「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。
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坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。
昨年の秋、久々に一人旅に行きました。初日は岡山県に行き、倉敷市の古い町の面影が残る道を歩いて大原美術館を訪ねました。とくに印象に残ったのは中山巍(たかし)という岡山出身の画家の絵でした。横笛を吹く少年の絵の前で私は立ち止まり、しばらく見つめると、貧しい身なりの少年が奏でる音色に周囲の空気が美しい色になってゆくのが伝わり、私は癒され、心の中で〈この絵の中の少年とも旅の出会いなのだな...〉と呟きました。
旅の三日目は岡山在住で私が敬う作家・遠藤周作の文学の研究者・山根道公(みちひろ)先生に車で案内していただき、かつて遠藤周作の母方の祖先が暮らしたという美星町に行きました。夕刻に人里離れた山の草が茂る道を登ってゆくと、そこは遠藤周作の祖先の竹野井氏が主であったお城の跡地でした。叢を掻き分けて進むと「小笹丸城 遠藤周作」と直筆の字で掘られ、夕日に照らされた石碑が姿を現し、私達を迎えてくれました。
五日目に寄った兵庫県のカトリック夙川教会は、遠藤周作が子供の頃に通った教会です。
奇遇にも私の友達のCさんが3年前にその教会の近所に引っ越したので、久々に再会することができました。無人の教会の長椅子に腰を下ろすと近況を語り、御主人に病で先立たれてからうつ病になったとのことでした。私は耳を傾け、静かに頷き、共に祈るひと時をもつと、Cさんは涙を流し、「神様...今日はありがとうございます」と呟きました。
教会の外に出るとCさんに笑顔が生まれ、私は「また交流しましょう」と言って別れました。旅の後にメールが届き、それは教会の中で過ごしたひと時を綴った俳句でした。
秋の陽や 薔薇窓を抜け 友照らす
後日私も一篇の詩を贈り、以来、豊かな交流が続いています。