独占取材:アニメ特化型のAI動画生成ツール「Animon.ai」は、個人のクリエイティビティを解き放つのか

AIを用いて画像や動画を生成する技術が注目されるなか、アニメに特化した日本発のツール「Animon.ai」が発表された。このツールは個人のクリエイティビティを解き放つのか、それとも著作権にまつわる新たな問題の引き金になるのか。米国の親会社のCEOが、『WIRED』の独占インタビューで真意を語った。
日本発のアニメ特化型AI動画生成ツール「Animon.ai」は、個人のクリエイティビティを解き放つのか
Photograph: Wired Japan via Animon.ai

イラストをアップロードしてテキストで指示するだけで、アニメが生成される──。そんな新しい生成AIツールが発表された。日本企業のアニモンドリームファクトリーが提供するアニメ特化型の動画生成プラットフォーム「Animon.ai」である。アニメに特化したAI動画生成ツールは、アニモンドリームファクトリーによると「世界初」だという。

人工知能(AI)を用いたアニメ画像や動画の生成は、人気アニメスタジオの作風に似たものが出力される可能性があるなど、著作権をめぐる課題が指摘されている。こうしたなか始まった新サービスは、さらなる議論を巻き起こすかもしれない。

イラストにテキストを組み合わせてアニメを生成

Animon.aiは月額9.9ドル(約1,400円)からのサブスクリプション方式で、利用者は回数に制限なく動画を生成できる。無料版も用意されるが、生成される動画の長さが5秒に制限されて画質が抑えられ、右下にロゴが埋め込まれる。まもなく提供予定の制作プロダクション向けプランはHD画質に対応し、制限なく動画を連続生成できるようになる見通しだ。

動画を生成するには、“素材”となるイラストやCGをアップロードする必要がある(写真は利用できない)。そのうえで、生成したい動画の内容を指示するプロンプトをテキストで入力して生成ボタンを押すと、アニメーション動画となって出力される。

生成AIでは不適切なコンテンツの生成が問題になりがちだが、Animon.aiにはフィルタリング機能が搭載されているという。これにより、「政治的なコンテンツや不適切な表現を防ぐ仕組みになっています」と、アニモンドリームファクトリーの最高経営責任者(CEO)で親会社であるCreateAIのCEOでもあるチェン・ルー(呂程)は説明する。

動画生成の基盤となるAIモデルには、中国のアリババクラウドがオープンソースで提供している「通義万相(Wan)2.1」をカスタマイズして利用している。アニモンドリームファクトリーの親会社であるCreateAIは、アニメに特化した独自のオープンソースモデル「如意(Ruyi)」の開発を進めており、近く登場する新バージョンがAnimon.aiにも実装される見通しだ。

「Animon.ai」を発表したアニモンドリームファクトリーのYouTube動画。

トラックの自動運転技術から事業転換

Animon.aiを提供するアニモンドリームファクトリーは、登記上の本社が熊本市にある日本企業で、主要な拠点は東京都世田谷区にある。親会社のCreateAIは米国企業で、かつてトラックの自動運転技術を開発していたTuSimple(トゥーシンプル、中国名は図森未来)として知られていた。

2015年に創業したTuSimpleは、トラックの自動運転技術の実用化が難航して業績が悪化し、ナスダック市場で24年1月に上場廃止となった。その後、CreateAI Holdingsに社名を変更し、生成AIを用いたアニメやビデオゲームの制作へと事業転換を発表している。

TuSimpleのウェブサイトを開くと、生成AIを用いたコンテンツ制作への事業転換についての説明が表示され、CreateAIのウェブサイトに移動するよう促される。

TuSimpleのウェブサイトを開くと、生成AIを用いたコンテンツ制作への事業転換についての説明が表示され、CreateAIのウェブサイトに移動するよう促される。

Photograph: Wired Japan via Creativeai

「わたしたちがもつAIの技術をいかにグローバル市場に応用し、どれだけ早期に参入できるかを考えました」と、CEOのルーは語る。「AIは非常に急速に進歩しています。そしてビデオゲームとアニメの市場は規模が大きくグローバルですし、わたしたち自身もアニメやビデオゲームのファンです。つまり、グローバルであり、わたしたちの技術とノウハウが役立つ市場なのです」

12月にCreateAIが発表した事業計画書によると、「マクロス」シリーズで知られるアニメーション監督の河森正治や日本のアニメ制作会社の白組と協力し、生成AI技術を用いたSF作品のアニメ化などを進めているという。すでに動き出したプロジェクトとして、中国のSF作家である劉慈欣の長編SF小説『三体』シリーズを基にした長編アニメ映画とビデオゲームの制作のほか、「金庸群侠伝」のオープンワールドRPGゲームの開発が明らかになっている。

CreateAIがアニモンドリームファクトリーを日本に設立したのは、こうした動きとも重なる2024年6月のことだ。その狙いのひとつは、日本のアニメ制作のノウハウをアニメ生成AIの技術開発に生かしていくことにある。「日本はアニメの本拠地であり、わたしたちはとてもリスペクトしています」とCreateAIのルーは前置きしたうえで、次のように語る。「アニメの最前線で一流のスタジオと協力することで、アニメ制作の課題やプロセス、そしてどうすれば優れたツールを構築して制作を支援できるのかについて、さらに深い理解を得ることができると思います」

「Animon.ai」のトップ画面。画面左上に「くまモン」のイラストが配置されているが、「本社が熊本にあることで使用の許諾を得ている」とアニモンドリームファクトリーは説明している。

「Animon.ai」のトップ画面。画面左上に「くまモン」のイラストが配置されているが、「本社が熊本にあることで使用の許諾を得ている」とアニモンドリームファクトリーは説明している。

Photograph: Wired Japan via Animon.ai

倫理的な課題にどう向き合うのか

一方で、生成AIは著作権の問題と背中合わせともいえる。最近もOpenAIの「ChatGPT」に実装された画像生成機能において、“スタジオジブリ風”のイラストを生成できることが話題になり、波紋を広げた

CreateAIのルーはAIモデルの学習データに「購入したデータや自分たちのプロジェクトでつくられた高品質なアニメなども使用している」と説明するが、ユーザーがアップロードするイラストを基に動画を生成する仕組みであるがゆえに、同じような問題が起きることは確実だろう。実際にAnimon.aiを試してみた限り、“○○風動画”を生成できてしまうことが確認できた。

こうした問題について、日本では法的にどう扱われるのか。文部科学省の中原裕彦文部科学戦略官は4月16日の衆院内閣委員会での答弁において、生成AIを用いて“スタジオジブリ風”の画像を出力する行為について、「単に作風やアイデアが類似しているのみであれば著作権侵害には当たらないとされております」と説明している。つまり、日本の著作権法は「創作的な表現に至らない作風やアイデアを保護するものではない」という解釈だ。

アニモンドリームファクトリーやCreateAIも、こうした点を認識しているようではある。「いまの日本の法制度は(生成AIにとって)好都合なものではあると思います」と、CreateAIのルーは言う。「とはいえ、もちろん時とともに(状況は)変化するでしょう。法的な枠組みが変わるかアーティストからのフィードバックがあれば、もちろん尊重しなければなりません」

一方で、こうした倫理的な問題については、ユーザー側の使い方にもよるのだと指摘する。「Animonはプラットフォームを提供していますが、独自のコンテンツをつくっているわけではありません。ユーザーがツールをどのように使うかによるところが大きいのです」と、ルーは言う。「わたしたちは人々に創造する自由をもたらしたい。重要なことは、ユーザーがそれをどのように使うのかを明確にし、著作権の問題が起きるようにすべきではないと知ってもらうことなのです」

「Animon.ai」に投稿されたサンプル動画のひとつ。1枚のイラストとプロンプトを組み合わせて生成されたとみられる。

「Animon.ai」に投稿されたサンプル動画のひとつ。1枚のイラストとプロンプトを組み合わせて生成されたとみられる。

Photograph: Wired Japan via Animon.ai

アニメ産業への影響に懸念も

生成AIを用いた動画の生成は、OpenAIが2024年2月に「Sora」を発表して世界に衝撃をもたらしたことが記憶に新しい。そこから約1年で技術は急速に進歩し、いまではさまざまな動画生成ツールが提供されている。

こうしたなかCreateAIはアニメに特化することで差異化を図り、「コンテンツの開発コストと期間を5年以内に70%削減する」との方針を打ち出している。そのためのツールも提供していくことで、優れたコンテンツを効率よく制作できる環境づくりに貢献したい、というわけだ。

「アニメ業界に貢献し、感謝の気持ちを示したいと考えています」と、ルーは言う。「わたしたちのツールの将来の機能に関するノウハウは、すべて日本から来ています。だからこそ、わたしたちは日本のアニメ文化を高めていきたいのです」

しかし、生成AIの普及がアニメ産業の雇用に影響をもたらす可能性もあるはずだ。この点は、CreateAIのルーも認めている。

「AIが非常に優れた画像を生成できれば、絵を描くことでキャリアを築く人は確かに少なくなるかもしれません。一方でアニメ業界の労働環境は厳しく、人手不足が深刻化しています。(ツールを提供することで)制作サイクルを短縮し、効率を高めて供給を増やすことができるでしょう。人がより創造的になって新しいことを試せるようにもなるはずです」

スマートフォンのカメラが多くの人を“フォトグラファー”に変え、TikTokはショートビデオという新たなコンテンツの地平を開いた。「これからは、おそらく個人がアニメを制作できる時代がやってくるでしょう。そして制作した作品の対価を受け取ることさえできるのです」と、ルーは言う。

そうした時代に向けて“アニメ版TikTok”のようなプラットフォームを提供し、個人のクリエイティビティを解き放つ──。そんな時代を、ルーは見据えているようだ。「わたしたちはこの分野での次世代の主要なプレイヤーになりたいと考えています。そして、アジアの文化とコンテンツがよりグローバルなものになっていく後押しをしていきたいのです」

一方で、生成AIという新しい技術にまつわる著作権の問題や倫理的な課題は山積しており、こうした問題とAnimon.aiも無縁ではない。「新しい技術はすべて倫理的な問題をもたらします。特にAIのような重要な技術は倫理的な問題をもたらすでしょう。ですから、わたしたちはオープンに話し合う必要があるのです」と、ルーは語っている。

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