社畜TS美少女は攻略対象のようです   作:レルネル・ネーレル

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ルドウィッチと美少女教官

 いやぁ、教官ってめっちゃ楽しいね。

 最初は暇つぶしにちょうどいいって思ってオッヂ少佐の頼みを引き受けたけど、いざ兵士たちに教えてみるとこれが楽しい楽しい。

 初めは何をしたらよくわからなかったから、取りあえず物陰で改善案を教えた時のように、兵士の弱点を一覧にして、それぞれに合った鍛錬を指示することにしてみた。

 

 病室の窓から鍛錬の現場をさんざん観ていたお陰で、兵士の弱点を書き出すのには苦労しなかった。

 魔術計算速度に思考強化術式精度に、剣術の型の問題点……etc。

 こちらはいくらでも書き出すことは出来たんだよね。

 

 でも、問題は改善案をもとにそれに合った改善案を考えることだった。

 魔術計算速度とか、肉体ではなくて、本人の頭脳に依存したりする部分はどうしてもこれと言った劇的な改善案がないワケで。

 

 でもまあ、なんとかいろいろ考えて少しは能力向上につながりそうな鍛錬を考えてみた。ちなみに病室の机に張り付いて徹夜で考えたね。ほめてもらってもいいと思う。

 

 まぁ、それでも流石に最初はそこまで行くとは思っていなかった。

 なにせ、何事も最初からうまくいくことなんて早々ない。

 ちょっとずつ改善していってようやく最終形になるのだ。

 

 初日はまあ、いろいろ言われるだろうな……期待外れなんて言われるかも。

 なんて若干不安を胸に抱く私であったが、いざ兵士たちの前に立って指導してみるとこれが意外とうまくいった。

 なんて言うか……ここの兵士たちはどうも吸収が早いのだ。

 

 やっぱり王都の基地を任されているだけあって、なかなかに優秀。

 一を言えば十を知るって感じ。

 いやー、マジで物分かりがいい人に教えるのって楽しいわ。

 こう、教えたら教えただけグングン伸びてくのって、教えてる側も楽しいんだよね。

 

 という訳で、初日の鍛錬が終わったんだけど、兵士たちからは「すごく良かった」って声が声が聞こえてくる。

 もちろん、兵士たちが優秀だというのもあるけど、やっぱり頑張った分こうやって帰ってくると嬉しい。

 

 そんなこんなで初日の鍛錬は終わったころ、私はすっかりお腹が空いていた。

 グー、とお腹が鳴ったので、さっさと私は食堂に移動した。

 食堂のおばちゃん曰く、今日はカレーらしい。やった。

 ここのカレーって美味しいんだよね。スパイスなに使ってるんだろ。

 

 

▽▲▽▲

 

 ルドウィッチという人間は、この王国にある5つの名家の一つであるウィング家の次男である。

 

 次男、と言ってもこの連合王国ではとうに政治的な近代化が進んでおり、明確な貴族制度などとうになく、ましてや長男と次男で待遇に差があるなど、まったくと言っていいほどなかった。

 

 兄弟で分け隔てなく平等に育てられ、両親は彼らに等しく愛を注いだ。

 

 しかしながら、そんな彼と兄であったが、平等に育てられたと言っても才能の差はあった。

 

 次男であるルドウィッチの方が圧倒的に優秀であったのである。

 

 剣術、魔術、学問、作法、どれをとっても兄よりルドウィッチの方が優れていた。

 彼の兄は常にトロく、いつもボーとしていた。

 だからこそ、彼は自分よりも劣っている兄を心の中で見下してきた。

 

 そして、見下しつつもそれは表に出さず、表面上は仲の良い兄弟を演じてきた。

 そんな彼らを周囲の人間は、仲のいい兄弟と捉え、また、出来の良いルドウィッチを称賛してきた。

 ルドウィッチは称賛されるたびに、心の中で自尊心を膨らませてきた。だが、しかし、同時に傲慢な態度が自己の破滅を招くことを知っていたため、常に品行方正で謙虚な人間を演じた。

 

 だが、そんな彼に転機が訪れる。

 

 彼が10歳、兄が12歳の時、ルドウィッチに残酷な運命が降りかかった。

 

 その日、彼らは軍の施設でとある資格を検査していた。

 それは、”聖火”と呼ばれる聖なる力への適合資格があるかのテストであった。

 

 聖火、とは深蝕(ヴル)という世界の穴から降り注ぐ邪悪な力に、唯一対抗できる太陽と月を司る聖なる力である。だが、その力は人を選ぶ。気まぐれな聖火に選ばれた人間のみがその力を振るう事を許される。

 

 そして名家、とはそんな聖火に選ばれた人間を代々排出する家の事を指すのだ。

 人々は名家の出身であり、優秀なルドウィッチが聖火に選ばれると期待していた。

 

 だが、神は気まぐれで、現実は残酷であった。

 

 ルドウィッチは聖火に選ばれなかった。

 そして、一方の彼の兄は聖火に選ばれてしまった。

 

 それから、ルドウィッチという人間に対する周囲の人間の目は変わった。

 

 それは哀れなヤツ、という目である。

 今まで自分より遥か下であったはずの兄に、聖火に選ばれなかったというだけで、立場が逆転してしまったのだ。

 

 聖火に選ばれた人間と、選ばれなかった人間ではまるで待遇が違う。

 なにせ、それに選ばれることが出来れば、聖火に選ばれた人間だけが所属する騎士団、またの名を聖火(ロロノス)、に所属する資格を得るのだ。

 

 聖火(ロロノス)とはこの国の最高機関にして、軍の指揮権や、絶大な政治的権力を握る組織である。

 

 そんな組織への参加権を兄だけが手にし、弟であったルドウィッチだけは手に入れることが出来なかった。

 

 当然、待遇が大きく変わるのは訳もない話なのである。

 

 大きく立場が変わった彼ら。

 両親はそれでもなお両者に等しい愛を注いだ。

 だが、ルドウィッチは酷く自尊心を傷つけられてしまい、己の運命に絶望の感情を抱いたのは言うまでもない。

 

 10歳という年齢の人間に、その運命はあまりのも酷すぎた。

 才能が、資格に負けるという、屈辱的な経験をもってして彼は聖火を憎み、嫌悪した。そして、聖火に選ばれただけなのに大きな顔をする人間が、彼は許せなかった。

 

 だが、そんな彼であったが、唯一聖火(ロロノス)の人物に尊敬できる人間がいた。

 その者の名は剣星の魔女。

 

 スラム街の孤児から成り上がり、聖火(ロロノス)の人間となった女性である。

 

 彼が初めて彼女に出会ったのは、王の別荘の庭であった。

 

 名家の子息である彼は、まれに王の別荘に呼ばれることがある。

 その日、彼が招待された別荘の庭には、極東の国から運ばれてきた、”桜”と呼ばれる見事な樹木が植えられていた。

 ルドウィッチが桜を見るのは、初めて出会った。

 

 ピンク色の美しい花びらが、乱れ舞っている。

 

 そんな庭の中で、一人の女性を見つける。

 

 白髪の、長身の女性。

 名を……剣星の魔女。

 剣星の魔女の名はその時から轟いており、その圧倒的な実力は彼の耳にも届いていた。というか、王都の人間であればその名を知らぬ人間は居ないほどである。

 

 そしてそんな彼女は、王から「何か面白い技を見せてくれ」などという無茶を言われたのだろうか、剣を振るっていた。

 

 宙に舞う桜が、真っ二つになる。

 

 剣が、空をなでるたびに、花弁が次々と割れていく。

 

 割れていった桜の花弁は、通常の桜吹雪のそれに比べ、圧倒的な数となる。

 

 それは、まるで、炎だった。

 

 美しい、ピンク色の火炎が、確かに揺れていた。

 

 それは、聖火に頼るまがい物ではない、確かなる才能による技。

 

 瞳には、輝かしいばかりの才能の輝きが映った。

 

 ルドウィッチは傍から見ていただけであったが、その日から彼は剣星の魔女を、聖火(ロロノス)の中の人間ではただ一人、尊敬してきたのであった。

 

 

▽▲▽▲

 

 鍛錬が終わり、腹が空いたルドウィッチは、いつものように食堂へやってきていた。

 

 だが、食堂へやってきた彼は一人の少女を見つけた。

 白髪の、小柄な弱弱しい少女。

 オッヂ教官が、前線経験がある佐官が今日から教官をしばらく務める、と言い紹介した少女。

 

 しかしながら、筋肉は全くなく、少し押せば押し倒せそうなくらい脆弱な人間だ。

 こんなか弱い人間が、あの大戦の最前線で生き残れる訳がないだろう。

 ルドウィッチは内心げんなりしていた。

 

 か弱い人間がどうして最前線で生き残れたのか、答えは一つだ。

 聖火に頼っていた、それしかない。

 

 手は小さく、まともに剣も握れなさそうではあるが、聖火さえあればそこいらの人間は圧倒することが出来る。忌々しい事実ではあるが、それは確かな事だ。

 だからこそ、ルドウィッチは新しい教官が気に入らなかった。

 

 まぁ、本人は気づいていないようではあるが、彼が新しい教官が気に入らない理由はそれだけではない。

 新しい教官の容姿がどこか剣星の魔女に似ている、というのもあるのだ。聖火頼りの人間が、尊敬する剣星の魔女に似ているという事実がゆるせなかったのだ。

 

 そんな白髪の少女は、食堂の一角にて、一人でカレーを美味しそうに頬張っていた。

 

 目がトロン、としており、何とも幸せそうな表情。

 いちいち羽毛のように頭の頂点から伸びる毛を、ゆらゆらと動かしている。

 背丈が低いため、傍から見ると子供が幸せそうにカレーを食しているようにしか見えない。

 

 ……ムカついてきた。

 どうしてあんな聖火に選ばれただけの人間が、なぜあんな幸せそうな顔をしているのだろうか。

 

 ルドウィッチは心底ムカムカしたので、からかってやろうと思い、その幸せそうな顔をしている教官のもとへ歩み寄る。

 

「Hallo, Professor」

 

 流暢なオルディア語。

 高貴な生まれである彼は、王国連合後だけでなく、その他の外国語も喋ることが出来た。そして、オルディア語は貴族的な人間たちからは好んで使われる言葉。

 社交の場ではそのオルディア語を使えなければ話にならないのである。

 

 だからこそ、聖火に頼りっきりで、それ以外の努力をしてこなかった人間をからかうにはうってつけなのである。

 

「De training van vandaag was erg leuk(今日の鍛錬、結構面白かったですよ)」

 

「?」

 

「Ik dacht dat je een kwetsbaar persoon was die alleen op de Olympische vlam vertrouwde, maar je bent verrassend goed in lesgeven. Ik neem aan dat hij het leerboek heeft gelezen(てっきりあなたは聖火に頼りっきりの脆弱な人間だと思っていたのですが、意外と教えるのが上手いですね。教科書は読み込んでいたのでしょう)」

 

 きょとん、と首を傾げるレヴィ。

 

 一ミリたりともこちらの話を理解できていないようだ。

 こちらの皮肉など全く分かっていないらしい。

 全く、愉快な光景だ。

 

 ルドウィッチは内心、レヴィの事を嘲笑っていた。

 

「おっと、その様子はオルディア語がわからぬようですね。これは失礼」

 

「……」

 

「教官殿、手を」

 

「え、手?」

 

 ルドウィッチは困惑の表情をするレヴィの手を掴み、引いた。

 そして、腰を曲げ、手の甲へ唇を近づける。

 

「ひゃっ」

 

 レヴィは思わず声が漏れた。

 絹のように滑らかで、雪のように白い、その肌に唇が触れる。

 そして、同時に確認する。手首に刻まれた聖火の証を。

 やはり彼女は聖火(ロロノス)の人間であった。

 

 そして、彼はそんなレヴィに毒を吐く。

 

「──あなたのような可憐なレディはこのような場所は似合わない。もっと、華やかな場所にいるべきだ」

 

 それは、世辞に見えて最大の皮肉。

 要はお前はこんな場所にふさわしくないからとっと失せろ、という強烈な言葉だ。

 

 オルディア語も分からぬ学のない人間でも、分かるように連合王国語を使ってやった。まあ、理解したらそれはそれはで傷つくだろうが。いい気味だ。

 

 だが、そんな言葉にレヴィは再び首を傾げる。

 彼の言葉に込められた皮肉を理解できなかったのだ。

 彼女は基本的に人の悪意に鈍い。

 スラム街で育った経験により、人の悪意というものに極度のトラウマがあるため、基本的に悪意を理解しないようにしているのだ。

 

「えっと……なんだろう、ありがとうって言えばいいのかな?」

 

「……ッ!?」

 

 帰ってきた言葉に唖然するルドウィッチ。

 まさか、そんな言葉が帰ってくるとは夢にも思わなんだ。

 

 彼は背中を丸め、くつくつと笑う。

 

「どうしたの?なにがそんなに面白いの?」

 

 ただただ心配そうにレヴィはルドウィッチを見た。

 そんな様子に、彼は面白さを感じたのであった。 

 




本日二本目
流石に三本目はキツいかも。
でも、あと少しなんや……頑張ります
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