美の女神フレイヤの神室。
その場にいたのは部屋の主とその付き人。更には右の二の腕から先が無い琥珀の3者であった。
「成し遂げた『偉業』はここに刻んだ。【ランクアップ】よ、琥珀。……本当に素晴らしいわ」
「………はい、ありがとうございます」
このやり取りだけを見れば厳粛な雰囲気以外存在しないのだが、その胸中はと言えばそれはもう余人にお見せ出来ない代物である。
(ッッッッシャオォォルアァァァァァァァァァァ! どーんなもんじゃーい!! ……おっと、興奮のあまりついつい取り乱した。さて、発展アビリティはどんなんが生えたんだろ? 酷使された回復魔法に因んで魔導? 一ヶ月
頭戦闘民族な眷属の胸中は大体こんな感じだったが、仮に声に出していたとしても『コイツがイカれてるのは
次に女神フレイヤだが、彼女の品性に関わるので詳細は伏す。一ケ月前の醜態? それ以上の言及は禁忌である。さておき、
最後のヘルンだが、まぁヤバかった。何がヤバいって、目の前で女神に跨られている男の評価が『古今無双の不敬者』から『ちょっと気になる
実際の戦闘は余人から見れば文字通り化け物同士の争いだったがそこはさておき、ヘルンをチョロいと笑うべきか、紛う事無きクソ野郎に脳を灼かれた事を同情すべきかについては、有識者の見解が待たれる所である。
そんな三者三様の見た目天国胸中地獄絵図な光景からそっと目を逸らすとして、オザキ・琥珀の【ランクアップ】に話を戻す。
所要期間、約一ヶ月。
事実としては『冒険者登録初日』だったりするが、単純に申告遅れと言う事で『
モンスター撃破
【ギルド】の主神であるウラノスが直接問いただした結果『正確に数えたわけじゃないけど一階層あたり三十ぐらいは
そしてLv1.の最終【ステイタス】は以下の通りである。
オザキ・琥珀
Lv.1
力 :S999→SS1086
耐久:S999→SSS1392
器用:S999→SSS1256
敏捷:S999→SS1016
魔力:S999→SSS1467
《魔法》
【デア・ヴァナディース】
・広範囲回復魔法
・一定時間毎に精神力を消費し、継続的に高速
・短文詠唱
・光属性
・詠唱式【我が背の君に
【】
【】
後述する事になるが、ここでは【スキル】については割愛する。
【魔法】の効果が変化しているが、これは偏に術者の使用感と言うかオサレとは程遠い戦い方がそれはもう強く影響しているだろう。
「それで『発展アビリティ』なのだけど……」
珍しく言い淀むフレイヤに小首を傾げる琥珀。何か変なん生えたんだろうかと不安がよぎる。
「私も初めて目にした物だし、聞いた事すら無い。稀少なのは確かなのだけれど、不確定要素がある以上は……ね?」
「因みに何と言う名称で?」
何気なく尋ねる眷属に、主神は頬に手を当てたまま沈黙している。その瞳に浮かぶのは、困惑と逡巡。
「その……ね? 滅却師と」
「ありがとうございます! ありがとうございます! 例え死のうが生まれ変われようが、絶対に剥がれない様にソイツを刻んで下さい! 背中と言わず魂に! ハリー! ハリー! ハリー!」
喰い気味の返答と共に、喜びと感謝に満ちた魂の輝きが美の女神を襲う。
「嗚呼ッ!」
「フレイヤ様!?」
☆
──さて。
紆余曲折あったものの、オザキ・琥珀の【ランクアップ】は無事に──
「これは一体……」
女神フレイヤ、本日二度目の困惑と驚愕である。
琥珀の背に刻まれた【
「琥珀……滅却師と言う名に、心当たりがあるかしら?」
「えぇまぁ、俺の原点ですから」
如何にも誇らしげに、それでいて無邪気な子供の様に男は笑う。輝きはそのままながら、何処までも透明な魂の在り様に、美の女神はトゥンクしたりキュンキュンしたりする一方で、安堵の溜め息を漏らした。
「そう……それなら大丈夫ね。けど一応言っておくわ。心してこれを読みなさい」
でなければ私の方が保たないから。と言う懇願はあえて胸中に留め置き、フレイヤは【ステイタス】を書き写した羊皮紙を琥珀に手渡す。
「はぁ……分かりました」
生返事もそこそこに、受け取った羊皮紙に視線を落とす男。読み進めると共に、彼の双眸が見開かれ、羊皮紙を持つ手に震えが走る。
オザキ・琥珀
Lv.2
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
滅却師:I
《魔法》
【デア・ヴァナディース】
・広範囲回復魔法
・一定時間毎に精神力を消費し、継続的に高速
・短文詠唱
・光属性
・詠唱式【我が背の君に
【】
【】
《スキル》
【
・その効果は魂が識っている。
【
・その効果は魂が識っている。
【
・その効果は魂が識っている。
「成程…………」
薄く笑みを浮かべてそう独り言ちた琥珀は、真剣な表情で女神に向き直ると、深く頭を下げた。
「今後、尚一層の精進をお約束致します」
眷属の深い感謝を浴びながら、美の女神は三度目の見せられない姿を出さぬ様必死に堪えるのだった。