「分かってると思うけど、リオンが巡回ルートを離れたことは不問にするわよ!元々、私達『Lv.5』の三人は大雑把な道順に進むからこそ、悪党にいつ来るのか分からないようにしていたわけだしね。
ダンジョンの中まで『Lv.5』が来るかもしれないって思わせられれば、それはそれで抑止にも繋がるもの!」
「まあ、そもそもの話、『Lv.5』が町を練り歩くってだけでも抑止には充分だ。リューの奴もサボって巡回止めた訳でもねえし、実際人助けにもなったんだから私達から何か文句を言うことでもねえな」
団長のアリーゼとライラがリューの独断専行を擁護する。
「それにしても、あの少年も災難ねー。ロキ・ファミリアとしても闘争本能しかない上層のモンスターが、逃走を選ぶだなんて予想外だったろうし、不運に不運が重なった結果ね。
もしかしたら、リューに助けられて惚れ直したかもしれないけど!」
「アリーゼ!あまりからかわないで下さい!」
などと、アストレア・ファミリアがいつものやり取りを行っている中で、私は澄まし顔をしつつ背中をとんでもない冷や汗が流れていた。
「(楽しみだった【~ベル君英雄への道~RTA】が果たせなくなったことはとても残念ですね。そして、ちゃっかり『Fate』の定番であるあの構図をやりやがった、末っ子エルフについて言いたいことは山程ありますが、これも取り敢えず置いておく。
……今明らかにヤバイのは、リューからもベル君に向かって矢印の向きが向いているということ)」
ベル君とアイズ以外のキャラクターがイチャイチャするというのは、確かに見てみたいしあのリューとならば、面白くキュンキュンするような事態になることは火を見ることよりも明らか。
しかし、事態はそんなことを言っている暇が一切無いほど切羽詰まっている。
「(ヤ、ヤバイぞこれ……。このままこの二人が結ばれればベル君の『
憧憬一途はその名の通り、純粋なベル君が初めての恋心を爆発させ、憧れの女の子に追い付きたいというその一心で発現させた、初恋メロメロスキルである。
このレアスキルこそベル君が英雄街道を駆け上がるための、必要条件でありその根幹だ。だが、レアスキルというのだからそれ相応のリスクがある。
「(初恋が叶えば憧れじゃなくなる……!つまり、スキルが消滅してしまうことになるのではッ!?)」
ベル・クラネルは物語の主人公。その歩みに一つでも何か不足していては物語に致命的な欠陥が生まれてしまう。
もちろん、原作で述べられていない以上は、それが確定しているわけではないが、あれ程のぶっ壊れスキルならばそう言った縛りがあってもおかしくはない。
不確定要素が高過ぎて可能性として切って捨てるには、余りにも失敗してしまったときのリスクが高過ぎる。
「(ベル君の道のりは割りとギリギリのラインでなんとか成立している……。憧憬一途が無くなったとしてベル君が生き残る可能性は───0%)」
主に出会いと言う名の強大な敵エンカウトが彼を襲い、その果てに、敗北して死ぬ。
だからこそ、対策は一つしかない。
「(二人の恋の行く末を横からとことん邪魔しつつ、ベル君がリューのことを末っ子ダメダメ残念潔癖エルフだと気が付くその前に、ケツを蹴り上げて最短最速で英雄にしよう)」
原作のアイズ・ヴァレンシュタインにあそこまでベル君が憧憬を抱いたのは、助けてもらったという理由だけではなく、アイズがどこまでも強さを求めて『孤高』だったことが大きいと思う。
「(いや、『孤高』って言っとけば良いみたいな風潮あるけど、団長の命令無視とか平然とやるしただの猪なのでは?初対面で私が剣を握ってるところを見て『……斬るね』は、流石に絶対に頭狂ってる。
実は闇派閥の刺客じゃないのかあいつ…………言葉少なく辻斬りしてくる幼女とかただただホラーだぞ)」
今の環境全てに満たされているリュー・リオンを見て、どれだけ憧れを抱き続けていられるのか未知数だ。クールビューティーなど欠片も残っていないのだから。
「……取り敢えず、リューのレベルを5から6に引き上げましょうか」
「え?」
その後もリューの恋路で盛り上がりに盛り上がったアストレア・ファミリアは、そのままご飯となった。シャクティには何か埋め合わせをしなければならないかもしれない。
皆があまりにからかうためにリューが意固地となってしまっていた。個人的にはベル君に対して少しだけ距離ができたなら最高である。
「(ベル君に触れられるイコール運命の人であるリューに、ベル君の悪印象をどれだけ植え付けても問題はない。エルフとしてのタブーみたいなのを守れば問題は無い筈。
今の段階でお話相手になりました、なんてなれば憧れが近付きすぎるから、できる限り引き離す方向にしようかな。
「副団長の飯はやっぱうめぇな!マジで『豊穣の女主人』にも劣らない腕だぜ!あそこでしごかれただけあるな!」
「一時期は何をとち狂って給仕の真似事などしてるかと思えば、まさか料理の腕を磨くためだとは誰も想像すらできませんとも。
それこそ、団長やそこのエルフは副団長に『もしかして、何か悩みとかあるのか……』とか思い詰めてましたし」
ライラがエールを飲みながら美味しそうに感想を言う。『豊穣の女主人』で腕を磨いたからかなりのものになった。
いやー、ちょっと趣味の延長線上で料理してたんだけど、オラリオに来てからも現代ほど時間潰せるものって実は無くて、嘗ての料理再現とかしてたら熱入っちゃって、いつの間にかミア母さんに弟子入りしてたわ。
ちなみに、私がウェイトレスしていると集客率がとんでもないことになり、にゃーにゃーうるさい猫娘'sと黒拳さんが悲鳴を上げるのが通例である。
「だって、あの堅物なアルトリアが料理の見聞を広げるためにウェイトレスのバイトするなんて思わないじゃない。ミア母さんもたまに助っ人を頼むくらいには仲良くなっていたのは驚いたわ!」
「ええ、まさか副団長がウェイトレスまでできるとは思いませんでした」
「どこかのエルフならば客を速攻で殴り倒すところまで見えますねぇ。その上、料理までできないとなると永遠に皿洗いでしょうか」
「『私はやり過ぎてしまう』なんてクールぶって言ってるのが目に浮かぶぜ。副団長なら手までは出ないだろうし、気質は似ていても柳のように柔軟な副団長様と、鉄板のように融通の利かないお前とじゃあ比べても無駄だぜ」
「ぐぬぬ……」
からかいを含んだライラの物言いに悔しそうに口を閉ざすリュー。……この姿見てベル君は果たしてどれくらい憧れてくれるのだろうか。
「もう少し身の程というものを理解した方が良いのではありませんか?オラリオ『最優』に並び立とうなど傲岸不遜かと思いますけど」
「輝夜!あなたはそのように副団長を特別視する悪癖がある!見上げているだけでは高みになど登れるものか!」
「……ッ、この料理一つできないポンコツ
戦うことしか脳がないのならば、エルフなど止めてアマゾネスにでも生まれ変われ!!」
「輝夜!それ以上の侮辱は許しは──「はい、そこまで」……アストレア様」
ヒートアップしたところでアストレア様が声をかける。
「元気なのはいいけれど、今はアルトリアが作ってくれたご飯を食べる時間よ。ケンカはあとで……ね?」
そう言うと、二人は「アストレア様が言うなら……」と気まずそうに再び席に着いた。流石は天界で「膝枕して欲しい女神NO.1」の称号を勝ち取った女神様だ!…………果たして、嬉しいのかそれ?
「つーか、リューも輝夜も副団長様を意識し過ぎだよなー。まあ、目標としてはこれ以上無い相手なのはそうなんだけどよ」
「うーん、どっちかというとあの二人はそれ以外の私的な理由の方が強いんじゃないかしら?あの二人の価値観を考えればそうなるのも仕方がないわ」
「ん?どいうことだよ団長」
ライラの問いにアリーゼは鶏ソテーを切り分けながら話し出した。
「リオンの正義は誰をも救う物語で語られる理想の英雄そのもの。現実の残酷さを冷酷さを知れば、それは不可能だと誰もが理解していくけどアルトリアっていう存在がその理想を現実のものにしている」
「まあ、理想の正義の味方って感じはするけどよ。それでも、副団長は全ての人を救える訳じゃねえだろ。それこそ、七年前のあのときも副団長でさえ被害を完璧に失くすことは不可能だった」
「ええ、実際にアルトリアも民衆に石を投げられたことを考えれば、リオンの思う理想の正義とは違った存在だって分かった筈よ。でも、アルトリアは犠牲をしょうがないと許容することは無かったでしょ?
死に急ぐオラリオの老兵の前に躍り出てフィンの代わりに指揮を執り、モンスターと
まあ、そこから私達が戦っていたダンジョンの階層まで降りて来て、アルフィアとの戦いに乱入してくるなんて流石に思わなかったけど」
「あれは役目が逆だろ普通。アルフィアに副団長ぶつけてアタシ達がオラリオの死守に回った方が良かったんじゃねえか?
『Lv.7』の怪物相手に『Lv.6』を抜いた、最高レベル『Lv.4』のチームぶつけるとか全滅させたいのかって当時は思ったもんだ。
フィンにも理由が有ったんだろうが、あのときばかりは一族の勇者様の正気を一瞬だけ疑っちまったぜ」
「アルトリアの直感でもその方がいいって出たらしいし、誰も文句は言えなかったわよねぇ。まあ、結果的に誰も死ななかったから問題は無かったんだけど」
原作生き残る+特典の直感でも大丈夫。よしっ!問題なし!
まあ、アストレア・ファミリアのレベリング相手にもちょうど良かったしアルフィアには感謝ですね。
それに、私とは地上で既に戦っていたので、個人的にはアレで満足してしまった感じもあったので問題はありません。
「リューの理想の体現者ではなかった。でも、アルトリアは決して折れず曲がらず多くの人を救える困難な道を今も昔も選び続けている。
それを知れば、輝夜を相手にするときみたいな批判なんて言えるわけがない、ってところね」
「まあ、確かに副団長のやり方を見て目標にするのは当然かもな。それじゃあ、輝夜は?なんであんなにツンケンしてんだよ」
「輝夜はちょっと面倒なことになってるのよねぇ。……暗黙の了解みたいなところあるから言うのは躊躇うんだけど、アルトリアって『ブリテン』の王様だったでしょ?」
「ああ、男装しながら王様やって評価が過去最高の王様だったとか、逆に最悪の王様だったとか、情報がめっちゃくちゃのヤツな」
「そんな訳で、アルトリアは十を救うために一を切り捨てるのが、冷酷だけど現実的な正しいやり方なんだって分かっているわ。
でも、アルトリアは最後の最後まで諦めないでそれをしないようにしてる。それこそ、切り捨てられる一が出てしまうのなら自分がなろうともしてるわね。
それこそ、アヴァロンが無ければ死んでしまうこともあっただろうし」
効いたよねっ、早めのアヴァロン!……いや、すいません反省してます。
「つまり、輝夜の犠牲を許容する現実的な価値観を同じくしていても、完全には諦められず意地汚く足掻き続けるアルトリアに苛立ちを抱くけど、同時に自分が諦めてしまったやり方を力業でやり通すその姿に、希望や憧れを抱いてしまっている、って感じね。
輝夜の過去よりも明らかに多くのものを失い、蔑み馬鹿にされてきたにも拘わらず、真っ直ぐに進み続けて『Lv.7』にまでなったアルトリアに素直に尊敬もしている」
「あー、なるほど。そりゃあ感情のごった煮にもなるか。苛立ち、自己嫌悪、挫折、希望、憧憬、尊敬。そう言ったもんがいろんな方向にデケェ感情で向いてんだからな。
よく分からんツンデレ染みた言動になっちまう、と」
「「そこ二人、黙っていろ!!」」
聞いていたらしい二人が顔を赤くして怒声をぶつけた。これは、アストレア様に怒られるな。
料理を食べ終わりそれぞれが行動をする中で、私は適当に夜風に当たりに外を歩いていた。活気があるオラリオはやはり冒険者の町で、どんちゃん騒ぎだ。まあ、この雰囲気は嫌いではない。
例のイベントがあるため『豊穣の女主人』に行かなくてはならないという理由もありますが、この雰囲気を楽しむというのも私には許される筈だ。
アルトリアが着ていた白のブラウスと紺色リボンタイとタイトスカートという、原作再現の服装で夕焼けでオレンジ色になる町を歩けば気分上々である。
「やあやあ、こんなところで君と会えるとはねぇ。今日の俺は随分と運が良い!」
おやおや、何か雑音が聞こえましたね。今はミア母さんの料理の方が重要なのでどうでもいいですが。
「え……スルー!?ち、ちょっと、待ってくれないかアルトリア君!ほんの少しだけ俺と話しをして欲しいんだけど……」
「神ヘルメス、また何か厄介事ですか」
面倒なことばかり持ってくる面倒な神ヘルメス。その内面を知れば知るほど近寄りたくないタイプである。
「誤解だぜアルトリア君。今回は久し振りに会った君との再会に花を咲かせようと思っただけさ」
胡散臭っ!
「はぁ……、もういいです。分かりました話を聞きましょう」
「いやーっ!助かるよアルトリア君。何、時間は取らせないとも」
「……それと、アストレア様が神ヘルメスに何を言われても信じず頷かないように言われています。
───いざとなれば、アストレア様が一思いに切り落とす、と」
「一体何をッ!?」
アストレア様の言葉に恐れ戦くヘルメス。あの方の思いきりの凄さを知っているヘルメスは戦々恐々で爆笑ものである。
隣に居る団長のアスフィは始めから申し訳なさそうに目を逸らしていた。
本当に苦労人だよねこの人。
「い、いやー、随分と嫌われているなぁ……」
「妥当な結果ですよヘルメス様。それこそ、出会い頭に殴り掛かられても私は不思議に思えません」
「それもそうだ。アストレアと君の慈悲に感謝しよう」
この二人のコンビは割りと好きなんたけど、アスフィの負担が本当に酷くて可哀想なんだよなぁ。
「それで用はなんですか神ヘルメス。手短に頼みます」
「そうだな。それじゃあ回りくどいのは無しだ。神として君に改めて感謝を告げよう」
ヘルメスはいつもの胡散臭い笑みを引っ込めて、珍しく真摯な顔で口を開いた。
「一年前のあの日、『オリンピア』を救ってくれてありがとう」