「SNSで反発招く…」北原みのりさんの講座、港区が講師の変更要請
性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」をテーマとしたボランティア団体の講座をめぐり、会場となる東京都港区の区立男女平等参画センターが「SNSで反発を招く可能性がある」として、講師や内容の変更を団体側に求めたことが関係者への取材でわかった。団体側は講師の変更を余儀なくされたとして、「表現の自由が尊重されなかった」と反発している。
講座を企画したのは、性暴力被害者の支援に取り組む「東京・強姦(ごうかん)救援センター」の学習部会「平等研究会」。男女平等参画センターを利用する団体が成果を発表するイベントが6月末に予定されており、その一環でフラワーデモをテーマとして、作家の北原みのりさんを講師とする講座の開催を決めた。
男女平等参画センターは指定管理者制度を導入し、学童や児童館などを手がける「明日葉」(本社・港区)が管理・運営を担う。区によると、センターの職員と有識者が今年1月、審査会を開き、講師や講座の内容について確認したという。
過去の発言とりあげ、「批判を招いた」と指摘
センターや団体によると、審査会後、北原さんの過去の発信に対するSNS上の反応をふまえ、センターが団体側にメールで「講師の変更を検討していただきたい」と求めた。
理由として北原さんについて、LGBT理解増進法をめぐる記事や、虚偽の性被害の告訴をしたとして公判中の群馬県草津町の元町議に関する言動をとりあげ、「批判を招いた」と主張。そのうえで「執拗(しつよう)な質問や会話を求める来館者や、ネット上で指摘が広がる可能性が懸念される」と説明したという。
団体によると、1週間以内に回答するよう求められ、時間がなかったこともあり、講師を差し替えてテーマ名からフラワーデモを削除したという。団体の担当者は「SNS上で非難する顔の見えない人を恐れて、講師を不適任としたことは納得できない」と訴える。
北原さんは「言論の封じ込め」と主張
北原さんも取材に対し、「行政がSNSでの批判を理由に言論を封じ込めていいのか」と主張。昨秋、女性の悩みを技術で解決する「フェムテック」をテーマに都内の市営施設で講演した際は、主催者から懸念は示されず、来場者から執拗に質問を受けることもなかったという。「ネット上で対立する意見について、リアルに話し合える空間をなくすと言論が萎縮していく」と話す。
一方で、男女平等参画センターの担当者は「メディアへの露出も多い北原さんを講師に招き、講座自体がSNSで意見対立を招いたり、反対意見を持つ人が来場したりした場合、団体だけでの対応は難しいと考え、内容の見直しをアドバイスした」と話す。
港区の清家愛区長は24日の記者会見で、「自由な言論を萎縮させる空気を生んでしまったことについては、関係者におわびしたい」としつつ、「(表現の自由を規制する)趣旨はない」と釈明した。
表現の自由に詳しい立命館大学法科大学院の市川正人特任教授(憲法学)は「市民の表現活動の場をつくっておきながら、そこでの表現活動に行政が口を出すとなると、次第に行政にとって都合の悪い表現はさせない場となりかねない。表現の自由を保障する観点からすると、発表を予定している団体の表現活動は基本的に認めないといけない」と指摘。「イベント全体が暴力的に損なわれる可能性があるという具体的な恐れがあれば話は別だが、SNSでの反発への懸念といった不確実な杞憂(きゆう)に基づいて講師変更を求めたことは問題だ」と話す。
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- 【視点】
近年、SNSで猛威を振るっている「キャンセル・カルチャー」はリベラルや左派の専売特許でもなんでもなく、右派や保守派の側も利用することが十分に可能ということですよね。これらの運動がしばしば軽視しがちな、「言論の自由」や「手続き的正義」の大切さをあらためて感じさせてくれる記事です。
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