オラリオのなんちゃって滅却師


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作:まほうのこな
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美神の悲哀(ヴァナディース・エレジア)


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 残念でもなければ理由しかない言葉の暴力がフレイヤ様を襲う15話です、それではどうぞ。


 とある酒場で痛切な願いが告げられてから4日後の事である。

 三日三晩眷族(ひと)には言えない戦いを潜り抜けた琥珀は、胃を失わずに済んだ(虚化を抑え込んだ)。また一つ死線を乗り越えた彼が朝食の際に『ごはんおいしい、五臓六腑に沁み渡るわ……』と呟き涙したのを、幹部達は誰一人咎めず、無言で目を伏せた。

 

 女神は泣いた。

 

 その後ヘディンの事務仕事を手伝い、【満たす煤者達(アンドフリームニル)】の支援と極東菓子の差し入れを行った彼は、特大広間(セスルームニル)での晩餐に参加せず、外出した。その際『これから食の闘争があるので』と笑う琥珀の横顔を見たオッタルは『あれは死線に踏み込む雄の顔だった』と、後に語っている。

 琥珀が決意を胸に訪れたのは『豊穣の女主人』であった。彼の身を案ずる給仕達を他所に、琥珀は『娘』の前に立ってこう告げた。

 

『あの日作ろうとしたモノをもう一度作って欲しい』

 

『娘』は歓喜した。

 

 今度こそ胃袋を掴んじゃうゾ☆と意気込んで見せたが、その決意は空振りに終わるし、更なる悲劇への助走であった。これは断じて序章ではない、第二章である。

 名誉挽回あるいは起死回生の一品は、四日前とは違い見映えも普通、匂いも普通。何処まで行っても普通のポトフだった。さぁ召し上がれ、と語尾にハートが付いてそうな笑顔に、彼女の同僚も周りの客もほっこりした。

 しかし厳しい表情の酒場の主(ミア)と更に手を付けようとしない琥珀の様子に、只ならぬ空気を感じて次第に酒場の空気が重くなっていく。

 

 静寂に満ちたフロアに、静かに響いたのは琥珀の言葉。

 

『味見しました?』

 

 これに抗議の声を上げたのは、彼女の同僚であるクソ雑魚妖精であった。彼女が琥珀の胸倉を掴むより速く、その口に致命の一匙が叩き込まれる。

 

 女神アストレアの眷族が一人【疾風】、撃沈。

 

 正義の調べが一つ潰えた……と言うのは大仰に過ぎたが、声なく床に倒れ伏したその様は、正しく絨毯。とある世界であれば『疾風でさえ────!!』の文字と共に次週の予告が入るぐらい鮮やかな瞬殺劇。

 

『四日で名状しがたい汁物から推定:ポトフにまで仕上げた努力と、それにかけたであろう情熱。賞賛されて然るべき……そう思います。思いますが、しかしその成果がコレ、妖精絨毯(リオンさん)です。知っていますか? 飯マズは3つに分けられる事を。不器用な人、味音痴な人、そしていいかげんな人。……この3つです。シルさんはこの四日の間、そりゃもう頑張ったんでしょう。いいかげんな人ではないからだと思います。ならば残り2つのどちらにあたるのか? ここ『豊穣の女主人』で給仕をしているのならば賄いをいただいてる筈です。失礼ながらミアさんをはじめとする従業員の方々に聞き取りをしたところ、貴女と他の皆さんに味覚の差異を感じる言葉はありませんでした。つまり味音痴でもありません。ならば残る不器用な飯マズと結論付けたいのですが、ここで一つおかしな点に気付きませんか? 気付いていらっしゃらない? ではこの皿を見て下さい。一見普通のポトフですね? おかしな匂いもしない。けれど彼女は倒れ伏している。これは悪い意味で器用が過ぎる。何かしら一工夫したんですか? ……なるほど、一つどころか随分と手間をかけたんですね。ですがその結果がこれです。その器用さを活かす前に、まずは基本をおさえる事から始めましょう。隠し味は隠さないと意味がない事を知りましょう。こうすれば美味しくなるかな? は禁忌です。『誰かに美味しく食べてもらいたい料理』よりも『誰でも食べられる料理』を目指して下さい。でないと、胃袋を掴むどころか潰すだけになります』

 

 琥珀は真剣だった、そして辛辣だった。酔客の一人が声を上げるが、振り向いた琥珀の一瞥に、顔面蒼白となった。そこにいたのはオザキ・琥珀でなく、卯ノ花剣八だった。とは言え、男がそれを知る由もない。

 琥珀は無言でポトフの皿を片手にゆっくりと歩み寄る。近くにいた客が一斉に後退った。件の客も逃げたかったが、蛇に睨まれた蛙のごとく。琥珀は一足一刀の間合いで止まり、口を開いた。

 

「ご飯ですよ。食べたら死ぬんです。死なない様に死ぬほど説教するなんて、みんなやってる事でしょう」

 

『娘』は泣いた。

 

 この後推定:ポトフはスタッフ(琥珀)が奇麗に平らげた。彼は『普通に不味かった。と言うか四日前のアレで自分の中の不味いに対するハードルが下がっている気もするので、先程言った事を元にミアさんの手ほどきを受けて下さい』と残して店を出て行った。リオンは絨毯のままだった。

 

 

 

 

 

 そして翌日。

【ステイタス】の更新に訪れた琥珀に、二つ目の【魔法】と新たな【スキル】が発現した。以下にその効果を記す。

 

【コドクノミナイ】

 ・付与魔法(エンチャント)

 ・毒属性。

 ・超短文詠唱。

 ・詠唱式【静謐よ】。

 

薬袋抗毒(ヴェノム・テヴェレ)

 ・美神の加護(フレイヤディバル)

 ・状態異常無視。

 

 因みに耐久と魔力がそれぞれDとFまで伸びており、偉業を成し遂げれば【ランクアップ】可能な域まで成長していた。この時点で前回の【ランクアップ】から8日目である。琥珀は眉をひそめたが、特に何も言わずに部屋を出た。彼が神室から退出した後、フレイヤは『席を外して』と己が付き人に告げた。そして主だけが部屋に残る事になる。

 フレイヤは長椅子から立ち上がると部屋の隅に向かい、そこで膝を抱えて背中を丸めた。そのまま一日を過ごしたと言う。

 

 ヘルンはキレた。

 

 

 

 

 数日後。

 琥珀が二度のダンジョンアタックを経て【ステイタス】更新の為、フレイヤの神室に訪れた。前回の【ランクアップ】から半月後の事である。

 

「ちょっと相談したい事がありまして」

「……何かしら?」

 

 前回の更新から微妙に煤けた様子のフレイヤが問えば、琥珀がこう続けた。

 

「ダンジョンアタックを四日に一度にしようと思うんです。ダンジョンアタック・へディンさんの補助・『洗礼』の回復支援・『豊穣の女主人』って感じのローテーションにしようかと」

「詳しく」

 

 無意識に眷族の鼻先まで顔を近づけたフレイヤは、ゆっくりと身を離して小さく咳払い。

 

「……それで?」

「ミアさん……酒場の店主さんなんですが、従業員の子に料理を教えてやって欲しいと頼まれまして。曰く店の切り盛りに時間を回したいから、言い出しっぺのお前が手伝えと」

「貴方料理出来るの?」

「誰もが美味いと認める物は無理ですけど、誰でも食べられる物なら作れますよ?」

 

 フレイヤは泣きそうになったが、グッと堪えた。

 

「好きになさい……それにしても」

「それにしても?」

 

 咎める様な口調でフレイヤが琥珀に問う。

 

「その……貴方が料理を教える娘はそんなに下手なの?」

「無駄に器用ですね」

 

 容赦のない言葉がボディブローの様に突き刺さる。

 

「一ヶ月……は無理かな、半年か一年か。或いはそれ以上かかるのか分かりませんが、上達すると思いますよ。ちょっとそそっかしい子ですけど、ひた向きな所は好感が持てます」

 

 そう言って小さく笑う琥珀を無言で見詰め、フレイヤは素っ気なく『そう』とだけ言い、彼に退室を促した。

 神室に美の女神だけが残り5分程経つと、彼女はふらふらとベッドへと向かい、顔からダイブすると枕を抱いて両脚をバタバタさせた。

 

 女神の喜びは頂点に達した。

 

 

 

 

「さてと。これで飯マズが一柱減るといいんだけど」

 

 飴と鞭の使い分けって大事だよね。

 琥珀は小さくそう言うと、朝食に向かうのだった。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 




 主人公:第二魔法と新スキル発現。あの試(死)食は間違ってなかった。これでフレイヤ様が飯マズを卒業出来たら、不変を超克した存在として器を昇華させるかも知れない。
 女神:泣いた。自分由来の新たな魔法とスキルに膝を抱えた。目指せ脱・飯マズ。
 ヘルン:キレた。
 リューさん:絨毯になった。

 初期構想時点では回復魔法だけで十分だろと思ってたんですが、第一魔法の詠唱と魔法の効果に『金色』と、毒扱いの料理が合わさって疋殺地蔵のイメージに結びついたので、せっかくだから追加しました。害悪戦法に磨きがかかるのはいいけど、英雄の戦いじゃない上に十一番隊らしくないって言う。クソゲー要素的な意味では滅却師に近付いたかも知れない。

 それではまた次回、お会いしましょう。
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