ぼっち二人組とか言う、信頼の欠片も無いはじめての中層進出。
刀で殴り合う所存と言いつつ、ほぼほぼ一方的に斬り倒す作業になりつつあった。
最初こそ【コドクノミナイ】による毒刀だったんだけど、ふとした拍子に斬撃を追いかける様に毒の斬撃が飛び出す様になった。一振りで時間差攻撃とかいう隙を生じぬ二段構えである。調子に乗って17階層まで来ちゃった今、刀身の大体5倍ぐらいまで毒刃が届く様にまで成長(?)しとる。レベルが上がれば天を衝けそうな気すらするが、ダンジョン内でそれやったらジャガ丸君湧きそうだな……経験値稼ぎが大変になったら一度試してみようかね?
さておき、『洗礼』で身についた悪癖も相まってノーガード戦法が多い殴り合いだったけど、牽制だったりグミ撃ち感覚で毒刃飛ばせる様になったのはまぁでかい。ぶっちゃけ手足が捥げる程度なら第一魔法でリカバリー出来るし、恋次とこの世界で出会おうもんなら『こんな奴と…………どうやって戦えばいいんだ!』とか言われそうだなぁ。
聖文字押し付けるわ遠距離から射殺すわ中近距離なら毒と刀もあるわダメージ喰らっても気にしねーわと、かなり好き勝手してるのは間違いない。言うてもレベル差はそう簡単に埋まらんから、この世界実は割とうまく出来てるのかも知れない。終末が近くなければもっと堪能出来るんだけどな……。推定:枝史なこの世界でもリミットは変わらないだろうから、生き急いで損する事もなかろうけど。一番怖いのがリミットが前倒しになっている場合だが、そん時はもうどーにもならんだろーし。最悪フレイヤ様と幹部連中だけでも連れて逃げ出すしかねぇ。逃げ切れるかは知らん。
最善手はレベル差を覆す事の出来る超火力の獲得か。アイズちゃんのアレとかオッタルさんのソレとかベル君のヤツとか……今んとこそれらしいのないからな。
あー俺もチャンイチみたいに、メゾン・ド・タマモの大家で精神世界に自分以外の住人いねーかなぁ? そいつらと対峙して覚醒してーなぁ、俺もなぁ。現状クソチートな自覚はあるけど、人は欲深い生き物だからね仕方ないね。もし住人がいたら屈服させた分だけ聖文字増えたりしない? 無いか……地道に『突撃お前ら経験値』重ねるしかないかーそっかー。
などと脳内語りにオチが着いたところでクソデカ溜め息を一つ。三歩下がってついてくる
「……おい」
「何?」
17階層に着いてから『何故か』
「気付いているだろうが……この階層についてからモンスターをみかけない」
「そうだね」
何が原因かまでは知らんけど、
「以前聞いた話だが、階層主が出現する際にこういう事があるらしい」
「ちょっと最奥部見て来る」
唸れ俺の飛廉脚!!
こういう事『が』あるらしいって事はそうじゃない事もあるって事でつまり通常ポップと違う可能性があるんだから上質な
初見エリアも何のその、一心不乱に最終広間『嘆きの大壁』に向かってひた走る。途中アイズちゃんとママとその弟子とその他王族腰巾着ご一行を跳び越え、入口付近で最終打ち合わせでもしてるのか、円陣組んでるアストレア・ファミリアの皆さんに遭遇する。戦闘音は聞こえてないからまだ大丈夫っぽいな、ヨシ!
「おやこれはこれは聖人様では」
「おっさきー!!」
ございませんか、とでも言いたかったんだろうな輝夜さん……済まんが挨拶してる場合じゃねぇ!!
「ちょ、おま待て琥珀」
「あら琥珀じゃない! って無視!?」
ライラさんやアリーゼさんの言葉を背に受けながら、大広間へとダイナミックエントリー。奥行200М、幅100М、高さ20Мの広大な空間。入口左手に聳えるは、職人が手掛けた様な凹凸の無い巨大な一枚壁。あそこで立ち止まってたんならそろそろか? 漲るやる気と共に右手を前に差し出す。手首に吊るされた銀筒と同じ素材で作られた小さな星十字をあしらったチェーンブレスレットに魔力を集めて行く。いつもなら黄金色の光が弓を象るだけなんだが、今日は気合の入り具合に反応したのかしっかりした弓が生成された。具現化だか具象化だか忘れたけど、テンションに比例した収束具合に俺もニッコリである。
それにしてもファンタジーらしからぬデザインだなこれ。リムの部分に、上下合わせて8つも短いスタビライザーついてんだけど。モンハンとサイバーパンク足した感じって言えば伝わるだろうか。色は琥珀……俺の目の色と比べると、金色に近い。もうちょっと地味めな色合いのが良い気もするが、まぁえぇか……。
腰の後ろにあるホルスターからゼーレシュナイダーを一本取り出し、矢を番えてその時を待ち侘びる。
収束し高まって行く魔力に呼応する様に、大壁を縦断する巨大な亀裂が音を立てて発生した。
亀裂の奥から噴き出してくる魔力の濃さと重さに、思わず背筋が震える。まだ姿すら見せていないのに、種族としての、個体としての、隔絶した力の差を叩きつけられて冷や汗が噴き出す。
絶対的な『存在』としての隔たり。
回れ右したがる両脚とは裏腹に、不思議と心は落ち着いていた。ふと、滅却師デビュー戦……親父を食い殺したクソ熊と対峙した時の事を思い出す。当時とは比べるべくもない畏怖と迫力にも関わらず、あの時の方が余程ビビり散らかしてた気がする。
それでも歯ァ食いしばって涙目になりながらも噛み付いたのは何故か。
親父の敵討ちだってのは、勿論あった。里のじーちゃんばーちゃん達が安心して生活出来る様に……なんて気持ちも、確かにあった。
「……そっか、そらそーだよな」
それはきっと俺の原風景。今尚燻り続け、この先もずっとあり続けるだろう渇望。戦うのが好きなのも、殺し合うのが好きなのも、強くなりたいのも、たった一つのガキみたいな原動力。全てはそれに集約される。負けず嫌いここに極まれり、って奴だ。
俺は勝つのが大好きだ。
生きてるだけでこちらを脅かす奴を、弱い奴は食われとけとあざ笑う奴を、俺の命だけでは飽き足らずに世界そのものをブチ壊すだろう奴を。そんな奴らに噛み付いて食い千切って、お前こそ死んでしまえと唾を吐きかけたい。俺如きに負けてどんな気持ち? と満面の笑みで問いかけたい。
「舐めんじゃねぇぞ
壁が罅割れる音が大きくなり、大広間全体を震わせる衝撃が響き渡る。
それに呼応する様に。
俺はここにいるぞと主張する様に、構えた
破滅を齎す存在が奏でる産声と、それを打ち砕かんと破鐘の如き魔力のうねりが、張り合う様に大広間を震わせた。
やがて一際大きな破砕音が響き、巨岩の如き大壁の破片が弾け飛んだ。
立ちこもる土煙の向こうに浮かぶ、巨大なシルエット。
『────ォォ』
次第に晴れていく土煙の奥、人の頭ぐらいある大きな赤い目がゆっくりと動き、俺の視線と合わさる。それまで心の隅っこで大人しくしていた理性が何処かに吹っ飛び、入れ替わる様に殺意が全身に漲った。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオォォッッ!!』
「五月ッ蠅ェんじゃクソボケ俺の踏み台になって死ねえっ!!」
産声を上げたゴライアスに向けて大鎗を放つ。それを追う様にスタビライザーからも矢が放たれ、一射九本の神聖滅矢が巨人の左肩に喰らい付く。その衝撃は如何ばかりか、ゴライアスの記念すべき第一歩は、壁に押し戻される様によろめいた『後退』だ。ちっぽけな人間如きに後退りですか大した風格ですね、今どんな気持ち?
「まだまだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
周囲を渦巻く魔力を収束しては矢を放つ。テンションのせいかソレだけ集中してるからかは知らんが、ミニガン担いだランボーの気分で神聖滅矢をブッパし続ける。おらどうしたゴライアス壁に埋まって死ぬつもりか? そんなもんじゃねぇだろもっと熱くなれよ!! 俺を踏み潰す気概が足りねぇぞほらもっと根性見せてみろや!!
それにしてもこの神聖滅弓無法すぎんか? 銀嶺弧雀程じゃないにしても、一連射で三桁はブチ込んでるぞ? 弓引いて飛ばしてるのが主砲なら、スタビライザーの副砲も同じ数飛ばしとる。壁から一歩も抜け出せないゴライアスさん可哀想。まぁ死ぬまで射抜くのを止めないわけだが。
つーか、ダメージ入ってんのかな。全身から湯気みたいに魔力漂わせてるから再生してるっぽいなコイツ。どっちが先にガス欠起こすかの我慢比べになりそうだが、聖隷ある以上はこっちが負ける事はほぼない様な?
そんな事を考えていたら、
と思ったら、大壁からゴライアスへと魔力が流れ込んでるのが見えた。それは流石に無法過ぎんか? 相手の事言えた立場かって? それはまぁ、うん。
再生速度自体は上がってないが、少しずつ前進してる所を見ると基礎スペックも上がってるくさいな。この膠着状態を動かすには、やっぱ超火力か? 連射で近付かせないだけじゃ意味なくなりそうだし。背後でわちゃわちゃしてるみたいだし、サクッと処するには……。
「……ヤるか」
心の中で
「──【静謐よ】」
口ずさむは神の誉にして、恥辱の祝詞。決して余
「【コドクノミナイ】」
第二魔法の発動直後から、神聖滅矢の色が反転する。金色の燐光から濃緑の煙の様に変じた魔力が異端の矢を生み出していく。
「濃度3000倍だ。じっくり味わえ」
三日三晩の苦行の末に辿り着いた害悪の極み、下界の新たな可能性を芽吹かせたソレの再現。
更に深化させ染め上げられた神聖滅矢が、ゴライアスを生き地獄に叩き落とす。
『ギィアァァァァァァッ!?』
え、そんな声出せんの? ってぐらい甲高い悲鳴を上げたゴライアスが、全身を震わせてその場に蹲った。灰褐色の肌にドス黒い斑点が広がり、血肉が爆ぜて広間を汚していく。四つん這いで苦しさにのたうつ事も出来ず、時折巨体にそぐわぬか細い悲鳴を上げてめっちゃ震えとる。分かるよ、俺も似た様な目に遭ったしな……いや3000倍はやり過ぎだったか? 自分でやっといてなんだが気の毒が過ぎる。
「終わりにしようか」
第二魔法を解除し、周辺に漂う魔力を練り上げて行く。開幕同様に大鎗と化す神聖滅矢に、スタビライザーに収束した魔力を更に大鎗へと注ぎ込む。収束した魔力がうねりを上げて陽炎の様に揺らめき、金色の光を纏った鏃というか鎗の切っ先をゴライアスへと向ける。
半ば骨が見えるまでグズグズに穢された右腕が、俺へと向けられる。それは最期まで俺を殺そうとする決意の表れなのか、それとも救いを求めているのか……流石に後者は無いか。
こちらを見詰めるゴライアスの顔が、あまりにも苦痛に満ちていたから、ふと思っただけだ。自分でやっといて何考えてんだか。
「──
光が薄れ、遺されたのは人の頭ほどもある魔石と、ドロップアイテムの二つだけ。
「ありがとう、そしてさようなら。何もさせずにただ射殺した事を、申し訳なく思うよ」
誰にともなくそう独り言ちながら、俺は軽く黙祷を捧げるのだった。