「貴様の『洗礼』参加を全面禁止とする。今後は『
「……ですよねー」
ただでさえ厳めしい顔のオッタルさんが、一層引き締まった表情で放った言葉に、俺は乾いた笑いで返すしかなかった。『洗礼』中に『
けどなぁ……俺自身の成長の余地がなくなるんだよなぁ。そこらへんは交渉すれば、何とかなるか? なるといいな? いや何とかしろよおい脳筋団長(豹変)
「ダンジョンに行く時間もちゃんと作るので、そこは大丈夫ですよぉ~」
「ッシャオラァ!!」
思わず両の拳を天に突き上げる。
「それならダンジョンは三日に一度って事で、お願いしてもいいですか?」
「おい待て。テメェは強くなりたいんだろうが。ヘイズの手伝いが三日に一度じゃねぇのか?」
そんな風に突っかかる……いや素朴な疑問? を口にしたのはアレンさん。見ればフレイヤ様だけでなく、黒白妖精コンビに四つ子さん、ヘイズさんも訝し気な目でこちらを見てた。
ハハハこやつらハハハ。
「この中で【ファミリア】運営に貢献してない人は素直にごめんなさいしてもろて」
俺が真顔でそう言えば、痛い所をつかれた面々はそっと目を逸らした。具体的にはヘディンさんとヘイズさんを除いた全員である。
「適材適所だろうが」
「俺達は冒険者だぞ」
「そもそも机に座って書き物するなんて性に合わない」
「「「それな」」」
「教養と品性の欠けた者が美の女神の眷族に相応しいとでも? 普段からその辺意識しないとフレイヤ様が蛮地の女王扱いされるんですが、そこら辺分かっていらっしゃる?」
原作知ってるからあえて言及させてもらうけど、力がルールじゃねーんですよ。英雄の街と言えば聞こえはいいけど、その実
「強さに品性が関係するわけじゃねぇだろうが」
「強くなるために必要なのは当人の気持ちと環境だから下地整える事に頭使えってんですよ個人主義が罷り通ってるのはフレイヤ様の神意であろうとそれに甘えんなや何のための肩書だと思ってんですかアンタらが敬遠してる事柄に従事しているのは同じ眷族であって奴隷や小間使いじゃねーって言わなきゃご理解いただけませんかね強くなりた過ぎて脳味噌の代わりに筋肉でも詰め込んでいらっしゃいますかそうですかそんなんだから救護班が毎日死んだ目ぇして蛮族介護に従事するハメになってるとご理解いただけないんですねここはやっぱりお子ちゃまでも分かる様に一から十まで懇切丁寧にご説明した方が宜しいでしょうか『あたまのてっぺんからつまさきまできんにくがつまっているおつむのちいさいおともだちでもわかるよいファミリアのつくりかた』って冊子でも作って【ファミリア】全体に配布しましょうかそもそも普段の言動考えたらお前が言うなとか思う程度で済ませているんでしょうけど必要なら啓蒙活動に全力出しても俺は一向に構いませんがそこら辺どう思いますかって何で目ぇ逸らして後退ってんですかおい言いたい事があるなら俺の目を見て返事しろや聞いてんのかおい拗らせ猫戦車逃げてんじゃねぇまずはアンタからたっぷりしっかり分からせて」
「落ち着いて」
「腎臓が痛い!?」
一日ぶり二度目の
「……貴方が視野狭窄なだけでしょう。普通に近付いただけ」
なん……だと…………?
床から立ち上がると、言われた通り落ち着く為に咳払いを一つ。
「繰り返しになりますが【フレイヤ・ファミリア】は、フレイヤ様のご意向に沿う形で『個としての強さ』を重んじています。ですが、それを支えるのもまた個の資質によりますので、底上げと言う点においては弱いと愚考します。おっと今最強なんだから問題ないだろとか思いました? ところがどっこい、甘いです。砂糖まぶしたアンコに蜂蜜ぶっかけたぐらい甘いです。幸い、強くなる環境としては、オラリオ内でも最優だと思います。ですがそれは、一部の負担を無視した物です。オラリオ二大【ファミリア】の片翼ではなく、文句無しの……文字通りの最強になる為、盤石の体制を敷くべきです。『三大冒険者依頼』の達成と、ダンジョン攻略に伴う到達階層の更新。この二点に重要なのは、無論強さ」
ここで俺は右手を顔の前に挙げ、人差し指と中指、そして薬指を立てる。
「三年です。現体制を見直し後方支援の充実を図り、『
「不可能だ」
「不可能でも理不尽でもやらなきゃならんでしょうよ。今尚生存してる『隻眼の黒竜』は元より、リヴァイアサンやベヒーモスがいつ生まれてもおかしかないでしょう?」
俺がそう言うと、その場の面々は何言ってんだコイツみたいな顔しやがった。
「……分かってねーなぁ……。三匹ともダンジョン生まれでしょうが。奴らを階層主の特別枠だとしたら、少なくとも三大クエストの内二匹に関しては、明日にも……いや、もしかしたらもうダンジョンで生まれてる可能性だってあるのに」
重ねて言えば、リアクションは様々に変わる。フレイヤ様とヘディンさんは顎に手を添えて思考に耽り、オッタルさんは腕を組んで目を閉じ、アレンさんは苦々しそうな顔をして、ヘグニさんはおどおどしている。四つ子さん達は無言ながらもせわしなく視線を交わし合わせており、ヘイズさんは訝し気なままだけど顔をこわばらせて、ヘルンさんはいつだかみたいに驚愕の眼差しをこちらに向けていた。
因 み に 実 際 生 ま れ る か は 知 ら ん
「……それは私達だけで成し遂げる、と言うつもりかしら?」
「勿論。残る片翼であり、フレイヤ様のご友神でもあるロキ様の擁する【ロキ・ファミリア】は群としてはうちよりも上ですが、全体的な質ではこちらの方が上。それに文句をつけるつもりはありませんが、あちらは後進の育成に重きを置くが故に安全策になりがちで、現状の我々に追い付くのも難しいと考えています」
いやホント悪くないと思ってるんだよね。冒険者は冒険しちゃいけないのは確かなんだけど、冒険しなきゃ己の器を昇華出来ないのも、また事実。原作知識によれば、Lv.1のまま終わる冒険者が大半だ。生活する分にはそれでもいいし、別に口挟むつもりもないけど。ベル君がオラリオに来る頃には、割と終末が近い感じなんだよなぁ。
そう考えると、後方支援とか運営とかまるっと無視して、せめて【フレイヤ・ファミリア】全員に強くなってもらう必要があるって言うか、うちだけ強くなってもまぁ無理だろうなぁ……と。
俺は英雄でもなけりゃカリスマでもないので、どうしたって引っ張る力は無いけども。それでもやれることはやっとくべきだ。負けない様に、死なない様に、尽くせる手を尽くしきらないと。
ホントこう、どうしてこうなったんだか。ちょっと聖地巡礼に来ただけのはずなんだけどなぁ。ま、いいか。今更だ、今更。何もかんも全部呑んで
……それはそれとして【フレイヤ・ファミリア】のブラック運営の立て直しと強化、オラリオ内でのイメージアップ戦略はしといて損は無いし。
ベル君が苦労するのではって? へーきへーき、主人公なんだからどうにかしちゃうだろう。ついでに三大クエスト最終章もなんとかしてくれるさ、ヨシ!
何てことを考えていたら、オッタルさんがこちらに視線を向けていた。
「琥珀」
「はい?」
「その三年で、お前自身は何処まで登り詰めるつもりだ」
「下界最強」
言うだけならタダだし、つもりと結果が一致するとは言わんけど。でも何かこう、オッタルさんに追い付ける気はするんだよな。『洗礼』で下積み出来ないのは誠に遺憾なんだけど、三日に一度
「……俺を前に下界最強を掲げるか」
都市最強の【
思わず背筋が震える。
参ったなぁ……いや本当に参った。この状況で心底楽しいと思っちまうあたり、頭十一番隊か俺は? 割とそうだな、うん。
さておき、ビビりながら楽しんでるのはいいとしても、黙ってちゃ恰好が付かない。それがたとえ虚勢でも、ここで吠えなきゃ
「百万回負けようが、俺が諦める理由にはならないんで」
「嗚呼ッ!!」
「フレイヤ様!?」
……今のやりとりのどこにアッー! する要素があったんよ?
色んな意味で居た堪れない空気になった中、刀の整備について思い出す。
「この空気で言うのは非常にアレなんですけど、刀の整備に行ってきますね」
ヘルンさんの抗議の視線をスルーしつつ、そそくさと退室しようと声をかける。
「……ああ」
お前どういう神経してんだよって視線で問いながらも、オッタルさんから了解を得たので、戦略的撤退は無事成功の模様。扉に手をかけた所で、オッタルさんが再度声をかけてきた。
「琥珀」
「はい?」
珍しく口角を上げたオッタルさんが、ちょっとだけ楽しそうにこう言った。
「並び立て」
「……はい」
言葉少なにそう返し、扉を閉める。
「フレイヤ様の痙攣が激しく!?」
「テメェ何してやがるこの猪野郎!?」
「……む?」
何かそんなやりとりが聞こえた気がするけど、幻聴だと思う。
きっと、たぶん、メイビー。