pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
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「ねぇ……最近、悠仁と日車さんって仲良くない?」
報告書を書いた後に駄弁っていた夕方の教室で、ココアの缶を手の中で弄びながら五条先生がおもむろに言う。
日車、という名前に、机についていた手が無意識にぴくりと動いてしまった。まさか今ここで日車の話が出るなんて、思わなかったから。
俺が何か言うより先に、近くで机に軽く腰かけていた釘崎が「あ」と声を上げた。
「私もそれ思ってた。アンタやけに親しいわよね」
釘崎にも言われて、うーん、と首をひねる。
確かに親しいといえば親しいかもしれない。というか、そうだったら嬉しい……いや、かなり嬉しい、けれど。
いつも貼り付けたような無表情の三白眼を思い出して、ふ、と自然に顔が緩んだ。
「仲良いっていうか、俺が勝手に絡んでるだけかもだけど、日車ってめっちゃ話合うし楽しいんだよね」
日車と俺は、誰にも内緒で定期的にちょっとだけ悪いことをする。
少し疲れた顔をしてる日車と任務が一緒だった日に、俺が無理やり深夜の家系ラーメンに誘ったのが最初だったと思う。(深夜のラーメンってほんと罪深い!)
それが思いの外お互い楽しくて、任務の後は必ず何かやるようになって、その内連絡を取り合って任務が一緒じゃない日もちょくちょく会うようになっていた。
内容はなんてことない、本当にちょっとしたこと。
任務後の散歩だとか、深夜に唐突に誘うレイトショーだとか、雨の日なのに傘を差さずに歩くとか、俺は制服で日車はスーツで全力でバドミントンをするとか。
2人のちょっとした反抗期で、日常から離れるためのちょっとした言い訳みたいなものなのかも。
日車はいつも無表情で、でも最近は徐々に何を考えているのか分かってきた。時々本当にわからんけど。
いつもの様子を思い浮かべていると、机に浅く腰かけたまま長い脚を組み替えた五条先生がじいっと俺の顔を見つめる。何か探るみたいな仕草に、きょとんとして見返した。
「あの人があんなに喋るところ、悠仁以外で見たことないよ」
「え、日車って結構喋んない?」
ああ見えて意外だよな。と笑えば、今まで本に目を落として黙っていた伏黒が、椅子からじ、とこちらを見上げた。やっぱり五条先生と同じ、どこか探るみたいな目で。
「……むしろ無駄口きかないタイプだろ」
「私も、任務で一緒になってもほとんど話すことないわね」
「僕に至ってはほぼ任務被んないし。……ねぇ、2人でいつもどんな話してるの?」
3人の何か探るような視線が一斉に突き刺さり、首を傾げる。
ぽり、と頬をかきながら、日車との会話を思い出す。そういえば、普段どんなこと話してたっけ? 色々話したことが多すぎて、こういう時になると逆に思い出せない。
「えー? 何って言われても……どこのラーメン屋が美味かったとか、仕事大変だったとか……この前任務のあと遊びに行ったりして、めちゃ楽しかったよ! なんなら今日もこのあと……あ!」
言いかけて、待ちわびたスーツ姿が開いた教室の扉の向こうに見えて、腰かけていた机から降りる。あの姿は間違いない。間違えるはずもない。
「日車ー! おっつかれー! 用事終わったー?」
廊下まで聞こえるように呼びかけると、気付いた日車が教室の入口まで来てくれた。
駆け寄って、おつおつ、と気安く手を上げた俺の意図に気付いて、鞄とコートを持つ逆の手でハイタッチに応えた。ぱし、と軽い音。
最初は手を上げても不思議そうに見ているだけだったのに、最近ハイタッチ待ちしてることに気付いてからは応えてくれるようになった。
無表情のくせに律儀に返してくれるのが嬉しくて、つい毎回やってしまう。
嬉しい気持ちのまま大きな手を握りしめてぶんぶん振り回しても、何も言わずに好きにさせてくれる。いつもながら塗り固めたような無表情で、でも嫌がる素振りはない。
節くれだつ少し体温の低い大きな手は、むしろ軽く握り返してさえいる。ほんのわずかな力だけど、それが何より嬉しかった。
「ああ、用は今終わった。……お疲れ様です」
目線をすいと俺の後ろにやって、五条先生達に呼びかける声に俺も教室を振り向けば、やけに堅い表情で3人がじっとこっちを見ていた。
「はいどーも、お疲れ様でーす」
五条先生が代表するように感情の見えない声で言えば、2人も軽く会釈を返した。
どこか距離感のある対応に一瞬首を傾げたけど、そういえばさっき日車と話したこと少ないって言ってたもんな。そりゃ他人行儀にもなるか。
ところで、と日車が俺を見下ろす。セットされた前髪がひらりと一筋落ちてきていた。
「君の用事は済んだのか」
「うん、俺はもうなんもないよ!」
任務終わって、報告書書いて、日車待ってただけ。
言えば、無表情でそうかと頷く。
「待たせたな」
俺が握ったままぶらぶらさせていた手を解いて、頭をそっと撫でられる。
優しく、花か何かにでも触るみたいなその仕草は、俺のお気に入りだ。最近仲良くなってきて、日車がたまにやるようになった。
ふふ、とくすぐったさに笑う。
「ううん、待ってるのも楽しいって。 今日もバッセン行く?」
前にバッセンに誘って以来、日車とは結構な頻度で行くようになっていた。
多分だけど、結構気に入っているはず。直接言葉で聞いたわけじゃないけど、フルスイングしてる日車は、無表情ながらいつもよりちょっと雰囲気が楽しそうだから。
「いや、俺の用事で待たせたからな。今日は君の行きたい場所がいい」
「え、ほんと? じゃあ今日はダーツ行きたい!」
実は前から行きたかったダーツにここぞとばかりに誘ってみると、1つ瞬きをしたあとに頷いてくれた。
腕にかけていた細身のコートを羽織り、黒く上品に光る鞄を持ち直す。いつものよそ行きで隙の無い日車の完成だ。そして、行こう、という合図。
「俺はやったことがないが、教えてくれるか」
「応! 日車ダーツ似合いそうだし上手そう」
なんせバッセンもビリヤードも卓球も、俺の動きを見ただけで何でも器用にこなしてしまうのだから。
ダーツなんて一瞬で出来るようになるだろうな、という予感にニヤニヤする。
ではお先に、と教室にいる3人に会釈した日車に習って俺も皆を振り返った。
「みんなまた明日な!」
伏黒と釘崎は曖昧に頷いて、五条先生はどこか呆然とした様子で一応手を振ってくれた。
少し様子がおかしい気がしたけど、もしかして皆も日車と遊びたかったんだろうか。
日車を独り占めできないのは少し残念だけど、次は誘ってみようか。
廊下の向こうから虎杖の笑い声が聞こえなくなって、しん、とした教室で、釘崎が呆れと苛立ち交じりに、はーっと大きく息を吐いた。
「……あの人っていつも自分のこと【私】って言ってなかった?」
虎杖の前だと【俺】って言うのね。どんだけ親しいのよ。
イライラした様子を隠しもせず、腕を組んで2人が消えたドアを睨む。綺麗に色の添えられたコーラルピンクの唇が、気に食わない、と言うように歪んでいた。
伏黒も小さく頷いて、もはや読むポーズだけだった本を畳む。
「あんなに話すところ、初めて見た」
「……ていうか」
つんと唇を尖らせた五条が、一度ぐっと奥歯を噛み締めたあとに、ガタンと大きな音をたてて机から立ち上がった。
「なんであの2人あんなに仲良いの!? おかしくない!? 悠仁は僕と仲良くすべきじゃない!?」
だって担任の先生だし! グッドルッキングガイだし!
急に銀髪をかきむしりながら喚きだした五条を見て、伏黒があからさまに面倒そうに顔を歪める。
「落ち着いてください」
子どもじゃないんですから。
吐き捨てるように言った伏黒に、釘崎がぴしりと指をさして、ニヤリと質の悪い笑みを浮かべた。
「でも、どーせアンタも気に食わないんでしょ?」
「おい、俺はそんなんじゃ……」
「次見つけたら絶対邪魔しちゃおう。僕から悠仁取ろうだなんて100年早いよね」
ブツブツと2人を邪魔する計画を立て始める五条に、同じく不服そうな釘崎は乗り気のようだ。
伏黒が小さく息をつきながらさり気なく窓から外を見れば、何も知らない虎杖がスキップする勢いで日車の前に回り込んで顔を覗き込んで笑う様子が見えた。何も知らない日車も、無表情を僅かに緩ませて虎杖の頭をくしゃりと撫でている。
まだ寒い2月の風に乗って、虎杖の笑い声が微かに教室まで届いていた。
日→←虎だけど、まだお互いうっすらと恋の予感を感じてるくらいの関係性です。
「どう見ても恋愛のテンションだろ」とは伏黒談。