【世界の中の日本 その1】 日本への正当な評価を確立するために政府・企業・メディア・個人が行動を!

堀 義人

3. <民間>日系在外企業によるロビー活動を強化し、海外の政治への影響力を高めよ!

アメリカの政治・世論形成に影響力を行使することができるもう1つの媒体が企業だ。アメリカだけでなく、世界各国に日本企業は進出している。この力を結束すれば、影響力を増大させることは可能だ。

たとえば、アメリカにはスーパーPACという仕組みがある。これは近年の大統領選挙などで相手候補の誹謗中傷合戦をヒートアップさせていることでも注目されてしまっているが、元々は、企業や団体などが従業員などの個人献金を集めて、特定の政治家を支援するための制度だ。アメリカにおいては企業や団体が政治家や政党に直接献金を行うことが禁止されているため、PAC(political action committee)をつくって、個人(企業の役員や従業員、個人株主)から資金を集め、それを献金するという経路をとる仕組みだ。

PACに関して、個人の献金限度額は5,000ドルという規制があったが、2010年に最高裁判決が出て、個人の政治的活動の自由を優先するという立場から、限度額が原則廃止になった。これ以降、巨額の政治資金が流れ込むため「スーパーPAC」と呼ばれるようになり、一部の大金持ちや企業の献金が、選挙戦を左右しやすくなった。

アメリカには多くの日系企業が進出している。それらの企業において、PACを活用して地元の政治家へのロビー活動、コミュニケーション活動を強めることは、企業活動にとっても有益なはずだ。PACの活用と連動して重要なのが、日系企業のトップの活動だ。トップは地元知事、国会議員、州議会議員などへの面談、活動の報告、さまざまなイベントへの招待を通して、地元政治家と積極的に関わることが重要だ。

日系企業のアメリカ政治への影響力を高め、長期的に日本への正当な評価をアメリカ政治に醸成することは、日本にとっても、現地で経済活動を続ける企業にとっても利益をもたらすだろう。そういった運動を日本の経済界が統一感、一体感を持って進めることが望ましい。

4. <メディア>健全な英字媒体の育成を!

以前、「毎日デイリーニュースWaiWai問題」という珍事件が起こった。これは、毎日新聞の英字媒体であった毎日デイリーニュースのコラム「WaiWai」において、きわめて低俗な内容や誇張、虚構に基づく内容の記事が掲載され、配信され続けていたという問題だ。その内容はきわめて下劣で日本人差別的、かつ、性的表現の強いものがほとんどだった。

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2008年に表面化したこのWaiWai事件では、担当記者のライアン・コネル記者が懲戒休職3ヵ月という軽い処分だけで済まされたうえ、同氏の前任者だったマーク・シュライバー記者がジャパン・タイムズに移り、そこでも同様の日本に誤解を与えるような低俗記事を書き続けていた。

彼らは週刊誌のゴシップ記事をもとに検証もなく断定的な記事を書いていたようだが、英字媒体であり、購読対象が主に日本人以外であるため、多くの日本人には知られることはなくWeb上・紙媒体を通して掲載・配信が長期にわたって続いていたのだ。

外国人が日本について知る玄関口となるのは、当然ながら英字メディアである。ジャーナリズムとして検証もない事実と異なる記事を配信し続けていた毎日新聞やジャパン・タイムズの当時のマネジメントはお粗末というほかないが、それによって日本が被った被害は甚大だ。

日本から世界への情報発信の先鋒となるべき英字メディアが海外に誤解と偏見を拡散するのではなく、日本に関する正しい情報と正当な評価を構築する役割を果たす必要があろう。英字メディアにおけるリテラシーの抜本的な向上が日本にとって重要だ。

また、外国メディアとの関係構築も欠かせない。国際安全保障を専門とする慶応大学の神保謙氏は「従来の意見広告のような立場の主張にとどまらず、メディアの中において議論をリードする役割を担わなければならない」と指摘する。Washington Post、New York Times、Wall Street Journal、Financial Times、China Daily(中)、Straits Times(シンガポール)などの新聞や、Foreign Affairs、Foreign Policy、National Interestsなどの言論誌の影響力は依然としてきわめて大きい。アジア太平洋地域の外交・安全保障分野での国際的な発信の主流を形成しているThe Diplomat Magazine、Project Syndicateをはじめとするいくつかの媒体等についても意識しておく必要がある。

インターネットの検索サイト対策も軽視できない。海外の人が日本の事象に問題意識を持ち、次にすることはGoogleでの検索。そこでの検索上位に位置づけられるウェブサイト、画像、動画に何があるかで、彼らの認識形成に決定的な影響を与える。こうした検索結果に影響をあたえ、日本の主張や立場が適切に届くためにも、検索のされやすさや動画情報のトピックごとの区分などの工夫も発信する役割を担うメディア自身が、政府とともに検討する必要がある。

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