オラリオのなんちゃって滅却師


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作:まほうのこな
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世界一嫌いだと言ってくれ


 お気に入り登録や評価、感想に誤字報告などありがとうございます。
 二つ名アンケートへのご協力ありがとうございました。主人公への熱いエール()に、作者も笑顔(悪鬼スマイル)が止まりません。
 キーワードは『ㅎvㅎ』な17話です、それではどうぞ。


 神会(デナトゥス)とは、元を辿れば一部の神々が退屈しのぎに開いた集会である。

 眷族を集め、地盤を築き、自派閥(ファミリア)の体裁を整えた神は、大体堕落する。刺激を求めて下界に降臨したというのに、一定のラインを越えると飽きるらしい。そんな彼ら彼女らは、暇を持て余し、同郷同士で集まっては駄弁っていたのだとか。

 

 暇を持て余した神々の井戸端会議である。

 最初こそただの雑談だったその寄り合いは、参加する神々が増えるごとに規模を増し、雑談から情報の共有に変わっていき、互いに意見を交わす事で都市そのもの(オラリオ)を巻き込んだ催しを企画するまでに至ったのである。例えば外の周辺諸国の状況、たとえば【ファミリア】同士の諍い、下界の子らに与える『称号』という痛恨の名(キラキラネーム)の選考などなど。内容はその時々で多少変わるものの、大抵はそんな具合だ。

 

 ……さてン千回を超えるこの神会だが、此度のそれは始まる前から静かな緊張感に満ちていた。

 摩天楼(バベル)の三十階のフロアを丸々一つ使った大広間には、大きな円卓が一つだけ置かれている。一定間隔を置いて円卓につく神々は、ざっと見て30を超えている。それだけの数の【ファミリア】が、Lv.2の上級冒険者を保有している証でもある。およそ半数の冒険者がLv.1のまま終わる事を考えれば、それだけの実力を備えた派閥の主が、ここにいるという事だ。

 そんな彼らに緊張感を持たせる原因は、とある三柱の存在であった。

 

 まずは淫らな夜の女王。

 オラリオの歓楽街の主である美の女神イシュタル。今日も今日とて布切れ一枚で絶妙にTKBを隠す彼女は、ライバル……というか一方的に敵視している同じ美の女神を、憎々し気に見詰めている。

 

 次に無慈悲な無乳の道化。

 オラリオ二大派閥の片翼にして、民衆からも慕われる派閥の主ロキ。彼女もまた、同郷の女神に視線を向けている。如何にも面白くないと言った感じの表情で、いつもの胡散臭い笑みは影を潜めている。薄く開かれた双眸からは、疑念と警戒が見え隠れしていた。

 

 トリを飾るは美の結晶。

 オラリオ二大派閥の片翼の主にして、オラリオ一の信者を擁する美の女神フレイヤ。満面の笑みで鼻歌でも歌い出しそうなご様子で、卓上の資料を手にしては悩まし気な吐息を吐いたりと、先の二柱どころか周囲の視線そっちのけで、神会の始まりを心待ちにしている様子であった。

 

 三者三様の温度差に、見てるだけでも風邪を引きそうである。

 イシュタルの苛立ちも、ロキの剣呑さも、そしてフレイヤの上機嫌な様子さえも、たった一人の子がもたらしたものだと言うのだから、たまらない。彼女達をそっと見守る誰もがこう思った。

 

 これだから下界ライフは止められねぇ……!

 

「さて……そろそろ時間だね、始めようか」

 

 そう言って一柱の神が立ち上がる。富国の王子と言った風情の佇まいは、さながら上流階級の人間のそれ。多くの女性が妬むであろう柔らかそうな金髪を首のあたりまで伸ばした、貴公子然とした男神。

 

「今回の司会進行役は私、ディオニュソスが務める。皆、よろしく」

 

 いつもならやんややんやと声が上がるものだが、今回においてはそれもなく、逆に妙な緊張感がこの場に満ちていた。

 

「先ずは情報交換から行こうか。何か真新しい話はないかな?」

「バベルの真ん前で片腕自分で切り落としたヤベーのがいるって聞いたんだけど、マジ?」

「「「「「おいばかやめろ!!」」」」

 

 そんなネタを提供したのも今回の目玉と言うべき存在なのだから、色々な意味で期待が膨らんでいく。尚、件の人物の()はと言えば、笑顔で沈黙を保っている。初手から地雷に突っ込んで行った神は、明日の朝日は拝めるだろうか……? と一抹の不安を感じた。因みに制止した面々は、その無謀さに対する反応にビビりながらも、恐怖を退けて一歩を刻んだ一柱に内心で敬意を表した。人のみならず神でさえ、その一歩に特別な名をつけるのだ。

 

 ──”勇気”と。

 

「……そう言えば、そのヤベーのと『剣姫』が事前に会話してたとかなんとか……」

「アァン!?」

 

 背後に『!?』を、額に青筋を浮かべた道化の神が、とある筋のご職業の方もビックリなメンチを切りながら恫喝を始める。

 

「なんや自分、うちのアイズたんがソイツに絡んだのがきっかけでそないトンチキやらかした言うんか? オウ」

 

 なんなら口調も(ヤカラ)風である。両隣に座っていた二柱は、音を立てる事なく椅子ごと距離を置く。無駄に洗練された無駄の無い動きだった。

 

「落ち着いてロキ。確かに最初に絡んだのは貴方の子だけれど、あの子を煽ったのは他の子よ?」

 

 あらあらうふふと笑うフレイヤの言葉に、ロキが訝し気な視線を向ける。

 

「煽ったってなにをや」

「うちの子に『剣姫』が世界最速の秘訣を尋ねたそうよ。そこで答えたのも迂闊だと思うのだけれど……それを聞いていた他の子が突っかかったんですって。『この場で腕を生やせるのか』……ってね?」

「なんでホンマに腕生やしとんねんお前んとこの子は!?」

 

 げに恐ろしきは下界の未知である。行動は完全に気狂いのソレだが、断じてキチではない。

 

「煽り耐性低過ぎワロタ」

「それにしても腕生やすだけでもヤベーのに、実演の為に自分で切り落とす奴おりゅ?」

「おりゅんだなこれが」

「誰も出来ない事を平然とやってのける」

「それは痺れぬ憧れぬゥ!」

「憧れは理解から最も遠い感情だよ」

「憧れる要素がないヤベー奴。はっきり理解(わか)んだね」

 

 ロキのツッコミを皮切りに、いつもの空気が場に戻る。そこかしこで面白おかしく雑談に興じる様は、とてもじゃないが子供達に見せられない風景である。

 

「随分と面白い子を眷族にした様だね、フレイヤ」

「えぇ……本当に。自慢の子よ?」

 

 美 の 女 神 渾 身 の ド ヤ 顔 で あ る

 

「その自慢の子だけどねぇ……たかだか一ヶ月そこらで器を昇華させたってのが異常すぎる。……私は異常なんて言葉じゃ到底言い表せない状況だと思うんだ。一体どんな悪戯したんだい?」

 

 余裕たっぷり……と言うには些か険のある口調で問いただしたのは、イシュタルだった。

 途端騒めいていた神々の間に沈黙が落ちる。

 当のフレイヤは笑みを湛えるのみで、黙したままイシュタルを見詰めた。

 

「流れ変わったな」

「世界最速の秘密か……」

 

 あちこちでヒソヒソやり合う神々の中、それでもフレイヤは口を閉ざしたままだった。イシュタルが頬を引き攣らせて更に問いを重ねようとした所で、ロキがそれを遮る様に口を開いた。

 

「アイズたん経由で聞いとるけど、ホンマなんか?」

「彼女が聞いた内容を知らないから、答えようがないわね」

 

 肩を竦めて溜め息を吐くフレイヤに、ロキは眉間に皺を寄せて話の内容を思い返す。

 

「極東の片隅生まれ。7歳から刀片手に狩人の真似事続けて、色ボケ女神に神の恩恵(ファルナ)もらって一ヶ月近く眷族同士の戦闘訓練に明け暮れて、初めてのダンジョンで片腕食われながらもインファントドラゴン倒したっちゅーけど、ホンマなんやな?」

「そうよ?」

「そうよちゃうわ!! 放任主義も大概にせぇよ自分!? ホンマ考え無しで子供に過酷強いたんなやアイズたんが真似したらどないしてくれんねん!? 乳捥いだろかこの色ボケェ!?」

「「「「「「それを捥ぐなんてとんでもない!!」」」」」」

「やかましいわ!!」

 

 話がうやむやになりかけるも、フレイヤは笑みを湛えたまま言葉を続ける。

 

「付け加えるなら、魔法とは異なる技術を研鑽し、立派な武器に昇華させている事。ヘイズに勝るとも劣らない回復魔法の使い手である事。独力ながらも培われた素質は十分……たかだか1ヶ月とは言うけれど、神の恩恵(ファルナ)を刻んだ時点で、偉業として認められていてもおかしくないと思うわ」

 

 具体的な例として詠唱を必要としない魔力武器の創造と運用、高速移動術、付与魔法に匹敵する身体制御などなど……事務仕事や料理にまで話は広がっていく。ここぞとばかりに繰り出されるフレイヤの眷族自慢(マウント)に、イシュタルですら口を閉ざす。

 

「やはりYAМA育ちは神秘の塊……!」

「いやその一言で片付けんなし。他のYAМA育ちに失礼だろ」

「他にいたっけそんな奴」

「いたら俺らが黙ってるわけないんだよなぁ」

「というか万能すぎん? 逆に何を持ち得ないんだ」

「正気……かな」

 

 どっとわらひ。

 次の瞬間、バロールの魔眼をも凌ぐ眼光が正気を疑った男神に突き刺さる。

 

「フレイヤ様がキレた!!」

「安心しろ、まだ笑顔だから辛うじて致命傷だ」

「……笑うという行為は本来以下略」

 

 尚、正気は疾うに置いて来たので、美の女神がキレるのは間違いである模様。

 

「よ ぉ し お 前 ら 一 旦 落 ち 着 け !」

 

 一番最初に落ち着きを失くした道化の神だったが、最初に落ち着いたのも彼女であった。それにしてもこの女神、今回叫び倒しでいらっしゃる。

 

「よーしよしお前ら落ち着きや? フレイヤんとこの子の話はここまでにしとこぉや。これ以上は他の子の命名式にも響くやろ? というかほぼほぼ忘れとったやろ。ウチもやけど」

「琥珀の二つ名は【美神の伴侶(ヴァナディース・オーズ)】で決まりという事で、いいわね?」

「いいわけあるかい! お前が一番落ち着けや!?」

 

 小首を傾げて不思議そうに自分をみつめるフレイヤに、道化の神は深い深い溜め息を吐いた。

 

「……あんな? ちょっとどころか派手に頭のネジ失くしてるのはおいといても、琥珀君は磨けば光る逸材や。ウチもそこは認めたる。極東系イケメンって所もそそるわ……けどな? 自分とこの眷族(こぉ)言うたら、みんなアンタからの寵愛が欲しゅうて一生懸命になっとるやん? そんな中で琥珀君を伴侶扱いしてみ? めっちゃ嫌われるし、完全に孤立してまうで? その子がホンマに大事なら、もっと考えたらんとアカンで? ……というわけでウチん所にちょっと預けてみぃひん?」

「珍しくイイ事言ってるなと思ったら最後の最後で全部台無しにしやがった!」

「そういう事ならまずは小規模な所で下積みさせては?」

「いや治療師(ヒーラー)として医療系に出張させる方が良くないか? 人の心を取り戻すかも知れんぞ」

「琥 珀 は 私 の 物 な の だ け れ ど ?」

 

 美の女神、満を持しての所有権アピールである。

 

「……これはもうダメかも知れないね」

 

 喧噪を他所に呟いたディオニュソスの言葉通り、今回は荒れに荒れまくった挙句、琥珀の二つ名は付けられずに終わったという。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供だけに留まらず、神々ですら混沌に陥れる下界の未知……素晴らしい。美神の伴侶? 貴様如きにあの子が御せるものかよ……アレは私の物だ。全てを敵に回し、全てを滅ぼし、己すらも滅ぼすだろう最も尊き存在。嗚呼、君を迎え入れる時が待ち遠しい。どうかその狂おしさを抱いたままでいておくれ。私のテウメソス……!」




 テウメソス:テウメッサ、テウメーッソスとも。ギリシャ神話に登場する牝狐の怪物。何ものにも決して捕まらない運命に定められている。一説にはディオニュソスがとある国家に災いをなす為に育てた怪物と言われている。ある意味フレイヤ様に目ェつけられるよりタチが悪過ぎる。その気持ちが今話のサブタイトルとなりました。やはりオサレは万能……。

 アンケートの結果と全く関係ない結果とあいなりましたが、二つ名を持たない例外的存在と言う事で、何処ぞの付き人さんが落ち着きをなくしたり、当人は当人で「凶器(まがきもの)に銘など不要……なるほどオサレだな?」と謎の納得をするだろうし、今回はこういう形にさせていただきました。と言うか美神の伴侶はベル君にこそ与えられるべきで、出来るだけ悪足掻きする主人公を描いて行きたいです(謎の使命感)

 次は久し振りと言うか珍しくと言うか、ダンジョンにお邪魔する話になるかと思います。
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