手術要件が違憲判断へ? 性転換手術をしなくても性を変更できるように 何が心配?
出生時の登録(法的な性別)と、自分自身が確信的に抱いている性別(性自認)が異なる場合、法的な性別を性自認に合わせて変更することができる。
ただしこの変更のためには、生殖能力を喪失させる手術などを受ける必要がある。
この「手術要件」が最高裁で違憲と判断される可能性がでてきた。
つまり、2人以上の医師によって「性同一性障害である」と診断され、18歳以上で、婚姻をしておらず、未成年の子がいなければ、法的な性別を性自認に合わせて変更できることになる可能性がある。
性転換手術をしなくても性を変更できるようになったらどんなことが心配なのか?
投票した方は是非ともそう思う理由も、なるべく具体的に書いていただきたい。
| 目次 | いたずらに危険視する論調は避けよう | 法的な性別を性自認に合わせて変更するには? | 87.5%が「性別適合手術は必要ない」 | 手術要件のなにが問題とされているのか? | 性自認はどうやって形成されるのか? | 手術要件が違憲となったらどうなるか? | 性自認による法的性転換が容易になった場合に考慮すべき問題 | 参考にした資料 |
いたずらに危険視する論調は避けよう
私たちの社会生活上、性別により区分されていることは、関係するすべての人の健康上・安全上の利益が保全されるように理にかなった擦り合わせを行っていくことが求められる。
この「擦り合わせ」はつまり、「みなさんの隣人への想像力」や「国会での合意形成」、「関係ルールの制定」などである。このイシューも「擦り合わせ」の一環だと考えている。
そこで、ここではみなさんの懸念について聞きたい。
選択肢のなかからあなたが最も懸念することを一つ選んで、その理由を教えてほしい。
漠然とした懸念でも構わないが、
【トランスジェンダー】温泉や浴場、スパなど裸になる空間へのアクセスをどう考えるか?
にも書いたように、日本では、公衆浴場法に基づき、公衆浴場組合は戸籍ではなく、身体的な性別を基準として男女を分けているため、男性器がついている人が女湯に入ること(またはその逆)はできない。
つまり、「全裸になったときの身体の特徴が男性の人」は女湯に入れない。当然、男性の外性器があるトランスジェンダー女性やトランスジェンダー男性も女湯に入れない。
出生時の登録と異なる性別を生きる人びとについて、いたずらに危険視する論調を避けながらも、皆さんの懸念を教えていただきたい。
なお、この結果は、皆さんの意見としてSurfvote編集部にて取りまとめたうえ、厚生労働省や法務省など関係省庁や国会議員などに提出させていただく。
法的な性別を性自認に合わせて変更するには?
出生時の登録(法的な性別)と、自分自身が確信的に抱いている性別(性自認)が異なる場合、法的な性別を性自認に合わせて変更することができる。
ただしこの変更のためには、以下を満たす必要がある。
■2人以上の、経験のある医師によって「性同一性障害である」と診断される。
■以下の(1)~(5)をすべて満たし、家庭裁判所の審判を経る。
(1)18歳以上であること
(2)現に婚姻をしていないこと
(3)現に未成年の子がいないこと
(4)子宮卵巣または精巣陰茎の摘出手術を受ける(つまり生殖能力を喪失させる)
(5)尿道を延長させて陰茎や陰嚢を形成したり自分の性器を切り取ったりする手術を受ける(つまり変更後の性別に近い性器の外観を備える)
このなかで、(4)すなわち「性別変更のためには生殖能力を喪失している状態であること」が争われた家事審判で、最高裁第1小法廷は15人の裁判官全員による大法廷で判断することを決めた(2022年12月)。
これは(大法廷で)違憲判断がなされる可能性があることを意味する。
なお、手術要件は多くの国で撤廃しているまたは撤廃する方向である。
87.5%が「性別適合手術は必要ない」
2021年10月にSurfvoteで取り上げた際、合計87.5%が、法律上の性別変更手続には性別適合手術は必要ないと答えている。
こうした国民の意識や社会の受け止め方の変化を受けて、最高裁判所は性別適合手術の合憲性について、大法廷に回付することを決定した。
【多様性を認め合う社会のデザイン】トランスジェンダーの性別適合手術は必要か?
手術要件のなにが問題とされているのか?
当事者に一律に性別適合手術を強要する性同一性障害特例法は、憲法13条で保障されるべき、性自認に従って生きる権利を侵害するのではないかということが問題とされる。
手術要件は、性別取扱いの変更を望む者に性別適合手術を受けさせることで、生殖能力を喪失させ、変更後の性別に近い性器の外観を備えることを要求している。
しかし、この手術は身体的に大きな負担をかけるものであり、失敗したり後遺症が残ったりするリスクもある。
手術にかかる時間や費用も簡単に準備できるものではない。
持病や体質によっては、手術を受けることができない場合もある。
その場合、当事者たちに、社会で生活している性別と法的性別の不一致という不利益を課し続けることになる。
また、性別移行のプロセスや程度は千差万別であり、本人がどの程度まで性別移行を望むのかも人それぞれである。
それにもかかわらず、性別取扱いを変更して自身が社会で生活する性別と法的性別を一致させるために手術を受けることが課される。
性自認はどうやって形成されるのか?
性自認の形成や発達に関する研究は進行中であり、そのメカニズムは完全には解明されていないが、遺伝的要因、出生前のホルモン環境(妊娠中の母体のホルモン環境)、社会的・文化的要因などが複雑に関与していると考えられている。
また、いくつかの研究が性自認と脳の関係について示唆に富む知見を提供している。
例えば脳の分界条床核の主核は女性よりも男性の方が大きく、また分界条床核の背外側部は男性よりも女性の方が大きいが、トランスジェンダーの人びとの分界条床核が、当人が自認する性別により近い構造を示すことが報告されている。
また、脳の視床下部の一部にも男女差があるが、トランスジェンダーの人びとが、当人が自認する性別に対応するサイズや形状を示すことも報告されている。
これらのことから見えてくるのは、性自認が生物学的な性と異なるのは(脳の)「障害」ではなく(脳の)「多様性」と理解することにより、偏見や差別を減らし、包括的で支援的な環境を提供することが促進されうるということである。
性自認が生物学的な性と異なることを「障害」として病理化し、最終的には手術によってそれを「治す」というイメージは、すでに精神医学においては克服されている。
手術要件が違憲となったらどうなるか?
2人以上の医師によって「性同一性障害である」と診断され、18歳以上で、婚姻をしておらず、未成年の子がいなければ、法的な性別を性自認に合わせて変更できることになる可能性がある。
ただし直ちに変更できるわけではない。
一般には、精神的、身体的な治療(ホルモンなど)に入り、自認する性別で少しずつ生活する「リアル・ライフ・エクスペリエンス」を積むことになる。
また、家庭裁判所に性別の取扱いの変更を申し立てて審判を求める必要がる。
家庭裁判所では申立書や診断書などの記載内容により判断する。
もし必要があれば調査を行ったり事情を聴いたりすることもできる。
性自認による法的性転換が容易になった場合に考慮すべき問題
社会的受容と偏見
■トランスジェンダーなどの個人に対する偏見や差別
■受け入れがたいと感じる人々による反発
■過去の性別に関する情報が漏れることで、差別や偏見にさらされるリスクが高まること
法律・制度面での混乱
■結婚や養子縁組、年金や保険制度など、多くの分野で法的性別に関する規定による混乱
■最高裁で違憲判断が出されても、いつまでも国会での立法ができずに人権がないがしろにされること
個人の精神的健康
■自分の性自認について充分に考慮しないまま手続きを進め、精神的な不安定さや後悔が生じること
不正利用や医療面での懸念
■性自認による性転換が簡単になると、さまざまな不正な目的での性転換が起こること
■医師による性同一性障害の診断の運用基準が徹底されず、「トランスジェンダー」が増えること
社会生活上の対応
■トイレや更衣室など性別により区分されている場所での対応
■男女別のクラブや部活動、学校の設備などでの、性別に関連するルールや施設の運用に関すること
■胸部の手術はしているが下半身はそのままの状態など、身体的特徴が明確ではない場合の対処
■トランスジェンダー男性が、女性としての生殖能力によって出産するなど社会に混乱が生じること
■スポーツ競技における性別の取り扱いや、競技者の安全と公平性に関すること
これらの懸念事項は、性自認による法的性転換が容易になった場合に考慮すべき問題とされる。
対策として、教育や情報提供を通じて理解を深め、適切な法律・制度の整備や支援を行うことが重要とされる。
また、トランスジェンダーなどの個人の権利と尊厳を尊重し、その人たちが安心して生活できる環境を整えることが大切であり、このような取り組みによって、性自認に基づく法的性転換がより安全で公平な方法で実現できると考えられている。
参考にした資料
性同一性障害者特例法違憲訴訟の大法廷回付について(春山習、亜細亜大学法学部講師)
「手術要件は合憲」は覆るか 性別変更巡る審判、最高裁大法廷で判断へ(山形大学 池田弘乃准教授、時評・opinion、時事ドットコムニュース)
J N Zhou et al., A sex difference in the human brain and its relation to transsexuality. Nature. 1995 Nov 2;378(6552):68-70.
Alicia Garcia-Falgueras, Dick F Swaab, A sex difference in the hypothalamic uncinate nucleus: relationship to gender identity. Brain. 2008 Dec;131(Pt 12):3132-46.
「心は女」だけでは女湯に入れない LGBT法整備、立石弁護士に聞く(政界Web、時事ドットコムニュース)
性別の取扱いの変更(最高裁判所)
オピニオン
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