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性別変更要件 人権重視した新法こそ

2023年10月26日 05時05分 (10月26日 05時05分更新)

 出生時の性と性自認とが異なるトランスジェンダーが戸籍上の性別を変えるには生殖能力をなくす手術を必要とする法規定を、最高裁大法廷が「違憲」とした。危険を伴う手術要件はあまりにも過酷だ。人権を重んじた新たな性別変更のための手続き法が必要だ。
 2004年に施行された「性同一性障害特例法」では五つの要件を満たさなければ、戸籍上の性別変更ができない。「生殖能力を失わせること」もある。
 手術要件と呼ばれ、精巣や卵巣の摘出などを指す。命や身体の危険が伴う手術を受けるか、それとも性別変更の法的利益を断念するか-。最高裁は「過酷な二者択一を迫ることになり、憲法13条(個人の尊重)に違反し、無効だ」と述べた。この点は評価する。
 性自認に基づく法的な取り扱いは重大な権利で人権の問題といえる。最高裁の「違憲」判断はこうした要請に応えるものだろう。
 手術要件を巡り、国際社会は大きく変化している。英国やフランスなど欧州を中心に手術要件がない国は多く、国連人権理事会は今年2月の報告書で、日本に特例法廃止を勧告した。
 静岡家裁浜松支部は今月、手術要件を「違憲無効」と判断しており、最高裁の判断はこうした変化に沿ったものでもある。
 しかし「変更後の性別の性器に似た外観を備えている」という別の手術要件については最高裁は差し戻した。審理を尽くすためだがこの要件についても3人の判事は「過剰な制約を加えるもの」として反対意見を述べている。
 もはや、特例法自体を廃止すべきではないかと考える。性別変更を制限する要件の問題は、手術以外にもあるからだ。
 現行法は「18歳以上」を要件としているが、中・高校生にも性自認に悩む人はいるだろう。「婚姻中でない」「未成年の子がいない」との要件も、性別変更を不当に制限するものではなかろうか。
 特例法は医学的な見地を重視して制定されたが、戸籍上の性別変更は、社会生活のさまざまな場面で身分証明の一つとなる重要な法益である。それゆえ性自認に従って戸籍上の変更手続きができる人権重視の新法の制定が必要だ。
 同時に政府や自治体には、トランスジェンダーに対する理解を深めるための施策をさらに講じるよう求めたい。

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