ダンジョンと言う名の大穴を塞ぐ『蓋』であるバベル。俺達の如きちっぽけな人間からすれば、蓋って言うより杭とか楔じゃねーのかと言う威容を誇るオラリオの中心である。
軋む軋む 浄罪の塔
光のごとくに 世界を貫く
揺れる揺れる 背骨の塔
堕ちてゆくのは ぼくらか 空か
魂のバイブルに記された
この聖句って前半はバベルで、後半ダンジョンって感じすると思わない? ダンまち世界にピッタリだと思うんだよなぁ。個人的にはダンジョン=ガイア説を推してるので、
さておき、このクソデカ楔はギルドの所有とされており、冒険者の為の公共施設としての役割も備えてたりする。簡易食堂や治療所に換金所、あとシャワーもあるんだったっけか?
んで、地上二十階までは冒険者向けの商業施設が多数あるそうで。有名どころだと【ヘファイストス・ファミリア】あたりになるかな。
因みに二十一から上は大手【ファミリア】の主神様方のプライベートルームとして貸し出してるんだそうで、フレイヤ様もその一柱なのである。最上階ですってよ、奥様? 二大【ファミリア】となると財力もすごいですなぁ!?
……その影に、日々事務処理に追われる眷族の血と汗と涙があるわけだが。おのれ狂信の蛮族共め、呪われてあれ。事務方と『
そんな呪詛はさておき……、今日の目的地はここじゃない。刀の整備ならヘファイストス様んとこじゃないの? と思うだろうけど、そっちじゃないのだ。俺が向かうのはバベルから更に先、バベルを中心としたメインストリートの一つで、通称『冒険者通り』と呼ばれる北西に伸びる広いストリートだ。ここは通称からも察する事が出来る様に、冒険者が一番関わる区画である。ダンジョンを管理する『ギルド』の本部をはじめとして、武器屋に道具屋と酒場など、俺達にとっては馴染みの深い場所なわけだ。因みに、名も知らぬパイセン達が世話になっている銭ゲバ神のホームも、この区画に存在する。俺自身はまだ行った事ないし、今後関わる事も無いだろう、多分。
ならば何処に行くのか?
そこは『冒険者通り』と北のメインストリートに挟まれた区画にある。路地裏深くに工房を構えているおかげで家屋は入り乱れているし路地も細く狭い。まぁ俺はこういう雰囲気も好きだから、気にはならんが。
「……っと。ここか」
入口の看板に描かれた、交差する三つの槌のエンブレム。知名度や規模は最大手に譲るものの、彼らの手による武具は決して引けを取らず、コアなファンの心をとらえて離さない、質実剛健の【ファミリア】。
そう、本日お邪魔するのは『俺が』大好き【ゴブニュ・ファミリア】である。
ヘファイストス様だってそりゃすげーんだろうなとは思うよ? けど、俺は麗しき女鍛冶師よりいぶし銀な職人気質そうな頑固親父(偏見)の方が好きなんよ。俺に刀打ってくれた鍛冶師がおっちゃんだったってのも、理由の一つかも知れないけどね。
「こんにちはー! 刀の整備お願いしまーっす!!」
入口をくぐって即座にクソデカボイスで用件を告げる。
「はいいらっしゃい。見た事ない顔だけど、最近オラリオに来た新人さんかい?」
「そんなとこです。あ、主神様からゴブニュ様宛に文を預かっているんですけど」
言いながら懐の紹介状を引っ張り出す。
「随分気にかけてもらってるんだねぇ。因みにどこの【ファミリア】に?」
「【フレイヤ・ファミリア】です」
答えた瞬間、騒々しかった工房がシン……と静まり返る。
おいまて何ぞやらかしたりしていらっしゃる? うちの
「……ところでお兄さん、お名前は?」
「オザキ・琥珀ですけど」
「…………【ファミリア】に入ったのは先月ぐらいで?」
「そーですね」
んん? 何でそんな事聞かれてんだ。他の職人さん達も、俺の事を頭のてっぺんから爪先まで舐める様に見てるし……いやホントなんなん?
「あの」
「
「応!!」
囲めじゃないが? 応じゃないんだが?
そも誰が剣士ぞ? 我、滅却師ぞ?
お、まてい。にじり寄んな当店踊り子へのお触りは厳禁となっております。何でそんなに目ぇギラつかせてんだよ。さては俺を炉に放り込んで、槍でも作る気でいらっしゃる?
「……何をしているんだ。お前達は」
このバリトンボイスは……!
声の主に視線を向ける。皺の刻まれた彫りの深い顔、白髪と口元を隠す程度に蓄えられた髭、恰幅のいい体躯に引き締まった筋肉、何処かドワーフを彷彿とさせるその佇まい。
「ゴブニュ様! 世界最速剣士を囲い込もうと」
「止めろ。それで、その小僧が何の用だ」
「刀の整備をお願いしたく。あ、こちらフレイヤ様からの文になります」
包囲網から抜け出して、ゴブニュ様に紹介状を手渡す。
面倒臭そうに紹介状に目を通し始めると、途中で何故か俺を凝視して、手の中にある羊皮紙に目を落とし……と謎に視線を往復させていたが、読み終えると眉間を揉み解しながら深い溜め息を吐いた。いやなんだこれ。
それにしても、拉致監禁だの囲い込みだのが最近の
一人芝居はさておき、付いて来いと言わんばかりに無言で背中を向けられたので、それを追いかける。通されたのは、恐らくゴブニュ様の執務室……いやここは作業場か?
「見せてみろ」
言われるままに、剣帯から鞘ごと外した刀を差し出された手の上に置く。
鞘から抜いてじっくり刀身を眺めるゴブニュ様。なんだかんだで、十一年の付き合いになるんだよなぁ。何度か打ち直してもらったとは言え、随分と魔力が馴染んでる。オラリオに来てからは毎日抜いてるのもあってか、随分と魔力漬けにしてるし、それもあんだろうなぁ。
……何か言い方のせいか、漬物扱いみたいでスマン。
「この刀を打ったのは誰だ」
「故郷の自称金物屋です。俺は鍛冶師のおっちゃんって呼んでましたけど、日頃は鍋だの包丁とか大工道具に農具の修繕ばっかしてましたね」
鉈とか山刀とか斧あたりもギリ武器扱い出来るんだろうけど、聞きたいのはそういう事じゃねーんだろうな。何か目が据わってるし。怖ぇが如何にもザ・職人な目付きだ。
「コイツは隕鉄を使っている。うちに素材が無い以上、整備程度なら出来るが……打ち直すとなると、
「隕鉄……天から降って来た石由来の金属ですっけ?」
つーか、この世界でも隕石降るんだな……神々ぐらいだと思ってたわ。
「それで合っている。こればかりはダンジョンでも手に入れる事は無いだろう。稀少性で言えば深層のドロップアイテム以上の価値がある」
「……何……………ですと?」
そんなお宝ガキに持たせてたのかよ!? 何考えてんだあのおっちゃん……。あぁでも、今思えば似た様な事は言ってたか?
『ほれ琥珀、お前さんにこれを授けよう。何せお前はこの村で五人しかいないガキのクセして、大人に交じって狩りに精を出すヤンチャ坊主だ。コイツを使いこなせれば、お前さんは山のヌシになれるぞ!』
い や 分 か る わ け ね ー わ
それにしてもそんなトンチキ素材で刀打てるって、結構な腕前なのでは……?
「それにしても刃の劣化が激しいな。何を斬った」
「身内なら最大Lv.5、それ以外だと一番の大物はインファントドラゴンですね」
「…………………そうか」
動揺を顔に出さずに済ませるとは、流石職人神。そうそう、こういう
美の女神止めてリアクション芸の神になりかねんぞあの御方。誰のせいだって? 前世消し損ねた何処ぞの誰かに決まっとるがな……なので、俺は悪くねぇ。そもそも、魂の輝度とかどーなってっか知らんもんよ。いじれるならオラリオ来る前にオフにしとくわ。
「
「よろしくお願いします」
ゴブニュ様の言葉に深々と頭を下げ、お邪魔しましたーと出口に歩いて行く。
「代わりの武器は要らんのか」
「はい。ソイツ以外を腰に差す気はありませんから」
どの道書類整理やら『
「随分惚れこんでいる様だ」
「相棒ですから」
斬魄刀にはならんでも、死ぬまでソイツ以外握らない所存である。刀には巻き添え上等で、覚悟してもらう。なんて事を思いながら、今度こそ【ゴブニュ・ファミリア】からお暇するのだった。