したり、共同親権の推進でよいですね。