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「破壊衝動」にあふれていた昭和の特撮 「国会議事堂」崩壊で拍手喝采も?

街を破壊する怪獣に感情移入した子供たち

1961年の映画『モスラ』では、折られた東京タワーに巨大な繭が作られるシーンが描かれた。画像は『モスラ』 [東宝DVD名作セレクション](東宝)
1961年の映画『モスラ』では、折られた東京タワーに巨大な繭が作られるシーンが描かれた。画像は『モスラ』 [東宝DVD名作セレクション](東宝)

 日本の高度経済成長が落ち着いた1975年に公開されたオリジナル版『新幹線大爆破』は、猛スピードで走る新幹線がモンスター化してしまうパニック映画でした。振り返ってみると、日本の特撮映画や特撮ドラマは、怪獣たちが街や巨大な建築物を破壊するシーンが見どころとなっていました。

 怪獣映画の金字塔『ゴジラ』では、戦後復興を遂げた東京をゴジラは壊滅させた上に、国会議事堂も粉々にしてしまいます。当時の国会は政治家や官僚の贈収賄問題で揺れており、国会崩壊シーンに観客は喝采を送ったそうです。『空の大怪獣 ラドン』(1956年)では福岡市の繁華街がラドンの翼の風力によって吹き飛ばされていく様子が、ディテール豊かに描かれています。『モスラ』(1961年)ではモスラの幼虫が、東京タワーをへし折って巨大な繭を作るシーンに息を呑みました。

 精巧さを極めたミニチュアの街や建造物が一瞬で破壊されるシーンに、昭和の子供たちは奇妙な興奮を覚えました。これは「破壊衝動」と呼ばれるものです。学校に通い始め、社会の規律を覚え始めた子供たちは、実生活で暴れることができない代わりに、怪獣たちに感情移入し、街の破壊シーンに歓喜していたように思います。

 特撮と破壊衝動は、切り離せない関係にあります。

日本の特撮ドラマに顕著な「変身願望」

 日本の特撮ドラマには、「変身願望」を叶える作品が多いことにも気づきます。『ウルトラマン』や『仮面ライダー』(毎日放送)などの変身ヒーローに、子供たちは大いに憧れたものです。

 日本のヒーロー番組の原点は、1958年~59年にラジオ東京(現在のTBS)で放映された『月光仮面』です。サングラスに白いターバンを巻いた月光仮面のモデルは、原作者の川内康範氏によると極真空手の創始者・大山倍達氏だったそうです。若き日の大山氏が、終戦直後に不良米兵たちと闘う姿からインスパイアされたと言われています。

 破壊衝動と変身願望。日本の特撮映画、ならびに特撮ドラマには、敗戦後の焼け野原から復興を遂げた日本人の原風景と潜在意識が投影されているように思えるのです。特撮の歴史は、日本の戦後史と密接に関係しているのではないでしょうか。

(長野辰次)

【画像】えっ、こんなもんじゃない? これが怪獣たちに壊された日本の建築物たちです(6枚)

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