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「新幹線大爆破」世界2位発進の大ヒットに学ぶ、日本映画の秘められた可能性

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
Netflix映画「新幹線大爆破」(出典:Netflix)

Netflixで23日に公開された映画「新幹線大爆破」が、早速大きな話題になっています。

日本では24日午後9時からX上で感想を投稿し合う「ウォッチパーティ」が開催され、監督や俳優陣がX投稿をリアルタイムでした結果、ライブ動画が13万回以上の表示回数になるなど大きな盛り上がりを見せていたようで、当然のようにNetflixの日本の映画ランキングでは1位に入っています。

さらに、興味深いのはランキング集計サイトの速報値を見ると、既に「新幹線大爆破」が日本だけでなくタイやマレーシアなど7カ国で1位に入っているほか、80カ国以上の国や地域でトップ10入りしており、Netflixにおける世界の映画ランキングで2位に入っている点です。

(出典:Flixpatrol)
(出典:Flixpatrol)

まだNetflix側から正規のデータは発表されていませんが、おそらく週間のランキングにおいても、トップ3入りは間違いない勢いと言えるでしょう。

今回の「新幹線大爆破」の世界ヒットに、日本の実写映画のさらなる可能性が見えてきたと言えますので、ご紹介したいと思います。

1975年版の映画のリブート作品としての大ヒット

今回の映画「新幹線大爆破」は、50年前の1975年に公開された同名の映画「新幹線大爆破」のリブート作品として企画された映画になります。

Netflixの日本製作の映画の大ヒットといえば、昨年の映画「シティーハンター」の大ヒットが記憶に新しい方も多いかと思います。

参考:鈴木亮平「シティーハンター」の世界ヒットに学ぶ、韓国に20年遅れた日本の勝ち筋

「シティーハンター」は、非英語映画における週間グローバルTOP10で初登場1位を記録し、世界32の国と地域での週間TOP10入りを果たしていましたが、「新幹線大爆破」はそれに匹敵するどころか上回る勢いの盛り上がりを見せていることになります。

「シティーハンター」が、原作であるマンガやアニメを通じて既に世界中にファンがいる作品であることを考えると、リブート作品とはいえ「新幹線大爆破」がここまでのヒットになるのは快挙と言えるでしょう。

日本の映画会社は乗っからなかった

1975年版の「新幹線大爆破」も、製作した東映としても過去最大の金額と言われた制作費5億3000万円を投じた意欲作でした。
しかし、宣伝の失敗などもあり国内の興行が3億円と伸び悩んだ一方で、海外では大ヒットしたという経緯がある映画です。

(出典:東映ウェブサイト)
(出典:東映ウェブサイト)

そういう意味では、今回の「新幹線大爆破」も海外でヒットするのはある程度予想できたのではないかと考える人も少なくないかもしれません。

ただ、興味深いのが今回の「新幹線大爆破」がNetflixで製作されるようになった経緯です。
樋口真嗣監督が、映画の配信開始前にAV Watchに寄稿したコラムの中に興味深い記述があります。

こんな手間ばかり食うだけでなく人心を惑わす不埒で罰当たりな企画を面白がってやりましょうと乗っかってくれるような日本の映画会社は一つもなかったんですよ!

参考:まもなく発車ベルが鳴りますよ!Netflix映画「新幹線大爆破」アトモス鑑賞よろしくね!!

樋口監督が、どこまで本気で日本の映画会社に企画を提案されたかは詳しくは分かりませんが、この記述を見る限り「新幹線大爆破」のリブート企画に乗っかろうとする日本の映画会社は一つもなく、唯一手を挙げたのがNetflixだったということが想像できます。

 

Netflixだからこそ実現した「新幹線大爆破」

なにしろ、実は1975年版の「新幹線大爆破」は当時新幹線を運行していた国鉄が映画のタイトルに難色を示し、撮影に協力しないどころか、激しい抗議や上映中止要請までされたと報じられています。

日本の映画会社としてもこの企画が本当に実現可能なのかどうか、疑う人が多かったということかもしれません。

しかし、樋口監督がNetflixという強力なパートナーを得たことで、「新幹線大爆破」は無事に日の目を見ることになります。

しかも、この作品が非常に印象的なのは、国鉄に抗議された1975年版とは全く異なり、JR東日本が「特別協力」として全面的に協力している点です。

その関係で、今回の「新幹線大爆破」では、これまでの映像作品では見ることができなかったような様々な新幹線の映像が、これでもかこれでもか、という勢いで出てくるのです。

なにしろ新幹線といえば、毎日のようにたくさんの車両がひっきりなしに走り続けている路線になります。
今回、その路線の中に映画撮影用の特別な車両を、最終的に7往復も走らせて撮影を行うことで、今回の作品を完成することができたといいます。

様々な関係者の思いがつながって完成することができた作品と言えるでしょう。

 

Netflixが構想の風船を割らなかった

さらに興味深いのは、樋口監督が別のインタビューで語っている、Netflixの作品に対する姿勢です。

基本的に、俺個人は監督として、「あれをやりたい」「これをやりたい」という話を、風船のように膨らませます。
でも制作過程で、その風船の9割は割られていくわけですよ(苦笑)。これまでは、その残りでどう満足してもらうかを考えてきたわけです。
ただ、(構想の風船を)割る、という選択肢をネトフリが持ってなかった。

参考:『新幹線大爆破』はこうして生まれた。発想の風船を「割られなかった」理由とは

つまり、樋口監督がやりたいと考えていた発想の風船を、Netflix側が割らなかったからこそ、今回の「新幹線大爆破」は樋口監督自身も胸を張って世に送り出せる作品として完成したと言うことが言えるわけです。

ここで、改めて注目したいのは、日本の実写映画の可能性です。

今回「新幹線大爆破」が証明してくれたように、日本人の監督、日本人の俳優陣が作り上げた映画でも、世界中の視聴者が楽しんでくれることが明確になっています。

もちろん、今回の映画はNetflixがいたからこそ実現した映画であり、Netflixの予算やネットワークがあるからこそ、世界中の視聴者に満足する作品になったことは間違いありません。

ただ、今回改めて感じるのは、今回の「新幹線大爆破」のリブートのような大きな挑戦に、日本の映画会社がなかなか踏み切れなかったり、踏み切ったとしても監督の発想の風船を割ってしまって、作品を理想的な形で完成できていない点こそが、近年の日本映画界の最大の課題だったのではないかということです。

日本の実写映画にはまだまだ秘められた可能性がある

もちろん、日本の映画会社も、既にその可能性に気づいて新しい挑戦を始めています。

その象徴の一つと言えるのが、昨年、アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した「ゴジラ ー1.0」のアメリカにおけるヒットでしょう。

その際も、東宝が米国における配給を自ら構築するなど、本気で海外への挑戦を実施したことが成功の背景の一つにあると言われています。

参考:世界100億突破でシン・ゴジラ超え。「ゴジラ ー1.0」の快挙は日本の実写作品復活の狼煙になるか。

まだまだ日本の映画業界関係者の中では、日本が世界に通用するのはアニメだけだと諦め気味に語る声が聞こえることも少なくありません。

ただ、今回の「新幹線大爆破」の世界ヒットの経緯を振り返ると、日本の監督が日本の俳優陣と作る映画でも、構想の風船を割らずに挑戦することができれば、世界で大きくヒットする可能性がまだまだ眠っていることが分かります。

まだ「新幹線大爆破」は配信が開始されたばかりですし、これからさらに世界中で様々な話題を巻き起こしてくれることになると思います。

今後Netflixはもちろん、日本の映画会社からも、こうした大きな実写映画の挑戦が増えてくることを期待したいと思います。

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ありがとうございます。
noteプロデューサー/ブロガー

ベスト エキスパート受賞

2024

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