思えば調子に乗っていた、と言うのが後の俺の反省点である。
実際『洗礼』を一ヶ月乗り越えたと自信があったし、Lv.1とは言え上澄みも上澄み……【ステイタス】オール999を叩き出したんだから胸張っていいだろって驕りがあった。
ダンジョンに潜ってからもその自信は揺らぐ筈もなく……10階層までのモンスターなんぞ、見敵即射殺のノリだった。ハードアーマードあたりは一撃と行かなかったが一度『弓』を引けばまぁ死んでくれたし。ヘッドショットが狙える相手ならば、いくら数がいようと穴を穿つだけの簡単なお仕事だったのだから。
そんな感じで11階層まで辿り着いた時、完全に緩んでいた俺とすっかり肩の力を抜いていたヘルンさんに、冷水ぶっかける様なダンジョンの悪意……
……正直、アレはイレギュラーと言っていいんかな……いや、いいかも。
琥珀色の鱗を持つレアモンこと、実質【上層】の階層主に位置付けられたインファントドラゴンが、壁をブチ破って突っ込んで来たのだ。覚えのある魔力の残滓を纏いながら、である。
こんにちは死ね! なノリで固まっていたヘルンさんに向けられたインファントドラゴンの口からうっすらと見える赤色。うーんこれはヤバい。
飛廉脚でもってヘルンさんの背後に回り込む。盾にする気かって? するかしないかで言えばしないけど、それが有りか無しかで言えばアリだとはちょっと思った。思いながらも彼女の首根っこ掴んで自分の背後へブン投げつつ、周囲の魔力を操って障壁を張る。何となく嫌な未来が脳裏を掠めたので、自分とヘルンさんの間に二つ程壁を追加しておく。
同時に視界を埋め尽くす紅蓮と、全身を舐め回す灼熱。障壁? 即剥がれたわ畜生が。いやまぁ至近でブレス喰らっといて息があるんだから十分役には立ったか? チラリと背後を見遣れば、女の子座りで驚愕の眼差しを向けるヘルンさん。障壁、超有能。続いて俺をマルカジリとばかりに顎門が突っ込んで来るのを、痛みと熱さに耐えながら何とか身を捩るも、無事(?)右腕に齧りつかれた。
バツン! と太いゴムをまとめてぶった切った様な音と、ゴリゴリバキバキと腕が引き千切られる感覚。怒りに任せて左拳を叩き込む。何気に久々の『
その様子を見ていた俺は、左手をグーパーさせてから独り言ちる。
「……ボディに当てれば浮くんじゃねぇかな」
でもって飛廉脚で子竜の後頭部に移動、脳漿をブチ撒けろとばかりに蹴り下ろし。更に死角をついては魔弾を射かけて削りにかかる。同時に、この一ヶ月ですっかり馴染んだ『歌』を紡ぐ。
「【我が背の君に
現状俺が使える唯一の【魔法】であり、【ファミリア】内では
「──【デア・ヴァナディース】」
起動した魔法が、爛れて塞がれた瞼を強引にベリッと開いて
正 気 は 疾 う に 置 い て き た
転生した異世界に浮かれていたのも事実、ガキの頃から野山を駆けずり回り、レッツ
そんな俺でも『死』は怖い。転生ってーと、こう一続きなイメージあるけど『一度終わった身』だからな? オサレに言うなら、『我らは 姿無きが故にそれを畏れ』って奴である。まして前世より死が身近な世界観なんだから、猶更だ。それでも『恐怖を退けて歩み続けるからこそ、人はその歩みに特別な名前を付けるのだ』と、かの藍染様も仰っている。
俺 の は 勇 気 じ ゃ な く て 狂 気 だ が
まぁ正気があろうが無かろうが、イカれてようがどうでもえぇわ。死ぬのは怖いが弱肉強食は世の理だからして、喰われたくなきゃ強くなるのが一番早いし、その結果が人としてネジをいくつか零してようが知ったこっちゃない。
全身に矢で穴を開けられて尚、怒りに任せて咆哮を上げているらしい小竜を前に、こちらも
「テメェを
しっかり生え揃った髪を靡かせながら、飛廉脚で右の前脚脇に飛び込む。まずは
飛廉脚が『足元に作った霊子の流れに乗って高速移動するモノ』であるなら、こんな使い方も出来るのでは? と編み出した超速の居合である。そして刀も一工夫、遂に解禁されたなんちゃってシュナイダー……それは
滅却師らしい引き撃ちと、なんちゃってシュナイダーによる
それにしてもしぶといな? 腐ってもレアモンって事か。いやよく考えたらベル君に瞬殺されてたけど、レベル1や2のパーティでも全滅させる位には強いんだっけか? いかんな……『洗礼』のせいか強さの基準とか微妙にバグってる気がして来た。
一度パターンに入ったせいか、思考が眼前の戦闘からやや離れそうになったが、油断も慢心もしていない。テンションこそガチヒャッハーなものの、相手の一挙手一投足を見逃さずに、じっくりしっかり懇切丁寧に削り続けて行く。やがて地響きと共に倒れたインファントドラゴン。文字通り虫の息って体のモンスターを前に、俺は刀を鞘に戻す。
「【
独り言ちながら、周辺魔力から自身の精神力を補充する。ヘルンさんが訝し気な視線を送っているんだろうけど、それを無視しながら一人語りを続けつつ、インファントドラゴンに近付いた。その瞳に宿るのは、最早死に体の身でありながら、今尚殺すべき俺に向けられる殺意だった。
「俺が最初に覚えたのは、自身が持つ魔力の操作だ。頭の天辺から爪先まで、血肉の一片髪の毛一本、どれだけ小さかろうが、そこに宿る魔力を意識して操作する……それが滅却師としての、一歩目。因みに、抜けた髪だろうが切った爪だろうが、それらにも魔力は詰まっている。時間の経過と共に消えはするけどね」
そこで一区切りすると、俺は小竜に向かって小首を傾げて、こう告げた。
「さて、君が食った俺の右腕なんだけど……一体、
──答え合わせの時間だ。
言って首を掻っ切るアピールから、皮肉げな笑みと共に
変化は唐突に、そして苛烈に。
横たわっていた小竜の背を突き破って飛び出したのは、巨大な刃を形どった琥珀色の光。
「
胎の内から両断された小竜の躰から魔石が転がり落ちる。
灰と化すその様を眺めながら、俺は軽く息を吐いた。
「ありがとう、そしてさようなら。君は