「あ~琥珀、待ってましたよぉ~」
気の抜ける声音と共にこちらに這い寄る……もとい、歩み寄って来たヘイズさん。今日も目が死んでおられる。ふと視線を動かせば、背後の亡者と紙一重の『
争え……もっと争え…………。俺に美味しくいただかれる為に、自分磨きを努々怠るな
などと我ながらド畜生極まる内心を他所に、血と汗と泥に塗れた戦場のあちこちで黄金の燐光が舞い踊る。『洗礼』に勤しむ皆様方の士気もうなぎ上りのご様子だ。いや良き哉良き哉。
「いやぁいいなあ、静養さえなければ今すぐ混ざりたい所ですねぇ」
「琥珀は本当に血の気が多いですねぇ~」
ふにゃりと笑うヘイズさん。可愛いんだけどこの人も過激派なんだよね……。
「ひとまず俺が戦場見とくんで、ヘイズさん達は茶菓子でもつまんでて下さいな。少しは気ぃ緩めないとしんどいでしょう?」
言いながら持参した小さい袋を救護班の面々に手渡していく。回復?
「夕餉の仕込みもあらかた終わらせといたので、たまにはのんびりして下さいな」
まぁ全部が全部俺一人でやったわけではないが。材料切るぐらいなら、ジャンルは違えども刃物の扱いが達者なヘグニさんにもお誂え向きである。
「料理も出来るのか……なんて、ギャップの一つもあれば、周りに馴染みやすくなりますよ。黙って手を動かしてるだけでも、誰かとやる事で一体感も出来るし、変に緊張しないでしょ?」
とか適当に言ったら、何か張り切ってくれたので、とても
「神よ……」
何か拝み出した……。そんな
……日頃の言動? 俺のは自分磨きの為だから。圧倒的にセーフだから。
などと考えていたら、キャラ付けに苦労しそうな四つ子さん達が通りかかった。
「右腕を犠牲に【ランクアップ】を果たしたと聞いたぞ」
「なんで右肘まで回復してんだよ」
「それならそれで僕達が鍛えてやってもいいぞ」
「「「精々それまで背中丸めて回復してろ」」」
………あ?
流石に咎めようとでも思ったのだろうヘイズさんが、何故か俺の顔を見てた。いやだなぁ……フレイヤ様の心遣いを考えたら、軽口程度のやっっっっっっすい挑発に乗るわけないじゃないですかハハハこやつめハハハ……。
「【──我が背の君に希う】」
とは言え、とは言え……だ。正史のベル君ですらLv.4に到達してようやっとエンカウント出来た最高の成長フラグである。無駄にするなんて勿体ないにも程があるよなぁ?
『強くなりたいんだろ? 待っててやるからとっとと生やせ』なんて不器用な発破かけてくれたんだ。応えなきゃ
「【絶えざる闘争、黄金の豊穣、汝の加護を与え給う】」
左腕を取って俺を制止しようとするヘイズさんの声も、引き攣った笑みを浮かべながらも戦闘態勢に入っている『
お願いですからすっこんでろ邪魔だよ折角の機会を逃すわけねぇだろ調子に乗ってようがしっかり煽られてようがどうでもえぇわこちとら世界一
行 儀 の 良 い 振 り は 、 も う や め だ
「【デア・ヴァナディース】」
ゴリュッ! メキョッ! と独特の音を立てながら骨が伸び、それを包む様に神経が、筋肉が、血管が異音と共に指先へと盛り上がって行き、最後に皮膚やら爪が剥き出しの肉を包み込んだ。この間、大体十秒ぐらいだろうか。再生過程にお漏らしした体液やら血液でベッタベタではあるが、軽くグーパーしたり、肩から大きく回してみたりと、動作確認は怠らない。右腕振り回した時にビチャビチャと水音がヤベー感じだが、無事再生した様なのでヨシとしよう。
背後で呻いたり嘔吐してる方々もいらっしゃるが、そこまでショッキングな光景かね? まぁそれもどうでもえぇか。静養は右腕が再生し終わるか、義手が届くまでのどちらか。条件をクリアしたんだから、何の問題もあるまいて。
「んじゃま一つ宜しくお願いします」
言いながら鞘から刀を抜いて構える。
魂が識っているスキルと発展アビリティの検証しないとなぁ……。
☆
狂った様に……と言うか、まんま狂ってるんじゃないかと疑うレベルの哄笑を上げながら、光の矢を、手にした刀を、或いは拳や蹴りを振るうその姿は、控え目に言って獣と大差無い有様。だと言うのに、理性を捨てる度にキレの増す動きと、明確な意思が濁った眼の奥で渦巻いているのを見て取ったヘイズは、深く長く重い溜め息を吐いた。ふと見回せば、四人と一匹の攻防に何を感じたのか『洗礼』に勤しんでいた筈の『
にも関わらず、高笑いと高速再生による異音を上げ、時間の経過と共に精神的なキレ具合と動きのキレを増していく。一方の四つ子はと言えば、少しずつ包囲網に綻びを生み始めている。
「どうなってやがる」
声の主に視線をやれば、副団長の猫人が訝し気な視線を戦場に送っていた。その背後には、美の女神と団長である猪人、更に女神の付き人まで。
「……短い静養だったわね……。もう何日か休んで欲しかったのに」
女神の言葉に付き人の表情が厳しいものに変わるが、団長と副団長の二人は相変わらずの仏頂面だった。
「小人共の動きが鈍ってやがる。どんな仕掛けを使ってやがる」
「分からん。だが、アレの仕業なのは間違いないだろう。発展アビリティか、スキルか……」
そんな二人の会話に口を挟んだのは、玲瓏な主神の声。
「聖文字”F”……『
頬に手を当てて溜め息を吐くフレイヤの表情は、やや不満げであった。
自分を夢中にする輝きはそこになく、視線の先にある獣の魂は、昏く濁ってしまっている。だと言うのに、時折琥珀色の輝きが、闇に走る雷の如く煌めくのだ。それはそれで彼女を楽しませる物ではあったが、初めて会った時の様に透き通った輝きの方が、琥珀には似合っていると思う。
「如何致しますか」
「暫く見守っておきましょう? 度を越しそうならば、琥珀を止めて頂戴」
主神が浮かべる苦笑を珍しい物だと思いながら、オッタルは無言で頭を下げるのだった。