夜。
僕とハルティア様は迷宮都市オラリオに存在する酒場────『豊穣の女主人』に訪れていた。
11階層で出会った、エルフの男──ケインに誘われたからだ。
その扉を開き、店内へと入った。
内装は綺麗で、料理の美味しそうな匂いがした。
酒場という事もあり、沢山の冒険者達が笑い合いながら酒をあおっている。
「うわ〜!!すっごい良い匂い、外食だなんて久しぶりだね♪」
「そうですね、ケインは何処だろう……」
店内のテーブルを見渡して、ケインと思われる人物を探す。
「あ、居た」
案外、直ぐに見つかった。
やはり酒場に居る人の多くは、
その中でエルフというのはやはり目立つものだ。
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「────お!来たきた!!こっちだ、シア───!!」
僕をパーティーに誘った初めての冒険者。
────ケイン・ケルパルトが、こちらを手招きしていた。
「……そういえば、気味悪く思わなかったの?……」
「……ん、むぐっ…何がだ?気味悪いって……?」
ケインと同じテーブルに着いた僕は、ずっと気になっていた事を聞いた。
インファント・ドラゴンを倒した時から、ずっと頭の中で感じていた事を。
「……僕のスキルの事、腕とか骨とか急に生やし始めて……驚いただろうし、気持ち悪かったでしょ……?」
ケインは口の中に入れていたサラダを飲み込み、ゆっくりと口を開く。
「………正直言って、驚いたし、気持ち悪いとも、少し…思った……」
「………ッ」
当たり前だ。
わかっていた、そう────分かっていた事だ。
オラリオに来たところで、人の見る目が変わるわけ無い。ただ、シアというエルフの事を知らないだけだ。
王森のエルフ達の所業はともかく、その目は他の人々と同じだ。
「………だけど、そんな思いは直ぐに消し飛んだ」
「……え?」
「あのインファント・ドラゴンに恐れる事無く立ち向かって、自分が傷付く事も構わずに冒険をした────そんな同胞を、誰がそんな事思えるって話だ」
「…そ、そうなのか」
違った。
オラリオに来たところで変わるわけ無いと思っていた。でも違った、少なくともケインは、僕の事を否定しない。
「……ありがとう、ケイン」
「礼を言われる事じゃ無い、シアのスキルは、凄いスキルさ」
ハルティア様とオラリオに来てからも、この不安はずっと心の片隅にあった。
"また傷付くだけなんじゃないか、否定され、居場所すら無くなるんじゃないか"という不安、だけど今日────今日この日は、そんな不安はすこし、薄れた様な気がした。
「シ〜ア君♪」
つんつんと、ハルティア様に肩をつつかれる。
さっきまでの話を聞いていたのだろうか、にんまりとした笑顔で話しかけてくる。
「オラリオは……良いところでしょ♪」
「!!………はいッ!!」
嗚呼、本当に────良いところだ。
暫く酒と料理を堪能した後、解散となった。
いつものようにホームに帰り、僕は寝室のベッドに横たわり、その作業が終わるのを待っていた。
「さぁさぁ、お楽しみのステイタス更新だよー♪前は凄い勢いで伸びたからね、今回もきっと大きく伸びて────………ぇ?」
「?……どうしました、ハルティア様」
なにか、様子がおかしい。
僕のステイタスを見た瞬間ハルティア様が人形の様に固まって、何かを呟き始めた。
「ぇ、嫌マジ?流石に早過ぎだって……でも言わない訳にはいかないし………」
こんなに呟かれると、流石に気になってしまう。
「……どうしたんですか?なにかステイタスに異常が?」
「……………できる」
「出来るって、何が?」
「────────
……………へ?
流石にこんな事、予想外だった。
「じゃあレイガ君の二つ名は────【
「ああああああ!!?嫌ぁァァァ!?私のレイガがぁぁ!?」
「アルティメットwwwwケンwwwセイwww」
「何で剣聖だけ読みそのままなんだよwwww」
「良いぞー!!────ヘルメス────!!」
その日女神ハルティアは【
────オラリオの神々、その畜生ぶりに。
その行為を知らない訳ではなかった。
数多もの神々がいるこのオラリオには、天界で面倒を見てくれた神達もいて、こういう悪ノリがあるのも、"洗礼"として変な名前を付ける事だって教えてもらった……だが………
(まさか…ここまでとは……!!)
なんたる悪行、なんたる外道。 まさかこんなに酷い物だとは思わなかった。
話によれば、新興のファミリアほど、弱小派閥ほど洗礼として"痛い二つ名"を付けられるのだという。
そう、
つまり、シア君の二つ名は────
(────ッッ!!守る、絶対にシア君の二つ名を無難な物にして見せる!!)
そんな風に考えていれば、遂にその時が来た。
「………よし、ほな次いこか、次が最後や、名前はシア!所属はハルティア・ファミリア、レベル1から2のランクアップや!所用期間は…………な、なんやとォ!?」
神会の司会を務めるのは、このオラリオ
そんなロキが、その目を見開き大声を上げたのだ、神会にいる神々はそれだけで異常事態が来たと察した。
「な、なんだよ!?」
「早く所用期間を教えてくれよォ」
「早くしろ!間に合わなくなっても知らんぞ!!」
「二年か!?それとも【剣姫】みたいに一年かぁ!!」
「────一カ月、一カ月と三週間や!!」
「「「は、はああああアアアアァァ!!!?」」」
神々の顔が驚愕に染まる。
こんな事は今までなかったのだ、僅か一カ月ちょっとでのランクアップなど。
【剣姫】の一年ですら異常なのだ、それが一カ月、たった一カ月だ。
神の言葉で言うのならインフレ、という物だろう。
いつも飄々とした様子のヘルメスですら、その異常さに面食らっていた。
当然、神会は動乱に包まれる。
「どーゆう事なんだァァ!?」
「まさか────
「でも、彼の主神はあのハルティアちゃんよ?そんな事をするとはとても……」
「しかし!こんな成長速度は異常すぎ────」
「ち、違う!?不正なんかしていない、シア君は精一杯努力して────」
主神であるハルティアが必死に声を張り上げるが、この流れを止められない。
(……マズい、ど、どうすれば良いんだ……)
もはやハルティアに出来る事は無い、どうすれば良いか分からずあたふたするしか無い、────その瞬間。
「────騒々しいわね」
それは正しく鶴の一声だった。ロキと同じ二大派閥の主神。
美神、フレイヤが一言、そう口にする。
透き通るようなその声は神々の頭を穿ち、一気に大人しくさせた。
まるで、
「神は下界で『
「そ、それは確かになぁ……」
先ほどまでの動乱が、嘘の様に引いていき、いつもの様子を取り戻す。
それに合わせて司会のロキが再びシアについての話を続ける。
「せやせや!!それに今はこの子の話や────ほら、決めようやん、この子の二つ名をなぁ」
「「!!」」
本来の趣旨を思い出したのか、再び活気を取り戻す神々。
その顔には"痛い二つ名を付けて遊んでやろう"という悪意がこれでもかと溢れていた。
「はいはい!!────【
「いやいや!────この可愛さなんだから、【
「【
「し、主神の私が思うに────シル」
「新参は黙ってなぁ!────【
「いやいや……」
「聞けえええぇぇぇ────!!」
「おわああああッッ!?」
あまりにも話を聞かない
今日一番、いや、オラリオに来て一番の大声を張り上げた。
全ての神にとって後輩にあたるハルティア。
そんなハルティアがその美しく、大人しい様相からは考えられないほどの大声を張り上げたのだ。その衝撃たるや凄まじく、今まであれこれ好き勝手な二つ名を上げていた神々の腰を抜かし、黙らせた。
そして高らかに宣言する!!────
「シア君の二つ名は────【
いつものギャップと、その剣幕に、誰も何も反対意見を言えない。
結局その一声を、神々は飲んだのだった………
────所用期間一ヵ月と三週間。