ダンジョンに強者面(ビビり)が来るのは間違いだ!


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作:パーカス
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ギルドと講習、そして知識


─────翌朝。

陽射しが差し込み、重い瞼を開けるよう陽射しに促される。クロは眠い呻き声を上げながら、起床する。

くぁぁあ、と欠伸を吐きながら起き上がる。意識が正常に覚醒しだし、最初に聞こえてきたのは何かを磨く音だった。それは1つではなく2つ。音の正体は大体理解していたので、そちらへ向かう。

 

「おはよう、神ヘスティア、ベル」

 

クロは頭を掻きながら洗面所で歯を磨きながら腰を振ってる2人に挨拶を交わす。2人はそんなクロに磨きながら、

 

「「ぉばよぅ〜!」」

「磨きながら返事するな」

 

笑顔で返してきた返事に、クロも笑いながらツッコミを入れる。

その後クロは顔を洗い、眠気を飛ばし、自身の頬を叩き喝を入れる。

 

「……よしッ!!」

 

オラリオでの、最初の朝を迎えた。

 

ヘスティアに見送られ、ベルと一緒にギルドに足を運ぶ。早朝でもギルドでは冒険者達で賑わっていた。ベル連れられるがままに受付方まで向かい、エルフの女性に話し掛ける。

 

「エイナさん、おはようございます!」

「おはようベル君。今日も地下迷宮(ダンジョン)に行くの?」

「はい!あ、その前に紹介したい人がいまして」

 

そう言ってベルは振り返る。

お?俺の番か、と前に立つと、エイナは目を見開く。

 

「昨日ぶりだな、嬢ちゃん」

「昨日……!ヘスティアファミリアに入ったんですか!?」

「おう。ベルからの直接なオファーに応えたのさ」

 

ベルの頭を荒々しく撫でながらそう応えるクロと撫で回しの勢いが強くアワアワしてるベル、エイナはそんなベルの慌てっぷりに思わず笑みを零す。

 

「なら本日は冒険者登録に?」

「あぁ、ファミリアに入ったからには、俺も役立たねばな」

 

懐事情があれなものだから稼ぎにきた。なんて言える訳もなく、本心の内の5割は押し黙る事にした。

エイナは頷き、必要な書類を並べクロにペンを渡す。

 

「では、登録に必要な名前、ファミリアをこちらの紙に記載をお願いします」

 

言われるがままに紙の名前とファミリアを書き、支給してほしい武器を選びエイナに渡す。紙を1枚ずつ確認し、間違いがなかったのか小さく頷き紙を持って裏に引っ込む。

数秒もしない内に、エイナは戻ってきた。

 

手に()()()()を携えて……

 

その本に見覚えがあるのかベルは、あ、と言葉を漏らした。

クロは何も分からず、ベルの青ざめた顔を見て首を傾げる。

 

「じゃあ別の部屋に行こっか」

「??何かまだやる事が?」

 

えぇ、とエイナは満面の笑みを浮かべながら、部屋に案内する。

 

「もちろん、ベル君も一緒にね。予習は大事だよ?」

「は、はい……」

 

状況を掴めず、困惑し続けるクロにエイナは笑って─────

 

「じゃあ、お勉強しよっか♪」

 

「……え?」

 

待ち受けていたのは、5.6年ぶりのお勉強会だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

正直この人が勉強出来るとは、思っていなかった。

 

エイナはそう思いながらも、地下迷宮(ダンジョン)で死人が出てほしくない、そう思い冒険者が苦手とする勉強会を彼にも施した。

冒険者にとってこの勉強会は地獄だ。地下迷宮(ダンジョン)に行けると思った矢先、長い時間この分厚い本と睨めっこする事になるのだから。

気が荒い人は特に問題だ。ブチ切れて八つ当たりしてくる事案も昔は発生していた。

だが、この勉強会を辞める訳にはいかない。

1人でも多く地下迷宮(ダンジョン)から帰ってきてもらう為に、緊急時に使える知識を蓄えてもらう為に……。

どれだけ嫌われても、どんなにやっかみを受けても……。

 

その意気込みでこれまで受付嬢をしてきた。

そして目の前にいるこの男性、クロ・ユートは間違いなく早く地下迷宮(ダンジョン)に行きたいタイプの人間だ。隣には巻き込んでしまったベル君もいる。大事にはならないだろうと信じながら、私は今日も仕事を全うする。

 

 

しかしそれは、いい意味で期待を裏切られた。

 

 

「……なるほど。であればここでは火は使わぬ方が良いと?」

「え、えぇ、そうですね。その火をめがけて飛んでくる可能性がありますから」

「承知した。ならばここの対策はしっかり練らねばな」

 

彼は勤勉だった。

見た目に似合わず、その姿はあまりにも勤勉。その言葉しか出てこなかった。隣に座っているベルもその様子には息を飲むのも忘れ、唖然としていた。

その視線に気が付いたのか、ベルの方を向き疑問を問い掛ける。

 

「どうした?」

「い、いや、クロさんがここまで勉強熱心な方とは思わなくて……その、びっくりしました……」

 

ベルは失礼承知の上で、そう言葉を掛けるとクロは一瞬目を開き、そしてすぐガッハッハッ、と爆笑した。

 

「確かに、実際勉強というのは苦手だ。やらなくて済むなら、俺はまずやらん」

「え、でも──「だがッ!」

 

ベルが言葉を紡ぐ前に、彼は遮る。

 

「時に、得た知識は得するが多い。ましてや未知の敵に対し特性や弱点、習性など情報が得られるのならそれは武器になる」

「武器に?」

 

不思議そうに首を傾げるベルと、彼の言葉に黙って真剣に聞いていたエイナ。そんな2人に本を見せる。

 

「例えば、この本にはとある怪物(モンスター)の特性が書かれていたとする。そしてその情報はまだ世間には知られておらず、この本にしかない情報だ。では、この本を読んだ冒険者となんの知識もない冒険者が同じ怪物(モンスター)に挑んだら、どちらが勝つと思う?」

 

ベルが答えを出す前に、エイナは手を顎に当てながら答える。

 

「前者ですね。レベルに差があるのでしたら分かりませんが、同レベルであれば前者の方が勝つかと」

「その通りだ」

 

本をベルに渡し、話を続ける。

 

「つまり何が言いたいのか?それは()(とく)のある知識なら得るに越したことはない、てことだ」

「……」

 

ベルはじっと本を見つめる。そんなベルにクロは笑い、そして質問を投げ掛ける。

 

「お前さんもエイナ嬢から学んだんだろ?損した事はあったか?」

「……ありませんでした。お陰で地下迷宮(ダンジョン)内の怪物(モンスター)も倒すことが出来ましたから」

 

ベルは首を振り、否定する。その答えにエイナは思わず笑みを浮かべる。

 

「そうだ。どれだけ勉強が苦手でも、それは紛うことなき自身の力になる。知識とは力であり守りでもある─────。」

 

彼は息を吸い、高らかに声を上げる。

それはまるで自身が経験したかの様に、他人事の様に聞こえなかった。

 

「────得た知識を利用しろッ!学んだ事をフル活用しろッ!手段は問わんッ!己が成功に果すその時迄、最後まで足掻けッ!」

 

彼の咆哮に纏う覇気に圧倒される。

 

─────戦士を見た。

 

ただの戦士ではなく、歴戦の戦士だ。

風格、在り方、経験……

彼からは底知れない人格性が滲み出ていた。

数多の艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越え、悪戦苦闘(あくせんくとう)に勝ち上がり、その先の頂きを見据えた者の顔だった。

いや、2人にはそう見えていたのかもしれない。

今も、これからも、研鑽を止むことなく、ひたすらに我が未知()を進み続ける。

そんな戦士を、今、目の当たりにしていた。

 

そんな2人の視線に彼はハッと恥ずかしそうに頭を掻き撫でる。

 

「悪い、つい力んじまった。まぁ言いたい事はそれだけよ。苦手でも学ぶ事に越したことはない、ただそれだけだ」

 

彼はエイナに顔向け、頭を下げる。

 

「すまん、エイナ嬢。勉強を遮っちまった」

「……いえ、クロ氏の考えは間違いではありません。それに現段階で教えるべき所は終わりましたから」

 

エイナは眼鏡をクイッとあげ、2人に向き直る。

 

「これで本日の講習は終わりにします。お2人は今から地下迷宮(ダンジョン)に向かうんですよね?」

 

はい、と頷き、エイナは分かりました、と立ち上がる。

 

「最後に、これだけ言っておきます。“冒険者は()()をしてはいけない”。この事は絶対守ってほしいのです」

「んぁ?どういう事だ?」

地下迷宮(ダンジョン)未知(イレギュラー)で満ちています。私は誰1人掛ける事無く、帰ってきてほしいと願っています」

 

そう言ってエイナは笑顔を浮かべ、2人を見送る。

 

「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

 

ベルは元気よく返事を返し、クロは笑みを浮かべながら親指を上げる。

こうして2人は、いよいよ未知の世界─────地下迷宮(ダンジョン)へと足を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に彼は語った

「知識があった分、逃げる時に使えるよネ☆」

と。

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