オラリオのなんちゃって滅却師


メニュー

お気に入り

しおり
作:まほうのこな
▼ページ最下部へ


7/19 

斯くて獣は解き放たれる


 

そう、何ものも わたしの世界(オサレ)を 変え(止め)られはしない





 思えば調子に乗っていた、と言うのが後の俺の反省点である。

 実際『洗礼』を一ヶ月乗り越えたと自信があったし、Lv.1とは言え上澄みも上澄み……【ステイタス】オール999を叩き出したんだから胸張っていいだろって驕りがあった。

 ダンジョンに潜ってからもその自信は揺らぐ筈もなく……10階層までのモンスターなんぞ、見敵即射殺のノリだった。ハードアーマードあたりは一撃と行かなかったが一度『弓』を引けばまぁ死んでくれたし。ヘッドショットが狙える相手ならば、いくら数がいようと穴を穿つだけの簡単なお仕事だったのだから。

 そんな感じで11階層まで辿り着いた時、完全に緩んでいた俺とすっかり肩の力を抜いていたヘルンさんに、冷水ぶっかける様なダンジョンの悪意……異常事態(イレギュラー)が襲い掛かった。

 ……正直、アレはイレギュラーと言っていいんかな……いや、いいかも。

 琥珀色の鱗を持つレアモンこと、実質【上層】の階層主に位置付けられたインファントドラゴンが、壁をブチ破って突っ込んで来たのだ。覚えのある魔力の残滓を纏いながら、である。

 

 こんにちは死ね! なノリで固まっていたヘルンさんに向けられたインファントドラゴンの口からうっすらと見える赤色。うーんこれはヤバい。

 飛廉脚でもってヘルンさんの背後に回り込む。盾にする気かって? するかしないかで言えばしないけど、それが有りか無しかで言えばアリだとはちょっと思った。思いながらも彼女の首根っこ掴んで自分の背後へブン投げつつ、周囲の魔力を操って障壁を張る。何となく嫌な未来が脳裏を掠めたので、自分とヘルンさんの間に二つ程壁を追加しておく。

 同時に視界を埋め尽くす紅蓮と、全身を舐め回す灼熱。障壁? 即剥がれたわ畜生が。いやまぁ至近でブレス喰らっといて息があるんだから十分役には立ったか? チラリと背後を見遣れば、女の子座りで驚愕の眼差しを向けるヘルンさん。障壁、超有能。続いて俺をマルカジリとばかりに顎門が突っ込んで来るのを、痛みと熱さに耐えながら何とか身を捩るも、無事(?)右腕に齧りつかれた。

 バツン! と太いゴムをまとめてぶった切った様な音と、ゴリゴリバキバキと腕が引き千切られる感覚。怒りに任せて左拳を叩き込む。何気に久々の『動血装(ブルート・アルテリエ)』を乗せた拳は、クソトカゲの横っ面を殴り飛ばすだけでなく、その巨体を大きく傾けさせた。

 その様子を見ていた俺は、左手をグーパーさせてから独り言ちる。

 

「……ボディに当てれば浮くんじゃねぇかな」

 

 でもって飛廉脚で子竜の後頭部に移動、脳漿をブチ撒けろとばかりに蹴り下ろし。更に死角をついては魔弾を射かけて削りにかかる。同時に、この一ヶ月ですっかり馴染んだ『歌』を紡ぐ。

 

「【我が背の君に(こいねが)う、絶えざる闘争、黄金(こがね)豊穣(めぐみ)、汝の加護(あい)を与え給う】」

 

 現状俺が使える唯一の【魔法】であり、【ファミリア】内では範囲回復(ベホマラー)の役目を放棄してると専らの評判である切り札を一つ切る。と言うか、とっとと治さないと視界が半分潰れてるから、動きにくくてしょうがない。ひとまず右腕は放置しといてえぇか……腕一本分身軽になったと思えばいいな、ヨシ! 何もよくないがそれはさておき。

 

「──【デア・ヴァナディース】」

 

 起動した魔法が、爛れて塞がれた瞼を強引にベリッと開いて()()()()()()()()()()。俺の能力の最たるものは、滅却師を再現した魔力操作でもなければ、野生の獣やモンスター相手に磨いた狩猟技術でもない。【神の恩恵(ファルナ)】によって目覚めた回復性能だろう。最早ウルキオラレベルの超速再生じゃねーかと思うかも知れんが、目玉の一つや二つならまだしも、腕一本となると【精隷】全開にしながらでも肘までが精々で、そっから先は自動再生に任せた方がいいんじゃないかな。試した事無いから知らんが、最悪フレイヤ様に頼んで『銀の腕(アガートラム)』買ってもらおう。何処ぞの剣士よろしく大砲仕込んだりとか夢が広がる……いや待て、【精魔兵装】を活用すれば義手をなんちゃってガトリングに仕立てられるのでは!? (おのこ)の浪漫が止まらないな……。四肢欠損をバネにするのは流石にどうなのよ? と、そんな思いが脳裏を掠めるが何を今更って感じである。

 

 正 気 は 疾 う に 置 い て き た

 

 転生した異世界に浮かれていたのも事実、ガキの頃から野山を駆けずり回り、レッツ滅却師(クインシー)して来たのも事実だし、聖地巡礼(観光)目的でノコノコ世界の中心(オラリオ)に来た挙句、フレイヤ様(ラスボス枠)の眷族になったのも事実だ。

 そんな俺でも『死』は怖い。転生ってーと、こう一続きなイメージあるけど『一度終わった身』だからな? オサレに言うなら、『我らは 姿無きが故にそれを畏れ』って奴である。まして前世より死が身近な世界観なんだから、猶更だ。それでも『恐怖を退けて歩み続けるからこそ、人はその歩みに特別な名前を付けるのだ』と、かの藍染様も仰っている。

 

 俺 の は 勇 気 じ ゃ な く て 狂 気 だ が

 

 まぁ正気があろうが無かろうが、イカれてようがどうでもえぇわ。死ぬのは怖いが弱肉強食は世の理だからして、喰われたくなきゃ強くなるのが一番早いし、その結果が人としてネジをいくつか零してようが知ったこっちゃない。

 全身に矢で穴を開けられて尚、怒りに任せて咆哮を上げているらしい小竜を前に、こちらも美肌を取り戻(オートヒール)しながら、GJJJさんの様に嗤う。お前を喰え(斃せ)アビリティSS(上限突破)も夢じゃないんだろうなぁ……オラ、ワクワクすっぞ!! だからまぁ、なんだ。 

 

「テメェを喰わ(ヤら)せろ蜥蜴擬き(経験値)イィィィィィィ!!」

 

 しっかり生え揃った髪を靡かせながら、飛廉脚で右の前脚脇に飛び込む。まずは等価交換(やり返す)!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 飛廉脚が『足元に作った霊子の流れに乗って高速移動するモノ』であるなら、こんな使い方も出来るのでは? と編み出した超速の居合である。そして刀も一工夫、遂に解禁されたなんちゃってシュナイダー……それは物理()と魔力の二重奏。高速振動させた魔力で防御を削り、肉に刃を抉り込む力任せの二段構えだ。鱗を削るギャリギャリ喧しい音と、鋼が肉を抉る音が重なり、そこに小竜の絶叫が加わった。耳障りな音に顔を顰めながら、たかだか四肢の一本程度で大袈裟な……と舌打ちする。まだ三本残ってんだから十分だろうに。

 滅却師らしい引き撃ちと、なんちゃってシュナイダーによる一撃離脱(ヒット&アウェイ)を繰り返していく。万が一のブレスを警戒して、ヘルンさんからちょっとだけ離れておく事も忘れない。この気遣い、最早紳士では? と賞賛されて然るべき対応っぷりである。

 それにしてもしぶといな? 腐ってもレアモンって事か。いやよく考えたらベル君に瞬殺されてたけど、レベル1や2のパーティでも全滅させる位には強いんだっけか? いかんな……『洗礼』のせいか強さの基準とか微妙にバグってる気がして来た。ド畜生眼鏡(ヘディン)さんが出禁判断下したのも、この辺を懸念してなのか……普通に幹部連中全員が同意してたし、それは無いか。

 

 一度パターンに入ったせいか、思考が眼前の戦闘からやや離れそうになったが、油断も慢心もしていない。テンションこそガチヒャッハーなものの、相手の一挙手一投足を見逃さずに、じっくりしっかり懇切丁寧に削り続けて行く。やがて地響きと共に倒れたインファントドラゴン。文字通り虫の息って体のモンスターを前に、俺は刀を鞘に戻す。

 

「【精隷(スクラヴェライ)】は周辺魔力の収束、操作を補助する【スキル】だけど……俺が最初に覚えたのは、そうじゃない」

 

 独り言ちながら、周辺魔力から自身の精神力を補充する。ヘルンさんが訝し気な視線を送っているんだろうけど、それを無視しながら一人語りを続けつつ、インファントドラゴンに近付いた。その瞳に宿るのは、最早死に体の身でありながら、今尚殺すべき俺に向けられる殺意だった。

 

「俺が最初に覚えたのは、自身が持つ魔力の操作だ。頭の天辺から爪先まで、血肉の一片髪の毛一本、どれだけ小さかろうが、そこに宿る魔力を意識して操作する……それが滅却師としての、一歩目。因みに、抜けた髪だろうが切った爪だろうが、それらにも魔力は詰まっている。時間の経過と共に消えはするけどね」

 

 そこで一区切りすると、俺は小竜に向かって小首を傾げて、こう告げた。

 

「さて、君が食った俺の右腕なんだけど……一体、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ──答え合わせの時間だ。

 言って首を掻っ切るアピールから、皮肉げな笑みと共に親指を地面に向ける(サムズダウン)

 変化は唐突に、そして苛烈に。

 横たわっていた小竜の背を突き破って飛び出したのは、巨大な刃を形どった琥珀色の光。

 

精魔滅矢(ハイリッヒ・プファイル)…… 巨剣刃(ツヴァイヘンダー)

 

 胎の内から両断された小竜の躰から魔石が転がり落ちる。

 灰と化すその様を眺めながら、俺は軽く息を吐いた。

 

「ありがとう、そしてさようなら。君は喰い(狩り)甲斐のある相手(エサ)だったよ」

 

 

 




 前書きが全てで本文はほぼオマケのつもりで描きました。本末転倒が過ぎる……。尚、ルビの第二候補として「そう、何ものも 私の狂気を疑いはしない」なんてのもあったんですが、自重しました。

 今回頑張ってオサレっぽい言動を入れて見たんですが、脳裏に石田ァ!がチラつきながらも何か違う……みたいな気持ちになったと言うか、主人公は剣八ソウル前面に押し出した方がしっくり来る様な気持ちになりました。完全に十一番隊のノリが沁みついてんなコイツ。
7/19 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する