正午を周り、お天道様が温かな日差しを町に届けていた。店を構える者はお客を呼び込むために声を上げ、町を活気付かせ盛り上げる。笑顔が溢れるこの町は現在平和そのものだろう。
冒険者はその日の稼ぎを得るためダンジョンへ足を運び、その冒険者達に武器を売るため鍛治師は朝から鉄を打つ。
この時間帯が書き入れ時の飲食店は客を呼び込みながら、様々な料理を客に提供し、裏路地に入れば娼婦が色香を振り撒きながら男を誘う。
冒険と金と女と飯。そんな物語で描かれるような冒険者の町を、私、アルトリア・セイバーは現在巡回していた。
「アルトリアさん!この間は助かったよ!うちのジャガ丸くん貰ってくれないかい?」
「頂きます」
「あっ!セイバーさん!この間は冒険者から助けてて頂いてありがとうございました!」
「いえ、私は人として騎士として当然のことをしたまでです。とはいえ、貴方が傷付くことが無かった事実が私は嬉しい」
「ふえっ!?……あ、ああああのそれで、大した物じゃないんですけど、クッキーを手作りしたので是非セイバーさんに食べ「頂きます」」
あれから、七年の月日が経ちオラリオの町は原作さながらの平和な光景となっていた。
【正義】の眷属として七年前暴れ散らかした私は、闇派閥から恐怖の対象として見られている。このように町を練り歩くだけでも抑止力成りうるというわけだ。
「(あまり抑止力とか自分では言いたくはないのですが……)」
そう言った意味ではないのは分かっているのだが、なまじ『Fate』のことを知っていると無視もできない。さらに言うと、数年前から言われている私の二つ名がそれを意識させていた。
「アストレア・ファミリアの副団長にして、『
「むぐ……っ!?」
「最初はオラリオの治安維持の完璧さから名付けられたんだっけか?」
「そうそう、その手際の良さから付けられた名前だったんだけど、七年前の『大抗争』の最中にダンジョンから這い出ようとしたモンスターを押し留めた立役者らしいぞ。
いやー、照れますねー。
解説ありがとうございます通行人Aさん。それにしても、よくそんなスラスラ言葉が出てきますね?その様な文言がそのまま広がってたりするのでしょうか?
それはそうと、ビックリすることがあったんですよ。
なんと実は私、あの『大抗争』でレベルアップできなかったんです。
まあ、アルフィアとレベルが元々近いこともそうだったんですけど、オッタルとは違って一人で挑んだ訳じゃないので、私が期待していた程の
まあ、いろいろあってLv7にはなりましたけど。…………それにしても、私の二つ名に変なのが追加してますね……。
「(なぁぁんで、ルビの読み方がそのまんまアレになってるんですか!?前まで普通の読み方でしたよねッ!?変なカタカナ付け加えないで貰えます!?
私、『アラヤ』の使いっパシリなんてする気はありませんけど!?)」
恐ろしいことに、死んでからも救いがないエミヤさんと100%完璧に一致する役職名を名付けられました。
もはや、どこに【幸運】があるのか教えて欲しい。もしかして、使い方は間違ってるけど"悪運"とかじゃないでしょうね?
なんやかんやあって【正義】の眷属になってからというもの、こんなことばかり起きるんだよなぁ。
「それに、『学区』のバルドル・クラス団長『ナイト・オブ・ナイト』、レオン・ヴァーデンベルクからお食事に誘われたようよ!」
「きゃー!騎士×女騎士のお似合いカップルじゃない!違うファミリア同士っていう困難はあるけど、───それはそれでありよね!」
「(……何が?無しよりの無しなんだが?)」
いや、知らんて。勝手に掛け算するの止めて貰っていいですか?
ナマモノの時点でアレだし、せめて当人の耳に絶対入らないようにするのがマナーでしょうが。
「(前に聞いたのは雄獅子×雌獅子とかいう、ただのライオンの交尾だったな。
……いや、言いたいことは分かるよ?分かるけどさぁ……配慮って知ってる?冒険者の町だからって住民まで粗雑になる必要無いよね?)」
レオン・ヴァーデンベルクは『ダンまち』の世界で獅子と表現される冒険者にして、『
だが、オッタルと違い物腰が柔らかく面倒見が良い上に、英国紳士の風貌をした完璧なイケメンである。教鞭を『学区』で振るっており後進育成もオッタルとは違って精力的な良い人だ。
ぶっちゃけ、オッタルよりもあの兄ちゃんの方が英雄っぽいんだよなぁ。
「(オッタルにとっては女神からの評価が良ければ、他の人からの評価なんてどうでもいいみたいだけど。あの人本当に団長の自覚あるんですかね?)」
確かに美人だけどなー。でも、あの女神って地雷でしかないんだよなー。
「(男のときならどうぞお願いします!だけど、アルトリアでR18展開はさぁ…………まあ、
同性の尻の軽い女は個人的に合わないんだよなー。そこら辺のことは素人には分かんないかぁ)」
一物が無い事実が数十年経つと男としての感性も流石に死に絶え、女としての自覚が芽生えたかと言われれば、騎士として戦場を生きてきた人生を振り返れば分かるように当然そんなことはない。
今の心境としてはアストレア様が子供を作れというなら、適当に男を見繕って子供作るぐらいはするだろうが、多分恋愛感情は湧かないと思う。……いや、アストレア様はそんなこと絶対に言わないけどさ。
「以前、リヴェリア様のエスコートを黒服姿でしていたが、浮くどころかとんでもなく様になっていた。あのときばかりは、どのエルフからも不満の声が出なかったな」
「ああ、いつもなら『ヒューマンがハイエルフの隣を歩くなど笑止千万!』……とか言うよな」
「『よりにもよって、それを他派閥のヒューマンが行うなどあってはならない!』とかキレながら言うのが目に浮かぶぜ。その筆頭としては同じロキ・ファミリアの【
い、いやー、流石に同性なら問題ないんじゃない?ヒステリックのイメージしかないアリシアさんでも流石に…………いや、どうだろう?
ま、まあ、これでもブリテンに居たときはそれなりの礼儀作法は学んでいたからどうにかなったけどね。肩凝るからあんまりやりたくは無いんだよなー脳死でモンスター駆逐してる方が楽だし。
「おーい!アルトリア~!そっちはどんな感じかしら!」
手を上げてこちらに駆け寄ってくるのは目が覚めるような
「
「えー!なんでよー!?名前を呼び会うなんて普通のことでしょう?」
あれから随分と年月が経ったにも拘わらず、テンションが全く変わらないのはどうなのだろう?ここまでくると、感嘆してしまう。
そんな彼女の後ろから馴染み深いメンバーが続々と現れる。
「副団長は声のデカさのこと言ってんだぜ団長。ほら見ろ、町の奴らの注意引きまくってんじゃねえか。5メートル以上離れたとこから声かければ当然だけどな」
「つまり私の美しい声に町の皆が魅了されてしまったということね!フフンっ、さっすが私!」
「相変わらずのポジティブさでございますねぇ我らが団長様は。少しぐらいは副団長様の垢を煎じて飲むべきかもしれませんよ」
「私の完璧っぷりに嫉妬してはダメよ、輝夜!そして、なんだかんだ言いながらもアルトリアのことを尊敬してしまっているそんなところ、いじらしくて私はとっても可愛いと思うわ!
もっと自信を持ちなさいね!ばちこーん☆」
「イラッ☆」
「……笑顔で青筋を立てないで下さい、輝夜」
『暗黒期』のときから変わらないやり取りについ頬が弛む。
「(イツメンというかなんというか。もう、日常となってしまった光景だなぁ。まあ、この光景を守るために色々と頑張った訳だけど)」
そう、ここにいるアストレア・ファミリアの面々だが、本来の歴史ではリュー以外は全員死んでいた。それにも拘わらずここに居るのは、もちろん私が全員まるっと救っちまったのである。
「(……とはいえ、そのせいでどこにバタフライエフェクトが起こるかというと、当然ベルくんの下に集約するんだけど)」
ベル・クラネルという少年の歩みにはリュー・リオンという女性の影がある。
表舞台には出ては来ない人物ではあるが、彼女が居なければヘスティアナイフはリリルカ・アーデに盗まれたままだったろうし、アポロン・ファミリアとの
ジャガ丸くんとの戦いと深層突入イベントも、彼女が居なければ詰んでいた場面が多くある。それを考えると、アストレア・ファミリアの全滅も、主人公のベル・クラネルにとって必要な段取りと言えるのだが、ここに関しては私のわがままを通させて貰った。
アストレア・ファミリアにはとんでもない恩があり、生きることに執着してるこんな自分であっても見捨てるには後ろ髪を引かれまくり、銀魂の将軍の顔になるくらいにはアストレア・ファミリアを気に入ってしまっていたのだ。
ならば、方法は一つしかないだろう。
「(私が原作リューのポジションに収まりベル・クラネルの歩みをサポートすればいい。いざとなれば、アストレア・ファミリアからヘスティア・ファミリアに
オラリオに到着する前の当初の目標も果たしつつ、主人公のために駒の一つとして動くことができるとは、まさに転生者の鑑と言えるでしょう。
フフンっ、流石は完璧な騎士王)」
「……あ、あの副団長……どうして私を見たあとに頷いてらっしゃるのでしょうか?」
「なんだ、またなんかやらかしたのかリオン?副団長様に迷惑掛けんなよー。どうせ、いつものドジかなんかだろ?」
「おやおや、少しはマシになったかと思っていれば相変わらずヘッポコなところは変わりませんねぇ。ドジっ子キャラを許されるのは十代まででしょうに。
エルフの尺度であれば許されるなど思わないことです。狙い過ぎ天然ぶりっ子
「!?て、訂正しなさい輝夜!私はそんな俗っぽい真似などしない上に、その様な名で呼ばれる筋合いは無い!」
ムキになってリューが輝夜に言い返すが、輝夜は嘲るような視線を変えずに毒を吐く。
「料理で塩と砂糖を間違えるなんて、古典的な真似を真面目な顔してやらかしたエルフ様は言うことが違いますなぁ。その上、大概が焦がすやら生焼けやら、料理として提供する以前のものばかり作るその腕前。
デメテル様を始めとした農業系ファミリアの神様に見られれば、天罰を与えられてもおかしくありませんよ?」
「うぐっ!?」
「ウチのファミリアの料理番を永久追放されたのはリューだけだからなー。女所帯で一人だけ飯作れねえとか辛くね?」
「ぐはっ!?」
「私はもちろん完璧な美女だから料理を含めた家事全般は完璧よ!
でも、料理だけで比べちゃうと私もアルトリアに一歩負けちゃうから、リオンがアルトリアの料理を初めて食べて、『貴方は同類だと思ったのに……!?』って言ったことは私の胸の内に閉まっておくわ!」
「がはぁっっ!?!?!?」
あっ、崩れ落ちた。
いやいや、女子力が低いのがリュー・リオンの持ち味だから気にすること無いよ?原作であそこまで『くっ殺』してるエルフいないよ?私はそれ誇っていいと思うけどね。
それと、人をナチュラルにメシマズキャラにするのは止めようか。原作のアルトリアさんはどうかは知らないけど、ブリテンの料理人とか男料理以下の残飯だから自分で作るしかないんだよなぁ。
キャメロットの料理人よりも断然自分で作った方が上手いからしょうがない。……あいつらなんで居んの?
それはそうと、料理まで作り出したらマジで赤い弓兵そのもので笑えない。
「……あれ?なんか大通りの方が騒がしくない?まさか窃盗とか?」
ザワザワ、とやたらと賑やかな大通りの喧騒を悪事によるものだとアリーゼは考えたが、それにしては緊張感の無いものだった。酔っぱらいによる乱痴気騒ぎにしても流石に騒ぎ過ぎだ。
疑念を抱きながらアストレア・ファミリアの面々がバベルからギルドへと繋がる、大通りに足を運べばその正体はすぐに判明することとなった。
「……って、うおおっ!?何だあれ全身血塗れじゃねえか!?」
「それなのに、めちゃくちゃ笑顔だわ!なんて純粋無垢な笑顔なのかしら!一周回って狂気を感じるわね!」
「あの少年は……」
あまりの光景に全員が呆れた表情や笑みを浮かべてしてしまうが、ライラはすぐに最悪の想定を思い浮かべる。
「あのイカレ具合は
「ふむ、その可能性は無きにしもあらずではありましょうが、あれでは幾らなんでも悪目立ちが過ぎる。
身に付けている装備もギルドから支給される物であることから、新人が目標のモンスターを倒して舞い上がっている……という辺りでしょうか。
何より私達の副団長の直感で何も感じないのならば問題は無いでしょう」
「あー、そりゃそうか。直感は便利なアビリティだよなぁ。アタシも取れるなら取りたいもんだぜ」
そんな彼女達の姦しい言葉を聞きながら、私は万感の想いでその少年を見る。
───やっとか。
町中の人々に笑い者にされながらも、笑顔で走るその少年はまさに道化そのものだろう。その姿に彼が夢見ている物語で語られるような英雄の片鱗などは欠片も有りはしない。
だが、私は彼が歩む道のりを知識としてある程度は知っている。だからこそ断言できる。
そんな悲劇を乗り越え、神意を打ち破り、運命を超克していく主人公に対して精一杯のエールを送った。
「喜べ少年、君の願いはようやく叶う」
「エイナさーん!!
「きゃああああっっ!?!?!?」
…………は?なんて?