卵胎生メダカ(グッピー)に於けるCamallanus(カマラヌス)の駆除と抑制…①
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Camallanusと私どもの出会いは25年近く前になる。
純白&青目のプラティーを作出したいと。
白っぽいプラティでギッチギチになったバイメタルサーモ水槽に気の迷いで導入したコブラのペアが、Camallanusを持ち込んだ。
何を願っても、どうにもなるものではない。たった一本総排泄口から出たCamallanusが家中の水槽に侵入し、どうやって猖獗を極め、稚魚たちがどうなってしまったか?一番最初から最後まで全部目の当たりにした。
そしてCamallanusの持つ薬剤耐性がどれほどのものだったのか?
―――マゾテンの原液に漬けたものは4日ほど生存し、海水に漬けたものも同じぐらい生きた。メチレン、マラカイト、ホルマリン、過マンガン酸カリウム溶液、アルコール、全て同じような結果しか出なかった。思い余って適当な農薬に漬けてもまだ数日間生きていた。
半年近く闘って理解できたことは、Camallanusは体から離れると4日ぐらいで餓死する。それ以外に影響は受けない、ということと、卵巣に寄生された場合に稚魚が受ける影響(流産・未熟児の放出等)は日を追って酷くなり、最後は魚体になれない発眼だけした卵塊をダラダラとこぼすだけになる、と。その程度だった。
思い詰めて当時アクアライフで連載をお持ちだった和田先生の魚病学研究室に持ち込み、それが当時日本で未確認の線虫であることと、対処法が存在しないことだけは確認された。
精神的に追い込まれ、水槽を見るのも嫌になった頃、季節は夏から秋になりつつあった。
冗談のような話だが、Camallanusとの死闘は、ある冷えた朝、バイメタルサーモの漏電によって終結した。
感電死したプラティの大量検死作業という生涯忘れ難いトラウマを遺して・・・・・・。
だから私どもは、Camallanusがどれほど厄介で手に負えないか、どんな転帰を辿るのか、よく理解している。
加えて、従来のやり方で対処不能なグループというものが非常に多く存在し、それらがどこか外国の密林に孤立して居るのではなく、日本の身近な水槽に侵入済みであることも、四半世紀近く前に自らの経験として知っている。
自分達のアイディンティティーを形成したいろはの「い」がCamallanusであったように、今振り返ると思われるのである。
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前置きが長くなり恐縮だが、パラサイトの殆どは「化学的にもたらされる高度な死因」を克服する。
パラサイトが脱皮阻害剤や神経性の薬剤に接触すると、却って繁殖の勢いを強めたり、毒性を帯びたりすることは少なくはない。マンソン孤虫などは、体内で死ぬと毒物をまき散らして宿主の生命を脅かす代表だが、それほど凶悪な性質を持たずとも、体内で虫が死ねば、何らかの悪い意味での免疫反応は出る、と考えて間違いは無い。
パラサイトと闘う時には、「穏便に体内に居られなくする」「薬剤を直接死因にしない」この点を重視しなければならない。
Camallanusの薬剤耐性は尋常なものではなく、主な侵入ルートが外産の養魚場産卵胎生メダカである点を考慮すると、
―――Camallanusは既に長期間何らかの薬剤に晒された挙句に耐性を「獲得」したものであり、過酷な負荷を与えると(致死性のもの)短期間で更に凶悪な性質を帯びてしまう可能性がある。
と考えなければならない。
海外でFenbendazolの濫用を控えるよう、強く警告が出され、尚且つ、アクアリストがFenbendazolの使用自粛を行う理由の一つが、まさにこの点にある。
最初の一ヶ月間、治験者様には、有効であろうギリギリ低濃度の使用を行って戴いた。
途中、雄魚からは糸ダマ状になったCamallanusがまとめて排出されたり、仔虫がまとめて出てきたり、ゆっくりではあっても、明らかに効果は出ているように見受けられた。
この間、何回か稚魚も生まれ、産仔数は日増しに増加し、稚魚には感染が見られないという非常に嬉しい成果も出ている。
尾鰭に荒れが出始めていたもの(敗血症の初期と推定)も、カラシニコフ・グラナータの添加と栄養状態の改善で自然に回復をかけることもできた。
良いことずくめのように見えたが、当初から気になっていたこと。
―――Camallanusは雌魚の卵巣にシストを形成し、卵の中に直接仔虫を産み付けてしまう。という生活史。
卵巣は外的刺激に対して非常に鈍感な組織である。魚卵の卵膜とは、外部と中身を完全遮断し、一番無力で無抵抗な細胞の塊から稚魚にまで育む強力な遮断壁である。特に外部の水と体内で常時接触する卵胎生メダカの卵巣は、それ自体が生きたバリアーとして機能し、パラサイトの卵までを包括して保護してしまう。殆ど全ての淡水に住まう生き物に寄生するといっても、何より卵胎生メダカに好発する理由が、ここにある。
一か月目に近づく頃には、雌雄差が顕著に現れ、全体的にボリュームが低下したといっても、雌魚の方が雄魚に比べてより多くCamallanusを宿しているように見えてきた。
・再生産の遮断(繁殖させない・孵化させない・成虫にさせない)
が、パラサイトとの戦いでは外せない要素になる。
1ℓあたりトータル3ml添加の状態で成功したことは、
・雄魚へのある程度のコントロール
・稚魚への感染予防
・感染の抑制
この3点となった。
(Camallanusを宿したペアから健全な稚魚が得られれば、既に成功と言っても過言ではないのかもしれない。少なくとも世代を継げれば、ある世代を諦めても次世代以降が考えられるようになる)
既に雌魚の卵巣にまき散らされたCamallanusの卵は、後どのぐらい残存しているのか?
この点が後半戦の重要なポイントになる。
現在は濃度を引き上げ、更に幾つかの工夫を試みてみる。
続報は追って報告とさせていただく。
文責:水棲疾病基盤研究所