おとなの週末
すべて「鶏」だけのラーメンがある 岡山伝統の味「笠岡ラーメン」最古の店は「あとを引く」味わい 「ラー博」伝説(13)
全国のラーメンの名店が出店する「新横浜ラーメン博物館」(ラー博)は、年間80万人以上もの客が訪れる“ラーメンの聖地”です。横浜市の新横浜駅前にオープン後、2024年3月に30年の節目を迎えましたが、これまでに招致したラーメン店は50店以上、延べ入館者数は3000万人を超えます。岩岡洋志館長が、それら名店の「ラーメンと人が織りなす物語」を紡ぎました。それが、新刊『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』(講談社ビーシー/講談社)です。収録の中から、 岡山県笹岡市の“鶏だけのラーメン”で有名な「中華そば 坂本」を紹介します。
全国のラーメンの名店が出店する「新横浜ラーメン博物館」(ラー博)は、年間80万人以上もの客が訪れる“ラーメンの聖地”です。横浜市の新横浜駅前にオープン後、2024年3月に30年の節目を迎えましたが、これまでに招致したラーメン店は50店以上、延べ入館者数は3000万人を超えます。岩岡洋志館長が、それら名店の「ラーメンと人が織りなす物語」を紡ぎました。それが、新刊『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』(講談社ビーシー/講談社)です。収録の中から、 岡山県笠岡市の“鶏だけのラーメン”で有名な「中華そば 坂本」を紹介します。
スープもチャーシューも親鶏のみを使用
岡山県笠岡市に“鶏だけのラーメン”があるという話を聞き、笠岡にラーメンを食べに行きました。それが「笠岡ラーメン」です。なかでも現存する最古のお店が、「中華そば坂本」です。スープもチャーシューも親鶏のみを使用した“純鶏ラーメン”です。初めて食べに行ったときは、創業者もお元気で、いろいろとお話をうかがいました。毎日食べても飽きのこない味わいです。
2010年3月の最初の出店時には笠岡市の方々にもご協力いただきました。そして、新横浜ラーメン博物館30周年企画「あの銘店をもう一度」第6弾として、2022年10月14日から3週間、出店いただきました。
【「中華そば 坂本」過去のラー博出店期間】
・ラー博初出店:2010年3月6日~2011年4月10日
・「あの銘店をもう一度」出店:2022年10月14日~2022年11月3日
今では「ラーメンのまち笠岡」へ
まずは笠岡市について。ご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明いたします。
笠岡市は広島県福山市と隣接し、岡山県南西端に位置する瀬戸内海沿岸の港町です。人口は4万4305人(2024年7月現在)で、風光明媚な大小31の島々からなる笠岡諸島を含む井笠地域の中核都市で、天然記念物「カブトガニ」の生息地として知られています。世界にただ一つの「笠岡市立カブトガニ博物館」では展示はもちろん、研究も行われています。
そして、地元の笠岡商工会議所が中心となり、「ラーメンのまち笠岡 全国展開プロジェクト推進委員会」が設立され、笠岡ラーメンマップの制作や配布等、笠岡ラーメンを広める取り組みを行なっています。2009年秋には、「ラーメンパラダイス笠岡」と題したラーメンイベントを開催し、他県からも多くの方が詰めかけました。
鶏だけの中華そばから始まった笠岡ラーメン
笠岡ラーメンは、戦前からすでに十数カ所の食堂で、中華そばとして出されていました。もともと、笠岡には最大で300軒ほどの養鶏場があったことや、鶏肉専門の精肉店も多く、安価で大量に手に入れることができたことから、「鶏」を使用した中華そばが誕生したといわれています。
なかでも、戦前に創業した「斉藤」(現在は廃業)は、笠岡ラーメンに大きな影響を与え、独自のラーメン文化が誕生しました。この頃は「中華そば」の名前で親しまれていた笠岡ラーメン。「笠岡の中華そばを食べるために汽車を下車する」と、いわれるくらい評判のおいしさだったそうです。
1958年に創業した「中華そば坂本」は、現存する最古の笠岡ラーメンの店だそうですが、今も客足の途絶えない人気店です。その、「中華そば坂本」で修業した方々も活躍しています。「一久」、さらに「一久」で修業した店主の「いではら」などが、伝統の笠岡ラーメンの味を守っています。また一方では、そのほかの店も笠岡ラーメンの味を、アレンジし、進化させて、笠岡ラーメンを盛り上げています。
鶏専門精肉店の経験を生かしたラーメン
創業者の坂本勇さんは、創業時、鶏専門の精肉店を営んでいました。そのお店の隣で、奥さまが中華そば屋さんを始めることとなり、中華そばを作り始めました。これが現存する最古の笠岡ラーメン店の始まりです。中華そばの味は、鶏専門の精肉店を営んでいた経験を存分に生かし、勇さんが担当。「中華そば坂本」の味を独自に生み出しました。現在は二代目・坂本英喜さんがお店を守られています。
純鶏ラーメンは澄み切った淡麗スープ
「中華そば坂本」の最大の特徴は、タレ、スープ、チャーシュー、脂と、すべて「鶏」だけで作られていることです。しかも、使用する鶏は短期間で出荷する「若鶏」とは違い、のびのびと育てられた「親鶏」だけを使用します。
鶏ガラをじっくり煮込みながらも、澄み切った淡麗スープ、ブレンドした醤油で鶏肉を煮込んだタレ、その煮込んだ鶏肉を使った鶏チャーシュー、そして上質な鶏油(チーユ)……と、まさに“純鶏ラーメン”なのです。
そして、その味を引き立てるのが、麺とシンプルな具材です。麺は笠岡市内の大半のお店が仕入れている丸新麺業の低加水(小麦に加える水が少なめ)の中細ストレート麺。この麺でなければ一体感が味わえないそうです。
具材に使用されるのは、「かしわ」と呼ばれる鶏チャーシュー。育成日数が1000日以上の親鶏を使用するため、若鶏にはないコリコリとした食感と奥深い味わいなのです。
また、笠岡ラーメンの特徴ともいえるのがネギ。「中華そば坂本」では、ざっくりと斜めに切った青ネギがたっぷりのります。そして太めの拍子木型に切られたメンマ。少し柔らかめの麺と合わせて食べると、実においしいのです。
ずっと残ってほしいラーメン文化
二代目店主の坂本英喜さんは、「中華そば坂本」のラーメンについて、「教えてほしい」と言われれば、何一つ隠すことなく教えるともうかがいます。その理由について坂本さんは、「店が増えて、笠岡ラーメンが注目されれば、私のお店にもお客さまは来てくれるでしょう。地域全体が潤えばいいんです」と語る、地元愛の詰まった方です。「中華そば坂本」の味は、シンプルではありますが、あとを引く味わいです。そして、笠岡ラーメンを支えている丸新麺業の麺は本当においしく、“純鶏スープ”にマッチします。丸新麺業の伊藤社長からは、その麺へのこだわりもうかがっており、笠岡ラーメンの発展にはこうした製麺所の力も大きいと思います。
最近では首都圏でも、笠岡ラーメンをインスパイアしたお店が増えてきました。これからもずっと残ってほしいラーメン文化です。
■中華そば 坂本
[住所]岡山県笠岡市中央町34-9
『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』2025年2月20日発売
『新横浜ラーメン博物館』の情報
住所:横浜市港北区新横浜2-14-21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時~21時、土日祝10時半~21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人450円、小・中・高校生・シニア(65歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円
新横浜ラーメン博物館:https://www.raumen.co.jp/