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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.31
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〜前回までのあらすじ〜
《太古の森》で行なわれている、怪しい儀式の原因を突き止めれば、高額報酬が期待できる。そんな噂を安酒場で聞いた冒険家乙女のクワニャウマは、カリウキ氏族の戦士ゲルダとまじない師ヴィドと《太古の森》の探索を始めた。ついに怪しい儀式の原因は闇エルフ達であり、それに樹人の長老の弟が使われていることが判明。樹人の長老の依頼で、儀式によって衰弱している弟の安楽死を依頼されたクワニャウマ達は、数々の冒険の果てにようやく長老の弟の木を見つけ出し、依頼を決行。それと同時に、怪しい儀式で雷を食らわされそうになっていた耳の聞こえないエルフの少女を連れ出したため、闇エルフ達に追われて《太古の森》の中をさ迷うのであった。
前回は、闇エルフ族の衝撃の真実の発覚となりましたが、今回も驚愕の展開が待っております。いったい、この物語はいくつの秘密を隠し持っているのか、見落としている伏線がまだまだ潜んでいるのはないか……と、あれやこれやと妄想や考察がはかどるのも、魅力の一つです^^b
それから、リプレイしているうちに、無断で異界と交流がある世界に設定してしまいました。
公式のアランツァ世界と矛盾しているかもしれませんので、ここだけの設定ということで御容赦下さいませ(>_<)
ところで、今回から新たな従者が追加されます。
「従者キャラ作りに悪戦苦闘したのは、過去のこと。ウペペサンケを設定して学んだことは、すでにいるキャラクターと個性はかぶらせず、なおかつ主人公を目立たせるようにすればいいんだよね。それと、これからの冒険に必要そうな能力を持っているのも忘れちゃならぬ。もう恐れるにたらず。そう言えば、夕食時に見たDVD『名探偵ポワロ』は面白かったな。あれにブライト艦長の声優さんが出演していてびっくりした」
と、こうした思考がダイレクトに影響して誕生したのが、新・従者キャラです。今までにない個性として、「クワニャウマをツッコミにまわす天然」を付与したものの、まだキャラが薄いです。そこで、名前で個性を際立たせようと、ウペペサンケが山由来の名前だから、同じ法則で山由来の名前に設定しようと考えた際、「せっかくだから、ここは楽しもう!」と遊び心という名の欲もわいてしまいました。
ウペペサンケを考えるのにさんざん苦労した時から数日で、この適応力。
人生初めてのローグライクハーフでしたが、夢中になっている状態だと学習能力が上がるものだと思いました^^
最後になりますが、このたび、「小説すばる」6月号(5/16発売)にて、読み切り短編が掲載されることとなりました。
今回も日本の中世を舞台に、実在の人物を探偵役にした歴史本格ミステリです。羽生飛鳥名義の作品では、初の女性探偵役が登場します。
プレイキャラではシリアス度・低の女子キャラばかり作る私ですが、今回の読み切り短編ではシリアス度・高の女子が活躍しますので、興味がおありの方は御笑覧下さいませm(__)m
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
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ローグライクハーフ
『常闇の伴侶』リプレイその7
《3回目の冒険》
齊藤(羽生)飛鳥
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4:一角獣の癒やし
不意に辺りがしんと静まり返り、穏やかな空気が見渡す限りを包み込む。
驚き、わたしたちは走る速度を緩めた。
すると、闇夜を切り裂くように神々しい光を輝かせながら、ブナの木立の奥から気品溢れる聖なる獣が姿を現した。
額に螺旋状の角を持ち、純白の身体をゆっくりと揺らしながら、わたしたちに近づいてくる。
《長老の樹が請うたのはそなたらか》
一角獣はその角を優美にかざすと、わたしたちの身体を順に触れていく。
すると、瞬く間にこれまでの戦いの傷が癒えていった!
「ありがとう! お代はいくら? 」
《いらぬよ》
一角獣は一言告げ、やがて役目は終わったとばかりに一声いななくと、森の守護者たる聖なる獣は森の奥へ姿を消した。
「いくら金を積んでも、見殺しにされる時は見殺しにされるこの世の中で、ただで治療をしてくれるとは、さすが一角獣……」
「聖なる獣に対して、それしか言えんのか、クワニャウマ」
「クワニャウマ、ある意味わかりやすい」
感動するわたしの背後で、ゲルダとウペペサンケの話し声が聞こえたけど、一角獣への感動の方が大きかったので気にならなかった。
5:混沌のクモ
わたしたちは、再び森を脱出しにかかった。
そこへいきなり、混沌のクモが現れた!
その数、8匹!
何か最近やたらとクモづいているな。これで、金運も一緒について来てくれていれば、申し分ない。
「荒稼ぎするぞ!」
「もう本音を包み隠す気はなしか、クワニャウマ!」
「そんな心開かれても、迷惑」
わたしにあきれ返りながらも、ゲルダもウペペサンケも混沌のクモたちと戦い始める。
「混沌のクモには打撃が有効だが、誰一人としてその手の武器を持っている者がいないな」
「わたしたち全員斬撃だものね」
「それでも、ウペペサンケ、くじけない!」
混沌のクモたちは、地面にいくつもあけた穴を出入りして攻撃してくる。
それを切りつけるわたしたち。
「なるほど。ゲルダが言った通り、確かに打撃の方が有効だわ。特に、ピコピコハンマーが効きそう」
「異界人みたいなことを抜かす暇があったら、混沌のクモをしとめろ」
「まるで、ワニワニパニ……」
「クワニャウマ、それ以上言うの、ダメ!」
二人に釘を刺されながらも、わたしは何とか混沌のクモたちを倒し、金貨2枚を確保することに成功した。
6:中間イベント2≪3回目の冒険≫:『離別』
角笛の音とともに、怒声が森中に響き渡る。振り切れなかった追っ手がわたしたちに迫っているのだ。足音の数は先ほど撃退したものとは比べものにならない。
ゲルダが不意に足を止め、少し前に合流したヴィドが慌てて振り返る。
「私が食い止める」
沈痛な面持ちでゲルダは剣を片手に木立の向こうを睨みつけている。ヴィドはため息をついて首を振った。
「お前一人で食い止められると本当に思ってるなら、それこそ自信過剰ってもんだぜ、間抜け」
「……!」
「仕方ねえなぁ……」
ヴィドは舌打ちをしながら、ゲルダに並ぶとローブを脱ぎ捨てる。女子だらけのパーティーでためらいなく脱げるとは男……漢だな。そんなヴィドのむき出しになった痩せぎすの上半身には獅子の顔に人の身体を持つ獣神セリオンの刺青が深く彫りこまれている。
思った以上のもやしボディなんかがどうでもよくなる、気合いの入った刺青に思わず目を見はっていると、どこかから唸り声すら聞こえてきた気がした。いや実際に聞こえてくる……その刺青から。
「喰わせてやるよ。好きなだけな」
ヴィドが自分の右腕を差し出すと、刺青の獅子は不気味な笑みを浮かべると大口を開けて齧り付く。鮮血が飛び散り、ヴィドは苦痛に顔を顰める。
「だから嫌なんだ、これを使うのは……恨むぜ」
あきらめ顔のつぶやきとほぼ同時に、木立から闇エルフたちが飛び出してくるのが遠目に見えた。
両眼が爛々と異様な光を帯びると、全身を銀狼に変化させたヴィドが追っ手に向かって勢いよく飛びかかってゆく。
「さっさと行け! 生きてたら森の外れで落ち合おう」
ヴィドの咆哮に呼応して、ゲルダも駆け出した。
彼らの決意を無駄にするわけには行かない。わたしは少女の手を引いて、その場を後にした。
ウペペサンケは、ヴィドとゲルダに助太刀しようか逡巡した様子を見せたけれど、すぐにわたしと少女を追いかけてきた。
7:トレントの若木たち
「ヴィドとゲルダ、大丈夫?」
「あの二人なら、わたしたちという重い足枷がなくなったから、実力を思う存分ふるえるんで大丈夫でしょう。わたしたちが今できる、最もお得なコースは、二人との約束を守って森のはずれで落ち合うこと。それまで、こっちは絶対に生き延びること。わかった、ウペペサンケ?」
「……わかった」
頼りになるゲルダがいなくなったので、ウペペサンケは不安らしい。力ない声で返事をする。
彼女の立場からして、金に汚い大人といるより、ツッコミを一緒に言い合える気楽な大人がいてくれた方が安心なのは、よくわかる。わたしも、新人冒険家時代はそうだったから。
その時、鼻腔をくすぐるものがあった。闇夜に群生する白いアネモネが優しげな芳香を放っている。
わたしたちの前に、不意にナナカマドの若木が何本も並び立っているのが目に入る。
いや、違う! これは樹人だ。
《外なるものよ。長老の樹の命により、我ら助力しよう》
樹人の若木たちは梢を揺らして一礼する。
《なお、我らは無料だ》
樹人の長老、本当に冒険家への福利厚生が抜群だ!
あと五百年若かったら、うっかり恋に落ちているところだったぞ!
《誰を連れていく?》
《こいつは、太古の森一番の剣豪と評判になりたい奴だ》
《こいつは、太古の森主催の蛍飼育コンテストの大賞受賞者》
《こいつは、仲間内で太刀持ちチャレンジのチャンピオン記録保持者》
《ちなみに、俺は仲間内で一番モテるため、デート中に女子の荷物を持つうちに荷物持ちが上達したイケメン》
《太古の森》の樹人って、けっこう愉快な日常を送っているもんだなぁ……。
「今、真っ暗で辺りがよく見えなくて困っているから、明かりを提供できる蛍持ちくんに助力してもらうね」
《くっ……!! 選ばれたのは、異界から転生してきた勇者・鈴置洋孝似の声の持ち主である蛍持ちか!!》
《声に自信がある俺だが、鈴置ヴォイスは強すぎるぜ》
《俺、イケメンだから選ばれる自信あったんだけどなぁ》
《男は顔じゃない、声ってことか》
《みんな、あまり褒めてくれるな。照れるじゃないか》
「顔や声じゃなくて能力で選んだって前置きしているよね? 人の話をちゃんと聞かない大人になったら長老が泣いちゃうぞ、君たち?」
思いがけず十代半ばの男子のような会話をぶちかましてきた若い樹人たちに、そっとツッコミを入れてから、わたしは蛍持ちの樹人を従者に加えたのだった。
8:闇の領域
甘く温かな夜の闇に囚われ、私たちは道を見失ってしまった。
けれども、樹人の蛍持ちのおかげで、かろうじて歩くのに苦労はなかった。
「明るい。歩きやすい……!」
ウペペサンケは、樹人の蛍持ちのおかげですっかり明るくなった足元を見て、虚無顔の中にほのかに喜びを見せる。
「そう言えば、まだ名前を聞いてなかった。わたしは、クワニャウマ。あなたの名前は?」
《蛍が好きで、夜でも周囲が輝いているんで、仲間内ではブライトって愛称で呼ばれています》
「その声でその名前だと、各方面から抗議が来そうなんで、別の愛称はない?」
《うーん……本名のタウマタファカタンギハンガコアウアウオタマテアポカイフェヌアキタナタフから、略してタマテアとも呼ばれています》
「そっちのが断然イケているから、そっちで呼ばせて。ウペペサンケもいいよね?」
「うん。ウペペサンケも賛成」
《では、そういうことで。ところで、クワニャウマさん。そっち行くと大蜘蛛の巣があるんで気をつけて下さいね》
「ふぉおッ!」
わたしは慌てて立ち止まる。
目の前には、大蜘蛛の巣が静かに揺れていた。
あともう一歩遅れたら、危ないところだった……。
大蜘蛛の巣に絡め取られていたら、蜘蛛の餌食にされるところだった。
助かって、本当によかった。
わたしが無事で安心したのか、エルフの少女はほっとした笑みを見せる。客観的に見て、わたしは彼女を無理やり連れ去ってきた邪悪な誘拐犯なのに、この笑顔。天使か。
「ありがとう、タマテア。無料の従者なのに、観察力が高くて優秀で助かったわ。おかげで怪我をせずにすんだし、この子には心配かけずにすんで、二つもお得だったわ!」
素直にわたしがお礼を言うと、タマテアが少し困惑した様子で傍らにいたウペペサンケの方を見た。
「……ウペペサンケだったかな? 彼女、いつもああなのかい?」
「うん。クワニャウマ、あれが通常」
「森の外の人間には珍種が存在すると噂で聞いたことがあったけど、まさか一緒に冒険をすることになるとは。この冒険が終わったら、友人たちにいい土産話ができそうだ!」
「タマテア、前向きすぎ」
急にゲルダたちと別れたり、新しい従者が増えたりで、初めての冒険でウペペサンケの心に負担になっていないかと心配していたけど、彼女はすっかりタマテアと打ち解けていた。
何だか、今回の冒険の従者は当たりばかりでよかった!
9:魔獣グリフォン
ウペペサンケとタマテアがさっそく仲良くなってくれたこともあって、状況は好転の兆しが見えてきた。
このまま好転しまくって、全員無事に冒険を成し遂げたいものだ。
「大変! クワニャウマ、タマテア、あそこ……!」
さっきまでタマテアとおしゃべりしていたウペペサンケが、青ざめた顔で指を差す。
すかさずその方角へタマテアが蛍を向けると、そこには魔獣グリフォンがいた。
獅子の身体と鷲の顔と翼。最も強き獣と鳥の力を併せ持つ魔獣グリフォン。生きとし生ける全てを捕食する。
新人冒険家として故郷の村を旅立つ前夜、引退する冒険家からタダでもらった『すったもんだのモンスター図鑑』という本で勉強したから、ヴィドやゲルダに質問しなくても知っている。
そう言えば、あの本の作者の名前は、ヴィドがよく口にしている、あの……いや、それはいい。
最重要な情報は、グリフォンは巣穴に金銀財宝を溜め込むと言われていること!
ツキが帰ってきたか!
「あ、あんな化け物、勝てるわけがない……」
ウペペサンケが青ざめたまま後退る。
戦える従者が怖気づいていては、戦闘して噂の真相を確かめるべく宝をあさりに行くのは無理か。
下手に戦って従者死亡による金貨5枚の損失より、ここはワイロで切り抜ける方がお得と見た。
そう判断したところで、グリフォンと目が合った。
「散歩をしていて、小腹がすいてきたところだ。よく来たな。歓迎するぞ、おやつ諸君」
「それはどうも……あ、そうだ。ちょうど今、樹人の長老提供の食糧が2個あるんですよ。いかがです?」
わたしは、荷物の中から食糧を2個差し出す。
「じじい提供の食糧より、そっちのエルフの小娘の方がムッチムチでうまそうなんだが……」
「あちらは先約済みなんで。たとえあなたでも、こちとら商売柄、契約違反をするわけにはいかないんですよ。すみませんねぇ」
わたしは、旅の人買い商人のふりをして、グリフォンへ愛想よく応じる。
「それより、こちらの長老提供の食糧はいかがです? ジャムの詰まった瓶と木の実や果実などの森の幸たっぷり、牝馬にも人気の食材がふんだんに入っているんで、デートの時にもってこいですよ」
「べ、別に、牝馬なんて襲って孕ませればいいだけだし……デートとかしたいなんてちっとも思ってなんかないし……だが、貴様がそこまで言うなら受け取ってやらんでもないぞ!」
よかった……グリフォンを見た目で年齢判断できないけれど、どうやら多感なお年頃だったようだ。
何はともあれ、これで交渉成立!
わたしたちは、どうにかグリフォンから逃げることができた。
(続く)
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。
現在『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を刊行中。2024年末に5巻が刊行。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2024年6月に『歌人探偵定家』(東京創元社)を、同年11月29日に『賊徒、暁に千里を奔る』(KADOKAWA)を刊行。
初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
ローグライクハーフd66シナリオ
『常闇の伴侶』
著 水波流
2024年7月7日FT新聞配信/2025年書籍版発売予定
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