白昼堂々の自爆テロ(物理的被害無し)後、オラリオ北区の片隅にある【アストレア・ファミリア】の
「では、早速治して頂きましょうか」
とやおら和装もとい極東着物を脱ごうとする輝夜さんを、アーディさんとアリーゼさんが制止した。口出すと面倒そうだしそれをスルーし、ライラさんへ話を振る。
「とりあえずちゃちゃっとやりますか」
「だな……つーか、年頃の女が唐突に脱ぎ出したってのに少しも動揺しねぇのな?」
ライラさんはニヤニヤとしながらこう続ける。
「それとも御主神様以外じゃ反応しねぇクチかー?」
「面倒だしそれでいいです。俺の回復魔法は、厳密に言うと回復と再生を重ねる形式の魔法になります。回復時に痛みが生じる事はないと思いますが、再生に関しては何とも言えませんので、場合によっては苦痛を生じる可能性があります」
そう言うと、女性陣の視線が一斉に俺へと向けられた。
「マジか」
「そうかもね? ぐらいの感覚なんでそこはなんとも言えない、ってのが正直な所ですね」
「……本当に大丈夫なのかな?」
アーディさんの疑問は尤もなんだが、他人の感覚なんざ分からんもん。
「止めときます?」
「いや、やってくれ。上手く行けば、輝夜だって治せるかも知れないんだろ」
それはそっか。と頷いて詠唱を口ずさむ。
「……【我が背の君に希う、絶えざる闘争、黄金の豊穣、汝の加護を与え給う】」
歌いながら、ふと何かが引っ掛かった。なーんか大事な事忘れてる様な? ……なんだっけ?
「──【デア・ヴァナディース】」
発動と共に、黄金色の燐光が
「すいません。俺の魔法、範囲広かったんでした」
「えぇ!?」
昨日ヘイズさんの手伝いしてたのにすっかり忘れてたわ。いや習慣って怖いね……。
「って輝夜大丈夫? 痛かったら泣いてアピールしてもいいのよ!?」
見れば右肩を抑えて蹲る輝夜さんの姿が。床にはナァーザさんのより無骨な義手が転がってるけど、あぁそっか傷口抑えてるのと一緒だから、押し出した感じか?
「問題ない……なかなかの痛みだったが、幸い一瞬だったからな。それよりこのくすぐったいと言うか、むず痒いのは何とかならんのか」
「俺が最初に腕治した時もそんな感じだったんで、諦めて下さい」
「マジかよ……本当に治りやがった」
何だよ信じてなかったんかい……。とライラさんの方を見たら、ちょっと涙ぐんでたのでそっと視線を逸らした。当人も見られて気分いいもんじゃなかろうし。
で視線を逸らした先では、戦闘衣の胸元を引っ張って中を覗き込んでるアーディさんが。いや何やってんのアンタ!?
「わ、火傷の痕が奇麗に治ってる!」
大抗争ん時に例の自爆には巻き込まれてたんか……。乙女の柔肌が治ったんは想定外だけど、いい仕事してんな
「今の光は一体何ですか……!? 貴方は……?」
「お邪魔してまーす。金色の光なら、俺の魔法です。回復魔法なんでご安心を」
飛び込んで来た人に片手を挙げて気さくな挨拶。ってリューさん? 金髪のままやんけ。……『豊穣の女主人』とは無関係なルートかこれ。更に眼鏡っ子エルフとおっとり系の……セルティさんとマリューさんだっけか。
「あら、貴方……その
最後に現れたのは、胡桃色の髪に深い藍色の瞳の
「今をときめく
戻ったってアンタ……いや実質戻ったでいいんか?
「! と言う事は私のお腹の傷も!?」
「お、待てい。まくり上げんな
「
「恥じらい持てって言ってんですよ。自分の身体を誇れるのは結構な事ですが、これみよがしにされても萎えるんで」
肌色過多はフレイヤ様でお腹いっぱいじゃい。見せる叡智より見せない『癖』を磨いてどうぞ。
「おい言われてんぞ輝夜」
「揶揄い甲斐の無い奴め……」
黙ってろ美人代表の嫌味をスルーして、アストレア様と視線を合わせる。
「詳細は省きますが、結論を言うとライラさんと輝夜さんの治療目的で回復魔法かけました。二人とも……だけじゃないか、さっきの光で古傷が治ったとか欠損した部位が生えたとかの場合は、念のために医療系【ファミリア】で診察を受けて下さい。俺
「それなら琥珀とリオンと、アストレア様以外の全員ね!」
その確認、今必要? バチコーン☆じゃねーですよ。
「それにしても対価が高くつきそうですねぇ……琥珀様はどう言った報酬をお望みで?」
……あー、考えてなかったな。
無難に適度な額を……と、その時ふと閃いた! これは今後の布石に活かせるかも知れない!!
「んじゃ、報酬は身体で」
空気が固まった。アストレア様の笑顔が怖い。
「ななななな、なんて破廉恥な!?」
「具体的には三年以内に全員【ランクアップ】と言う事で。体裁やら各方面を考慮するのであれば、フレイヤ様とアストレア様でいい感じに収めて下さい。つーか、ガネーシャ様も含めてですかね?」
言って小首を傾げると、むっつりポンコツエルフさんが金魚の真似してらっしゃる。
「……これは随分と高く付きましたねぇ」
袖で口元を隠した輝夜さんが目を閉じてそう言う。隠しきれてないですぞ、苦笑が。
「……貴方個人に対するお礼は要らないのかしら?」
「特には。何かしらしないと気が引けるってんなら、一日でも早く【ランクアップ】して下さい」
さて用事も済んだし、お暇しますかね。
玄関に足を向ける俺に、アストレア様から再び声が掛けられる。
「一つ聞きたいのだけど、いいかしら?」
「はい?」
「貴方にとって『正義』とは?」
「疑う事」
確信した正義とは、悪である
正義が正義足り得る為には
常に己の正義を疑い続けなければならない
この
「正義無き力は暴力也、力無き正義は無力也。その
俺の天秤は暴力に傾いてるけど、言わぬが花って奴である。
何やら皆さん俺の言葉に感じ入っている様なので、声をかけられる前に戦略的撤退しとこっと。
☆
ふぅ……。部屋から出る前に声かけられたけど知らんフリして飛廉脚まで使って何してんだ俺。
背筋をぐっと伸ばして歩き始めると、どっかで見た事ある姿とすれ違う。
……今のってシャクティさんだな。この辺詳しくねーけど仕方あるまい。って事で大通りから細い道に入って適当に曲がりながら小走り。正確な場所はともかくとして、こういう時バベルっていい目印になるから助かるわ。大体の方角は分かるから。北の大通りから北西へ抜け、そしてそのまま西の大通りへ抜けようと角を曲がった所で、不意に誰かとぶつかった。やっべ。
「キャッ」
咄嗟に相手を引き寄せて抱え込む。性別によっては……今の声完全に女の人だわセクハラやん。
「っとすいません。ちょっと急いでたもの……で…………」
「私も荷物で前が見えなくって、こちらこそすいま……せ…………ん」
思わずハグした超至近距離で鈍色の双眸と視線がぶつかり、お互い言葉尻がしぼんでいく。
彼女が抱えてたであろう紙袋と、そこから零れた野菜やら何やらが地面に転がってるのを見て、そっと娘さんを離して無言でそれらを拾い集めて行く。いやまさかここで出くわすとは。……ねぇ『
「お詫びと言うのもなんですけど、荷物持ちしますよ。何処まで運べばいいです?」
「え、あ、の。……ありがとうございます。付いて来て下さい」
おー動揺しとる。なるほどアドリブには弱いのね。そう言えば当人からも幹部連中からもまだ聞いてないから、知らんフリしといた方が面白……じゃなかった、お互い都合いいのかな。てか耳赤いな? 突発ハグに照れたとか? ハハハそんなあざと乙女ムーブには騙されんぞ……正直、知らんかったら可愛いなと思ったけど。いや知ってるからこそギャップを実感した……? これ以上は止めよう、ドツボにはまる気しかしねぇ。
「最近オラリオに来た方ですか?」
流石に無言で歩くのは気まずく感じたのか、娘さんが話しかけて来た。緑の給仕服を着てるって事は今日はお仕事の日か。原作だと割と頻繁に入れ替わってんだっけか? いまいち覚えてないから分からんのよな。
「観光目的で来たのが1ケ月ぐらい前ですね……色々あって【ファミリア】に入ってたりするんですが」
「……実は後悔してる、とか?」
「いや全然」
それに関しては断言出来るかな。世界最速記録はどうでもいいけど、
「経緯はともかく、今は頑張ってますよ。先輩方はクセが強いけど悪い人じゃないし、御主神様もなんだかんだ優しい方なので。ご期待に添えればと思います」
「……そう、なんですね」
「そーなんです」
何かチラチラこっち見てるな。ッカー! 見んねベル君! 卑しか女神ばい!! まだ故郷だったわ。
「……どうかしました?」
小首を傾げてそう問えば、慌てて前に向き直るシルさん。なんだろ、すっぴんで顔合わせて気まずい感じなんだろか。
「いえ、その……帰りたいとは思わないんですか? なーんて」
あー、と間の抜けた声を上げながら、俺は虚空を見上げる。言ってなかったんだっけか?
「故郷無くなったので」
肩を震わせて、身体ごとこちらに向き直るフレゲフンゲフンシルさん。俺の顔を見上げる双眸は、動揺と驚愕で見開かれていた。あれ思った以上にダメージ喰らってる? 気にしなくてもいいだろに。
元々俺が物心ついた頃には三十人いるかいないかぐらいまで過疎ってたからなー。モノホンの限界集落よりはなんぼかマシって感じだったよ。平均年齢は高かったけど、山間の寒村なんて、多分そんなもんよ(偏見)
「みんなの遺言でもあるんですよ、自分の好きに生きなさいって」
村の大人から見たら、野生の獣や在野のモンスターと戯れる未成年が不憫に映ったのかなぁ。割と好き勝手してた記憶しかないんだけども。ふと思ったんだけど同じ”F”でも『
「……ごめんなさい」
「なんで?」
……いやマジでなんでごめんなさい? 俺の方こそ、フレイヤ様とか【ファミリア】にごめんなさいする心当たりしかないのに。
「だって故郷が」
「それは誰のせいでもないんだし、謝る必要ないでしょ。気が済まないって言うなら、一品御馳走で手打ちにしましょ、ね?」
原作によれば、オッタルさんが太鼓判押すぐらい美味いみたいだし、ミアさんのご飯は楽しみである。それになにより人の金で食う飯は最高だ。笑う俺をじっと見つめていたシルさんは、やがてニッコリ笑うと胸の前で両の拳を握ってこう言った。
「任せて下さい! 腕によりをかけておもてなししますね!!」
唐 突 な 殺 害 予 告 は 止 め て も ろ て
フリじゃないからなマジで止めてくれよLv.4の強者が泣いて逃げ出す料理とかそれもう食い物として致命的なんよ。いやでもベル君かろうじて食ってたっけ? 命までは取られんか……。
などと生存戦略に思いを馳せている内に到着した様だ。みんな大好き『豊穣の女主人』に。お、やっぱ護衛か
「シル
「買い物中に私がうっかりぶつかっちゃって」
「お互い前方不注意でぶつかった時に彼女が袋落としちゃったんで、拾ったついでに荷物運びをば」
茶髪の
「なかなかのイケメンニャー。ニュフフフ、これはシルにも春が来ましたかな?」
何言ってんだコイツ。シルさんも満更でもない顔すんの止めてもろて。
「そういうわけじゃないけど、ちょっとしたお礼に一品御馳走しようかなって」
シルさんの笑顔から放たれた言葉に、フロアの掃除をしていた給仕さん達が一斉に動きを止めた。そっかー飯マズは既に周知済みかー……。
「冒険者さん、悪い事は言わないから止めときなよ」
「これは意地悪じゃないニャ。真摯な忠告ニャー」
ルノアさんとクロエさんが口々にそう言うと、シルさんが分かりやすく頬を膨らませた。
「みんなの舌がお子ちゃまなんですー」
いやその理屈はおかしい。
「何サボってんだいこのバカ娘共」
「かーちゃん聞いてニャー。シルが将来有望そうな生贄連れて来たニャ。ミャー達はそれを阻止しようと一致団結してるのニャ」
クロエさんの言葉にシルさんが据わった目をしていらっしゃる。それにしてもでっかいなぁミアさん、流石は
「アンタは?」
「お互い不注意でぶつかった縁で、ここまで荷物運びしただけです」
鼻を鳴らして俺の頭から爪先までをギロリと睨み付け、すっと目を細めるミアさん。
「【フレイヤ・ファミリア】かい」
「先月入った所です」
大先輩に気さくな挨拶をしつつ、アーニャさんに紙袋を手渡す。
「まだ準備中みたいですし、日を改めて来ますね。それじゃ……ってシルさん?」
踵を返した俺の手をそっと握り、頬を赤らめたシルさんが上目遣いでこちらを見て来る。
「ダメ……ですか?」
「いやお店の準備中に厨房荒らしちゃダメなのでは?」
素朴な疑問を口にすると、シルさん以外の3人が噴き出した。特番だったらみんなアウトやぞ、命拾いしたな。シルさんがうーうー唸って袖引っ張ってるけど、これ収めるの無理じゃね? と思いミアさんに視線を向けると、目を閉じ腕を組み、何やら難しい顔をしていらっしゃった。どしたん?
「骨は拾ってやるから食って行きな」
それは生きな、なのか逝きな、なのか……。まさかの発言に3人娘は目を見開き、シルさんは喜んで両の手を合わせた。
「それじゃ少し待ってて下さいね♪」
死刑宣告ktkr。大人しく処刑台に……じゃなかった、椅子に座って待ちますかね。手近なテーブルに陣取って、厨房でテロ活動しているシルさんの姿を眺める。おいバカやめろ猫の手使え包丁の背にもう片方の手を沿えないで食材が転がるってあー言わんこっちゃない飛んでった。見てると不安しかねーなおい。
「あの娘とはどう言う関係だい?」
「どうもこうも、ついさっき街中でぶつかった仲ですが」
すっぴんで会うのはマジで初めてっていう。
「それにしても
「身内に発破かけた手前、自分も少しは励まないと何言われるか分かりませんしねぇ」
訝し気なミア母さんに、笑ってこう告げる。
「
目を丸くしたミア母さんは、やがてニヤリと笑って俺の背中を強く叩いた。
「ハハハッ! いい根性してるじゃないか坊主!! アイツにゃいい刺激になったろうさ」
「だといいんですけどね」
何せ並び立て、だもんなぁ……お前も励めやって話である。言ってる俺が追い付かん事には、重い腰上げないかなぁ? なんだかんだでフレイヤママ大好きだからなぁ、傍から離れない気がするんだよねあの人。口にしたらミンチになるから言わんが。今後は分からんけど、もう一人の付き人さんが俺の背後を窺って……じゃなかった、普段見てくれてるから余計に付き従ってる感がある。
「それもこれも、まずは俺がとっとと【ランクアップ】しないと……間に合うんかねぇ」
「何がだい?」
いえこっちの話です、と適当に濁して再度厨房を見ると、天井焦がしかねん勢いで火柱が。随分派手なフランベだなぁ……と遠い目をしていたら、ミア母さんがノシノシと厨房へ向かう。これは拳骨だなうん。
人体が出しちゃいけない音と「ふぎゅっ!?」とか言う悲鳴だか苦鳴が聞こえた。だいじょぶ? 新しい頭蓋骨要る?
なんてやり取りを眺めてる間にリューさんがやって来て給仕服に着替えたり、何してんの正義の眷族と問うたらそこは正史通り店先で暴れた3人がミアさんにしばかれて借金背負ったらしい。私はいつもやり過ぎてしまう(キリッ)じゃねーですよ加減覚えてどうぞ。そんなんだから、輝夜さんの玩具にされてるんだよ。
そんなこんなでシルさんの手料理……料理かコレ? 破壊不可能オブジェの出来損ないか何かでいらっしゃる? 今から俺がこれ食うの? エリクサー必須じゃない? ……覚悟を決めよう。
胃 腸 は 疾 う に 置 い て き た
まず匂い。焦げ臭さと酸っぱさがお互いに自己主張が激しくてヤバい。紫色の煙上げてんだけど自然の産物じゃない感が半端ない。
二人を除いて顔を蒼くする皆を他所に、ミアさんは目を閉じ、シルさんは期待と不安交じりの視線をくれている。今は黙ってこれを片付けよう。
下手に口を開いたら毒しか吐かない自信がある
いつから俺は疋殺地蔵に生まれ変わった……? と謎の錯覚を起こしつつも匙を進め、やがてテーブルに置かれる。静かに立ち上がった俺はゆっくりと、そして無言でシルさんに歩み寄り、彼女のか細い肩に手を置いた。
「ご馳走様、シルさん」
今俺が浮かべる笑みは、彼女にどう映るんだろう。感謝の笑み? 引き攣った笑み?
それとも……死を覚悟した者の笑み?
誰かが口を開くよりも先に、俺は再び口を開く。
「出来れば飯を──────作らないで欲しい」
それだけを言いきると、俺は床へと転がった。誰かが俺を揺さぶるのを感じながらも、酷く気だるくて口を開けるのすら億劫だった。
いやホント色々出そうだから揺さぶらないでくれマジで。
肚 に 響 く よ ──────