講習を終え、彼らは
彼が発現している3つのスキルの内、2つ……『
「どうやら2つとも精神で完結する様になってるな」
「と言うと?」
「発動条件自体は問題ないが、頭で思い浮かべそして精神世界で事を済ませる流れになってるって訳だ。その間、俺はどう写った?」
「えっと、目を瞑って立っていました」
そう、そこが問題だとクロは指摘する。
「何が起きるか分からん
頭を悩ましながら2層に向かい、クロが押し黙り考え事に没頭する横で、ベルは小さくあの……と問い掛ける。
「クロさんのスキルってどんな感じなんですか?」
「ん?あぁ、俺のスキルはそうだなぁ……」
そう悩みを吐きながら、2層に着いた。
そして、
コボルトは牙を剥き出しながら、威嚇する。
丁度いい、とクロは吐き捨てながら面を向かい合う。
─────『
彼が心の中で唱え、そして意識は無へと運ばれる。
何も無い空間、そしてそこに映し出されるのは今の自分。
第3者視点で映し出されたその光景……それは正しくゲーム時の装備変更をする時に類似していた。否、まさにそのままだった。
分かってしまったら後は単純。慣れた手付きで装備を切り替える。最初は自身の出せる最大火力を見る為、火力スキルを取り入れる。
弱点特攻Lv5、渾身Lv3、挑戦者Lv3、フルチャージLv5、破壊王Lv1
『
装飾品もセットし、準備完了。
とりあえずこの火力ブッパのスキル欄で試して見ることにした。ちなみに武器はギルドからの支給品でスキルスロットもなく、発動するスキルもない長剣なので、武器スキルは発動しない。
クロは装備をマイセットに登録し、意識を覚醒させる。
……装備、セット。
口には出さず、心で完了を確認する。
長剣を両手で強く握り締め、剣先を天へと向ける。その行動が戦いの合図かコボルトが先に地を蹴り、全力疾走でクロに飛び掛りに向かう。
それに応戦する様に、彼も地を蹴り上げ、両者雄叫びを上げ剣を振り下ろす。
「うぉぉぉぉおッ!!」
「ゲギャゲギャァァァ!!」
結果から言えば、クロの勝ちだ。
だがその勝ちは、あまりにも
コボルトは長剣に切り裂かれ─────の前に、剣の風圧に押し負け消滅。獲物を失った刃は、空を斬り、烈風を巻き起こし、
それは
静まり返るこの状況下で、ベルは感嘆な溜息を漏らした。
「……凄い」
果たしてその言葉は、彼に届いたか。それは誰にも分からない。
彼は自身の獲物を睨みつけるように目を見合っていた。
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やっべぇぇぇぇぇぇえ!!!!
威力高杉剣心くんだよ!?
バカなんじゃないの!?
クロは焦っていた。
顔には出ず、口角すら上がらず、人知れず彼は焦りに焦っていた。
こんなに威力が出るもんなの!?モンハンってゲームだからあんなに斬っても特にないけど、実際はこんなに破壊力あんの!?確かに破壊王入れたけどでもLv1だよ!?
彼は焦りの余り脳の処理速度が極端に低下していた。
もしかして剣が最強ッ!?、と思い、長剣に目を向ける。
また悲鳴を上げた。心の中で。
ぎゃあああああああああ!!
ひ、ヒビがァァァ!!
長剣に亀裂が入り、次同じ様に振ればポッキリ折れてしまう程に剣にもダメージが入っていた。
支給された武器の耐久性は低いとはいえ、原型がまだ保っていること自体奇跡に等しい。
あわわわ、ど、どドドどうしよう……!
これって弁償とかになんないよね!?うち貧乏だから弁償代は相当の痛手だよ!?な、なにか直す方法は……あ
彼は何か閃き、スキルを唱える。
『
再び意識は
彼が導き出した装備スキルは─────
頼むぜ、アイテム使用強化ッ!
武器スキルが発動しない今、悩みに悩み抜いた結果アイテム使用強化で砥石の効果を上げよう!となんともめちゃくちゃな答えだった。クロは早速
「クロさん?何ですかそれ?」
「こいつか?こいつは砥石っていって、ようは武器の切れ味を上げるもんだ」
「そんなものあるんですね……」
砥石を長剣に当て、滑らすように擦る。火花が散り、擦れ合う音が
馬鹿げた話そんな奇跡など起こるはずがない────そう思っていたその時、長剣に煌めきが宿り、亀裂がみるみる消えていった。
ベルはおぉ!と感嘆な言葉を上げるが、クロは
砥石に武器を修復する、なんて効果はない。
だが、今手に持つ亀裂が入った長剣は、元の支給された時の長剣に戻っていた。そしてもう1つ、有り得ない事が起きた。
武器スロットが……空いてる……
最初は存在すらしなかった長剣にスロットという概念が誕生した。原因は恐らく……砥石。
理由は分からない。だが、この砥石の力……或いはアイテム使用強化の性能による
何はともあれ、お陰で助かった事には変わりは無い。そう割り切り、空いたスロットにハマるか試しみる。
……入った。
スロットの空きはスロ3が1つのみ。そこに業物・匠の複合装飾品を入れる。なんの問題もなく、スロットは埋められ、意識を現実に戻す。
クロは長剣を軽く振り回す。火力スキルを全て外した為、先程の様に烈風は起きないが、空が切れる音は変わらず聞こえた。
「……ったく、とんでもない力だぜ全く」
思わず口に出してしまう程、呆れ返ってしまう。
そしてクロは、自身のスキルに……
ふふっ、怖ッ
恐怖心を覚えてしまうのだった。
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その後順調に階層を進んで行き、5階層まで来ていた。
「順調ですね」
「あぁ、だがその油断こそ己の足を引っ張る事になる。警戒を怠らん事に損は無い」
「は、はい!」
クロの喝にベルも気引きしめ直す。一方クロは今、謎の感覚に襲われていた。
なんか……胸騒ぎする。
スキル関係なしに、この体から長年の勘的なもので……
辺りを見渡しながら探索を続けると、やはり違和感が拭えず更にはベルも異変に気付き始めた。
「……なんか
「……やはりそうか」
2人が階層を進む度、現れる
息を飲む状況、今現在2人が陥ってる現状を表すとしたら────
「これって……」
「
警戒を怠らず、ゆっくりと前へ進んでいると、微かに声が聞こえた。
「何か聞こえないか?」
「え?」
ベルには聞こえておらず、2人は耳を澄ます。そして、ベルにも聞こえる程の声が聞こえた。
「助けてくれぇぇぇ!!」
冒険者の叫び声だった。
姿は見えず、ただ声だけが響き渡り、より異常性を高める。
2人は意を介さず、声のした方へ走り出す。
見つけたのは、足を怪我した男の冒険者とそれを支え助けを乞う男の冒険者だった。
支えていた冒険者がこちらに気付き、泣き顔で助けを乞う。
「頼む!仲間を助けてくれ!」
ぐッと呻き声を上げながら足を押さえつける怪我した冒険者。
クロは怪我した男の足を持っていた布で押さえつけ、縛り止血する。そして取り乱してる男に問い掛ける。
「落ち着け!何があった!?」
「分かんね!分かんねぇけどアレが起きてんだよ!」
「アレ?何だ、落ち着いて話せ!」
青ざめた男はクロの肩を掴み、必死に何かを訴え掛ける。落ち着くように2人でリラックスさせようとするが、興奮は収まらずそして泣き叫ぶ様に声を荒らげる。
「ミノタウロスが現れたんだッ!!中層にじゃねぇ!!上層部にッ!!」
─────ミノタウロス。
つまり、起きてる現状は─────
『ブルァアアアアアアアァァァ――ッッ!』
「「ッ!?」」
咆哮が聞こえた。
大気を震わせ、振動が
「終わりだ……!近くに来てやがるッ!」
「く、クロさん、どうしましょう?」
ベルは先程の咆哮にたじろぎ、冷や汗をかきながらクロに問い掛ける。クロは押し黙り、そして覚悟を決めた。
「ベル。お前さんはこの怪我人を連れて1層まで連れ行け。そこまで行けば安全な筈だ」
そこのお前と、慌ていた男に指示を飛ばす。
「お前さんもベルと一緒に上に連れて行け。そして助けを呼べ」
「あ、アンタはどうすんだよ!」
決まってるだろ?と、口角を上げゆっくりと立ち上がる。
「俺が囮になる。直に隙見て逃げ出すから心配すんな」
「そんなッ!?ぼ、僕も一緒に戦います!」
ベルはクロの作戦に反対し、異議申し立てる。その反対にクロは反論する事はなく、ベルの心情を受け入れた上で続きを話す。
「ならばその怪我人を先に運び出せ。その後でもいい。共に強敵に一矢報いてやろうじゃないか!」
「ッ!……分かりました。すぐ戻って来ますので必ず生きてください」
「小僧に心配される程じゃねぇ、早く行け」
クロは笑いながら、早く行くよう促す。ベルは怪我人の腕を首に掛け、もう片方を男が受け持ち、早足で進んで行った。
「さて、お手並み拝見といこうか……!!」
ベル達と姿が見えなくなると同時にその姿を現す。
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両斧を引きづり、餌を求め徘徊していたのだろう。彼の口元から涎が流れ落ち、今にも空腹が近い事を指していた。
そして、ミノタウロスは見た。
自身に対して、達観的にも笑みを浮かべてる“餌”を
自身に恐怖心など微塵も無く、真っ向から挑もうとする愚かな存在を
─────彼は嗤う。
先程逃がした餌よりも
咆哮を上げ、自身を鼓舞する。
嵐のように荒々しい突風がクロを襲う。
襲い来る風に諸共せず、彼は目を瞑る。
ミノタウロスは足に力を入れる。地を蹴り、獲物目掛け突撃する。
雄叫びを上げ、自らの獲物を“餌”に振りかざす。
─────装備、セット。
両斧が目前まで接近し、あと数センチで触れる。
ありついた餌に狂喜した。─────しかし。
「ブモォ?」
その“餌”は、霞となり消え去り、自身の獲物は虚しくも空を斬りつけた。
理解が出来ない。
理解に追い付かない。
ミノタウロスはそこに居た筈の“餌”を探す。
見渡せばすぐに見つけた。
そこは自身が、
入れ違う様に、彼は立っていた。
何事も無かったかのように。
自身に背を向け、それは立っていた。
彼は振り返り、笑みを浮かべながら、そして逆撫でする様に手をクイッと2回振る。
掛かってこい。そう言ってる様に聞こえた。
それは侮辱。
そして、認識を変える。
コイツは……“
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賭けではあった。
クロは自身の行動を振り返る。
まず『
体術Lv5、回避性能Lv5、回避距離Lv3、ひるみ軽減&耐震&風圧Lv3、ランナーLv3、スタミナ急速回復Lv3
回避だけを考えたスキル構成で組み、ミノタウロスの攻撃をギリギリで回避する事に成功した。
内心冷や汗をかき、もう対峙したくないのだが、囮を引き付けた以上引き下がる訳にもいかず、クロはミノタウロスを煽り注目させる。
思惑通り、ミノタウロスはクロに怒りを顕にし、鼻息を荒げながら攻撃を繰り返す。
だが、回避性能を高めたクロに当たる筈もなく、まるで踊るように華麗に避けられる。
そして戦いの最中、クロは装備スキルとは別の力が発揮されていた。
彼のもう1つのスキル『
『
・戦闘開始時、全能力値の高補正
・時間経過、全能力値の高補正
・対象が龍または竜、獣の場合、全能力値の超高補正
奇跡が重なり、今、『
身体から溢れ出る闘争心。
意思が本能が駆り立てられる。
今の彼は、レベル1に在らず、推定レベル5をも超越する。
世界においてこれほど理不尽且つ、無茶苦茶な存在がいただろうか?否、存在は疎かこの世に誕生する事が有り得ないともされ、下界の
もし彼がこの状況化で攻撃に転じてしまえば─────。
大地は割れ、空気は破裂し、
そんな危険分子と化した彼は、激闘の末、嗤いあげる。
激闘と言えるか判然としないこの有様で、
避けられ続け、
……何故、攻撃をしてこないのか?
……何故、殺り合おうとしないのか?
……何故、避けるだけなのか?
そう、
自身こそが狩られる
中層に現れた
俊敏に避け続けた彼が、大回りに避ける事辞めた。
両斧を肌で滑らすように去なし、
死を悟った。
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何か……速くね?
クロは自身の以上な程の俊敏さに違和感を覚えていた。
ハンターってこんな機敏に動けたっけ?
前転して避けたり、バックステップで避けたり、股下を通って避けたり……
あらゆる方法でミノタウロスの猛攻に対処し、時間稼ぎをしていた。だが、身体の違和感は拭えないもので、彼は器用に避けながら原因を探っていた。そんな余裕無いくせに。
何がァァァ!!……原因か分かァァァらんなァァァ危ないッ!
避け続けて数分が経った頃、彼の感に何かが上層部から下りて来ているのを察知した。
ん?何だこの感じ?……上層部の方から……ベルか!
彼はようやく来た主人公に笑みを零した。
両斧は、眼前に迫っていた。
ぎゃあああああああああああああああ!!!!
彼は本能に身体を預け、避けてください避けてください!!と願い続け、その願い通り肌を滑らすようにギリギリで避ける。
あっぶねぇぇぇぇ!!危うく転移して2日目で死ぬ所だったァァァ!!
そしてベルがと合流する為、5層の入口の方へ移動する。
「クロさん!!お待たせしました!!」
そう言って肩を並べる。
彼は意を決し、共に戦う覚悟が決まった目つきだった。
そんな事、ビビりな彼がやる筈がないのに
クロはベルの肩に手を置き、首を振る。そして─────
「逃げるぞぉぉぉ!!」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
元気よく駆け出したクロにベルは驚愕しながらも、後を追った。
ミノタウロスが
脱兎の如く、駆け出し4層を走り抜く2人。
1人は悲鳴を上げながら、1人は何故か高笑いを上げながら……
「ガッハッハッ!!」
「笑ってる場合じゃないですよー!!」
共に走るベルを見ながら、何かを思いそして笑いあげるクロにツッコミを入れ、事態は割と不味い状況になる。
「そ、そんなッ!?」
最悪のタイミングで再び
前には複数のコボルト達、後ろはミノタウロス。
絶対絶命のピンチ。
しかし前方の敵は、光速で飛んできた物体にいとも容易く崩壊する。
クロである。
彼はミノタウロス戦での俊敏さを活用し、目にも止まらぬ速さでコボルト達を殲滅しにかかった。
そう、後は逃げるだけ。
そんな考えは、すぐに壊された。
「ッ!?ベル!」
後ろを振り返ったクロの眼には、ベルが尻餅を着き、目前にはミノタウロスが両斧を振り翳す光景が写った。
恐らく何も言わずにコボルト達を殲滅する際、地を蹴り上げた時の衝撃が彼の足を持たれつかせたのだろう。
クロは自身の軽率な行いを恥じ、剣を握り足に力を溜め込め、ミノタウロスを倒す事を決意する。
今の俺なら勝てる……!!頼むッ!間に合ってくれッ!!
ビビりである自分を押し殺し、この世界での初めての友……そして家族である彼を救う為、走り出そうと地を蹴り上げ─────その時。
─────金色の影が見えた。
その影はミノタウロスを捉え、一瞬にして倒される。その時返り血がベルに降り掛かり、白い髪が赤色に染まる。
だがベルは気に停めず、目の前に立つ女性剣士を見続けていた。
腰まで伸びた真っ直ぐな長い金髪と金眼を持ち、女神にも引けを取らない程の美貌を持った少女。
メインヒロイン────アイズ・ヴァレンシュタインがそこにいた。
彼女はこくんと首を傾げ、ベルに問いかける。
「……大丈夫?」
彼と彼女は出会った。
どこで時計の針が鳴り響く
─────物語は動き始めた。