第6話 アルの能力

 おいしそうな匂いに誘われ、気が付けば急いで食堂へと向かっていた。夕食時を迎えた店内は熱気と喧騒に包まれていた。獣脂ランプの灯りが肉料理の油を煌めかせ、麦酒の泡立つ音が賑やかに響いている。


 アルは空席を探し、唯一空いていた隅の席に腰を下ろすと木製の椀に盛られた野草スープを啜り、硬いライ麦パンをちぎってはスープに浸してから口に運ぶ。その時、隣のテーブルから弾けるような笑い声が聞こえてきた。


「リリィ、それ食べすぎじゃない・・・?」


「いいの! 今日めっちゃ頑張ったんだもん!ホーンラビット3体も出たのはラッキーだったわよねえ!」


「確かにそうだけれども、それはそれとしてそんなに食べたら、明日まともに動けないのではなくて?」


「大丈夫よ! うん、たぶん大丈夫!ほら私太らない体質だし!」


「私もリリィみたいに大きくなりたいから、いっぱい食べるの・・・です!」


「サラ、貴女は食べ過ぎたら太るんですから、気をつけないといけないのですよ!お腹が出ている姿なんて見たくはありませんことよ」


 エルフが魔法使いに注意を促したが、魔法使いは目を逸らすと話題を変えた。


「あ、あのねリリィ、あの時、服に穴が空いたの覚えてる・・・?ホーンラビットの突撃、本当に危なかったの・・・です!」


 サラと呼ばれた魔法使いは少し焦った様子で話題を変えるようにリリィに話しかけた。


「えー、大丈夫だって!それに、ちょっと服に穴が空いただけだし、ちょこちょこっと縫えば問題ないわよ。かすり傷一つないんだし。それに、私達は最強パーティーを目指してるんだから、これくらい乗り越えられないと!」


「そうじゃなくて・・・」


 エルフがため息をつきながらそう言うと、見た目から魔法使いと思われる少女がキラキラした目でリリィを見つめて言った。


「リリィはすごいの・・・です!私もリリィみたいに強くなりたいの・・・です!」


「そうでしょー?だから、もっといっぱい食べて大きくなれば良いじゃないの!」


「はいなの・・・です!」


 視線を向けると、赤毛が炎のように揺れる剣士の少女が中心となり、エルフの弓使いと魔法使いと思われる少女が談笑していた。リリィと呼ばれている少女はビキニアーマーから健康的な肌を露わにし、エルフの長い耳が銀の髪の間から覗いている。身につけている肩当ては弓使いが使うものだ。


 魔法使いの少女が着ているローブの袖から覗く腕輪は、学園でも中級魔法を使える者しか持たない品に似ているなと感じた。

(学園の出身者? いや、よく見ると腕輪が違うな。あの容姿だから学園にいたら絶対見覚えがあるよな。それにガイなら強引にパーティーに引き込んでたろうし・・・特に魔法使いの子はガイのドストライクだしな)


 アルがパンを噛み締めていると、リリィが突然立ち上がり、手にしたジョッキを高々と掲げた。

「今日も生き延びた! これからも三人で最強パーティー目指すぞー!」

「「かんぱーい!」なの・・・です」」

 グラスが触れ合う音に、アルは思わず笑みを零した。その瞬間、リリィの視線がちらりとこちらに向かい、アルは慌てて俯いた。スープに映った自分の影が、かつてパーティーのメンバーと杯を交わした夜を思い出させた。

(そういやセリーナから貰った護符、ちゃんとしまったっけ)

 懐中の小さな袋に手を当てながら、アルは静かに席を立った。階段を上る途中、食堂の喧噪が遠のいていく。部屋の窓から覗く三日月が、新しい孤独を優しく照らしていた。


 ・

 ・

 ・


 宿の部屋に戻ったアルは今日の収入を確認する。ベッドと小さな机と椅子があるだけで、まるでウナギの寝床のように細長い。机もベッドの横に通路分の幅しかなく、人が1人やっと通れるだけだ。荷物はベッドの下か机の後ろに置くしかない。又はドアを開けた靴を置くところだ。


本日の換金額

 * 魔石:銀貨60枚(2個)

 * 毛皮:銀貨20枚

 * 鉄の塊:銀貨10枚

 * 合計:銀貨90枚(=金貨9枚)

「こんな大金見たの初めてだな。ふう、

 これでしばらくは生活できるな。でも、もっと強くならないとだめだな。いや、装備を何とかするのが最優先か・・・」


 アルは土生成と新たに得た鉄生成のさらなる使い方を考える。鉄の塊を売却した鍛冶屋が、アルが持ち込んだ魔力を含む鉄の塊に興味を持ち、継続して持ってこられるならと、今後の協力をお願いしていたことを思い出す。日課の土生成の後、最後に鉄を生成してから寝るか・・・そう考えた。残念ながら、土生成と鉄生成とで経験値が違うのかが分からない。経験値の文字化けは法則性がないからだ。使えば変化するとしか言えなかった。

 さて、鉄生成の前に、今わかっていることを整理しておこう。


 * 土生成:レベルが上がるごとに、射程距離と同時生成数が増加。

 * 現在は半径9mまで、同時に5個まで生成可能。

 * 生成回数も徐々に増加しており、現在は40回ほど使用できる。


* 鉄生成:

* まだ2回しか試していないため、法則性は不明。

* 土生成と同じように、レベルや魔力によって生成できる量が変わるのか?

* 魔力の消費量がかなり多い。

* 土生成と鉄生成とで経験値が違うのかが分からない。経験値の文字化けは法則性がないからだ。使えば変化するとしか言えなかった。

*大きさの変え方がよく分からない。


* 経験値:

* レベルアップに伴い、能力が向上することは分かっている。

* しかし、具体的な経験値の増減やレベルアップに必要な経験値は不明。


 まだまだ分からないことだらけだが、一つずつ解明していくしかない。まずは、鉄生成の検証から始めよう。

 宿を出て街の片隅で土を何度か生成し、そろそろ魔力が尽きるタイミングで宿に戻り、最後に鉄を生成する。


今のところというかまだ2回目だが、リトルボアに対して生成した時とほぼ同じ大きさの塊が作られたが、どう調整すれば変化を加えられるのかよく分からない。だが、昨夜と同じでやはり魔力をごっそり持っていかれた。今のレベルだとこの大きさの鉄しか生成できないのか?保有魔力量に比例するのか?・・・等々検証はこれからだ。


「ちゃんと理解するか使えるようにならないと・・・次は失敗できない。慎重にいかなきゃ」

 アルは新たな決意を胸に、ベッドに横になった。リリィと呼ばれた赤毛の笑い声を思い出しながら今後のことを思案する。

「これから、どうやって生きていこうか・・・でも、自分の力で道を切り開くしかないんだ・・・・」

 アルは深呼吸をし、次なる冒険に向かって歩き出す決意をすると、寝る前にやらなきゃなと、鉄生成を行ったが、あっ。駄目だまた気絶するやつだと思った瞬間、意識を手放した。



 アルのギフトレポート

 * ギフト名: 土生成

 * ギフト能力:

 * 土を生成する

 * レベルアップに伴い、生成範囲、同時生成数、生成回数が増加

 * レベル10で鉄生成能力を獲得


 * レベル別能力変化:

 * レベル1: 半径1mの範囲に土を生成可能

 * レベル2: 半径3mに射程距離が伸びる

 * レベル3: 複数同時生成2個可能になる

 * レベル4: 半径6mに射程距離が伸びる

 * レベル5: 半径9mに射程距離が伸びる

 * レベル6: 複数同時生成3個可能になる

 * レベル7: 複数同時生成4個可能になる

 * レベル8: 複数同時生成5個以上可能になる

 * レベル9:射程距離15mに伸びる(未検証)

 * レベル10:鉄生成能力獲得


* その他:

* 土生成の生成回数は、レベルアップとは別に使用回数に応じて徐々に増加

* 経験値の文字化けにより、具体的な経験値の増減やレベルアップに必要な経験値は不明

* 鉄生成は、まだ検証段階であり、生成量や魔力消費量などの詳細は不明

* レベル9での射程距離の検証がまだであるため、15mという数値は確定ではない。12m以上なので推測15m


* 今後の課題:

* レベル9での射程距離の検証

* 鉄生成の法則性の解明

* 経験値の可視化(望みは薄そう)


 ・

 ・

 ・


 翌日、朝食を食べるために食堂に行くと、ちょうど3人組の女冒険者が宿を後にするところだった。

 他の冒険者や探索者がギルドに向かうということは、少し寝すぎてしまったことを意味し、依頼が貼り出され、空いている時間を過ぎてしまう恐れがある。少し焦ったのもあり、急いで硬いパンをスープに浸して喉に押し込むと宿を後にした。

 ギルドへ向かうアルの足取りは希望に満ちていたと言うよりは、覚悟を決めた者の目だった。わ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る